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第13話:崩れゆく日常 ── 女王アリの襲撃と【魅了エラー】
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森の中を走り続けて数分。
呼吸も足運びも落ち着き、視界が少しだけ広がった。
そのときだった。
腰のあたりで揺れた装備の黒石が、朝の光を受けて、
かすかにきらりと光った。
(……あ……そうだ……)
ほんの一瞬、意識がそこに吸い寄せられる。
黒石のざらついた手触り。樹液の粘り。きらりの反応。
美園としのんの笑い声。
全部がひとつの線で繋がるように──記憶が静かに浮かび上がった。
◇◇◇
3人はきらりの働きに唖然とし、その可愛さに思わず笑ってしまった。
そのあと、美園としのんが休憩している間。
きらりが2人のそばで見守っている間。
春斗は、少し離れた場所でひとり静かに作業をしていた。
しゃり……しゃり……。
黒石を細かく砕き、粉にする。
光を吸い込むように黒く沈むその粉は、
まものが本能的に嫌う“魔物避け”の地質だ。
(……これを使えば、少しは安全になる)
昨日見つけた透明な粘着質の樹液を指先で確かめる。
空気に触れると“数秒で”硬化する、不思議な植物の樹液。
黒石粉と樹液。
この2つを組み合わせれば──武器にも、罠にも、護身にもなる。
春斗は静かに頷き、自分の装備一式に
黒石粉を薄くコーティングし始めた。
きらりが遠くからこちらを見て、
黒石の匂いにピクッと反応しながらも、
“春斗がやるなら許す”というように蔦を揺らした。
(……この黒石が、誰かを守る力になりますように)
そう願いながら、春斗は最後の装備に黒石粉を塗り終えた。
──この準備が、数日後に“命を救う伏線”になることを、
この時の誰も知らなかった。
(……あの時の準備が……今、必要になる)
春斗は息を整え、土煙の上がる方向へと走り続けた。
◇◇◇
翌朝。
大学生グループの6人は、昨日と同じ場所に集まっていた。
「……土煙、まだ上がってるね」
ミリアが空を見上げる。
「色が濃い。範囲も広がっているね。
Logically…(論理的に言うと…) 自然現象とは考えにくい」
イーサンが眉を寄せる。
「Ay…(やだ…) なんか……イヤな感じ……」
リナがミリアの袖を握る。
ヨハンは黙って地平線を見つめ、小さく呟いた。
「Skugga…(影…) 揺れ方……違う……」
サラが短く息を吸う。
「偵察に行く。Johan、同行して」
「Vänta…(了解…)」
ヨハンとサラは影に紛れるように森へ消えた。
しばらくして──戻ってきたサラの顔は険しかった。
「報告。大群がこっちに向かっている。
今までの撤退戦の規模を、完全に超えているわ」
ヨハンも短く言葉を継ぐ。
「……数……桁違い……Fara…(危険…)」
「Damn…(くそ…) マジかよ……」
アレックスが奥歯を噛みしめる。
「Hala…(どうしよう…) そんな……」
リナが顔を強張らせる。
ミリアは喉を鳴らし、それでも言葉を絞り出した。
「……それでも……逃げるしか……ない……」
その瞬間だった。
──地面が、鳴った。
ごぉ……ん……
ごぉぉぉ……ん……
森の奥から、低い振動が迫ってくる。
「……影、揺れてる。軌道……全部こっち……Nej…(だめ…)」
ヨハンの声が震えた。
「D-4。敵増援接近。全員、即応戦配置につきなさい」
サラが短く告げる。
木々の間から、黒い波が押し寄せた。
魔物の大群。甲殻。羽音。毒針。巨大な顎。
そして、その中心に──巨大な女王アリ。
触角から紫がかった霧が広がり、空気がねっとりと重くなる。
「Ay…!(やだ…!) なんか……気持ち悪い……!」
リナが震える。
ミリアは喉を震わせながらも叫んだ。
「みんな……罠の位置に……ついて……!」
◇◇◇
半年間逃げ続けながら培った罠が次々と発動する。
落とし穴。倒木トラップ。石落とし。
影を利用した簡易トラップ。地形誘導。視界妨害。
だが──敵の数が違った。
ドォォォォン!!
