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13話
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王宮の大広間は、数千の魔石灯に照らされ、眩いばかりの輝きを放っていた。
豪奢なドレスや礼服に身を包んだ貴族たちがひしめく中、一際大きなざわめきが起こる。
「……あれは、ローゼンバーグ家の……?」
「処刑を免れたという、あの狂った令息か」
「隣にいるのは、アルス副団長ではないか!」
ざわめきの中心にいるのは、俺とアルス様だ。
リリアーヌ様が用意してくれた白銀の礼服に身を包んだ俺の腰を、漆黒の軍服を着たアルス様が、これ見よがしに抱き寄せている。
(……やばい。視線が痛い。でも、アルス様の体温が近すぎて、緊張よりも萌えが勝ってる……!)
「セシル。怯えるな。……俺がここにいる」
アルス様が俺の耳元で囁く。その低い声だけで、俺の心拍数は一気に跳ね上がった。
俺は小さく頷き、アルス様の胸元に手を添えた。
「大丈夫です、アルス様。……あなたの隣にいるのが僕であるという事実だけで、僕は無敵ですから」
そんな俺たちの前に、一人の老人が立ちはだかった。
豪華な法衣を纏い、手には大きな宝石の付いた杖。教会の権力者、ボニファティウス司教だ。
ゲームではセシルを「悪魔憑き」と断罪し、破滅の引き金を引く黒幕の一人である。
「おお、これはこれは。アルス副団長。……その隣にいる罪人を連れてくるとは、騎士団の品位を疑いますな」
司教の声が広間に響き、周囲の視線がさらに鋭くなる。
アルス様の手が、腰にある剣の柄にピクリと動いたが、それをリリアーヌ様の明るい声が遮った。
「司教様。彼は罪人ではありませんわ。……私の『神託』によれば、彼はこの国に光をもたらす重要な存在です」
リリアーヌ様が、聖女の微笑みを浮かべて優雅に現れた。
司教の顔が不快そうに歪む。
「聖女様。お言葉ですが、我々教会の調査では、その少年の中に巨大な『闇の魔力』が確認されています。……今ここで、民衆の前で鑑定を行い、真実を明らかにすべきではないか?」
司教が杖を掲げると、広間の中心に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
『魔力鑑定の儀』。
対象者の魔力の性質を色で判別する魔法だ。もし黒い色が出れば、俺は「悪魔の子」としてその場で捕縛される。
(きた、強制イベント……! リリアーヌ様、準備はいいですよね!?)
俺はアルス様の腕の中で、固唾を飲んでリリアーヌ様を見た。
彼女は、俺にだけわかるように片目をパチンと瞑ってみせた。
「よろしいでしょう。彼の潔白を証明するために、私が鑑定を行いましょう」
リリアーヌ様が魔法陣の中心に立ち、俺の手を引いた。
アルス様は苦々しい顔をしながらも、俺の手を離し、剣の柄を握ったまま俺の背後で待機した。
「何かあれば、この場にいる全員を斬る」という殺気が背中からビシビシ伝わってくる。
「……顕現せよ、真実の光!」
リリアーヌ様が叫ぶ。
魔法陣が激しく発光し、俺の体から魔力が引き出される。
一瞬、俺の視界に「どす黒い影」が見えた気がした。ゲームのシステムが、俺を無理やり「悪役」に染め上げようとする抵抗だ。
だがその時、アルス様が贈ってくれたチョーカーの魔石が、熱を帯びて輝いた。
彼の魔力が、俺の中の不安を、そしてシステムの介入を力強く跳ね返す。
「――おお!?」
広間に感嘆の声が上がった。
魔法陣から溢れ出したのは、どす黒い闇などではなかった。
それは、透き通るような、純白の光。
しかも、その光は形を変え、俺とアルス様を繋ぐように美しい円を描いたのだ。
「……そんな馬鹿な!? 鑑定結果が『純白』だと!? しかも、この親和性は……!」
司教が驚愕で杖を落とした。
リリアーヌ様が、ここぞとばかりに高らかに宣言する。
「皆様、ご覧ください! セシル様は闇に守られているのではありません。彼は、我が国最強の騎士・アルス様と魂のレベルで共鳴する、奇跡の存在なのです!」
(((実質的な婚約発表キターーーー!!)))
俺は心の中でガッツポーズをした。
リリアーヌ様、偽装どころか、アルス様の魔力を利用して「運命の番(つがい)」みたいな演出まで加えてくれたらしい。神すぎる。
「……くっ、何かの間違いだ! 鑑定のやり直しを――」
「司教様。……もう、十分だろう」
アルス様が一歩前に出た。
彼の放つ圧倒的なプレッシャーに、司教は膝をついて崩れ落ちた。
アルス様は俺の肩を抱き寄せ、冷徹な声で広間の貴族たちを見据えた。
「セシルは俺の番だ。これ以上の不敬は、俺の誇りにかけて許さない。……異論がある者は、今すぐ前に出ろ」
広間は静まり返った。
最強の騎士の「番宣言」に、逆らえる者など誰もいない。
(……勝った。僕、破滅フラグをバキバキに折っただけじゃなくて、国公認の推しの妻(?)になったぞ……!)
