​「触れると死ぬ」呪われた公爵閣下、死にたがりの俺が触れたら蕩けるような声を出し始めました~解呪の条件は愛の肌重ねだなんて聞いてません!〜

たら昆布

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15話

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 会場に流れる音楽が、ゆったりとしたワルツに切り替わる。
 ヴァルター様は騒ぎのことなどもう忘れたかのように、優雅な動作で僕の前に跪き、片手を差し出した。

「……ノア。一曲、付き合ってくれるか」
「えっ……。でも、閣下、みんなが見てますよ……?」
「見せてやればいい。……私が誰を慈しみ、誰を愛でているのかを」

 彼の言葉に、心臓が跳ね上がった。
 僕は震える手で、彼の大きな掌に自分の手を重ねた。
 ヴァルター様の右手が僕の腰に添えられ、ぐい、と引き寄せられる。

 お城の広間で練習したときよりも、ずっと近い。
 彼の体温、お香の香り、そして僕が吸い取っている呪いの微かな疼き。
 すべてが混ざり合って、意識が朦朧としてくる。

 三拍子のリズムに合わせて、僕たちは踊り始めた。
 ヴァルター様のリードは完璧だった。
 僕がステップを間違えそうになっても、彼は優しく、それでいて力強く僕を支え、導いてくれる。

(……ああ。なんだか、二人きりみたいだ)

 周囲の煌びやかな景色が、回る視界の中で溶けていく。
 そこにいるのは、不気味な呪いを宿した公爵でも、死にたがりの少年でもなかった。
 ただ、お互いの温もりを求め合う、二人の孤独な魂だった。

「……上手くなったな、ノア」
 耳元で囁かれた声に、僕は顔を上げた。
 ヴァルター様は、僕が今まで見たこともないような、切なげで、愛おしそうな目で僕を見つめていた。

「ヴァルター様……。僕、幸せです。……ここに売られてきて、本当によかった」
「…………馬鹿者が。そんなことを言うのは、世界中でお前だけだ」

 ヴァルター様は苦笑し、僕の手を握る力を強めた。
 その瞬間、彼の中に残っていた呪いの残滓が、一気に僕の中へと流れ込んできた。
 けれど、それは苦痛ではなかった。
 彼がこれまで一人で耐えてきた孤独の重さを、僕も一緒に背負っているような……そんな、甘く重厚な繋がりだった。

 音楽が終わり、僕たちは深いお辞儀を交わした。
 会場からは、拍手も囁き声も聞こえなかった。
 ただ、圧倒的な美しさと熱量を見せつけられた貴族たちが、呆然と僕たちを見守っていた。

 帰り道の馬車の中、僕はヴァルター様の腕の中で眠りについてしまった。
 彼が僕の額に、羽が触れるような優しいキスを落としたことにも気づかずに。
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