拠点奥の“最後の罠”が、意図しないタイミングで暴発した。
巨大な倒木が連鎖的に崩れ、女王アリの頭上へ落ちていく。
「……っ!?」
「効いた……!?」
「いける……?」
一瞬だけ、大群が後退した。
6人の胸に、かすかな希望が灯る。
◇◇◇
◆ 第2波──“真の絶望”
だが――その希望は、次の瞬間、音を立てて砕け散った。
地面が割れた。
森の奥から、さらに巨大な影が押し寄せてくる。
倒木の残骸を踏み潰し、罠の残りを粉々にしながら、
第2波の大群が迫ってきた。
「……うそ……でしょ……?」
ミリアの声が震える。
「……増えてる……。罠で倒した数より……来てる数の方が多い……。
This is… logistically impossible…(これは…論理的に不可能…)
これ……詰んでる……」
サラが呟く。
「……計算が……合わない……。
逃げ切れる確率……ゼロ……。
こんなの……無理だ……」
イーサンの膝が崩れる。
「Damn…!くそっ……!
俺……守れねぇ……。ミリア……ごめん……!」
アレックスが拳を震わせる。
「Ay…!(やだ…!) もうイヤ……。
誰か……誰か助けて……。でも……誰も来ない……!」
リナが泣き叫ぶ。
ヨハンは影を見て、静かに言った。
「……影が……全部……黒い……。
逃げ道……ない……。Slut…(終わり…)」
半年間、誰にも助けられなかった記憶が蘇る。
「……今日も……誰も……来ない……」
◆ 魅了──“絶望の底”
その時だった。
紫の霧が濃くなった。
女王アリの触角が震え、霧が一気に拡散する。
アレックスの瞳が揺れる。
「……あ……?」
イーサンの焦点が合わなくなる。
ヨハンの呼吸が荒くなる。
「Ethan!? しっかりして!!」
ミリアが叫ぶ。
だが、遅かった。
男性陣の理性が、完全に奪われた。
アレックスは目の焦点が合わないまま、
ミリアへ向かって全力で腕を振り下ろした。
イーサンはリナを押し倒そうと手を伸ばす。
ヨハンはサラの腕を掴み、引き寄せようとする。
彼らの口からは、何ひとつ言葉は出ない。
荒い呼吸音だけが、別人のように響く。
「Nein…!(やめて…!) お願い……戻って……!」
ミリアが涙声で叫ぶ。
「Ay!Ay!Ay…!(やだ!やだ!やだ…!)
Ethan、やめてよ……。Tulong…!(助けて…!)」
リナが後ずさる。
「Stop…!(止まりなさい…!)
Johan…お願い……正気に戻りなさい……!」
サラが震える。
ミリアの膝が崩れた。
「……誰か……。誰でもいい……。
Bitte…!(お願い…!) 助けて……」
◇◇◇
◆ 春斗、参戦──影を裂く“光”
その祈りが、森の奥の静寂に吸い込まれた――その瞬間。
――風が、変わった。
木々の影が揺れ、落ち葉がふわりと舞い上がる。
息を呑んだのは、まだ正気を保っている女性3人だけだった。
男性陣は魅了の霧に囚われ、春斗の登場にすら気づかない。
森の奥から、ひとりの少年が飛び出してきた。
春斗。
土埃にまみれ、息を切らしながらも、
その瞳だけはまっすぐに前を見据えていた。
「……誰……?」
ミリアが小さく呟く。
「Ay…(誰か…) 来た……?」
リナが声を震わせる。
サラは息を整え、短く判断する。
「識別不能。But…(しかし…)
あの動き、少なくとも“敵の殺意”ではない」
◆ 理解OSの“初動”──状況をひっくり返す
春斗は状況を一瞬で把握した。
【観察】
・女性陣:追い詰められている
・男性陣:正気を失っている
・女王アリ:触角の動きが異常に活発
・地形:倒木の残骸が足場になる
・大群:異様に多い
(……間に合った。ここからは、僕がやるしかない)
◆ 弱点刺突──“黒石の反応を確認する”
女王アリが倒木の音に反応し、一瞬だけ注意をそらした。
その“隙”を見逃さず、春斗は踏み込んだ。
「……っ!」
ガキィィィィン!!
