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15話
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「古の儀式」当日。王宮の裏手に広がる巨大な円形闘技場には、重苦しい空気が漂っていた。
ボルド大臣が下卑た笑みを浮かべ、合図を送る。
「さあ、聖獣番アキよ。封印されていた最強の古代龍『バルドス』を鎮めてみせよ! 失敗すれば、お前の体は一生私の研究室だ!」
轟音と共に巨大な石扉が開き、現れたのは全長二十メートルを超える漆黒の龍だった。
その鋭い爪が一振りされるだけで大気が震え、並の騎士なら腰を抜かすほどの威圧感を放っている。
「アキ、下がっていろ。私がこの化け物を斬り伏せる……!」
ゼクスが魔剣を抜き、アキを背後に庇う。しかし、アキの耳には龍の咆哮が全く違う「音」として届いていた。
『……あぁ、もう! 痒い! 背中が痒くて死にそうだ! 誰か、誰かそこを掻いてくれぇぇ!』
アキは思わず、殺気立つゼクスの脇からひょいっと顔を出した。
「あの……団長、待ってください。この龍、怒ってるんじゃなくて、ただ背中が痒いだけみたいです」
「……は?」
ゼクスが呆然とする中、アキはトコトコと無防備に古代龍の足元まで歩み寄った。
ボルド大臣が「馬鹿め、食われろ!」と叫ぶが、龍はアキを見つめると、ピタリと動きを止めた。
「バルドスさん、そこですよね? 翼の付け根の、鱗が逆立ってるところ」
『……おおお!? 人間、お前、我が声が分かるのか!? そうだ、そこだ! 千年も封印されていて、誰も掻いてくれなかったのだ!』
アキは手近にあった騎士用の長柄の槍(の柄の部分)を借りると、龍の指示通りにゴシゴシと鱗の間を掻いてやった。
すると、さっきまで山をも砕きそうだった古代龍が、ゴロゴロと喉を鳴らし、巨大な子猫のように地面に転がった。
『ふにゃああぁぁ……そこだ……極楽だ……。お前、気に入ったぞ。これからは我が主(あるじ)になれ。この国ごと守ってやる!』
「主だなんて、そんな……。あ、お礼ならあっちの太った大臣さんに言ってください。封印を解いてくれたのは彼ですから」
アキが指差すと、古代龍バルドスは「ギラリ」と大臣を睨みつけた。
『……ほう、貴様か。千年の眠りを邪魔した無礼者め。……少し、熱い抱擁(ブレス)が必要なようだな?』
「ひ、ひぃぃぃ! 助けてくれぇぇ!」
ボルド大臣は腰を抜かし、情けない悲鳴を上げながら闘技場を逃げ回る。その様子は全貴族と国民の失笑を買うこととなった。
一方、ゼクスは無事に「ざまぁ」が完遂されたことには満足していたが、別の問題に直面していた。
「……アキ。今、その龍は貴様に『主になれ』と言ったのか?」
「ええ、まあ。お礼がしたいって」
「却下だ。古代龍だろうが神だろうが、貴様の主に座るのは私だけでいい。……おい、バルドスと言ったか。貴様、今すぐ最小化して隅っこで寝ていろ。アキの側に寄るな」
ゼクスは龍相手に本気の独占欲を発揮し、アキの腰を引き寄せた。
古代龍は不服そうに鼻息を吹いたが、アキに「よしよし」されると、あっさりと手のひらサイズの「黒いトカゲ」の姿に縮んで、アキの肩に乗った。
『主の番(ゼクス)よ、器が小さいぞ。だがアキのよしよしは譲らんポム!』
「ポムじゃなくてバルドスだポム!」
「いつの間にかポムの口調がうつってる!?」
こうして儀式は「アキの圧勝」で幕を閉じ、ボルド大臣は横領の罪も発覚して失脚。
王宮には、また一人(一匹)騒がしい同居人が増えることになったのだった。