俺は、アルス様の胸の中で、勝利の喜びに震えていた。
だが、司教の瞳の奥に宿る、昏い憎しみの光にだけは、まだ気づいていなかった。
「……ふん、まだ終わらんぞ。聖女。……そして、狂った令息よ」
司教は低く呟き、夜の闇へと姿を消した。
物語はハッピーエンドに向かっているように見えて、真の「絶望」はまだその牙を隠していた。
豪奢なドレスや礼服に身を包んだ貴族たちがひしめく中、一際大きなざわめきが起こる。
「……あれは、ローゼンバーグ家の……?」
「処刑を免れたという、あの狂った令息か」
「隣にいるのは、アルス副団長ではないか!」
ざわめきの中心にいるのは、俺とアルス様だ。
リリアーヌ様が用意してくれた白銀の礼服に身を包んだ俺の腰を、漆黒の軍服を着たアルス様が、これ見よがしに抱き寄せている。
(……やばい。視線が痛い。でも、アルス様の体温が近すぎて、緊張よりも萌えが勝ってる……!)
「セシル。怯えるな。……俺がここにいる」
アルス様が俺の耳元で囁く。その低い声だけで、俺の心拍数は一気に跳ね上がった。
俺は小さく頷き、アルス様の胸元に手を添えた。
「大丈夫です、アルス様。……あなたの隣にいるのが僕であるという事実だけで、僕は無敵ですから」
そんな俺たちの前に、一人の老人が立ちはだかった。
豪華な法衣を纏い、手には大きな宝石の付いた杖。教会の権力者、ボニファティウス司教だ。
ゲームではセシルを「悪魔憑き」と断罪し、破滅の引き金を引く黒幕の一人である。
「おお、これはこれは。アルス副団長。……その隣にいる罪人を連れてくるとは、騎士団の品位を疑いますな」
司教の声が広間に響き、周囲の視線がさらに鋭くなる。
アルス様の手が、腰にある剣の柄にピクリと動いたが、それをリリアーヌ様の明るい声が遮った。
「司教様。彼は罪人ではありませんわ。……私の『神託』によれば、彼はこの国に光をもたらす重要な存在です」
リリアーヌ様が、聖女の微笑みを浮かべて優雅に現れた。
司教の顔が不快そうに歪む。
「聖女様。お言葉ですが、我々教会の調査では、その少年の中に巨大な『闇の魔力』が確認されています。……今ここで、民衆の前で鑑定を行い、真実を明らかにすべきではないか?」
司教が杖を掲げると、広間の中心に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
『魔力鑑定の儀』。
対象者の魔力の性質を色で判別する魔法だ。もし黒い色が出れば、俺は「悪魔の子」としてその場で捕縛される。
(きた、強制イベント……! リリアーヌ様、準備はいいですよね!?)
俺はアルス様の腕の中で、固唾を飲んでリリアーヌ様を見た。
彼女は、俺にだけわかるように片目をパチンと瞑ってみせた。
「よろしいでしょう。彼の潔白を証明するために、私が鑑定を行いましょう」
リリアーヌ様が魔法陣の中心に立ち、俺の手を引いた。
アルス様は苦々しい顔をしながらも、俺の手を離し、剣の柄を握ったまま俺の背後で待機した。
「何かあれば、この場にいる全員を斬る」という殺気が背中からビシビシ伝わってくる。
「……顕現せよ、真実の光!」
リリアーヌ様が叫ぶ。
魔法陣が激しく発光し、俺の体から魔力が引き出される。
一瞬、俺の視界に「どす黒い影」が見えた気がした。ゲームのシステムが、俺を無理やり「悪役」に染め上げようとする抵抗だ。
だがその時、アルス様が贈ってくれたチョーカーの魔石が、熱を帯びて輝いた。
彼の魔力が、俺の中の不安を、そしてシステムの介入を力強く跳ね返す。
「――おお!?」
広間に感嘆の声が上がった。
魔法陣から溢れ出したのは、どす黒い闇などではなかった。
それは、透き通るような、純白の光。
しかも、その光は形を変え、俺とアルス様を繋ぐように美しい円を描いたのだ。
「……そんな馬鹿な!? 鑑定結果が『純白』だと!? しかも、この親和性は……!」
司教が驚愕で杖を落とした。
リリアーヌ様が、ここぞとばかりに高らかに宣言する。
「皆様、ご覧ください! セシル様は闇に守られているのではありません。彼は、我が国最強の騎士・アルス様と魂のレベルで共鳴する、奇跡の存在なのです!」
(((実質的な婚約発表キターーーー!!)))
俺は心の中でガッツポーズをした。
リリアーヌ様、偽装どころか、アルス様の魔力を利用して「運命の番(つがい)」みたいな演出まで加えてくれたらしい。神すぎる。
「……くっ、何かの間違いだ! 鑑定のやり直しを――」
「司教様。……もう、十分だろう」
アルス様が一歩前に出た。
彼の放つ圧倒的なプレッシャーに、司教は膝をついて崩れ落ちた。
アルス様は俺の肩を抱き寄せ、冷徹な声で広間の貴族たちを見据えた。
「セシルは俺の番だ。これ以上の不敬は、俺の誇りにかけて許さない。……異論がある者は、今すぐ前に出ろ」
広間は静まり返った。
最強の騎士の「番宣言」に、逆らえる者など誰もいない。
(……勝った。僕、破滅フラグをバキバキに折っただけじゃなくて、国公認の推しの妻(?)になったぞ……!)
俺は、アルス様の胸の中で、勝利の喜びに震えていた。
だが、司教の瞳の奥に宿る、昏い憎しみの光にだけは、まだ気づいていなかった。
「……ふん、まだ終わらんぞ。聖女。……そして、狂った令息よ」
司教は低く呟き、夜の闇へと姿を消した。
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