転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布

文字の大きさ
19 / 45

19話

しおりを挟む
 馬車の車輪が、街道の土から石畳へとその音を変えた。
 カチ、カチと規則正しく響く蹄の音が、目的地が近いことを告げている。

 リィエルが窓の外に目を向けると、そこには天を突くような白亜の城門がそびえ立っていた。森の中では決して見ることのなかった巨大な建造物。積み上げられた石材のひとつひとつが、帝国の長い歴史という名のデータを物理的に保持しているかのようだ。

「リィエル、見ろ。あれが王都の第一門、白金門だ。あそこを抜ければ、星祭を待つ街の賑わいが見えてくるぞ」

 御者台からガイアスが声を弾ませる。
 門の前には、商人の荷馬車や旅人たちの列ができていたが、ガイアスが御者台に座るこの馬車が近づくと、門番たちは即座に姿勢を正し、最優先の処理として道を開けた。

「……さすがは騎士団長ですね。アクセス権限が最高レベルだ」

「はは、こういう時だけは便利な肩書きだろう?」

 馬車がゆっくりと門を潜り抜けると、そこには別世界が広がっていた。
 
 広場を埋め尽くす色とりどりの屋台、軒先に吊るされた無数の旗。
 空気中には、焼きたてのパンの香ばしい匂いや、大道芸人の奏でる楽器の音、そして人々の話し声が混ざり合い、膨大な情報量となってリィエルの五感に流れ込んでくる。

「きゅう……きゅうぅ!」

 シロは見たこともない光景の連続に、驚きを通り越して固まっていた。
 リィエルの膝の上で、短い毛を逆立てながらも、その銀色の瞳は右へ左へと忙しなく動いている。

「シロ、フリーズするな。ほら、深呼吸して情報を整理するんだ。……ガイアスさん、この活気はすごいですね。森の静寂がデフォルトだった俺には、少しばかり処理能力を超えそうなノイズです」

「慣れるまでは俺の側にいろ。ここは祭りの準備で特に浮き足立っているからな」

 ガイアスは馬車を専用の待機所へ停めると、軽やかな動作で降り立ち、客室の扉を開けた。
 彼が差し出した大きな手。リィエルは一瞬躊躇したが、周囲の視線から守るような彼の立ち振る舞いに、その手を預けることにした。

 地面に降り立つと、石畳を通じて街の熱気が足裏から伝わってくる。
 
「まずは俺の屋敷へ向かおう。荷物を置いて、シロも落ち着かせてやりたい。……移動は人混みを避けたルートを選ぶから安心しろ」

「助かります。……それにしても、あの塔は何ですか? 頂部からかなり高密度の魔力が放出されていますが」

 リィエルが指さしたのは、街の中央にそびえる時計塔だった。

「あれは魔導時計塔だ。星祭の夜、あそこから全街路に魔法の光を供給する、この街の心臓部だな。お前なら、あの構造を見ただけで設計図を書き起こしてしまいそうだ」

「……確かに、興味深い回路構成ですね。後で近くまで解析しに行ってもいいですか?」

「ああ、もちろん。だが今日は、長旅の疲れを癒やすのが先決だ。お前のために、王都で一番柔らかいベッドを用意させてあるからな」

 ガイアスはリィエルの肩にそっと手を添え、案内を始めた。
 
 行き交う人々が、見たこともないほど美しい銀髪の少年と、その傍らを歩く威風堂々とした騎士団長の姿に、感嘆の吐息を漏らしながら道を譲る。
 
 リィエルは、胸元のペンダントを無意識に握りしめた。
 虹光石が、街に溢れる魔力と呼応して微かに熱を帯びている。
 
 一人きりのログハウスでは得られなかった、圧倒的な生体ログの連続。
 
 リィエルの王都遠征は、まだ始まったばかりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

僕は今日、謳う

ゆい
BL
紅葉と海を観に行きたいと、僕は彼に我儘を言った。 彼はこのクリスマスに彼女と結婚する。 彼との最後の思い出が欲しかったから。 彼は少し困り顔をしながらも、付き合ってくれた。 本当にありがとう。親友として、男として、一人の人間として、本当に愛しているよ。 終始セリフばかりです。 話中の曲は、globe 『Wanderin' Destiny』です。 名前が出てこない短編part4です。 誤字脱字がないか確認はしておりますが、ありましたら報告をいただけたら嬉しいです。 途中手直しついでに加筆もするかもです。 感想もお待ちしています。 片付けしていたら、昔懐かしの3.5㌅FDが出てきまして。内容を確認したら、若かりし頃の黒歴史が! あらすじ自体は悪くはないと思ったので、大幅に修正して投稿しました。 私の黒歴史供養のために、お付き合いくださいませ。

夜が明けなければいいのに(洋風)

万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。 しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。 そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。 長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。 「名誉ある生贄」。 それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。 部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。 黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。 本当は、別れが怖くてたまらない。 けれど、その弱さを見せることができない。 「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」 心にもない言葉を吐き捨てる。 カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。 だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。 「……おめでとうございます、殿下」 恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。 その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。 ――おめでとうなんて、言わないでほしかった。 ――本当は、行きたくなんてないのに。 和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。 お楽しみいただければ幸いです。

来世はこの人と関りたくないと思ったのに。

ありま氷炎
BL
前世の記憶を持つ、いずる。 彼は前世で主人だった三日月と、来世で関わらない事を願った。 しかし願いは叶わず、幼馴染として生まれ変わってしまった。

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 2025.4.28 ムーンライトノベルに投稿しました。

オメガはオメガらしく生きろなんて耐えられない

子犬一 はぁて
BL
「オメガはオメガらしく生きろ」 家を追われオメガ寮で育ったΩは、見合いの席で名家の年上αに身請けされる。 無骨だが優しく、Ωとしてではなく一人の人間として扱ってくれる彼に初めて恋をした。 しかし幸せな日々は突然終わり、二人は別れることになる。 5年後、雪の夜。彼と再会する。 「もう離さない」 再び抱きしめられたら、僕はもうこの人の傍にいることが自分の幸せなんだと気づいた。 彼は温かい手のひらを持つ人だった。 身分差×年上アルファ×溺愛再会BL短編。

処理中です...