『OS理論で異世界攻略記』~寝たきりだったぼくが、世界の仕組みを読み解いて“人生を再起動”した件 ~

ゐみ・ティルダ・アマリン。

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第3話:降り注ぐ影 ── 絶体絶命を罠に変える【ハック】

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 森の境界線は、草原とはまるで違う『重圧』を僕たちに突きつけていた。

 巨木が折り重なり、空を覆い隠すように枝を伸ばしている。
 わずかに差し込む木漏れ日が、足元の奇妙なキノコや、
 淡く光る苔を不気味に照らしていた。

「おにーちゃん、みてみて! きらきらしてる!」

 しのんが見せてきたのは、現実世界ではどこにでもある
 プラスチック製の玩具──『星の杖』。

 どこかで見覚えのある形状だ。
 転移前の5歳の頃に、しのんは魔法少女アニメに夢中で、
 その主人公が使っていた杖にそっくりなこの玩具を、
 誕生日にねだって買ってもらったという。
 今は6歳になったが、彼女はその杖を傷つけないように
 両手でそっと包み込むように持っていて、
 どうやら“宝物”であることに変わりはないらしい。

 その安っぽいメッキ塗装が、木漏れ日を反射して
 鋭い光点を森の奥へと飛ばした。

 その瞬間。

 上空の空気が、生き物のように「鳴った」。
 ピィィィィィィッ!!
 鼓膜を刺すような高周波。

 見上げれば、巨大な翼を広げた影が、
 光の反射を餌と見なしたかのように
 一直線に急降下してくる。

「……っ、鳥型の魔獣!?」

「しのんっ!!」

 美園さんが悲鳴を上げ、反射的に娘を抱きしめた。
 その声は、恐怖でも理性でもなく、ただ“娘を守りたい”という
 本能だけが彼女を突き動かした叫びだった。

「なんばしよっと!早くこっち来んね!!あぶなかろが!!」

 普段の落ち着いた口調が跡形もなく崩れ落ちている。
 それだけ、目の前の危機が彼女の心を揺さぶっていた。

 けれど、逃げ場はない。
 巨鳥の爪は、あと数秒で二人の無防備な背中を引き裂くだろう。

(思考加速モード──全開)

 視界が一瞬で色彩を失い、モノクロの「構造線」へと切り替わる。

 敵の速度:時速80キロ。
 軌道:直線的。
 周囲の環境:粘着質の樹液を出すツタが密集するエリア。

(敵の軌道を“意図した罠”へと誘導する)

「2人とも伏せて!!そのまま、あのツタの茂みへ滑り込んで!」

 僕は叫びながら、背負っていた「雷角」の包みを解いた。
 自分も地面を泥だらけになりながら転がり、
 巨鳥の突進ルートを微調整するように身体を囮にする。

 バキバキバキッ!!

 巨鳥が森の静寂を粉砕しながら突っ込んできた。
 しかし、その翼が広すぎた。

 狙いを定めた獲物を逃すまいと広げた巨大な翼が、
 僕の誘導した通り、粘着質のツタに複雑に絡みついたのだ。

「ギィィィッ!? ガッ……ガァッ!!」

 鳥が狂ったように暴れる。
 けれど、引けば引くほど、強靭なツタの網は
 その身体をより深く締め上げていく。

 物理的な拘束。
 この世界の“構造”が持つ“摩擦”と“粘性”を利用した、
 単純明快なトラップ。

「今だ……!」

 僕は、絶縁体の葉で守られた“雷角”の根本を、
 震える両手で握りしめた。
 ──そこにはまだ、大放電の残滓が
 不安定な電圧として蓄積されている。

 至近距離まで肉薄し、剥き出しになった先端を、
 身動きの取れない巨鳥の「眼」へと突き立てた。

 バリバリバリィィィッ!!

「ギャアアアアアアアアッ!!」

 残留していた電位が一気に放出され、
 巨鳥の脳を内側から焼き切った。
 激しい閃光が森を白く染め、次の瞬間には、
 巨大な肉の塊が重苦しい音を立てて絶命した。

 衝撃で鳥が抱えていた「草原の果実」が周囲に散らばる。

「……はぁ……はぁ……。一石二鳥、ですね」

 僕は震える腕を下ろし、転がってきた果実の一つを拾い上げた。
 本来なら人の手では届かないほど高い枝に実る種類の果実。

 僕はまず匂いを嗅ぐ。甘い香り。
 次に指の関節で軽く叩くと、乾いた良い音が返ってきた。

(パッチテストは必要だが、おそらく食料になる。
 ……それに、空になった殻は皿の代わりにも使える)

「……ごめんなさい……しのんのせいで……」

 しのんは美園さんの胸に顔を埋め、
「ひっ……ひっ……」と小さくしゃくり上げながら
 泣きじゃくっていた。

 僕はそっとその頭を撫でた。

 巨鳥の死体から、ひときわ美しい『青い飾羽』を、
 硬質な葉を刃物代わりに使い、何度も手元を
 調整しながらようやく切り出した。

「大丈夫。これはしのんちゃんが“反射させた光”が
 きっかけで手に入った宝物だよ。ほら、綺麗だろ?」

 しのんの瞳に、涙混じりの小さな驚きが宿る。

 僕は残りの素材を迅速に回収した。
 水を弾く羽、ナイフの素材になりそうな軽量で
 強靭な嘴(くちばし)、そして当面の食料となる果実。

「美園さん、荷物を分担しましょう。この鳥の嘴、
 軽いのに強度があって……武器の素材に使えそうなんです」

「……はい。春斗さん……ほんとに、あんたっち人は……」

 美園さんは、感謝と関心と驚き、そして少しの呆れが
 混ざった苦笑いを浮かべながら、
 僕の持っていた雷角の包みを、
 今度は自分から進んで預かってくれた。

 その表情には、僕への“根源的な警戒”はもうなく、
 代わりに「この人と共に生きる」という静かな覚悟の光が宿っていた。

「……行きましょう。この血の匂いに、
 他の危険な魔物っぽい動物が寄ってくる前に」

 僕たちは、一歩ずつ森の深部へと歩みを進めた。
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