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10話
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その日から、奏の「世界」はレイヴンの寝室ひとつに限定された。
窓はすべて鋼鉄の板で塞がれ、壁には最高等級の防音材が敷き詰められた。外の世界の光も、風の音も、一切届かない。
あるのは、柔らかな照明と、レイヴンが与える「音」だけ。
「……レイヴン、様……」
奏はベッドの上で、レイヴンの軍服を抱きしめて横たわっていた。
外部からの「音の攻撃」で傷ついた奏の神経は、今や極限まで過敏になっている。
レイヴンの声なしでは、自分の鼓動の音でさえ、喉を焼くような不快な鉄の味に感じられた。
カチリ、という微かな解錠音。
それだけで奏の口内には、上質なシャンパンが弾けるような予感の味が広がる。
「奏。いい子にしていたか」
入ってきたレイヴンは、コートを脱ぎ捨てて奏の隣に座った。
彼の声は、昨日の怒りを含んだものとは一転して、驚くほど低く、深く、奏の脊髄を直接とろけさせるような「甘い重低音」だった。
「はい……閣下。あなたの声が、……待てなくて……」
「……ふん、情けない顔だな。私がいなければ、お前は食事すら忘れて衰弱する。もはや、私という毒なしでは生存もままならないか」
レイヴンは奏の首筋に顔を埋め、深く吸い込んだ。
彼が吐き出す熱い呼気。奏の共感覚は、その「吐息」さえも芳醇な香りのするソースのように捉え、全身の粘膜を潤していく。
「お前を狙うネズミどもは、すべて私の手で始末した。……エリオットも今は地下に繋いである」
その言葉に含まれる絶対的な暴力性。
けれど、奏にとっては、自分を守るための「盾」としての響きにしか聞こえない。
奏はレイヴンの首に腕を回し、自ら耳元に唇を寄せた。
「……レイヴン様。もっと、僕を支配してください。あなたの声で、頭の中をぐちゃぐちゃにして……何も考えられないように、して……」
「望み通りにしてやる。お前の脳に、私の旋律以外は一音も残さない」
レイヴンは奏を押し倒し、耳たぶを深く噛んだ。
奏が悲鳴にも似た喘ぎを上げると、レイヴンはその声を、自らの唇で塞ぎ込む。
音による調教。
レイヴンが低いトーンで奏の身体の部位を名指しし、そこがどれほど自分のものであるかを囁くたび、奏の共感覚は爆発的な快楽の味を脳に送り続けた。
もはや、性交という物理的な接触さえ、レイヴンの「声」をより深く味わうための触媒にすぎない。
奏の瞳は焦点が合わず、ただレイヴンという「至福の音色」に身を任せて、何度も、何度も、絶頂の淵を彷徨った。
どれほどの時間が過ぎたのか。
奏が力尽き、レイヴンの胸の中で浅い呼吸を繰り返していると、レイヴンが耳元で静かに囁いた。
「奏。お前はもう、外の世界では生きられない。……私のいない場所では、お前はただの、呼吸をするだけの残骸だ」
「……はい、……レイヴン様。……僕は、あなたの、楽器……だから……」
奏は微睡みの中で、幸せな絶望を感じていた。
この静寂の檻は、レイヴンの愛という名の毒で満たされている。
けれど、その毒こそが、奏にとっては世界で唯一の、生きた証だった。
――だが、レイヴンの言葉とは裏腹に、事態は静かに最悪の方向へと動き出していた。
地下に監禁されているはずのエリオットの独房から、微かな、けれど明確な「リズム」が、壁を伝って奏の部屋へと忍び寄っていたのだ。
窓はすべて鋼鉄の板で塞がれ、壁には最高等級の防音材が敷き詰められた。外の世界の光も、風の音も、一切届かない。
あるのは、柔らかな照明と、レイヴンが与える「音」だけ。
「……レイヴン、様……」
奏はベッドの上で、レイヴンの軍服を抱きしめて横たわっていた。
外部からの「音の攻撃」で傷ついた奏の神経は、今や極限まで過敏になっている。
レイヴンの声なしでは、自分の鼓動の音でさえ、喉を焼くような不快な鉄の味に感じられた。
カチリ、という微かな解錠音。
それだけで奏の口内には、上質なシャンパンが弾けるような予感の味が広がる。
「奏。いい子にしていたか」
入ってきたレイヴンは、コートを脱ぎ捨てて奏の隣に座った。
彼の声は、昨日の怒りを含んだものとは一転して、驚くほど低く、深く、奏の脊髄を直接とろけさせるような「甘い重低音」だった。
「はい……閣下。あなたの声が、……待てなくて……」
「……ふん、情けない顔だな。私がいなければ、お前は食事すら忘れて衰弱する。もはや、私という毒なしでは生存もままならないか」
レイヴンは奏の首筋に顔を埋め、深く吸い込んだ。
彼が吐き出す熱い呼気。奏の共感覚は、その「吐息」さえも芳醇な香りのするソースのように捉え、全身の粘膜を潤していく。
「お前を狙うネズミどもは、すべて私の手で始末した。……エリオットも今は地下に繋いである」
その言葉に含まれる絶対的な暴力性。
けれど、奏にとっては、自分を守るための「盾」としての響きにしか聞こえない。
奏はレイヴンの首に腕を回し、自ら耳元に唇を寄せた。
「……レイヴン様。もっと、僕を支配してください。あなたの声で、頭の中をぐちゃぐちゃにして……何も考えられないように、して……」
「望み通りにしてやる。お前の脳に、私の旋律以外は一音も残さない」
レイヴンは奏を押し倒し、耳たぶを深く噛んだ。
奏が悲鳴にも似た喘ぎを上げると、レイヴンはその声を、自らの唇で塞ぎ込む。
音による調教。
レイヴンが低いトーンで奏の身体の部位を名指しし、そこがどれほど自分のものであるかを囁くたび、奏の共感覚は爆発的な快楽の味を脳に送り続けた。
もはや、性交という物理的な接触さえ、レイヴンの「声」をより深く味わうための触媒にすぎない。
奏の瞳は焦点が合わず、ただレイヴンという「至福の音色」に身を任せて、何度も、何度も、絶頂の淵を彷徨った。
どれほどの時間が過ぎたのか。
奏が力尽き、レイヴンの胸の中で浅い呼吸を繰り返していると、レイヴンが耳元で静かに囁いた。
「奏。お前はもう、外の世界では生きられない。……私のいない場所では、お前はただの、呼吸をするだけの残骸だ」
「……はい、……レイヴン様。……僕は、あなたの、楽器……だから……」
奏は微睡みの中で、幸せな絶望を感じていた。
この静寂の檻は、レイヴンの愛という名の毒で満たされている。
けれど、その毒こそが、奏にとっては世界で唯一の、生きた証だった。
――だが、レイヴンの言葉とは裏腹に、事態は静かに最悪の方向へと動き出していた。
地下に監禁されているはずのエリオットの独房から、微かな、けれど明確な「リズム」が、壁を伝って奏の部屋へと忍び寄っていたのだ。
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