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18話
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世界から、色が剥がれ落ちていく。
奏の視界は白濁し、あんなに過敏だった鼓膜は、今や遠い海の底で泡の音を聞いているかのように、すべての音を拒絶していた。
(……レイヴン、様……どこ、ですか……?)
声が出ない。自分の声さえ、今の奏には「味」がしない。
かつて彼を狂わせた黄金の蜜は、一滴も残らず枯れ果てていた。
暗闇の中で、奏は自分が透明な塵になって消えていくような錯覚に陥る。
その時――。
ドクンッ、と、身体の芯を貫くような衝撃が走った。
「っ……あ、……ぁ!!」
暗闇の中に、一筋の「紅い火花」が散る。
レイヴンが奏の肩に深く、爪を立てていた。
五感が死にゆく中で、唯一、剥き出しの「痛覚」だけが奏の脳に届いたのだ。
「……逃がさないと言ったはずだ。感覚が死ぬなら、私がそれを叩き起こしてやる。お前の脳が焼き切れるまで、私を刻み込んでやる」
レイヴンの声は、もはや奏の耳には届いていない。
だが、彼の「言葉」に伴う凄まじい熱量と、狂気的な振動が、奏の肌を通じて直接脊髄に叩き込まれる。
レイヴンは奏をベッドに組み伏せ、乱暴にその四肢を拘束した。
慈しみも、憐憫も、今は邪魔なだけだ。
必要なのは、奏の魂をこの世に繋ぎ止めるための、圧倒的な「刺激」の暴力。
「あああ、っ……! あ、が……っ!!」
レイヴンが奏の身体に、容赦なく自身の欲望を叩きつける。
それは愛撫というにはあまりに苛烈で、侵略というにはあまりに情熱的な「上書き」だった。
奏の脳内で、停止していた共感覚が、悲鳴を上げながら再起動する。
痛みが、熱が、そしてレイヴンの低い唸り声が、火薬のような「焦熱の味」となって、空白だった奏の意識を塗りつぶしていく。
(……あ、つい……。苦い、……すごく、苦くて……熱い……)
それはかつての甘い蜜ではない。
喉を焼き、内臓を焦がすような、黒い炭の味。
けれど、それは間違いなく「生」の味だった。
「奏、私を感じるか! 私の音が、聞こえるか!」
レイヴンは奏の首筋に顔を埋め、獣のように咆えた。
その叫びの振動が、奏の肌を震わせ、骨を伝い、ついに死にかけていた脳の深淵へと到達した。
ピリ、と奏の視界に色が戻る。
目の前に広がる、レイヴンの銀の瞳。
その奥に揺れる、深い、深い、絶望的なまでの愛。
「……れ、……い……ヴン……さま……」
奏の指先が、レイヴンの背中の傷をなぞった。
その瞬間、奏の口内には、最高級のブランデーを煮詰めたような、芳醇で暴力的な「味」が爆発した。
「……聞こえ、ました……。あなたの……ひどい、音……」
「……っ」
レイヴンは奏を抱きしめ、子供のように肩を震わせた。
奏の五感は、完全には戻っていない。
以前のように風の音や光を愛でることは、もうできないかもしれない。
けれど、レイヴンの「音」だけは。
この世で最も残酷で、最も愛おしいこの男の存在だけは、奏の感覚に永遠に刻み込まれた。
「……二度と、私を独りにするな。お前の世界がどれほど狭くなろうとも、その中心には必ず私を置け」
「はい……閣下。僕の……すべて、さしあげます……」
静寂の部屋に、二人の重い呼吸だけが重なる。
壊れかけた楽器と、それを執拗に奏で続ける支配者。
二人の物語は、もはや誰にも邪魔されることのない、完成された「狂音の檻」へと辿り着いた。
奏の視界は白濁し、あんなに過敏だった鼓膜は、今や遠い海の底で泡の音を聞いているかのように、すべての音を拒絶していた。
(……レイヴン、様……どこ、ですか……?)
声が出ない。自分の声さえ、今の奏には「味」がしない。
かつて彼を狂わせた黄金の蜜は、一滴も残らず枯れ果てていた。
暗闇の中で、奏は自分が透明な塵になって消えていくような錯覚に陥る。
その時――。
ドクンッ、と、身体の芯を貫くような衝撃が走った。
「っ……あ、……ぁ!!」
暗闇の中に、一筋の「紅い火花」が散る。
レイヴンが奏の肩に深く、爪を立てていた。
五感が死にゆく中で、唯一、剥き出しの「痛覚」だけが奏の脳に届いたのだ。
「……逃がさないと言ったはずだ。感覚が死ぬなら、私がそれを叩き起こしてやる。お前の脳が焼き切れるまで、私を刻み込んでやる」
レイヴンの声は、もはや奏の耳には届いていない。
だが、彼の「言葉」に伴う凄まじい熱量と、狂気的な振動が、奏の肌を通じて直接脊髄に叩き込まれる。
レイヴンは奏をベッドに組み伏せ、乱暴にその四肢を拘束した。
慈しみも、憐憫も、今は邪魔なだけだ。
必要なのは、奏の魂をこの世に繋ぎ止めるための、圧倒的な「刺激」の暴力。
「あああ、っ……! あ、が……っ!!」
レイヴンが奏の身体に、容赦なく自身の欲望を叩きつける。
それは愛撫というにはあまりに苛烈で、侵略というにはあまりに情熱的な「上書き」だった。
奏の脳内で、停止していた共感覚が、悲鳴を上げながら再起動する。
痛みが、熱が、そしてレイヴンの低い唸り声が、火薬のような「焦熱の味」となって、空白だった奏の意識を塗りつぶしていく。
(……あ、つい……。苦い、……すごく、苦くて……熱い……)
それはかつての甘い蜜ではない。
喉を焼き、内臓を焦がすような、黒い炭の味。
けれど、それは間違いなく「生」の味だった。
「奏、私を感じるか! 私の音が、聞こえるか!」
レイヴンは奏の首筋に顔を埋め、獣のように咆えた。
その叫びの振動が、奏の肌を震わせ、骨を伝い、ついに死にかけていた脳の深淵へと到達した。
ピリ、と奏の視界に色が戻る。
目の前に広がる、レイヴンの銀の瞳。
その奥に揺れる、深い、深い、絶望的なまでの愛。
「……れ、……い……ヴン……さま……」
奏の指先が、レイヴンの背中の傷をなぞった。
その瞬間、奏の口内には、最高級のブランデーを煮詰めたような、芳醇で暴力的な「味」が爆発した。
「……聞こえ、ました……。あなたの……ひどい、音……」
「……っ」
レイヴンは奏を抱きしめ、子供のように肩を震わせた。
奏の五感は、完全には戻っていない。
以前のように風の音や光を愛でることは、もうできないかもしれない。
けれど、レイヴンの「音」だけは。
この世で最も残酷で、最も愛おしいこの男の存在だけは、奏の感覚に永遠に刻み込まれた。
「……二度と、私を独りにするな。お前の世界がどれほど狭くなろうとも、その中心には必ず私を置け」
「はい……閣下。僕の……すべて、さしあげます……」
静寂の部屋に、二人の重い呼吸だけが重なる。
壊れかけた楽器と、それを執拗に奏で続ける支配者。
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