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21話
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ガイアスが登城してから一時間ほど経った頃、リィエルは部屋でじっとしていることに飽き始めていた。
シロはベッドの羽毛に埋もれて深い眠りについており、当面の間は動く気配がない。
「……少しだけ、この屋敷の内部構造を確認しておくか。情報収集はリスク管理の基本だしな」
リィエルは部屋を出て、長い廊下を静かに歩き出した。
使用人たちに見つかるとまた過剰なもてなしを受けそうだったので、気配を遮断する術式を薄く展開しておく。
階段を降り、重厚な木製の扉を開くと、そこはこの屋敷の図書室だった。
高い天井まで届く書架には、戦術書や歴史書の他に、かなりの数の魔導書が並んでいる。リィエルの目が、職業病とも言える鋭さで背表紙を走査していった。
「ほう。王都の騎士団長ともなれば、これほど希少な原本を個人所有しているのか。管理体制も悪くない……と言いたいところだが」
リィエルの足が、部屋の隅にある台座の前で止まった。
そこには屋敷全体の防衛結界を制御するための核となる魔石が置かれていた。魔石からは幾筋もの光の回路が伸び、壁を通じて屋敷全体へと広がっている。
「……ひどいな。この回路、設計が古すぎて魔力の逆流が起きている。効率が悪いどころか、これでは負荷がかかりすぎて耐用年数が大幅に削られているぞ」
リィエルは眉をひそめ、台座の前に跪いた。
エンジニアとして、目の前でバグが放置されているのを見過ごすことはできない。ましてや、自分を快く迎えてくれた男の家のシステムだ。
「少しだけ、最適化させてもらうか。ログイン権限は……ふむ、ガイアスさんの魔力波長に同期しているなら、その残滓を使ってバイパスを通せばいい」
リィエルが指先を空中で動かすと、青白い光の幾何学模様が浮かび上がった。
彼は魔石に触れることなく、空中に浮いた回路を指先で弾くようにして書き換えていく。
無駄な分岐を統合し、魔力の漏洩を防ぐための絶縁処理を施し、出力の変動を一定に保つための平滑化回路を組み込む。
作業に没頭している間、リィエルの瞳はわずかに銀色の輝きを増していた。
複雑に絡み合っていた光の糸が、見る間に整然とした美しい幾何学構造へと再構築されていく。
「よし。これで処理速度は三倍、魔力消費量は半分だ。ついでに、侵入者に対する検知感度も上方修正しておいたから、ネズミ一匹入ってもログに残るはずだぞ」
リィエルが満足げに息をつき、術式を消したその時だった。
「……リィエル? そこで何をしているんだ?」
背後から聞き慣れた声がした。
振り返ると、そこには予定よりも早く公務を終えたガイアスが、驚愕の表情で立ち尽くしていた。
「ああ、ガイアスさん。お帰りなさい。……勝手にシステムをいじってすみません。あまりに非効率な古いバージョンだったので、最新のパッチを当てておきました」
「パッチ……? いや、今、屋敷の門をくぐった瞬間に肌を刺すような守護の力を感じてな。何事かと思って飛んできたのだが」
ガイアスは台座に歩み寄り、魔石をまじまじと見つめた。
以前の濁った輝きとは違う、清流のように透き通った光。
「お前は……本当に底が知れないな。王立魔導院の重鎮たちが一ヶ月かけても終わらないような大工事を、一息で済ませてしまったのか」
「ただのメンテナンスですよ。お茶を淹れる前の、ちょっとした準備運動のようなものです」
リィエルは事もなげに言い、ローブの埃を払って立ち上がった。
ガイアスは呆れたように笑うと、一歩近づき、リィエルの銀髪を大きな手で乱暴にならないよう優しく撫でた。
「全く。お前を屋敷に一人にしておくのは、王都の魔導バランスを書き換えてしまうという意味で危険かもしれないな。……だが、ありがとう。これで今夜は、より一層安心して眠れそうだ」
「……当然の義務です。俺もこの屋敷のセキュリティの一部に含まれている以上、安全性の向上は最優先事項ですから」
