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第2話:理の欠片 ── 生存への【ファースト・プロトコル】
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巨獣が倒れた後の静寂は、耳の奥が痛くなるほど鋭かった。
さっきまで空気を引き裂いていた雷鳴の残響が、
ゆっくりと草原の風に溶けていく。
僕は膝をついたまま、自分の手を見つめた。
細く、白く、戦いには向かない、入院生活で衰えきった腕。
指先は泥に汚れ、小刻みに震えている。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
肺が焼けるように熱い。
ただ一歩、最適な位置へ動いただけなのに、
心臓は肋骨の裏側を壊さんばかりに暴れていた。
長期入院明けの身体にとって、この世界の重力はあまりに冷酷だ。
けれど、その疲労感すらも “自分が生きている” という
強烈なデータとして脳に流れ込んでくる。
「……助かった……とね?」
震える声に顔を上げると、そこには大人の女性がいた。
幼い子を壊れ物のように抱きしめたまま、救い主への「感謝」と、
正体不明の男への「警戒」が、複雑な色を帯びて混ざり合っている。
「……ひとまずは、撃退できましたね……」
僕は視線を横にやった。
サイの雷撃に巻き込まれたのか、あるいは統率を失ったのか、
巨大な魚の残骸が何匹も川にぷかぷか浮かんでいる。
その光景を、脳が“構造データ”として処理し始める。
(状況分析:敵対勢力の沈黙を確認。生存者2名。
僕の残り体力はかなり低下。休息が最優先だな)
「おにーちゃん……ガタガタしてるよ?だいじょうぶ?」
幼い少女が、母親の腕から抜け出して
僕の入院着の裾をそっと掴んだ。
小さな手の温もりが、夜露で冷え切った僕の指先に伝わる。
「あはは……。
ちょっと、長いこと寝ていたからね。
外を歩くのは……久しぶりなんだ」
無理に笑ってみせたが、足裏の痛みがそれを引き攣らせた。
裸足のまま草原を駆けた代償は、小さな刺し傷と、
じわじわ滲む血となって現れている。
「いたいの……?
しのんが、ふーってしてあげる!」
少女は僕の足元にしゃがみ込み、一生懸命に息を吹きかけた。
その純粋な行動に、母親と思われる女性の強張っていた表情が、
ほんの少しだけ和らぐ。
「すみません……。うちは小野寺 美園(おのでら みその)と言います。
この子は、小野寺 しのん」
「僕は、 春原 春斗(すのはら はると)です。
改めて、よろしくお願いします」
自己紹介を交わしたところで、僕は倒れた『雷角サイ』の残骸に歩み寄った。
正確には、折れて岩肌に突き刺さった、あの青白く光る“角”にだ。
「美園さん。もし余裕があれば、これを包めるような丈夫な
絶縁体っぽい素材は何か持っていませんか?」
「えっ? そげん危なかもの……」
「これは、ただの角じゃありません。大切な『道具』になります」
「包めそうなもんは持っとらんとですよ」
僕は周囲を見渡し、鋭い鋸歯(きょし)を
持つ大きな葉をつけた植物を見つけた。
その葉は、まるでセラミックのような硬質な光沢を放っている。
痛む足を引きずりながら近づき、慎重に摘み取る。
葉を指先で折り曲げ、絶縁体としての性質を確認した。
「この葉で角を包めば、電気を絶縁したまま持ち運べる」
そこで言葉を切り、さらに周囲を観察する。
風に揺れる別の植物が目に入った。
幅広でしなりがあり、繊維質の強い葉をつけている。
「……靴に使うなら、こっちの葉だな。柔らかいし、
編めば足を守る“ワラジ”の代わりになる」
美園さんは驚愕したように目を丸くした。
「春斗さんは……ほんとに不思議な人やねぇ。
何ば考えとるとか……」
「生き残るためのパズルを解いているだけですよ」
僕は絶縁体の葉で雷角を包み、慎重に回収した。
そして、柔らかい葉を編み、ツタで固定して簡易的なワラジを作る。
「……よし。これで、少しはマシに歩ける」
立ち上がった僕の背後で、夕闇が草原を飲み込み始めていた。
遠くで、別の魔物の遠吠えが空腹を訴えるように響く。
「行きましょう。夜が来る前に、安全な場所へ。
……僕が、道中の『構造』を読み解きます」
