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第五話 ドクター
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「さて、アニスさんの悪いイメージを払しょくできればいいんですけど」
------------------------ここまでが前回----------------------------------------
レヴは板や材木が剥き出しになった、いつ風に吹かれてバラバラになってもおかしくない、家と呼ぶにはあまりに頼りない建物の前で立ち止まった。しーっと指でアニスを制してから、薄い扉に耳をすます。
「いるみたいですね。早く来た甲斐があった」
「あの、わたしはどうしたらいいの?横で見てたらいいのかな?」
「そうですね。今日のところは、とりあえず見学ってことにしましょうか。間違えてもアリスさんはノックはしないでくださいね」
と言いながらレヴは扉をノックした。ノックとはこれくらいの力加減で行うものです、とレクチャーするような軽やかなノックだった。
「あいよっ、空いてるから勝手に入ってくれ」
ノックに対して返ってきたのは、粗野というか乱暴な言い回しの銅鑼声だった。この辺りでは珍しくないのかもしれないが、街中ではあまり耳にしない類の応対だ。
「失礼します」
開けたドアの向こうに広がっていたのは、ところせましと人でごった返した清潔とは言えない室内の光景だった。椅子なども足りておらず、多くの人が床にそのまま座っている。部屋もそうだったが、いる人たちもとてもきれいとは言えない身なりだった。
「ここって……ひょっとして病院?」
アリスがきょろきょろと部屋中を見回すと、家具などはほとんどないがその代りに医療器具とおぼしきものがあちこちに見て取れた。どうやら座っている人たちは、診療待ちの人たちのようだ。
「ええ。ここは治療魔法専門の魔法病院です」
「おいっ、ごちゃごちゃうるせえんだよ。すぐ診てやっから黙って待ってやがれ……げっ、あんたは」
カーテン代わりのぼろ布で仕切られた診察室らしき一画から、聴診器をぶらつかせながら顔を出した白衣姿の男は、レヴの顔を見るなり盛大に顔を歪ませた。
「どうも、お世話になってますドクター」
にこやかにレヴは笑う。
「……俺はドクターじゃねえって言ってるだろ」
吐き捨てるようにそう言うと、診療待ちの人たちから、一斉にドクタードクターとはやし立てるような声があがった。レヴによると、彼は医者ではないがこの辺り一帯の病気や怪我などを魔法の知識と技術でもって引きうけている魔法士とのことだった。ドクターと呼ばれることを本人は嫌がっているようだが、周りからは完全に医者扱いされているようだ。医者扱いを嫌がり、それを周りからからかわれる一連のやりとりが日常的に行われているのだろうことが見て取れて、アニスの目には微笑ましい光景に映った。
「うっせてめえら。黙りやがれ、傷に触るだろうが」
ドクターが一喝すると診療待ちの人たちはおとなしく従った。
「ったく、にしてももうそんな時期かよ。ついこの間、取り立てにきたばっかじゃねえか」
時間の感覚がなさそうな生活を送っているのは、ごった返した人の多さを見れば納得だった。
「これでも期間内ぎりぎりの最後に回してるんですよ、ドクターへの徴収は。お忙しいのを考慮して」
「ふん、どうだか。大方この辺りに来るのが面倒だから、先延ばしにしてるってだけじゃねえのか?朝いちばんに来るのだって、人が少なそうな時間帯を狙ってきたんだろう?まあ当てが外れちまってるけどな」
「ずいぶんとご盛況ですねぇ」
病院が繁盛しているということは、体調の悪い人がそれだけいるということなので、レヴは気の毒そうな面持ちで言った。
「見ての通りだ。ん?そっちの嬢ちゃんは見ねえ顔だけど」
「ああ、こちらはアニスさん」
「この度、レヴ執行官の助手つきとなりました、アニスと申します。よろしくお願いします」
かしこまった態度でアニスは頭を下げた。
「ふーん、あんたも偉くなったもんだな。付き人を従えるなんてよ」
じろじろと不躾な視線をアニスに寄越すと、にやりといじわるそうな笑みをつくった。
「あんたこんなとこ初めてだろ?ついてねえな、小汚い貧乏街にまで付き従う羽目になるなんて」
アニスが病院内の様子にいささかたじろいでいるのを見越したようにドクターは言った。その小ばかにしたような態度はアニスの勘に触った。
「まあまあドクター、お手柔らかにお願いしますよ」
とレヴが取り成そうとした瞬間、ドアが勢いよく開かれどたばたと駆けこんでくる人の姿があった。