甲殻に弾かれた。
だが――その瞬間。
嘴の根元に塗った黒石粉だけが、
女王アリの甲殻に“焼けるような反応”を起こした。
「ギィィィィィィ!!」
触角が暴れ、女王アリが明確に“嫌がる”そぶりを見せる。
春斗の理解OSが高速で結論を出す。
【検証結果】
黒石は確実に効く。
ならば、次の一手は――
◆ 粘着黒石──“嫌がらせの一撃”
女王アリが顔をフルフルと振り、ほんの一瞬、視界が乱れた。
(……今だ)
春斗は武器を放り投げた。
「えっ……武器、捨てた……!?」
ミリアが思わず声を上げる。
「Why now…!?(なぜ今…!?)
その判断、リスクが高すぎる……!」
サラが叫ぶ。
走りながら、春斗は腰の袋から黒石の塊を取り出す。
同時に、遺品の小瓶に入れておいた粘着樹液を開ける。
(……この樹液は空気に触れて“数秒で”硬化する。
でも――女王アリが口を開いている時間は、1秒もない)
走りながら、黒石に樹液をぱぱっと塗り込む。
樹液が薄い膜を作り、黒石の表面が鈍く光った。
女王アリが触角を震わせ、フェロモンを
噴き出すために口を大きく開く。
(……来た)
春斗は倒木を蹴って跳び、
粘着黒石を口内上部へ叩き込んだ。
べちゃッ。
樹液が空気に触れた瞬間から硬化を始め、
数秒以内に黒石が口内に完全に貼り付く。
「ギィィィィィィィィ!!」
女王アリは狂ったように頭を振り、触角を暴れさせ、
フェロモンの制御が完全に乱れた。
◆ 大群の統制崩壊──混乱と指示
春斗はすぐに次の袋を開く。
黒石粉塵。
走りながら、大群へ向けて粉塵を撒き散らす。
黒石の忌避反応と、フェロモンの強制力がぶつかり合い――
大群が大混乱に陥った。
進行方向が乱れ、互いにぶつかり、統制が完全に崩れる。
白く濁った視界の中で、3人は何が起きたのか分からず立ち尽くす。
「え……なに……? 見えない……!」
ミリアが目を細める。
「Ay…!(やだ…!) なにこれ……!」
リナが顔を覆う。
「Situation is… completely altered…
(状況が…完全に変わった…)でも、
まだ判断が追いつかない……」
サラが歯噛みする。
そこで、春斗の声が飛んだ。
「今です!! 敵が怯んでます!! 逃げてください!!」
3人は、その言葉でようやく“意味”を理解する。
「……逃げる……!」
ミリアが息を呑む。
「Ay…!(そうだ…!)」
リナが足を踏み出す。
「退避するわよ! Move…!(動いて!)」
サラが叫ぶ。
◆ 救出──6人、光を見る
男性陣の瞳が揺れ、魅了の霧が薄れていく。
「……ミリア……?」
アレックスが膝をつく。
「Ay…(よかった…) イーサン……!」
リナが泣きながら支える。
「……影……薄くなる……Tack…(ありがとう…)」
ヨハンが息を吐く。
ミリアが震える声で叫ぶ。
「C-3! 退避!! 今しかない!!」
6人は互いを支え合いながら、崩れた拠点の裏手へと走り出した。
◆ 春斗、最後の壁になる──“流れ・癖・リズム”
6人の背中が森の奥へ消えていく。
春斗は深く息を吸い、女王アリと大群の前に立ち続けた。
女王アリはまだ暴れている。
だが、口内に貼り付いた黒石が
フェロモンの流れを完全に狂わせていた。
触角は震え、足はもつれ、大群は統制を失い、
互いにぶつかり合っている。
春斗はその混乱の中で、敵の動きと地形の“流れ”、
個体ごとの“癖”、群れ全体の“リズム”を
ひとつの構造として捉えた。
(……もう少し……6人が十分に離れるまで……)
最小限の動きで回避し続ける。
そして――6人が安全圏に入ったと判断した瞬間。
春斗は静かに後退を始めた。
◆ 森の奥──6人の動揺と“光”
6人はようやく足を止め、荒い息を整えながら振り返った。
ミリアが震える声で言う。
「……誰……だったんだろ……あの人……」
サラは肩で息をしながら呟く。
「……状況を見て……最適解を選んで……。
But…(でも…)私たちのこと、知らないはずなのに……」
イーサンは混濁した意識の中で、必死に論理を組み立てようとする。
「……土煙……あれを見て……来た……?
