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第七話 魔法のリンゴ
しおりを挟む「くそっ、どうしろってんだ」
腹立ちまぎれにドクターは棚を蹴りつけた。その表情は苦悶に歪みきっていた。
--------------------------ここまでが前回------------------------
「なんかないの?どれくらいの魔道具が必要なの?少しは作り置きしてる分とかないの?」
縋るようにアニスは言った。
「ねえよ。ちまちまと作っておいたやつは全部、ここ最近の事故で使っちまった」
「ならお金は?全部とは言わないまでも、一部を支払って残りは分割でとか」
「そういった返済制度は設けておりません」
つれなく遮るレヴ。しかし頭のなかでは、支払金額次第では今回のみ特例を認めさせる算段を組めないものかと思案していた。恐らくは無理筋だが、最低限の時間稼ぎくらいはできるかもしれない。
「そもそも金なんてビタ一問ねえよ」
「なんで?あんなに患者さんで一杯なのに」
「あいつら金もってるように見えるか?」
「じゃあ治療の支払いは?」
「そういやアニスさんには肉体労働してもらったけな。ほれっ、あんたの分の報酬だ」
ドクターから放られたものをアニスがキャッチする。しなしなに干からびたリンゴだった。
「美味いぞ。ちょい硬いけど、みっしり味がつまってる。歯も鍛えらえて一石二鳥だ」
にかっと笑ったドクターの歯は、ところどころ欠けていた。医者の不養生、という言葉がアニスの脳裏に浮かんだ。
「あいかわらず、ツケかわずかながらの贈り物で診てあげてるんですか?」
やれやれというようにレヴがため息をついた。
「その善意がいつかあなたを破産させますよ、と何度も忠告したはずですが」
善意ねぇ、とドクターは鼻で笑った。
「あんた、レヴさんよ。あのリンゴの味、試したことあるか?俺はね、魔法士としてそれなりの報酬をいただいて治療をしたことは何度もあるし、治療後は回復のために栄養満点で味も抜群の高級料理を何度も食ったよ。でもよ、ドクターとしてここでもらったリンゴの味は、そのどれよりも美味かった。あんたにも食わせてやりたいね、まあやらねえけどな。アニスさんくらい働いてくれたならやってもいいんだけどな」
ガブっ、とアニスは萎びたリンゴを皮のまま齧った。
「どうよ?」
「……お腹減ってるからかな、すごく美味しい」
魔法をかけられたみたいに、アニスはそのリンゴを美味しく感じた。
「肉体労働の対価としての、魔法のリンゴってわけですか」
レヴはそっと呟いた。
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