3人の歩みはぎこちない。
けれど、お互いに名を呼べるだけで、
さっきより少しだけ前に進める気がした。
さっきまで空気を引き裂いていた雷鳴の残響が、
ゆっくりと草原の風に溶けていく。
僕は膝をついたまま、自分の手を見つめた。
細く、白く、戦いには向かない、入院生活で衰えきった腕。
指先は泥に汚れ、小刻みに震えている。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
肺が焼けるように熱い。
ただ一歩、最適な位置へ動いただけなのに、
心臓は肋骨の裏側を壊さんばかりに暴れていた。
長期入院明けの身体にとって、この世界の重力はあまりに冷酷だ。
けれど、その疲労感すらも “自分が生きている” という
強烈なデータとして脳に流れ込んでくる。
「……助かった……とね?」
震える声に顔を上げると、そこには大人の女性がいた。
幼い子を壊れ物のように抱きしめたまま、救い主への「感謝」と、
正体不明の男への「警戒」が、複雑な色を帯びて混ざり合っている。
「……ひとまずは、撃退できましたね……」
僕は視線を横にやった。
サイの雷撃に巻き込まれたのか、あるいは統率を失ったのか、
巨大な魚の残骸が何匹も川にぷかぷか浮かんでいる。
その光景を、脳が“構造データ”として処理し始める。
(状況分析:敵対勢力の沈黙を確認。生存者2名。
僕の残り体力はかなり低下。休息が最優先だな)
「おにーちゃん……ガタガタしてるよ?だいじょうぶ?」
幼い少女が、母親の腕から抜け出して
僕の入院着の裾をそっと掴んだ。
小さな手の温もりが、夜露で冷え切った僕の指先に伝わる。
「あはは……。
ちょっと、長いこと寝ていたからね。
外を歩くのは……久しぶりなんだ」
無理に笑ってみせたが、足裏の痛みがそれを引き攣らせた。
裸足のまま草原を駆けた代償は、小さな刺し傷と、
じわじわ滲む血となって現れている。
「いたいの……?
しのんが、ふーってしてあげる!」
少女は僕の足元にしゃがみ込み、一生懸命に息を吹きかけた。
その純粋な行動に、母親と思われる女性の強張っていた表情が、
ほんの少しだけ和らぐ。
「すみません……。うちは小野寺 美園(おのでら みその)と言います。
この子は、小野寺 しのん」
「僕は、 春原 春斗(すのはら はると)です。
改めて、よろしくお願いします」
自己紹介を交わしたところで、僕は倒れた『雷角サイ』の残骸に歩み寄った。
正確には、折れて岩肌に突き刺さった、あの青白く光る“角”にだ。
「美園さん。もし余裕があれば、これを包めるような丈夫な
絶縁体っぽい素材は何か持っていませんか?」
「えっ? そげん危なかもの……」
「これは、ただの角じゃありません。大切な『道具』になります」
「包めそうなもんは持っとらんとですよ」
僕は周囲を見渡し、鋭い鋸歯(きょし)を
持つ大きな葉をつけた植物を見つけた。
その葉は、まるでセラミックのような硬質な光沢を放っている。
痛む足を引きずりながら近づき、慎重に摘み取る。
葉を指先で折り曲げ、絶縁体としての性質を確認した。
「この葉で角を包めば、電気を絶縁したまま持ち運べる」
そこで言葉を切り、さらに周囲を観察する。
風に揺れる別の植物が目に入った。
幅広でしなりがあり、繊維質の強い葉をつけている。
「……靴に使うなら、こっちの葉だな。柔らかいし、
編めば足を守る“ワラジ”の代わりになる」
美園さんは驚愕したように目を丸くした。
「春斗さんは……ほんとに不思議な人やねぇ。
何ば考えとるとか……」
「生き残るためのパズルを解いているだけですよ」
僕は絶縁体の葉で雷角を包み、慎重に回収した。
そして、柔らかい葉を編み、ツタで固定して簡易的なワラジを作る。
「……よし。これで、少しはマシに歩ける」
立ち上がった僕の背後で、夕闇が草原を飲み込み始めていた。
遠くで、別の魔物の遠吠えが空腹を訴えるように響く。
「行きましょう。夜が来る前に、安全な場所へ。
……僕が、道中の『構造』を読み解きます」
3人の歩みはぎこちない。
けれど、お互いに名を呼べるだけで、
さっきより少しだけ前に進める気がした。
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