いや……それでも……速すぎる……。
あの判断……あの動き……。Logically…(論理的に言うと…)
説明がつかない……」
リナは涙を拭いながら、春斗の背中を思い出していた。
「……あったかいひと……だった……。
Ay…(ほんとに…) 助けてくれた……」
アレックスは拳を握りしめる。
「……強ぇ……でも……怖くねぇ……。
なんでだ……あいつ……。Damn…(くそ…)」
ヨハンは静かに言った。
「……影が……揺れなかった……。
あの人……vän…(味方…) だ……」
6人は互いに顔を見合わせた。
半年間、誰にも助けられなかった。
誰も信じられなかった。
だが――今日、初めて。
“光”が現れた。
◆ そして、影の中から
森の奥から、ゆっくりと足音が近づいてくる。
ミリアが息を呑む。
木々の影から現れたのは──土埃にまみれた、ひとりの少年。
春斗だった。
6人の姿を確認した春斗は、ほんの一瞬だけ、
胸を撫で下ろすように息を吐いた。その表情は、
戦いの最中には見せなかった“安堵”そのものだった。
ミリアが震える声で言う。
「……あなた……」
春斗は息を整えながら、ただ静かに言った。
「……無事で、よかった」
その言葉は、6人の胸に深く染み込んだ。
呼吸も足運びも落ち着き、視界が少しだけ広がった。
そのときだった。
腰のあたりで揺れた装備の黒石が、朝の光を受けて、
かすかにきらりと光った。
(……あ……そうだ……)
ほんの一瞬、意識がそこに吸い寄せられる。
黒石のざらついた手触り。樹液の粘り。きらりの反応。
美園としのんの笑い声。
全部がひとつの線で繋がるように──記憶が静かに浮かび上がった。
◇◇◇
3人はきらりの働きに唖然とし、その可愛さに思わず笑ってしまった。
そのあと、美園としのんが休憩している間。
きらりが2人のそばで見守っている間。
春斗は、少し離れた場所でひとり静かに作業をしていた。
しゃり……しゃり……。
黒石を細かく砕き、粉にする。
光を吸い込むように黒く沈むその粉は、
まものが本能的に嫌う“魔物避け”の地質だ。
(……これを使えば、少しは安全になる)
昨日見つけた透明な粘着質の樹液を指先で確かめる。
空気に触れると“数秒で”硬化する、不思議な植物の樹液。
黒石粉と樹液。
この2つを組み合わせれば──武器にも、罠にも、護身にもなる。
春斗は静かに頷き、自分の装備一式に
黒石粉を薄くコーティングし始めた。
きらりが遠くからこちらを見て、
黒石の匂いにピクッと反応しながらも、
“春斗がやるなら許す”というように蔦を揺らした。
(……この黒石が、誰かを守る力になりますように)
そう願いながら、春斗は最後の装備に黒石粉を塗り終えた。
──この準備が、数日後に“命を救う伏線”になることを、
この時の誰も知らなかった。
(……あの時の準備が……今、必要になる)
春斗は息を整え、土煙の上がる方向へと走り続けた。
◇◇◇
翌朝。
大学生グループの6人は、昨日と同じ場所に集まっていた。
「……土煙、まだ上がってるね」
ミリアが空を見上げる。
「色が濃い。範囲も広がっているね。
Logically…(論理的に言うと…) 自然現象とは考えにくい」
イーサンが眉を寄せる。
「Ay…(やだ…) なんか……イヤな感じ……」
リナがミリアの袖を握る。
ヨハンは黙って地平線を見つめ、小さく呟いた。
「Skugga…(影…) 揺れ方……違う……」
サラが短く息を吸う。
「偵察に行く。Johan、同行して」
「Vänta…(了解…)」
ヨハンとサラは影に紛れるように森へ消えた。
しばらくして──戻ってきたサラの顔は険しかった。
