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16話
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粉砕された結界の破片が舞う中、俺たちは砦の最上階へと踏み込んだ。
そこには、狂気に満ちた瞳で魔法陣を完成させようとするボニファティウス司教の姿があった。
「……来おったか、忌々しい色のついた番め! セシル、貴様さえ死ねば、この国の『負の魔力』は浄化され、私の理想とする聖なる国が完成するのだ!」
司教が杖を振り上げると、天井から巨大な氷の槍が降り注ぐ。
だが、アルス様は俺を抱いたまま、一歩も動かずにそれを剣気だけで粉砕した。
「……まだわからないのか、司教。セシルを傷つけることは、この俺を、そしてこの国すべてを敵に回すことと同じだ」
アルス様の声は、驚くほど静かだった。
だが、その背後に渦巻く魔圧は、建物全体をミシミシと軋ませ、石壁にヒビを入れるほどに膨れ上がっている。
「黙れ、色に狂った騎士め! セシル・フォン・ローゼンバーグ、貴様の中に眠る『悪役の魂』を目覚めさせてやろう!」
司教が放った黒い雷が、俺の胸に直撃した。
その瞬間、俺の脳内に、前世でプレイしたゲームの「バッドエンド」の記憶が濁流のように流れ込んできた。
(――暗い牢獄、蔑みの視線、そしてアルス様の剣が俺の喉を貫く感覚……)
「っ、あああああ!!」
激しい頭痛に膝をつく。
俺の体から、どす黒い霧が溢れ出し、周囲を侵食し始めた。
これこそが、ゲームのシステムが用意した「悪役令息セシル」の真の姿だ。
「ははは! 見ろ、これこそが真実の姿だ! さあ、アルス・ヴァン・クロムウェル、その手で悪を裁け!」
司教が勝ち誇ったように叫ぶ。
だが、アルス様は……。
黒い霧に巻かれ、人外の化け物に見え始めた俺の体を、躊躇なく力強く抱きしめた。
「……何をしている、セシル。顔を上げろ」
「だ、ダメです、アルス様! 僕に触れないで! 僕は、あなたを殺すはずの悪役で……っ」
「……バカか。お前が俺を殺すというのなら、俺の命などいくらでもくれてやる」
アルス様は、俺の額に自分の額を押し当てた。
銀色の瞳が、真っ直ぐに俺の魂を見据えている。
「お前は悪役などではない。俺を救い、俺に愛を教えた、たった一人の伴侶だ。……システムだか運命だか知らんが、俺のセシルを型に嵌めるな」
アルス様の指先が、俺の頬を伝う涙を拭う。
その瞬間、俺の心の中にあった「恐怖」が、彼への圧倒的な「愛(オタク心)」によって上書きされた。
(……そうだ。俺は悪役じゃない。俺は、世界一かっこいいアルス様の、世界一幸せなファンなんだ!)
「――消えろ、そんな古いシナリオ(運命)なんて!」
俺が叫ぶと同時に、体から溢れていた黒い霧が、眩いばかりの金色の光へと転換された。
それは司教の闇を、砦の穢れを、すべてを浄化する圧倒的なエネルギー。
「な、なんだと……!? 闇が、光に変わっただと!? 魔法理論上、ありえん……!」
「理論など関係ない。……これが、俺たちの愛の形だ」
アルス様が、俺を背後に庇いながら一歩前に出た。
彼の剣が、青白い焔を纏い、太陽よりも眩しく輝く。
「……セシルを泣かせた罪。万死に値する。……消え失せろ」
アルス様が剣を一閃させた。
光の波動が室内を埋め尽くし、司教の杖を、魔法陣を、そして彼の野望をすべて塵へと還した。
轟音と共に砦の最上階が吹き飛ぶ。
静寂が戻った中、俺はアルス様の背中に抱きついた。
「アルス様……! かっこいい、かっこよすぎて、もう国を建国できそうです!」
「……セシル。無事か」
アルス様が振り返り、俺の腰を抱きしめて深く安堵の息を漏らす。
その瞳には、先ほどまでの破壊神のような面影はなく、ただ一人の愛する男の優しさだけが宿っていた。
「はい。……僕、もう二度と迷いません。どんな運命が来ても、アルス様の隣でバキバキに折ってみせますから!」
俺たちは、崩れかけた砦の上で、昇り始めた朝日に照らされながら、固く唇を重ねた。
司教は消え、破滅のシナリオは完全に書き換えられたのだ。