照れ隠しに目を逸らすリィエルの耳元で、王都の街に響く祝祭の鐘の音が小さく聞こえてきた。
シロはベッドの羽毛に埋もれて深い眠りについており、当面の間は動く気配がない。
「……少しだけ、この屋敷の内部構造を確認しておくか。情報収集はリスク管理の基本だしな」
リィエルは部屋を出て、長い廊下を静かに歩き出した。
使用人たちに見つかるとまた過剰なもてなしを受けそうだったので、気配を遮断する術式を薄く展開しておく。
階段を降り、重厚な木製の扉を開くと、そこはこの屋敷の図書室だった。
高い天井まで届く書架には、戦術書や歴史書の他に、かなりの数の魔導書が並んでいる。リィエルの目が、職業病とも言える鋭さで背表紙を走査していった。
「ほう。王都の騎士団長ともなれば、これほど希少な原本を個人所有しているのか。管理体制も悪くない……と言いたいところだが」
リィエルの足が、部屋の隅にある台座の前で止まった。
そこには屋敷全体の防衛結界を制御するための核となる魔石が置かれていた。魔石からは幾筋もの光の回路が伸び、壁を通じて屋敷全体へと広がっている。
「……ひどいな。この回路、設計が古すぎて魔力の逆流が起きている。効率が悪いどころか、これでは負荷がかかりすぎて耐用年数が大幅に削られているぞ」
リィエルは眉をひそめ、台座の前に跪いた。
エンジニアとして、目の前でバグが放置されているのを見過ごすことはできない。ましてや、自分を快く迎えてくれた男の家のシステムだ。
「少しだけ、最適化させてもらうか。ログイン権限は……ふむ、ガイアスさんの魔力波長に同期しているなら、その残滓を使ってバイパスを通せばいい」
リィエルが指先を空中で動かすと、青白い光の幾何学模様が浮かび上がった。
彼は魔石に触れることなく、空中に浮いた回路を指先で弾くようにして書き換えていく。
無駄な分岐を統合し、魔力の漏洩を防ぐための絶縁処理を施し、出力の変動を一定に保つための平滑化回路を組み込む。
作業に没頭している間、リィエルの瞳はわずかに銀色の輝きを増していた。
複雑に絡み合っていた光の糸が、見る間に整然とした美しい幾何学構造へと再構築されていく。
「よし。これで処理速度は三倍、魔力消費量は半分だ。ついでに、侵入者に対する検知感度も上方修正しておいたから、ネズミ一匹入ってもログに残るはずだぞ」
リィエルが満足げに息をつき、術式を消したその時だった。
「……リィエル? そこで何をしているんだ?」
背後から聞き慣れた声がした。
振り返ると、そこには予定よりも早く公務を終えたガイアスが、驚愕の表情で立ち尽くしていた。
「ああ、ガイアスさん。お帰りなさい。……勝手にシステムをいじってすみません。あまりに非効率な古いバージョンだったので、最新のパッチを当てておきました」
「パッチ……? いや、今、屋敷の門をくぐった瞬間に肌を刺すような守護の力を感じてな。何事かと思って飛んできたのだが」
ガイアスは台座に歩み寄り、魔石をまじまじと見つめた。
以前の濁った輝きとは違う、清流のように透き通った光。
「お前は……本当に底が知れないな。王立魔導院の重鎮たちが一ヶ月かけても終わらないような大工事を、一息で済ませてしまったのか」
「ただのメンテナンスですよ。お茶を淹れる前の、ちょっとした準備運動のようなものです」
リィエルは事もなげに言い、ローブの埃を払って立ち上がった。
ガイアスは呆れたように笑うと、一歩近づき、リィエルの銀髪を大きな手で乱暴にならないよう優しく撫でた。
「全く。お前を屋敷に一人にしておくのは、王都の魔導バランスを書き換えてしまうという意味で危険かもしれないな。……だが、ありがとう。これで今夜は、より一層安心して眠れそうだ」
「……当然の義務です。俺もこの屋敷のセキュリティの一部に含まれている以上、安全性の向上は最優先事項ですから」
照れ隠しに目を逸らすリィエルの耳元で、王都の街に響く祝祭の鐘の音が小さく聞こえてきた。
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