「報告。大群がこっちに向かっている。
今までの撤退戦の規模を、完全に超えているわ」
ヨハンも短く言葉を継ぐ。
「……数……桁違い……Fara…(危険…)」
「Damn…(くそ…) マジかよ……」
アレックスが奥歯を噛みしめる。
「Hala…(どうしよう…) そんな……」
リナが顔を強張らせる。
ミリアは喉を鳴らし、それでも言葉を絞り出した。
「……それでも……逃げるしか……ない……」
その瞬間だった。
──地面が、鳴った。
ごぉ……ん……
ごぉぉぉ……ん……
森の奥から、低い振動が迫ってくる。
「……影、揺れてる。軌道……全部こっち……Nej…(だめ…)」
ヨハンの声が震えた。
「D-4。敵増援接近。全員、即応戦配置につきなさい」
サラが短く告げる。
木々の間から、黒い波が押し寄せた。
魔物の大群。甲殻。羽音。毒針。巨大な顎。
そして、その中心に──巨大な女王アリ。
触角から紫がかった霧が広がり、空気がねっとりと重くなる。
「Ay…!(やだ…!) なんか……気持ち悪い……!」
リナが震える。
ミリアは喉を震わせながらも叫んだ。
「みんな……罠の位置に……ついて……!」
◇◇◇
半年間逃げ続けながら培った罠が次々と発動する。
落とし穴。倒木トラップ。石落とし。
影を利用した簡易トラップ。地形誘導。視界妨害。
だが──敵の数が違った。
ドォォォォン!!
拠点奥の“最後の罠”が、意図しないタイミングで暴発した。
巨大な倒木が連鎖的に崩れ、女王アリの頭上へ落ちていく。
「……っ!?」
「効いた……!?」
「いける……?」
一瞬だけ、大群が後退した。
6人の胸に、かすかな希望が灯る。
◇◇◇
◆ 第2波──“真の絶望”
だが――その希望は、次の瞬間、音を立てて砕け散った。
地面が割れた。
森の奥から、さらに巨大な影が押し寄せてくる。
倒木の残骸を踏み潰し、罠の残りを粉々にしながら、
第2波の大群が迫ってきた。
「……うそ……でしょ……?」
ミリアの声が震える。
「……増えてる……。罠で倒した数より……来てる数の方が多い……。
This is… logistically impossible…(これは…論理的に不可能…)
これ……詰んでる……」
サラが呟く。
「……計算が……合わない……。
逃げ切れる確率……ゼロ……。
こんなの……無理だ……」
イーサンの膝が崩れる。
「Damn…!くそっ……!
俺……守れねぇ……。ミリア……ごめん……!」
アレックスが拳を震わせる。
「Ay…!(やだ…!) もうイヤ……。
誰か……誰か助けて……。でも……誰も来ない……!」
リナが泣き叫ぶ。
ヨハンは影を見て、静かに言った。
「……影が……全部……黒い……。
逃げ道……ない……。Slut…(終わり…)」
半年間、誰にも助けられなかった記憶が蘇る。
「……今日も……誰も……来ない……」
◆ 魅了──“絶望の底”
その時だった。
紫の霧が濃くなった。
女王アリの触角が震え、霧が一気に拡散する。
アレックスの瞳が揺れる。
「……あ……?」
イーサンの焦点が合わなくなる。
ヨハンの呼吸が荒くなる。
「Ethan!? しっかりして!!」
ミリアが叫ぶ。
だが、遅かった。
男性陣の理性が、完全に奪われた。
アレックスは目の焦点が合わないまま、
ミリアへ向かって全力で腕を振り下ろした。
イーサンはリナを押し倒そうと手を伸ばす。
ヨハンはサラの腕を掴み、引き寄せようとする。
彼らの口からは、何ひとつ言葉は出ない。
荒い呼吸音だけが、別人のように響く。
「Nein…!(やめて…!) お願い……戻って……!」
ミリアが涙声で叫ぶ。
「Ay!Ay!Ay…!(やだ!やだ!やだ…!)