物陰のリナ聖女は、「『最強の龍すら手懐ける愛され受け』……完璧。完璧すぎるわ、アキ……っ!」と、涙を流しながら水晶を抱きしめていた。
ボルド大臣が下卑た笑みを浮かべ、合図を送る。
「さあ、聖獣番アキよ。封印されていた最強の古代龍『バルドス』を鎮めてみせよ! 失敗すれば、お前の体は一生私の研究室だ!」
轟音と共に巨大な石扉が開き、現れたのは全長二十メートルを超える漆黒の龍だった。
その鋭い爪が一振りされるだけで大気が震え、並の騎士なら腰を抜かすほどの威圧感を放っている。
「アキ、下がっていろ。私がこの化け物を斬り伏せる……!」
ゼクスが魔剣を抜き、アキを背後に庇う。しかし、アキの耳には龍の咆哮が全く違う「音」として届いていた。
『……あぁ、もう! 痒い! 背中が痒くて死にそうだ! 誰か、誰かそこを掻いてくれぇぇ!』
アキは思わず、殺気立つゼクスの脇からひょいっと顔を出した。
「あの……団長、待ってください。この龍、怒ってるんじゃなくて、ただ背中が痒いだけみたいです」
「……は?」
ゼクスが呆然とする中、アキはトコトコと無防備に古代龍の足元まで歩み寄った。
ボルド大臣が「馬鹿め、食われろ!」と叫ぶが、龍はアキを見つめると、ピタリと動きを止めた。
「バルドスさん、そこですよね? 翼の付け根の、鱗が逆立ってるところ」
『……おおお!? 人間、お前、我が声が分かるのか!? そうだ、そこだ! 千年も封印されていて、誰も掻いてくれなかったのだ!』
アキは手近にあった騎士用の長柄の槍(の柄の部分)を借りると、龍の指示通りにゴシゴシと鱗の間を掻いてやった。
すると、さっきまで山をも砕きそうだった古代龍が、ゴロゴロと喉を鳴らし、巨大な子猫のように地面に転がった。
『ふにゃああぁぁ……そこだ……極楽だ……。お前、気に入ったぞ。これからは我が主(あるじ)になれ。この国ごと守ってやる!』
「主だなんて、そんな……。あ、お礼ならあっちの太った大臣さんに言ってください。封印を解いてくれたのは彼ですから」
アキが指差すと、古代龍バルドスは「ギラリ」と大臣を睨みつけた。
『……ほう、貴様か。千年の眠りを邪魔した無礼者め。……少し、熱い抱擁(ブレス)が必要なようだな?』
「ひ、ひぃぃぃ! 助けてくれぇぇ!」
ボルド大臣は腰を抜かし、情けない悲鳴を上げながら闘技場を逃げ回る。その様子は全貴族と国民の失笑を買うこととなった。
一方、ゼクスは無事に「ざまぁ」が完遂されたことには満足していたが、別の問題に直面していた。
「……アキ。今、その龍は貴様に『主になれ』と言ったのか?」
「ええ、まあ。お礼がしたいって」
「却下だ。古代龍だろうが神だろうが、貴様の主に座るのは私だけでいい。……おい、バルドスと言ったか。貴様、今すぐ最小化して隅っこで寝ていろ。アキの側に寄るな」
ゼクスは龍相手に本気の独占欲を発揮し、アキの腰を引き寄せた。
古代龍は不服そうに鼻息を吹いたが、アキに「よしよし」されると、あっさりと手のひらサイズの「黒いトカゲ」の姿に縮んで、アキの肩に乗った。
『主の番(ゼクス)よ、器が小さいぞ。だがアキのよしよしは譲らんポム!』
「ポムじゃなくてバルドスだポム!」
「いつの間にかポムの口調がうつってる!?」
こうして儀式は「アキの圧勝」で幕を閉じ、ボルド大臣は横領の罪も発覚して失脚。
王宮には、また一人(一匹)騒がしい同居人が増えることになったのだった。
物陰のリナ聖女は、「『最強の龍すら手懐ける愛され受け』……完璧。完璧すぎるわ、アキ……っ!」と、涙を流しながら水晶を抱きしめていた。
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