「呪いを解くには毎日可愛いと言ってください」と嘘をついたら、氷の聖騎士様が本気で口説きにかかってきました

たら昆布

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14話

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 白銀の花火が夜明けの空を塗り替えるように弾け、その残光が雪のような微粒子となって訓練場に降り注いでいく。
 ニルスはギデオンの胸板に顔を埋めたまま、心臓が耳のすぐ横で警鐘を鳴らす音を聞いていた。鼻腔をくすぐるのは、ギデオンの纏う冷徹な雪の気配と、それとは正反対の熱を帯びた、ニルス自身の魔力が発する甘酸っぱいベリーの香りだ。

「……ギデオン様、あの、もう離して、ください」

 ニルスの掠れた声に反応するように、彼の背中からポワポワと小さな光の綿毛が噴き出し、ギデオンの銀髪に吸い寄せられるように絡みついていく。
 ところが、ギデオンはニルスを離そうとはしなかった。いや、正確には「どう離せばいいのか、そもそも離すべきなのか」という初歩的な判断すらつかない様子で、その逞しい腕は岩のように硬直している。

 そんな彼の戸惑いに追い打ちをかけるように、カスパールは紫の蝶を杖の先で弄びながら、意地の悪い笑みを深めて一歩前へ踏み出した。

「ギデオン閣下。救命という美しい看板を掲げてはいるが、本音を言えば、あなたは彼を可愛いと愛でることに、もう無自覚なまま中毒症状を起こしているんじゃないかな?」

「……中毒症状、だと?」

 ギデオンの喉が小さく動いた。カスパールはさらに畳みかける。

「そうさ。彼を称賛し、それによって彼がキラキラと輝く反応を見る……その悦楽に、あなたはどっぷりと浸かっている。救命という免罪符を盾にして、その実、この少年を自分だけのものとして私物化したいだけだろう?……違うかな?」

 カスパールの言葉は、鋭い針のようにギデオンの強固な論理性の壁を突き刺した。
 中毒。私物化。それらの単語が、ギデオンの脳内で嵐のように吹き荒れる。もし、自分が任務という名目でこの少年の自由を奪い、自分だけの輝きとして囲い込んでいるのだとしたら。真面目すぎるがゆえに、彼はその可能性を真正面から受け止めてしまい、かつてないほどの自己嫌悪と混乱に陥っていた。

「任務、ではないというのか。私はただ、彼の命を守るために……いや、だが。確かに、彼が他の誰かに触れられるのを想像しただけで、剣を抜きたくなるような……。これは、騎士としての守護本能ではないのか?」

「おやおや。王国最強の聖騎士様が、恋のイロハも知らずに自分の感情の正体に怯えているね。実に愉快だ」

 カスパールが愉悦に浸りながら肩を揺らす横で、ずっと事態を見守っていたユリアンが、痺れを切らしたように大声を上げた。

「おい!ギデオン、お前何を変な顔して悩んでやがんだ!任務だろうが私欲だろうが、そんなの後の祭りだろ!おい小僧、お前もそんなにキラキラ撒き散らしてないで、少しはこいつを解放してやれ!」

 ユリアンが赤髪を逆立て、ニルスの腕を掴んで引き離そうと豪快に腕を伸ばす。
 すると、その瞬間に訓練場の温度が瞬時にマイナスまで急降下した。

 ギデオンの瑠璃色の瞳が、かつてないほど鋭い、しかしどこか必死な光を帯びてユリアンを射抜く。
 彼はニルスの腰を強く引き寄せ、大切な宝物を隠すような、不器用で必死な所作で彼を完全に背後に隠した。

「ユリアン……その手を引け。これ以上彼に触れることは、私が許さん。いや、許したくないのだ」

「あぁ?なんだその目は。救命任務じゃねえのかよ?」

「……分からん。もはや、これが任務なのか、私の我儘なのかも判断がつかない。だが、一つだけ確かなことがある」

 ギデオンは低く、震えるような声で断定した。
 彼の銀髪が冷気に揺れ、そこから氷の結晶が舞い落ちる。しかし、彼の掌だけは、ニルスの肌を焼くほどの熱を保っていた。

「カスパールの言う通りかもしれん。私は、君の放つこの煩わしいほどの輝きを、誰の目にも触れさせたくないと思っている。……この光が、私の言葉だけに反応し、私の腕の中でだけ咲き誇ればいいと……そう願っている自分を、もう欺くことはできん」

「ギデオン、様……?あの、俺のローブが凍り始めてます」

「ニルス、これは救命……いや、救命に名を借りた、私の……その、極めて個人的な独占の申し出だ。君が、私だけの隣で光っていればいいと……そう思ってしまうんだ」

 ドドォォォォォォォンッ!!!!

 ニルスの脳内と訓練場が同時に爆発した。
 羞恥、歓喜、混乱、そして強烈なときめき。それらが混ざり合い、空中に巨大な、そして神々しいまでの白銀の王冠を模した光が現れた。王冠はそのままギデオンとニルスの頭上に静止し、二人を祝福するかのように白光を注ぎ込む。

 ヘンリックは、黄金に変わったアヒルの一つを拾い上げ、その重量感を確認して深く溜息を吐いた。

「閣下。ついに任務という仮面を投げ捨てられましたね。ユリアン殿、早く逃げたほうがいいですよ。今の閣下は、自分が何をしているのか自分でも分かっていない、一番危険な恋愛初心者ですから」

「おいおい!ギデオン、お前マジで顔が真っ赤だぞ!」

 ユリアンが戦慄する中、ギデオンはニルスの耳元に顔を寄せ、凍てつくような、しかし甘い吐息を吹きかけた。

「ニルス。……可愛いぞ。君のこの、戸惑いに満ちた表情も、私の腕の中で逃げ場を失っている姿も……すべてが、私の心をかき乱す。これが呪いというなら、私は一生解かなくても構わない」

 ニルスは、自分の放つキラキラとした公害の中に沈みながら、自分もまた、この生真面目すぎる騎士の不器用な執着に、心地よさを感じ始めていることを認めざるを得なかった。
 嘘から始まった関係は、師匠の意地悪な指摘によって、自覚なき初恋の濁流へと飲み込まれてしまったのである。
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