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18話
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「さあ、主役の二人はこっちよ! 立ち止まってる暇なんてないわ、全速力で幸せ(ハッピー)に向かって爆走するわよ!」
王宮の一室。リリアーヌ様の雄叫びが響き渡る。
目の前には、十数名の宮廷仕立屋が控え、部屋中が最高級のシルクや宝石、レースで溢れかえっていた。
国王陛下から「国を挙げた婚儀」を命じられてから三日。
俺、セシルは現在、リリアーヌ様という名の「プロの壁(自称)」による徹底的なコーディネート攻勢に晒されていた。
「リリアーヌ様、いくらなんでも着替えすぎです……。もう僕、自分が人間なのかマネキンなのか分からなくなってきました」
「何を言ってるのセシル様! これは『アルス×セシル』という究極の神作品の、最初で最後の(いや毎日でもいいけど)公式披露宴なのよ! 完璧を求めなくてどうするの!」
リリアーヌ様は鼻息荒く、次々と新しい衣装を俺に押し付けてくる。
そんな喧騒の中、壁際で腕を組んで俺を眺めている男が一人。
我が婚約者(推し)、アルス・ヴァン・クロムウェル様である。
「……リリアーヌ。セシルが疲れている。そのくらいにしておけ」
アルス様が冷たく口を挟むが、リリアーヌ様は全く動じない。
「あら、アルス様。そんなこと言って、さっきからセシル様が着替えるたびに、視線がどっかに飛んでいって、耳の先が真っ赤になってますけど? もしかして、自分以外の奴にセシル様を見せるのが、今から耐えられないのかしら?」
「…………。……当然だ」
(((アルス様、即答した!?)))
アルス様は俺の側に歩み寄ると、仕立屋たちの手から奪い取るようにして、俺の腰を抱き寄せた。
彼の手が、俺の細いウエストをなぞり、そこに刻まれた「彼の色」を誇示するように強く力を込める。
「……セシル。この衣装は、俺以外の前で着るな」
アルス様が指し示したのは、背中が大きく開き、薄いレースがあしらわれた、退廃的な美しさを持つ夜会用の礼服だった。
「えっ、でもこれ、リリアーヌ様が二次会用だって……」
「ダメだ。こんなに無防備なお前を、他の男たちに見せるわけにはいかない。……この服を着たお前を愛でていいのは、俺だけだ」
アルス様の独占欲が、ついに「公共の場」を拒否し始めた。
仕立屋たちが「ひゃあ……!」と声を上げ、リリアーヌ様は背後で尊死のポーズを決めている。
「アルス様、あの、ここ職場(?)ですよ……」
「関係ない。俺は騎士団長である前に、お前の番だ」
アルス様は俺の項に顔を埋め、周囲の視線を遮るように大きなマントで俺を包み込んだ。
狭いマントの中で、彼の香りと体温が俺を支配する。
外の喧騒が遠のき、二人だけの濃厚な時間が流れる。
「……セシル。早く、お前を俺だけの領地へ連れ去りたい。この豪華な式が終わったら、もう誰にも、一瞬たりともお前を渡さない」
アルス様の囁きは、甘い誓いというよりは、逃げ場のない「監禁宣言」に近かった。
だが、元オタクの俺にとって、それは最高の福利厚生(ご褒美)でしかない。
「……はい、アルス様。僕も、あなたの腕の中以外、居場所なんていりません」
俺が彼の胸に顔を埋めて答えると、アルス様は満足げに、そして深く俺に口づけをした。
リリアーヌ様が「よし、今のシーン、バッチリ脳内記憶(メモリ)に保存したわ! 明日の新聞のネタに……嘘よ、アルス様、剣を収めて!」と叫んでいるのが聞こえたが、俺たちはしばらくの間、その幸福な檻(マント)の中から出ようとはしなかった。
破滅フラグをバキバキに折った先にあったのは、推しからの「永久束縛」という名の、底なしの愛だったのだ。
王宮の一室。リリアーヌ様の雄叫びが響き渡る。
目の前には、十数名の宮廷仕立屋が控え、部屋中が最高級のシルクや宝石、レースで溢れかえっていた。
国王陛下から「国を挙げた婚儀」を命じられてから三日。
俺、セシルは現在、リリアーヌ様という名の「プロの壁(自称)」による徹底的なコーディネート攻勢に晒されていた。
「リリアーヌ様、いくらなんでも着替えすぎです……。もう僕、自分が人間なのかマネキンなのか分からなくなってきました」
「何を言ってるのセシル様! これは『アルス×セシル』という究極の神作品の、最初で最後の(いや毎日でもいいけど)公式披露宴なのよ! 完璧を求めなくてどうするの!」
リリアーヌ様は鼻息荒く、次々と新しい衣装を俺に押し付けてくる。
そんな喧騒の中、壁際で腕を組んで俺を眺めている男が一人。
我が婚約者(推し)、アルス・ヴァン・クロムウェル様である。
「……リリアーヌ。セシルが疲れている。そのくらいにしておけ」
アルス様が冷たく口を挟むが、リリアーヌ様は全く動じない。
「あら、アルス様。そんなこと言って、さっきからセシル様が着替えるたびに、視線がどっかに飛んでいって、耳の先が真っ赤になってますけど? もしかして、自分以外の奴にセシル様を見せるのが、今から耐えられないのかしら?」
「…………。……当然だ」
(((アルス様、即答した!?)))
アルス様は俺の側に歩み寄ると、仕立屋たちの手から奪い取るようにして、俺の腰を抱き寄せた。
彼の手が、俺の細いウエストをなぞり、そこに刻まれた「彼の色」を誇示するように強く力を込める。
「……セシル。この衣装は、俺以外の前で着るな」
アルス様が指し示したのは、背中が大きく開き、薄いレースがあしらわれた、退廃的な美しさを持つ夜会用の礼服だった。
「えっ、でもこれ、リリアーヌ様が二次会用だって……」
「ダメだ。こんなに無防備なお前を、他の男たちに見せるわけにはいかない。……この服を着たお前を愛でていいのは、俺だけだ」
アルス様の独占欲が、ついに「公共の場」を拒否し始めた。
仕立屋たちが「ひゃあ……!」と声を上げ、リリアーヌ様は背後で尊死のポーズを決めている。
「アルス様、あの、ここ職場(?)ですよ……」
「関係ない。俺は騎士団長である前に、お前の番だ」
アルス様は俺の項に顔を埋め、周囲の視線を遮るように大きなマントで俺を包み込んだ。
狭いマントの中で、彼の香りと体温が俺を支配する。
外の喧騒が遠のき、二人だけの濃厚な時間が流れる。
「……セシル。早く、お前を俺だけの領地へ連れ去りたい。この豪華な式が終わったら、もう誰にも、一瞬たりともお前を渡さない」
アルス様の囁きは、甘い誓いというよりは、逃げ場のない「監禁宣言」に近かった。
だが、元オタクの俺にとって、それは最高の福利厚生(ご褒美)でしかない。
「……はい、アルス様。僕も、あなたの腕の中以外、居場所なんていりません」
俺が彼の胸に顔を埋めて答えると、アルス様は満足げに、そして深く俺に口づけをした。
リリアーヌ様が「よし、今のシーン、バッチリ脳内記憶(メモリ)に保存したわ! 明日の新聞のネタに……嘘よ、アルス様、剣を収めて!」と叫んでいるのが聞こえたが、俺たちはしばらくの間、その幸福な檻(マント)の中から出ようとはしなかった。
破滅フラグをバキバキに折った先にあったのは、推しからの「永久束縛」という名の、底なしの愛だったのだ。
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