Ethan、やめてよ……。Tulong…!(助けて…!)」
リナが後ずさる。
「Stop…!(止まりなさい…!)
Johan…お願い……正気に戻りなさい……!」
サラが震える。
ミリアの膝が崩れた。
「……誰か……。誰でもいい……。
Bitte…!(お願い…!) 助けて……」
◇◇◇
◆ 春斗、参戦──影を裂く“光”
その祈りが、森の奥の静寂に吸い込まれた――その瞬間。
――風が、変わった。
木々の影が揺れ、落ち葉がふわりと舞い上がる。
息を呑んだのは、まだ正気を保っている女性3人だけだった。
男性陣は魅了の霧に囚われ、春斗の登場にすら気づかない。
森の奥から、ひとりの少年が飛び出してきた。
春斗。
土埃にまみれ、息を切らしながらも、
その瞳だけはまっすぐに前を見据えていた。
「……誰……?」
ミリアが小さく呟く。
「Ay…(誰か…) 来た……?」
リナが声を震わせる。
サラは息を整え、短く判断する。
「識別不能。But…(しかし…)
あの動き、少なくとも“敵の殺意”ではない」
◆ 理解OSの“初動”──状況をひっくり返す
春斗は状況を一瞬で把握した。
【観察】
・女性陣:追い詰められている
・男性陣:正気を失っている
・女王アリ:触角の動きが異常に活発
・地形:倒木の残骸が足場になる
・大群:異様に多い
(……間に合った。ここからは、僕がやるしかない)
◆ 弱点刺突──“黒石の反応を確認する”
女王アリが倒木の音に反応し、一瞬だけ注意をそらした。
その“隙”を見逃さず、春斗は踏み込んだ。
「……っ!」
ガキィィィィン!!
甲殻に弾かれた。
だが――その瞬間。
嘴の根元に塗った黒石粉だけが、
女王アリの甲殻に“焼けるような反応”を起こした。
「ギィィィィィィ!!」
触角が暴れ、女王アリが明確に“嫌がる”そぶりを見せる。
春斗の理解OSが高速で結論を出す。
【検証結果】
黒石は確実に効く。
ならば、次の一手は――
◆ 粘着黒石──“嫌がらせの一撃”
女王アリが顔をフルフルと振り、ほんの一瞬、視界が乱れた。
(……今だ)
春斗は武器を放り投げた。
「えっ……武器、捨てた……!?」
ミリアが思わず声を上げる。
「Why now…!?(なぜ今…!?)
その判断、リスクが高すぎる……!」
サラが叫ぶ。
走りながら、春斗は腰の袋から黒石の塊を取り出す。
同時に、遺品の小瓶に入れておいた粘着樹液を開ける。
(……この樹液は空気に触れて“数秒で”硬化する。
でも――女王アリが口を開いている時間は、1秒もない)
走りながら、黒石に樹液をぱぱっと塗り込む。
樹液が薄い膜を作り、黒石の表面が鈍く光った。
女王アリが触角を震わせ、フェロモンを
噴き出すために口を大きく開く。
(……来た)
春斗は倒木を蹴って跳び、
粘着黒石を口内上部へ叩き込んだ。
べちゃッ。
樹液が空気に触れた瞬間から硬化を始め、
数秒以内に黒石が口内に完全に貼り付く。
「ギィィィィィィィィ!!」
女王アリは狂ったように頭を振り、触角を暴れさせ、
フェロモンの制御が完全に乱れた。
◆ 大群の統制崩壊──混乱と指示
春斗はすぐに次の袋を開く。
黒石粉塵。
走りながら、大群へ向けて粉塵を撒き散らす。
黒石の忌避反応と、フェロモンの強制力がぶつかり合い――
大群が大混乱に陥った。
進行方向が乱れ、互いにぶつかり、統制が完全に崩れる。
白く濁った視界の中で、3人は何が起きたのか分からず立ち尽くす。
「え……なに……? 見えない……!」
ミリアが目を細める。
「Ay…!(やだ…!) なにこれ……!」
リナが顔を覆う。
「Situation is… completely altered…
(状況が…完全に変わった…)でも、
まだ判断が追いつかない……」
サラが歯噛みする。
そこで、春斗の声が飛んだ。
「今です!! 敵が怯んでます!! 逃げてください!!」
3人は、その言葉でようやく“意味”を理解する。
「……逃げる……!」
ミリアが息を呑む。
「Ay…!(そうだ…!)」
リナが足を踏み出す。
「退避するわよ! Move…!(動いて!)」
サラが叫ぶ。
