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20話
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その部屋には、もはや「個」という境目は存在しなかった。
奏の身体は、レイヴンが与え続ける過剰な「音」と「快楽」の奔流により、精神の形を保つ限界を迎えていた。
視界は絶えず光の粒子が舞い、耳の奥ではレイヴンの声が絶え間ない残響(エコー)となって、奏の脳を優しく、残酷に侵食し続けている。
「……レイヴン、様……。僕、もう……自分が、どこまでなのか……わからないんです……」
奏が呟く。その掠れた声さえ、彼自身の耳には「透き通った水の味」として届く。
レイヴンは奏の細い身体を、自身の血肉に埋め込むかのように強く、深く抱きしめた。
「それでいい、奏。お前の境界線は、私がすべて消し去ってやった。お前の感覚は私のもの。私の鼓動は、お前の旋律だ」
レイヴンの声は、かつてないほどに深く、慈愛に満ちた「暗黒」の色をしていた。
彼は奏の耳元に唇を寄せ、最後のリズムを刻み始める。
それは、言葉という形を借りた「魂の譲渡」だった。
レイヴンは、奏の感覚が完全に停止するその瞬間、自分という存在のすべてを彼の脳に叩き込むことを決めていた。
「奏。目を閉じろ。……今から、お前の中に『私』のすべてを流し込む」
「あ、っ……ぁ……」
レイヴンが奏の首筋に深く、これまでにないほど強く歯を立てた。
同時に、彼の放つ最も低く、最も重厚な「王の音」が奏の耳を、脳を、そして魂の核を貫いた。
ドォォォォン……。
奏の脳内で、巨大な黄金の鐘が打ち鳴らされたような衝撃が走る。
これまで味わったどんな蜜よりも甘く、どんな毒よりも烈しく、どんな光よりも眩い――「レイヴン」という名の特異点。
その瞬間、奏の共感覚は爆発し、そして……静止した。
視界から色が消え、音が消え、味が消えた。
だが、それは絶望の「無」ではなかった。
奏の意識の海の中で、レイヴンの声が、レイヴンの熱が、レイヴンの意思が、永遠に鳴り響く一つの「完全な和音(コード)」となったのだ。
もはや耳で聴く必要はない。
奏の細胞一つ一つが、レイヴンの存在を「音」として奏で、自らそれを享受している。
「……あ、あ……あ、……」
奏の瞳から、最後の一滴の涙がこぼれ、その瞳は光を失った。
けれど、その唇には、これ以上ないほどに幸福な微笑が刻まれていた。
レイヴンは、動かなくなった奏の額に、静かに口づけを落とした。
「……これで、お前は永遠に私のものだ。……そして私も、お前だけのものだ」
レイヴンは奏を抱いたまま、その横に横たわった。
彼はあらかじめ用意していた、感覚を増幅させたまま意識を永久に凍結させる特殊な薬を、自らの腕に注射した。
次第に遠のいていく意識の中で、レイヴンもまた、奏と同じ「音」を聴いていた。
奏の肌から、奏の吐息から、奏の魂から溢れ出す、自分への絶対的な服従と愛のメロディ。
外の世界では、この部屋は「沈黙の墓標」と呼ばれるようになるだろう。
だが、この厚い壁の内側では、二人の魂が織りなす極彩色の音楽が、誰にも邪魔されることなく、永遠に鳴り響き続けている。
音のない世界で、二人は最も深く、最も熱く、響き合っていた。
――共鳴の終わり。そして、永遠の残響の始まり。
奏の身体は、レイヴンが与え続ける過剰な「音」と「快楽」の奔流により、精神の形を保つ限界を迎えていた。
視界は絶えず光の粒子が舞い、耳の奥ではレイヴンの声が絶え間ない残響(エコー)となって、奏の脳を優しく、残酷に侵食し続けている。
「……レイヴン、様……。僕、もう……自分が、どこまでなのか……わからないんです……」
奏が呟く。その掠れた声さえ、彼自身の耳には「透き通った水の味」として届く。
レイヴンは奏の細い身体を、自身の血肉に埋め込むかのように強く、深く抱きしめた。
「それでいい、奏。お前の境界線は、私がすべて消し去ってやった。お前の感覚は私のもの。私の鼓動は、お前の旋律だ」
レイヴンの声は、かつてないほどに深く、慈愛に満ちた「暗黒」の色をしていた。
彼は奏の耳元に唇を寄せ、最後のリズムを刻み始める。
それは、言葉という形を借りた「魂の譲渡」だった。
レイヴンは、奏の感覚が完全に停止するその瞬間、自分という存在のすべてを彼の脳に叩き込むことを決めていた。
「奏。目を閉じろ。……今から、お前の中に『私』のすべてを流し込む」
「あ、っ……ぁ……」
レイヴンが奏の首筋に深く、これまでにないほど強く歯を立てた。
同時に、彼の放つ最も低く、最も重厚な「王の音」が奏の耳を、脳を、そして魂の核を貫いた。
ドォォォォン……。
奏の脳内で、巨大な黄金の鐘が打ち鳴らされたような衝撃が走る。
これまで味わったどんな蜜よりも甘く、どんな毒よりも烈しく、どんな光よりも眩い――「レイヴン」という名の特異点。
その瞬間、奏の共感覚は爆発し、そして……静止した。
視界から色が消え、音が消え、味が消えた。
だが、それは絶望の「無」ではなかった。
奏の意識の海の中で、レイヴンの声が、レイヴンの熱が、レイヴンの意思が、永遠に鳴り響く一つの「完全な和音(コード)」となったのだ。
もはや耳で聴く必要はない。
奏の細胞一つ一つが、レイヴンの存在を「音」として奏で、自らそれを享受している。
「……あ、あ……あ、……」
奏の瞳から、最後の一滴の涙がこぼれ、その瞳は光を失った。
けれど、その唇には、これ以上ないほどに幸福な微笑が刻まれていた。
レイヴンは、動かなくなった奏の額に、静かに口づけを落とした。
「……これで、お前は永遠に私のものだ。……そして私も、お前だけのものだ」
レイヴンは奏を抱いたまま、その横に横たわった。
彼はあらかじめ用意していた、感覚を増幅させたまま意識を永久に凍結させる特殊な薬を、自らの腕に注射した。
次第に遠のいていく意識の中で、レイヴンもまた、奏と同じ「音」を聴いていた。
奏の肌から、奏の吐息から、奏の魂から溢れ出す、自分への絶対的な服従と愛のメロディ。
外の世界では、この部屋は「沈黙の墓標」と呼ばれるようになるだろう。
だが、この厚い壁の内側では、二人の魂が織りなす極彩色の音楽が、誰にも邪魔されることなく、永遠に鳴り響き続けている。
音のない世界で、二人は最も深く、最も熱く、響き合っていた。
――共鳴の終わり。そして、永遠の残響の始まり。
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