「ドクター、たいへんだ。また事故が起きちまった。すぐ診てくれ。すげえ量の血を出しててやべえんだ」
------------------------ここまでが前回----------------------------------------
レヴは板や材木が剥き出しになった、いつ風に吹かれてバラバラになってもおかしくない、家と呼ぶにはあまりに頼りない建物の前で立ち止まった。しーっと指でアニスを制してから、薄い扉に耳をすます。
「いるみたいですね。早く来た甲斐があった」
「あの、わたしはどうしたらいいの?横で見てたらいいのかな?」
「そうですね。今日のところは、とりあえず見学ってことにしましょうか。間違えてもアリスさんはノックはしないでくださいね」
と言いながらレヴは扉をノックした。ノックとはこれくらいの力加減で行うものです、とレクチャーするような軽やかなノックだった。
「あいよっ、空いてるから勝手に入ってくれ」
ノックに対して返ってきたのは、粗野というか乱暴な言い回しの銅鑼声だった。この辺りでは珍しくないのかもしれないが、街中ではあまり耳にしない類の応対だ。
「失礼します」
開けたドアの向こうに広がっていたのは、ところせましと人でごった返した清潔とは言えない室内の光景だった。椅子なども足りておらず、多くの人が床にそのまま座っている。部屋もそうだったが、いる人たちもとてもきれいとは言えない身なりだった。
「ここって……ひょっとして病院?」
アリスがきょろきょろと部屋中を見回すと、家具などはほとんどないがその代りに医療器具とおぼしきものがあちこちに見て取れた。どうやら座っている人たちは、診療待ちの人たちのようだ。
「ええ。ここは治療魔法専門の魔法病院です」
「おいっ、ごちゃごちゃうるせえんだよ。すぐ診てやっから黙って待ってやがれ……げっ、あんたは」
カーテン代わりのぼろ布で仕切られた診察室らしき一画から、聴診器をぶらつかせながら顔を出した白衣姿の男は、レヴの顔を見るなり盛大に顔を歪ませた。
「どうも、お世話になってますドクター」
にこやかにレヴは笑う。
「……俺はドクターじゃねえって言ってるだろ」
吐き捨てるようにそう言うと、診療待ちの人たちから、一斉にドクタードクターとはやし立てるような声があがった。レヴによると、彼は医者ではないがこの辺り一帯の病気や怪我などを魔法の知識と技術でもって引きうけている魔法士とのことだった。ドクターと呼ばれることを本人は嫌がっているようだが、周りからは完全に医者扱いされているようだ。医者扱いを嫌がり、それを周りからからかわれる一連のやりとりが日常的に行われているのだろうことが見て取れて、アニスの目には微笑ましい光景に映った。
「うっせてめえら。黙りやがれ、傷に触るだろうが」
ドクターが一喝すると診療待ちの人たちはおとなしく従った。
「ったく、にしてももうそんな時期かよ。ついこの間、取り立てにきたばっかじゃねえか」
時間の感覚がなさそうな生活を送っているのは、ごった返した人の多さを見れば納得だった。
「これでも期間内ぎりぎりの最後に回してるんですよ、ドクターへの徴収は。お忙しいのを考慮して」
「ふん、どうだか。大方この辺りに来るのが面倒だから、先延ばしにしてるってだけじゃねえのか?朝いちばんに来るのだって、人が少なそうな時間帯を狙ってきたんだろう?まあ当てが外れちまってるけどな」
「ずいぶんとご盛況ですねぇ」
病院が繁盛しているということは、体調の悪い人がそれだけいるということなので、レヴは気の毒そうな面持ちで言った。
「見ての通りだ。ん?そっちの嬢ちゃんは見ねえ顔だけど」
「ああ、こちらはアニスさん」
「この度、レヴ執行官の助手つきとなりました、アニスと申します。よろしくお願いします」
かしこまった態度でアニスは頭を下げた。
「ふーん、あんたも偉くなったもんだな。付き人を従えるなんてよ」
じろじろと不躾な視線をアニスに寄越すと、にやりといじわるそうな笑みをつくった。
「あんたこんなとこ初めてだろ?ついてねえな、小汚い貧乏街にまで付き従う羽目になるなんて」
アニスが病院内の様子にいささかたじろいでいるのを見越したようにドクターは言った。その小ばかにしたような態度はアニスの勘に触った。
「まあまあドクター、お手柔らかにお願いしますよ」
とレヴが取り成そうとした瞬間、ドアが勢いよく開かれどたばたと駆けこんでくる人の姿があった。
「ドクター、たいへんだ。また事故が起きちまった。すぐ診てくれ。すげえ量の血を出しててやべえんだ」
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