◆ 救出──6人、光を見る
男性陣の瞳が揺れ、魅了の霧が薄れていく。
「……ミリア……?」
アレックスが膝をつく。
「Ay…(よかった…) イーサン……!」
リナが泣きながら支える。
「……影……薄くなる……Tack…(ありがとう…)」
ヨハンが息を吐く。
ミリアが震える声で叫ぶ。
「C-3! 退避!! 今しかない!!」
6人は互いを支え合いながら、崩れた拠点の裏手へと走り出した。
◆ 春斗、最後の壁になる──“流れ・癖・リズム”
6人の背中が森の奥へ消えていく。
春斗は深く息を吸い、女王アリと大群の前に立ち続けた。
女王アリはまだ暴れている。
だが、口内に貼り付いた黒石が
フェロモンの流れを完全に狂わせていた。
触角は震え、足はもつれ、大群は統制を失い、
互いにぶつかり合っている。
春斗はその混乱の中で、敵の動きと地形の“流れ”、
個体ごとの“癖”、群れ全体の“リズム”を
ひとつの構造として捉えた。
(……もう少し……6人が十分に離れるまで……)
最小限の動きで回避し続ける。
そして――6人が安全圏に入ったと判断した瞬間。
春斗は静かに後退を始めた。
◆ 森の奥──6人の動揺と“光”
6人はようやく足を止め、荒い息を整えながら振り返った。
ミリアが震える声で言う。
「……誰……だったんだろ……あの人……」
サラは肩で息をしながら呟く。
「……状況を見て……最適解を選んで……。
But…(でも…)私たちのこと、知らないはずなのに……」
イーサンは混濁した意識の中で、必死に論理を組み立てようとする。
「……土煙……あれを見て……来た……?
いや……それでも……速すぎる……。
あの判断……あの動き……。Logically…(論理的に言うと…)
説明がつかない……」
リナは涙を拭いながら、春斗の背中を思い出していた。
「……あったかいひと……だった……。
Ay…(ほんとに…) 助けてくれた……」
アレックスは拳を握りしめる。
「……強ぇ……でも……怖くねぇ……。
なんでだ……あいつ……。Damn…(くそ…)」
ヨハンは静かに言った。
「……影が……揺れなかった……。
あの人……vän…(味方…) だ……」
6人は互いに顔を見合わせた。
半年間、誰にも助けられなかった。
誰も信じられなかった。
だが――今日、初めて。
“光”が現れた。
◆ そして、影の中から
森の奥から、ゆっくりと足音が近づいてくる。
ミリアが息を呑む。
木々の影から現れたのは──土埃にまみれた、ひとりの少年。
春斗だった。
6人の姿を確認した春斗は、ほんの一瞬だけ、
胸を撫で下ろすように息を吐いた。その表情は、
戦いの最中には見せなかった“安堵”そのものだった。
ミリアが震える声で言う。
「……あなた……」
春斗は息を整えながら、ただ静かに言った。
「……無事で、よかった」
その言葉は、6人の胸に深く染み込んだ。
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十数年の時は流れてオッサンとなり、その間、大きな成果を残せず“とんまのトーマ”と不名誉なあだ名を陰で囁かれ、やがて採取や配達といった雑用依頼ばかりこなす、うだつの上がらない底辺冒険者生活を続けていた。
そんなある日、荷車の護衛の依頼を受けたトーマは――
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――〈ホームセンター〉
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気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
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+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
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