……だが、その様子を遠くから望遠鏡(魔法具)で覗いていたリリアーヌ様が、「今の覚醒シーン、全編録画したかったぁぁ!」と地面を転げ回っていたのを、俺たちはまだ知らなかった。
そこには、狂気に満ちた瞳で魔法陣を完成させようとするボニファティウス司教の姿があった。
「……来おったか、忌々しい色のついた番め! セシル、貴様さえ死ねば、この国の『負の魔力』は浄化され、私の理想とする聖なる国が完成するのだ!」
司教が杖を振り上げると、天井から巨大な氷の槍が降り注ぐ。
だが、アルス様は俺を抱いたまま、一歩も動かずにそれを剣気だけで粉砕した。
「……まだわからないのか、司教。セシルを傷つけることは、この俺を、そしてこの国すべてを敵に回すことと同じだ」
アルス様の声は、驚くほど静かだった。
だが、その背後に渦巻く魔圧は、建物全体をミシミシと軋ませ、石壁にヒビを入れるほどに膨れ上がっている。
「黙れ、色に狂った騎士め! セシル・フォン・ローゼンバーグ、貴様の中に眠る『悪役の魂』を目覚めさせてやろう!」
司教が放った黒い雷が、俺の胸に直撃した。
その瞬間、俺の脳内に、前世でプレイしたゲームの「バッドエンド」の記憶が濁流のように流れ込んできた。
(――暗い牢獄、蔑みの視線、そしてアルス様の剣が俺の喉を貫く感覚……)
「っ、あああああ!!」
激しい頭痛に膝をつく。
俺の体から、どす黒い霧が溢れ出し、周囲を侵食し始めた。
これこそが、ゲームのシステムが用意した「悪役令息セシル」の真の姿だ。
「ははは! 見ろ、これこそが真実の姿だ! さあ、アルス・ヴァン・クロムウェル、その手で悪を裁け!」
司教が勝ち誇ったように叫ぶ。
だが、アルス様は……。
黒い霧に巻かれ、人外の化け物に見え始めた俺の体を、躊躇なく力強く抱きしめた。
「……何をしている、セシル。顔を上げろ」
「だ、ダメです、アルス様! 僕に触れないで! 僕は、あなたを殺すはずの悪役で……っ」
「……バカか。お前が俺を殺すというのなら、俺の命などいくらでもくれてやる」
アルス様は、俺の額に自分の額を押し当てた。
銀色の瞳が、真っ直ぐに俺の魂を見据えている。
「お前は悪役などではない。俺を救い、俺に愛を教えた、たった一人の伴侶だ。……システムだか運命だか知らんが、俺のセシルを型に嵌めるな」
アルス様の指先が、俺の頬を伝う涙を拭う。
その瞬間、俺の心の中にあった「恐怖」が、彼への圧倒的な「愛(オタク心)」によって上書きされた。
(……そうだ。俺は悪役じゃない。俺は、世界一かっこいいアルス様の、世界一幸せなファンなんだ!)
「――消えろ、そんな古いシナリオ(運命)なんて!」
俺が叫ぶと同時に、体から溢れていた黒い霧が、眩いばかりの金色の光へと転換された。
それは司教の闇を、砦の穢れを、すべてを浄化する圧倒的なエネルギー。
「な、なんだと……!? 闇が、光に変わっただと!? 魔法理論上、ありえん……!」
「理論など関係ない。……これが、俺たちの愛の形だ」
アルス様が、俺を背後に庇いながら一歩前に出た。
彼の剣が、青白い焔を纏い、太陽よりも眩しく輝く。
「……セシルを泣かせた罪。万死に値する。……消え失せろ」
アルス様が剣を一閃させた。
光の波動が室内を埋め尽くし、司教の杖を、魔法陣を、そして彼の野望をすべて塵へと還した。
轟音と共に砦の最上階が吹き飛ぶ。
静寂が戻った中、俺はアルス様の背中に抱きついた。
「アルス様……! かっこいい、かっこよすぎて、もう国を建国できそうです!」
「……セシル。無事か」
アルス様が振り返り、俺の腰を抱きしめて深く安堵の息を漏らす。
その瞳には、先ほどまでの破壊神のような面影はなく、ただ一人の愛する男の優しさだけが宿っていた。
「はい。……僕、もう二度と迷いません。どんな運命が来ても、アルス様の隣でバキバキに折ってみせますから!」
俺たちは、崩れかけた砦の上で、昇り始めた朝日に照らされながら、固く唇を重ねた。
司教は消え、破滅のシナリオは完全に書き換えられたのだ。
……だが、その様子を遠くから望遠鏡(魔法具)で覗いていたリリアーヌ様が、「今の覚醒シーン、全編録画したかったぁぁ!」と地面を転げ回っていたのを、俺たちはまだ知らなかった。
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