【前世の記憶】と【現世の記憶】~元婚約者の前で、前世のご主人様を求めた話

くったん

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最近は雨ばかりが続く。じめじめして気分が落ち込むけど、雨の日は雨の日なりの楽しみ方で過ごせばいい。私の場合は、図書室で読書。よくある過ごし方だけど、ゆっくりとした時間を過ごせるから雨にお似合いだ。

「アルザ様ってば聞いてます~?」

こいつ(フィジー)が居なければの話だけども。

「聞いてますわ」
「えー、じゃあ、私が話していたことを言ってみてくださいよ」

そもそも何で私がフィジーのノロケを聞かなければならないの。そういうノロケは友人にしてください。私に構わないでください。どこかへ消えてください。

心の中でそう思いながら、ニッコリとほほ笑んで大人対応する私を誰か褒めてください。

「皇子に口紅をプレゼントされたのよね」
「そうなんです!かわいい色でしょ?」

フィジーが口紅を見せてくれた。こうも簡単に釣れると面白味がない。遊ぶ気もなくなってしまう。

「ええ、かわいらしいあなたにお似合いだと思いますわ」
「でしょ?これ付けて今からデートなんだ~。もうすぐ迎えに来るの。ごめんなさいね、皇子が私に夢中で~」
「そうですか、よかったですね」

適当に返事をして読んでいる本に目を落とすと、フィジーがそれを取り上げた。

「いかがなさいましたか?」
「なにその余裕。バカにしてるの?」
「いいえ」
「バカにしてるわよ!」

そうね、せっかく撒いた餌だもの。遊んであげようかしら。どっちも痛い目に遭わせないと気分も晴れないし。

「ねぇ、フィジー」
「何よ」
「その口紅って皇子がプレゼントしてくれたのよね?」
「そ、そうだけど」
「あなたからオネダリしたの?」

バカにされたと思ったんだろう。フィジーは顔を真っ赤にさせた。

「違うわ!これは皇子がえらんでくれたの!私に似合うって、昨日!」

それを聞いて大爆笑しそうだった。でも口角をくっと上げて我慢した。だってフィジーの持っている口紅は、私の口紅。この前わざと落としてみたけど、まさか拾って道具にするなんて。

本当に、遊ばせてくれる二人だ。

「そうなの、ごめんなさい。でもよくお似合いですわ。うらやましいです」
「そ、そう?」
「せっかくですもの、皇子が迎えに来る前にお付けになったら?」
「あー……いや、……でも」
「そうなさるべきですわ!皇子を喜ばせましょう!」

私はカバンからポーチを出すと、中から口紅用の筆を取り出した。そして席を立ち、向かいに座っているフィジーの隣に腰掛けて、手を差し出した。フィジーは遠慮がちに私に口紅を渡した。

「ご安心くださいね」

筆に口紅を付けて、フィジーの唇に色を塗っていく。ゆっくりと丁寧に。皇子が私にプレゼントした口紅で、この女の唇をキレイに彩る。……滑稽ね。

「はい、できましたわ」

持っていた手鏡を渡すと、フィジーは嬉しそうに唇を見つめていた。

「私も付けようかしら。ねぇ、えらんでくださる?」

二本の口紅をポーチから取り出した。フィジーはどうでもよさそうに、赤の口紅を指さした。

「これは、制服には似合わないわ」
「えー、アルザ様なら大丈夫ですよ~。似合います~」
「そう、かしら?」
「うん、さすが皇子のえらんでくれたやつね」

フィジーは自分の唇に夢中だ。きっと何でもいいのよ、この女は。プライドもない、ただの雌。私と同じ。

「じゃあ、これにするわ」

私は赤の口紅を筆に取り、ゆっくりと輪郭を描いた。赤に染まる唇。情熱の色。大人の色気。嫉妬の色。

「ねぇ、フィジー」
「何よ」
「この赤の口紅、皇子がえらんでくれたの。もちろん残りの口紅もだけど」

口紅の色に似合うよう、ヘアブラシを取り出して髪を結い上げた。めったにしないそれは、皇子が好きな髪形でもあり、この口紅を買ったときの髪形でもある。

「口紅って不思議よね。一つの色でその人の雰囲気がガラリと変わるのよ。いえ、色に合わせて女が変わるのかしら。でも、だから大好きなのよ、口紅って」

この色に制服は似合わないからジャケットを脱いだ。白いブラウスのボタンをいつもより開ける。手持ちがないからこんなことしか出来ないけど、何もしないよりマシだ。

「な、何が言いたいのよ!」

最後に手鏡でチェックしながらフィジーの問いに答えた。

「わたくしだけのためのサンプルを作らせて、その中から皇子にえらんでもらってるわ。この意味、下級貴族のあなたにお分かりかしら?」

赤に合わせて妖艶にほほ笑む。何かに気づいたフィジーが動く前に、その両の手を掴んでやった。

「ダメよ、フィジー。皇子がプレゼントしてくれた口紅でしょう?」
「違っ、これは」
「照れる気持ちも分かるわ。でも心配しないで。大丈夫よ。とても似合っているわ。ええ、とても、……妬けちゃうほどに」
「やっ、やだ」

先にケンカを売ってきたのはフィジー。私はそれを買っただけ。怖がられる覚えはないけど、涙を浮かべて震えている。

泣いてすべてが終わりだと思える神経が素晴らしい。こっちは泣いても消えない傷がついたというのに。

「ねぇ、フィジー」
「ひっ」

私は震えるフィジーの耳に口を寄せて、小さな声で言ってやった。

「もう、泥棒、しちゃダメよ」

そして手を離したら、自分のカバンを持って走って図書館から出て行った。もう少し粘るかと思ったのに拍子抜けだ。

「さて、急いで帰りましょうか」

口紅を片付けてカバンを持つ。読みかけの本を棚に直すついでに、立って本を読んでいた男子にぶつかった。その男子のブラウスにたまたま口紅がついてしまったことを深くお詫びして、私は赤の口紅を付けたまま帰宅した。

「そうね、これも、口紅を塗っただけの話だわ」

私を赤に染めたのは、あの二人。嫉妬に狂う赤の色。

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