悪役令息(予定)の俺、推し騎士を愛でるために破滅フラグを全力でバキ折ることにしました。

たら昆布

文字の大きさ
11 / 20

11話

しおりを挟む
「……アルス様、もう、そこら中に跡が……。明日から雑用係として歩けません」

俺、セシルは、アルス様の広いベッドの中でシーツに包まりながら、消え入りそうな声を出した。
資料室での一件のあと、自室に連れ戻された俺を待っていたのは、文字通り「骨の髄まで愛でられる」ような執着の嵐だった。

アルス様は俺の腰を抱き寄せ、まだ熱を帯びた瞳で俺を見下ろしている。
最強の騎士が、今はただの一人の男として、俺を逃がさないように閉じ込めている。

「……歩く必要はない。俺が運ぶと言っただろう」

「そういう物理的な話じゃなくてですね……! 周りの騎士たちの視線が痛いんです。みんな『副団長、あいつを食ったな』って顔で見てくるんですよ!?」

「事実だ。文句があるなら俺に直接言えと伝えろ。……それとも、嫌だったのか?」

アルス様が、少しだけ不安そうに俺の頬を撫でる。
そのギャップ! さっきまで魔導師を壁に埋めていた男が、俺の顔色を伺っている!
萌え死ぬ。このギャップだけで白飯十杯はいける。

「嫌なわけないじゃないですか! むしろ、一生このベッドの住人になりたいくらいです!」

俺が勢いよく答えると、アルス様は満足げに鼻を鳴らし、俺の額に優しくキスを落とした。
……これ、本当に悪役令息ルートか? 甘すぎて溶けそうだ。

そんな幸せな空気を切り裂いたのは、扉を激しく叩く音だった。

「お二人さーん! 盛り上がってるところ悪いんだけど、緊急事態よ! 鼻血拭いて待ってる余裕もないわ!」

リリアーヌ様の、全く緊迫感のない叫び声。
俺とアルス様は慌てて身なりを整え(といっても俺はアルス様の私服を借りる羽目になったが)、扉を開けた。

そこには、大量の資料を抱えたリリアーヌ様が、目を皿のようにして俺たちの様子を観察していた。

「……あら、セシル様。その服、アルス様のよね? 肩が落ちてて……ああん、背徳感。ごちそうさまです」

「リリアーヌ。ふざけているなら叩き出すぞ」

アルス様が剣を帯び直しながら冷たく言い放つ。
リリアーヌ様は「ひっ」と短く悲鳴を上げ、すぐに真面目な顔(自称)に戻った。

「わかってるわよ。さっきの侵入者、やっぱり『教会』の過激派だったわ。彼ら、セシル様の中に眠る『負の魔力』を呼び覚まして、この国を混乱させようとしてる。ゲームのシナリオが、強制的にセシル様を悪役に仕立て上げようと歪み始めてるの」

リリアーヌ様の言葉に、室内の温度がスッと下がった。
本来、この世界はゲームだ。
セシルが悪役として死ぬことで物語が完結するシステム。
俺がアルス様に愛されることでそのフラグを折った結果、世界そのものが「修正」をかけようとしているらしい。

「……負の魔力だと? セシルにそんなものはない。こいつはただの、救いようのない変わり者だ」

アルス様が俺の肩を抱き、守るように引き寄せる。
その言葉、褒め言葉として受け取っていいんですよね?

「私だってそう信じたいわよ。でも、教会の司教たちは本気。次の夜会で、セシル様を『呪われた子』として告発するつもりよ。そうなれば、アルス様、あなたでも彼を守りきれなくなるかもしれない」

リリアーヌ様の瞳に、転生者としての切実な色が宿る。
彼女はこの世界を、そして登場人物たちを愛している。だからこそ、理不尽なバッドエンドを許せないのだ。

「告発……。つまり、僕が公開処刑されるフラグが復活したってことですか?」

俺が尋ねると、アルス様の手が、痛いくらいに俺の肩に食い込んだ。

「……させるか。そんなことは、絶対に」

アルス様の銀色の瞳が、夜の闇よりも深く、鋭く光る。
彼は俺の前に立ち、リリアーヌ様に宣言した。

「リリアーヌ、貴女に頼みがある。聖女の権限で、教会の動きを封じろ。……その間に、俺は『騎士のやり方』で奴らの根源を叩き潰す」

「……いいわ。その言葉、待ってた。セシル様の幸せは、私の同人誌……じゃなくて、私の魂の救いなんだから!」

リリアーヌ様は力強く頷いた。
最強のスパダリ騎士と、最強のメタ知識持ち聖女。
この二人がタッグを組めば、運命なんて紙屑同然だ。

(……あ、でも待って。二人ともやる気満々だけど、当の本人の僕はどうすれば?)

「セシル。お前は俺の側にいろ。一分一秒、視界から消えるな」

アルス様はそう言うと、俺の首筋にあるチョーカー(首輪)の魔石に指先で触れた。
そこから、彼の温かくも力強い魔力が流れ込んでくる。

「運命が邪魔をするなら、俺がその運命を斬る。……お前はただ、俺の愛だけを信じていればいい」

その力強い言葉に、俺は確信した。
この物語の主導権(ハンドル)を握っているのは、ゲームのシステムじゃない。
目の前の、俺への愛で狂いかけている、この最強の推しなんだ。

「……はい、アルス様。僕、どこまでもついていきます!」

甘い事後から一転、物語は国を揺るがす大きな渦へと巻き込まれようとしていた。
だが、俺の心は不思議と落ち着いていた。
だって、隣には世界で一番かっこいい「僕の騎士様」がいるのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

ラベンダーに想いを乗せて

光海 流星
BL
付き合っていた彼氏から突然の別れを告げられ ショックなうえにいじめられて精神的に追い詰められる 数年後まさかの再会をし、そしていじめられた真相を知った時

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

オメガの復讐

riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。 しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。 とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

貧乏子爵のオメガ令息は、王子妃候補になりたくない

こたま
BL
山あいの田舎で、子爵とは名ばかりの殆ど農家な仲良し一家で育ったラリー。男オメガで貧乏子爵。このまま実家で生きていくつもりであったが。王から未婚の貴族オメガにはすべからく王子妃候補の選定のため王宮に集うようお達しが出た。行きたくないしお金も無い。辞退するよう手紙を書いたのに、近くに遠征している騎士団が帰る時、迎えに行って一緒に連れていくと連絡があった。断れないの?高貴なお嬢様にイジメられない?不安だらけのラリーを迎えに来たのは美丈夫な騎士のニールだった。

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生2929回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

処理中です...