転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布

文字の大きさ
13 / 45

13話

しおりを挟む
 夜が静まり返り、暖炉の火が穏やかな熾火に変わる頃。
 ついに、一つの「作品」が完成した。

 テーブルの上には、ガイアスが鍛え上げた銀の枠に、俺が魔導回路を刻み込んだ虹光石が収まっている。石は脈打つような七色の光を放ち、それを包む銀の蔓状の装飾は、まるで石を守るように優美な曲線を描いていた。

「……完璧です。ガイアスさん、あなたの腕前は騎士団長にしておくには惜しいですね。専門の職人でも、これほど精密な嵌め込みは難しいですよ」

 俺は指先で銀の装飾をなぞり、感嘆の声を漏らした。
 俺の刻んだ微細な魔力経路と、彼が作った台座の接点は、寸分の狂いもなく一致している。

「お前の描いた図面が正確だったからだ。……さあ、リィエル。早速つけてみてくれないか。サイズが合うか確認したい」

 ガイアスはそう言うと、銀の鎖を手に取り、椅子に座る俺の背後へと回った。

 ふわりと、彼の体温と、微かな鉄の匂いが俺を包み込む。
 ガイアスの大きな手が、俺の首筋に触れないよう慎重に動き、鎖を前へと回してきた。
 俺は思わず息を止める。
 彼の指先が、耳の裏やうなじの皮膚をかすめるたび、そこから小さな火花が散るような、奇妙な熱が走った。

「……きゅう?」

 足元で丸くなっていたシロが顔を上げ、不思議そうに俺たちを見上げている。
 
「……少し、動かないでくれ。鎖の留め金が、お前の髪に絡まないようにしたいんだ」

 ガイアスの声が、いつもより低く、耳元で響く。
 俺の銀髪を大きな手が優しく避け、冷たいはずの鎖が胸元に降りてきた。
 だが、その鎖は彼の体温を吸っていたのか、驚くほど温かく肌に馴染んだ。

「よし。……似合っているぞ、リィエル」

 ガイアスが手を離し、俺の正面に回り込んだ。
 俺の胸元で、虹光石が静かに呼吸するように明滅している。それは俺の魔力と共鳴し、全身の魔力循環をかつてないほどスムーズに「最適化」していくのが分かった。

「……ええ。驚くほど馴染みます。魔力の出力も安定していますし、これなら不測の事態でも即座に防御フィールドを展開できそうです」

「ああ、お前を守る盾だ。……これで俺も、少しは安心して王都で仕事ができるというものだ」

 ガイアスは満足げに腕を組み、眩しそうに俺を見つめている。
 その瞳に映る俺は、果たして彼にとってどう見えているのだろうか。
 単なる恩人か、あるいは守るべき希少種か。

(……このシステムには、まだ解析できない変数が多すぎる)

 俺は胸元のペンダントをそっと握りしめた。
 石の硬質さと、銀の滑らかさ。
 それを作った男の、不器用なほどの真摯さ。

「……ありがとうございます、ガイアスさん。大切に使わせてもらいます」

「礼を言うのは俺の方だ。お前とこうして一つのものを作り上げる時間は、どんな勝利よりも俺を満たしてくれた」

 ガイアスはそう言って、椅子から立ち上がった。
 
「夜も更けた。リィエル、お前も今日は疲れただろう。……シロ、お前も主人のベッドを温めてやれよ」

「きゅう!」

 シロは返事をするように鳴き、俺の足元に体を擦り付けた。
 
 ガイアスが客間に戻り、リビングに再び静寂が訪れる。
 俺は一人、消えかけた暖炉の火を眺めながら、首元のペンダントに触れた。
 
 石の輝きは、まるで小さな心臓の鼓動のようだ。
 
 俺の世界は、一人で完成されていたはずだった。
 他者の干渉は、すべてノイズでしかないと思っていた。
 
 けれど、今。
 俺の首元で優しく脈打つこの重みは、決して不快なノイズではなかった。
 むしろ、それは俺の凍てついていた時間を、ゆっくりと解かしていくための、大切な「同期信号」のように思えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

きっと、君は知らない

mahiro
BL
前世、というのだろうか。 俺は前、日本という国で暮らしていて、あの日は中学時代にお世話になった先輩の結婚式に参列していた。 大人になった先輩と綺麗な女性の幸せそうな姿に胸を痛めながら見つめていると二人の間に産まれたという女の子がひとりで車道に向かい歩いている姿が目に入った。 皆が主役の二人に夢中で子供の存在に気付いておらず、俺は慌ててその子供のもとへと向かった。 あと少しで追い付くというタイミングで大型の車がこちらに向かってくるのが見え、慌ててその子供の手を掴み、彼らのいる方へと突き飛ばした。 次の瞬間、俺は驚く先輩の目と合ったような気がするが、俺の意識はそこで途絶えてしまった。 次に目が覚めたのは見知らぬ世界で、聞いたことのない言葉が行き交っていた。 それから暫く様子を見ていたが、どうやら俺は異世界に転生したらしく………?

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 2025.4.28 ムーンライトノベルに投稿しました。

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

【8話完結】俺は推しじゃない!ただの冒険者だ!

キノア9g
BL
ごく普通の中堅冒険者・イーサン。 今日もほどほどのクエストを探しにギルドを訪れたところ、見慣れない美形の冒険者・アシュレイと出くわす。 最初は「珍しい奴がいるな」程度だった。 だが次の瞬間── 「あなたは僕の推しです!」 そう叫びながら抱きついてきたかと思えば、つきまとう、語りかける、迫ってくる。 挙句、自宅の前で待ち伏せまで!?  「金なんかねぇぞ!」 「大丈夫です! 僕が、稼ぎますから!」 平穏な日常をこよなく愛するイーサンと、 “推しの幸せ”のためなら迷惑も距離感も超えていく超ポジティブ転生者・アシュレイ。 愛とは、追うものか、追われるものか。 差し出される支援、注がれる好意、止まらぬ猛アプローチ。 ふたりの距離が縮まる日はくるのか!? 強くて貢ぎ癖のあるイケメン転生者 × 弱めで普通な中堅冒険者。 異世界で始まる、ドタバタ&ちょっぴり胸キュンなBLコメディ、ここに開幕! 全8話

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

処理中です...