悪役令息(予定)の俺、推し騎士を愛でるために破滅フラグを全力でバキ折ることにしました。

たら昆布

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1話

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「セシル・フォン・ローゼンバーグ。貴様を国家反逆罪、および聖女暗殺未遂の容疑で処刑する」

冷徹な声が響き、目の前に銀色の剣先が突きつけられる。

その剣を握っているのは、漆黒の髪に氷の如き銀の瞳を持つ男。
我が国が誇る最強の近衛騎士――アルス・ヴァン・クロムウェルだ。

(……ああ。やっぱり、こうなる運命なんだな)

俺、セシルはこの瞬間、すべてを思い出した。
ここが前世で狂ったようにプレイしていたBLゲーム『聖なる騎士と光の乙女』の世界であること。
そして目の前の男が、俺の人生最推しキャラクターであること。
……ついでに、俺がこの後、彼の手によって首を飛ばされる「噛ませ犬の悪役令息」であることも。

「何か言い残すことはあるか? 傲慢なる薔薇の小倅よ」

アルスの瞳には、ゴミを見るような蔑みだけが宿っている。
う、美しすぎる……。
冷酷な罵倒さえ、今の俺には極上のファンファーレにしか聞こえない。

だが、感動している場合ではない。このままだと死ぬ。
死んだら推しの今後の活躍(続編の追加シナリオとか)が見られない!

「……待って。待ってください、アルス様」

俺は震える膝を必死に押さえ、地に伏した状態から顔を上げた。
アルスの眉が不快そうにピクリと動く。

「命乞いか? 見苦しいぞ」

「違います。そうじゃなくて……。その、剣に汚れが」

「……は?」

「あなたの、その鏡のように美しい聖剣の切っ先。僕の返り血で汚してしまうのは、あまりにも……あまりにも国家的な損失です! ああ、想像しただけで失神しそう……!」

俺は本気だった。
推しの愛剣が、俺みたいな悪役の薄汚い血で汚れるなんて、ファンとして万死に値する。

アルスが、これまでに見たこともないような「こいつ、何言ってんだ?」という困惑の表情を浮かべた。
氷の騎士の仮面が、今、わずかにヒビ割れた音がした。

「……貴様、狂ったのか?」

「いいえ、正気です! 死ぬ前にこれだけは言わせてください。アルス様、今日のそのタイトな騎士服、広背筋のラインが最高に引き立っていて素晴らしいです。あと、その蔑みの視線、ご褒美です。ありがとうございます!」

沈黙が流れた。
背後で控えていた他の騎士たちの槍が、ガタガタと震えている。

アルスは、突きつけていた剣をゆっくりと引いた。
その銀色の瞳には、殺意ではなく、得体の知れない生物を見るような深い困惑が刻まれている。

「……連れて行け。この男、頭に異常がある」

「ああっ、アルス様! その冷たい目! もっと、もっと僕を見て――!」

こうして俺は、首を飛ばされる代わりに、王宮の地下牢へと「様子見」でぶち込まれることになった。

……よし。
とりあえず、処刑フラグ、1本へし折ったぞ。
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