悪役令息(予定)の俺、推し騎士を愛でるために破滅フラグを全力でバキ折ることにしました。

たら昆布

文字の大きさ
20 / 20

20話

しおりを挟む
「……セシル様、落ち着いて! 震えすぎよ! 私が用意したこのウェディングドレスが破れちゃう!」

「リリアーヌ様……! だって、もうすぐアルス様と……僕、本当に夢みたいで……」

鏡の中には、白銀の糸で刺繍された豪華な礼服に身を包んだ俺がいた。
それは、リリアーヌ様が「実質的なウェディングドレス」と称した、あの時の衣装だ。
王宮の大聖堂。今日は、この国が始まって以来の、国王公認の世紀の婚儀が執り行われる日だ。

「大丈夫よ! あなたは最高に美しくて、世界で一番幸せな花嫁(?)よ! さあ、行くわよ、僕たちの神作品の最終回よ!」

リリアーヌ様が俺の手を引く。
大聖堂の扉が開くと、眩いばかりの光と共に、数千人の貴族や民衆の視線が一斉に俺に注がれた。

聖なる歌声が響き渡る中、祭壇の奥に立つ一人の男の姿が、俺の目に飛び込んできた。
漆黒の軍服に身を包んだ、我が最愛の婚約者――アルス・ヴァン・クロムウェル様。

彼の銀色の瞳が、俺を見つけた瞬間、ふっと優しく細められた。
その眼差しは、あの地下牢で俺を罵った時の冷たさとは真逆の、深く、甘い愛で満たされている。

一歩、また一歩と、アルス様へと向かって歩く。
その道のりは、まるで俺の前世から今生へと続く、長くて尊い旅路のようだった。
破滅の運命から救ってくれた、俺のヒーロー。

祭壇の前で、アルス様が俺の手を取った。
彼の指は、熱くて、力強い。

「……セシル。美しい」

アルス様が、周囲の喧騒など気にも留めず、俺の耳元で囁いた。
その言葉だけで、俺の胸は幸福で満たされる。

司祭の厳かな声が響く。
「アルス・ヴァン・クロムウェル、あなたはセシル・フォン・ローゼンバーグを、いかなる時も愛し、慈しみ、生涯を共にする事を誓いますか?」

アルス様は、俺の瞳を真っ直ぐに見つめたまま、迷いなく答えた。
「誓います。この命に代えても、セシルを愛し抜くことを」

司祭が俺に問いかける。
「セシル・フォン・ローゼンバーグ、あなたはアルス・ヴァン・クロムウェルを、いかなる時も愛し、慈しみ、生涯を共にする事を誓いますか?」

俺は、溢れる涙を拭いもせずに、精一杯の笑顔で答えた。
「はい! 誓います! アルス様こそ、僕の生きる意味です!」

その瞬間、大聖堂に祝福の鐘が鳴り響いた。
国王陛下を始め、参列した貴族たち、そして大聖堂の外に集まった民衆から、嵐のような拍手と歓声が沸き起こる。

「では、誓いの口づけを――」

司祭の言葉が終わるか終わらないかのうちに、アルス様は俺の腰を引き寄せ、深く、そして熱い口づけを落とした。
そのキスは、俺たちの長きにわたる物語のすべてを肯定するようだった。
王都の空には、ルナールが金色の光を放ちながら舞い上がり、祝福の光の雨を降らせている。

(……ああ、本当に夢みたいだ。僕、破滅するはずの悪役令息なのに……)

キスが終わり、俺がアルス様の胸にもたれかかると、彼の指が俺の首筋のチョーカー(首輪)に触れた。
もう、魔力欠乏の不安なんてない。
ここにあるのは、彼への純粋な愛と、魂の繋がりだけだ。

「……セシル。俺の生涯、お前を離さない。……永遠に愛している」

「僕もです、アルス様。……ずっと、ずっと愛しています」

俺たちは、王都の歓声と祝福の中、固く手を取り合った。
破滅の運命を乗り越え、自分たちの手で掴み取った幸福な未来。

物語は、ここで終わりではない。
これは、アルスとセシル、二人の愛の物語の、始まりの合図なのだから。

……ちなみに、ブーケトスでは、なぜかリリアーヌ様が魔力をフル活用してブーケを奪い取り、「やったわ! 今日のレポはこれね!」と叫びながら、その勢いで婚儀に参列していた他国の王子に体当たりしてブーケを押し付け、「私の本命はあなたよ!」と宣言したため、後日国際問題になったらしい。

だが、そんな些細な(?)事件も、俺とアルス様の永遠の誓いの前では、ただの笑い話にすぎない。
俺は、アルス様の隣で、世界で一番幸せな悪役令息として、この世界を生き抜くと心に誓ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

ラベンダーに想いを乗せて

光海 流星
BL
付き合っていた彼氏から突然の別れを告げられ ショックなうえにいじめられて精神的に追い詰められる 数年後まさかの再会をし、そしていじめられた真相を知った時

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

オメガの復讐

riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。 しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。 とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

貧乏子爵のオメガ令息は、王子妃候補になりたくない

こたま
BL
山あいの田舎で、子爵とは名ばかりの殆ど農家な仲良し一家で育ったラリー。男オメガで貧乏子爵。このまま実家で生きていくつもりであったが。王から未婚の貴族オメガにはすべからく王子妃候補の選定のため王宮に集うようお達しが出た。行きたくないしお金も無い。辞退するよう手紙を書いたのに、近くに遠征している騎士団が帰る時、迎えに行って一緒に連れていくと連絡があった。断れないの?高貴なお嬢様にイジメられない?不安だらけのラリーを迎えに来たのは美丈夫な騎士のニールだった。

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生2929回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

処理中です...