税務課(魔)~魔法税、取り立てます~

荒谷 改(あらたに あらた)

文字の大きさ
5 / 10

第五話 ドクター

しおりを挟む
「さて、アニスさんの悪いイメージを払しょくできればいいんですけど」

------------------------ここまでが前回----------------------------------------


 レヴは板や材木が剥き出しになった、いつ風に吹かれてバラバラになってもおかしくない、家と呼ぶにはあまりに頼りない建物の前で立ち止まった。しーっと指でアニスを制してから、薄い扉に耳をすます。
「いるみたいですね。早く来た甲斐があった」
「あの、わたしはどうしたらいいの?横で見てたらいいのかな?」
「そうですね。今日のところは、とりあえず見学ってことにしましょうか。間違えてもアリスさんはノックはしないでくださいね」
 と言いながらレヴは扉をノックした。ノックとはこれくらいの力加減で行うものです、とレクチャーするような軽やかなノックだった。
 「あいよっ、空いてるから勝手に入ってくれ」
 ノックに対して返ってきたのは、粗野というか乱暴な言い回しの銅鑼声どらごえだった。この辺りでは珍しくないのかもしれないが、街中ではあまり耳にしない類の応対だ。
「失礼します」
 開けたドアの向こうに広がっていたのは、ところせましと人でごった返した清潔とは言えない室内の光景だった。椅子なども足りておらず、多くの人が床にそのまま座っている。部屋もそうだったが、いる人たちもとてもきれいとは言えない身なりだった。
「ここって……ひょっとして病院?」
 アリスがきょろきょろと部屋中を見回すと、家具などはほとんどないがその代りに医療器具とおぼしきものがあちこちに見て取れた。どうやら座っている人たちは、診療待ちの人たちのようだ。
「ええ。ここは治療魔法専門の魔法病院です」
「おいっ、ごちゃごちゃうるせえんだよ。すぐ診てやっから黙って待ってやがれ……げっ、あんたは」
 カーテン代わりのぼろ布で仕切られた診察室らしき一画から、聴診器をぶらつかせながら顔を出した白衣姿の男は、レヴの顔を見るなり盛大に顔を歪ませた。
「どうも、お世話になってますドクター」
 にこやかにレヴは笑う。
「……俺はドクターじゃねえって言ってるだろ」
 吐き捨てるようにそう言うと、診療待ちの人たちから、一斉にドクタードクターとはやし立てるような声があがった。レヴによると、彼は医者ではないがこの辺り一帯の病気や怪我などを魔法の知識と技術でもって引きうけている魔法士とのことだった。ドクターと呼ばれることを本人は嫌がっているようだが、周りからは完全に医者扱いされているようだ。医者扱いを嫌がり、それを周りからからかわれる一連のやりとりが日常的に行われているのだろうことが見て取れて、アニスの目には微笑ましい光景に映った。
「うっせてめえら。黙りやがれ、傷に触るだろうが」
 ドクターが一喝すると診療待ちの人たちはおとなしく従った。
「ったく、にしてももうそんな時期かよ。ついこの間、取り立てにきたばっかじゃねえか」
 時間の感覚がなさそうな生活を送っているのは、ごった返した人の多さを見れば納得だった。
「これでも期間内ぎりぎりの最後に回してるんですよ、ドクターへの徴収は。お忙しいのを考慮して」
「ふん、どうだか。大方この辺りに来るのが面倒だから、先延ばしにしてるってだけじゃねえのか?朝いちばんに来るのだって、人が少なそうな時間帯を狙ってきたんだろう?まあ当てが外れちまってるけどな」
「ずいぶんとご盛況ですねぇ」
 病院が繁盛しているということは、体調の悪い人がそれだけいるということなので、レヴは気の毒そうな面持ちで言った。
「見ての通りだ。ん?そっちの嬢ちゃんは見ねえ顔だけど」
「ああ、こちらはアニスさん」
「この度、レヴ執行官の助手つきとなりました、アニスと申します。よろしくお願いします」
 かしこまった態度でアニスは頭を下げた。
「ふーん、あんたも偉くなったもんだな。付き人を従えるなんてよ」
 じろじろと不躾な視線をアニスに寄越すと、にやりといじわるそうな笑みをつくった。
「あんたこんなとこ初めてだろ?ついてねえな、小汚い貧乏街にまで付き従う羽目になるなんて」
 アニスが病院内の様子にいささかたじろいでいるのを見越したようにドクターは言った。その小ばかにしたような態度はアニスの勘に触った。
「まあまあドクター、お手柔らかにお願いしますよ」
 とレヴが取り成そうとした瞬間、ドアが勢いよく開かれどたばたと駆けこんでくる人の姿があった。
「ドクター、たいへんだ。また事故が起きちまった。すぐ診てくれ。すげえ量の血を出しててやべえんだ」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

処理中です...