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19話
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王都の喧騒を離れ、俺たちは新しく賜った領地「ローゼン・クロムウェル」へと向かっていた。
馬車の中、いつものようにアルス様の膝の上が俺の指定席だ。
「……セシル。これからは、ここがお前の家だ。もう誰もお前を『罪人』とは呼ばない。俺がお前を守り、お前が俺を癒やす。……そんな場所にする」
窓の外に広がるのは、豊かな緑と、宝石のように輝く湖。
ゲームでは、セシルが非業の死を遂げた後に廃墟となるはずだった場所だ。
だが今、そこには活気あふれる村々と、俺たちの帰還を待つ人々がいる。
「アルス様、見てください! あの湖のほとりに、小さな家を建てませんか? 二人きりで、誰にも邪魔されずに推し……じゃなくて、アルス様を愛でるための別荘です!」
「……ああ。お前が望むなら、城よりも立派なものを用意しよう。だが、『誰にも邪魔されずに』という部分は賛成だ。……リリアーヌさえもな」
アルス様が俺の腰を抱きしめる手に力を込める。
最近の彼は、リリアーヌ様の「同志(腐女子)パワー」にすら嫉妬している節がある。
馬車が領主館に到着すると、そこには一匹の白い影が。
「キュイッ!」
先回りしていたルナールが、尻尾を振りながら出迎えてくれた。
「ルナール! 寂しかったか? よしよし、これからはずっと一緒だぞ」
俺がルナールを抱き上げようと手を伸ばした瞬間、背後から大きな手が伸びて、俺の体をひょいと引き寄せた。
「……セシル。まずは俺だろう。……狐に構うのは後だ」
「アルス様、相手は聖獣ですよ!?」
「関係ない。今の俺には、お前の瞳に映るものが自分以外であることさえ耐え難いんだ」
アルス様の銀色の瞳には、かつての冷徹な騎士の面影はなく、ただ一人の愛する男としての、剥き出しの独占欲が宿っていた。
彼はそのまま俺を館の奥、まだ誰の手も入っていない「主寝室」へと連れ込んだ。
バルコニーからは領地が一望できる。
夕陽が沈み、世界が黄金色に染まる中、アルス様は俺を背後から抱きしめた。
「セシル。……お前は、本当に俺でよかったのか? もっと自由な人生もあったはずだ。……俺の執着は、時にお前を縛り付けるかもしれない」
不意に、アルス様が弱音を漏らした。
強すぎる愛ゆえの、彼なりの恐怖。
俺は彼の大きな手に自分の手を重ね、指を絡めた。
「アルス様。……僕は、あなたに縛られるために生まれてきたんです。前世の記憶も、この世界の理も、すべてはあなたに出会うための伏線だった。……だから、僕を一生、離さないでください。それが僕の、たった一つの『願い』なんです」
俺が振り向いて微笑むと、アルス様の瞳に熱いものが宿った。
彼は壊れ物を扱うような優しさで、俺の唇に、そして首筋の「番の証」に深く口づけを落とした。
「……ああ。……死が二人を分かつまで。いや、魂が形を失っても、俺はお前を離さない。……愛している、セシル」
「僕も……愛しています、アルス様。……世界で一番の、僕のヒーロー」
二人の影が、夕闇に溶けて一つになる。
かつて「破滅」へと続くはずだった道は、今、無限に続く「幸福」へと書き換えられた。
その夜、領主館の主寝室からは、漏れ出す魔力の光と共に、甘い囁きが夜が明けるまで途切れることはなかった。
……なお、翌朝。
「新居の防音設備が甘いわよ!」と、双眼鏡片手に領地の森から現れたリリアーヌ様が、アルス様の全力の威圧で吹き飛ばされたのは、言うまでもない。
馬車の中、いつものようにアルス様の膝の上が俺の指定席だ。
「……セシル。これからは、ここがお前の家だ。もう誰もお前を『罪人』とは呼ばない。俺がお前を守り、お前が俺を癒やす。……そんな場所にする」
窓の外に広がるのは、豊かな緑と、宝石のように輝く湖。
ゲームでは、セシルが非業の死を遂げた後に廃墟となるはずだった場所だ。
だが今、そこには活気あふれる村々と、俺たちの帰還を待つ人々がいる。
「アルス様、見てください! あの湖のほとりに、小さな家を建てませんか? 二人きりで、誰にも邪魔されずに推し……じゃなくて、アルス様を愛でるための別荘です!」
「……ああ。お前が望むなら、城よりも立派なものを用意しよう。だが、『誰にも邪魔されずに』という部分は賛成だ。……リリアーヌさえもな」
アルス様が俺の腰を抱きしめる手に力を込める。
最近の彼は、リリアーヌ様の「同志(腐女子)パワー」にすら嫉妬している節がある。
馬車が領主館に到着すると、そこには一匹の白い影が。
「キュイッ!」
先回りしていたルナールが、尻尾を振りながら出迎えてくれた。
「ルナール! 寂しかったか? よしよし、これからはずっと一緒だぞ」
俺がルナールを抱き上げようと手を伸ばした瞬間、背後から大きな手が伸びて、俺の体をひょいと引き寄せた。
「……セシル。まずは俺だろう。……狐に構うのは後だ」
「アルス様、相手は聖獣ですよ!?」
「関係ない。今の俺には、お前の瞳に映るものが自分以外であることさえ耐え難いんだ」
アルス様の銀色の瞳には、かつての冷徹な騎士の面影はなく、ただ一人の愛する男としての、剥き出しの独占欲が宿っていた。
彼はそのまま俺を館の奥、まだ誰の手も入っていない「主寝室」へと連れ込んだ。
バルコニーからは領地が一望できる。
夕陽が沈み、世界が黄金色に染まる中、アルス様は俺を背後から抱きしめた。
「セシル。……お前は、本当に俺でよかったのか? もっと自由な人生もあったはずだ。……俺の執着は、時にお前を縛り付けるかもしれない」
不意に、アルス様が弱音を漏らした。
強すぎる愛ゆえの、彼なりの恐怖。
俺は彼の大きな手に自分の手を重ね、指を絡めた。
「アルス様。……僕は、あなたに縛られるために生まれてきたんです。前世の記憶も、この世界の理も、すべてはあなたに出会うための伏線だった。……だから、僕を一生、離さないでください。それが僕の、たった一つの『願い』なんです」
俺が振り向いて微笑むと、アルス様の瞳に熱いものが宿った。
彼は壊れ物を扱うような優しさで、俺の唇に、そして首筋の「番の証」に深く口づけを落とした。
「……ああ。……死が二人を分かつまで。いや、魂が形を失っても、俺はお前を離さない。……愛している、セシル」
「僕も……愛しています、アルス様。……世界で一番の、僕のヒーロー」
二人の影が、夕闇に溶けて一つになる。
かつて「破滅」へと続くはずだった道は、今、無限に続く「幸福」へと書き換えられた。
その夜、領主館の主寝室からは、漏れ出す魔力の光と共に、甘い囁きが夜が明けるまで途切れることはなかった。
……なお、翌朝。
「新居の防音設備が甘いわよ!」と、双眼鏡片手に領地の森から現れたリリアーヌ様が、アルス様の全力の威圧で吹き飛ばされたのは、言うまでもない。
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