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第4部 溺れる愛
3-4 ※最賀視点
しおりを挟む流石に一人にさせられないので、自宅へ女を泊めた。
女は帰る場所が、無い。
実家だったあの広い家は荒らされて、警察が現場検証をしている。そもそも、あの家は女の居場所すら作らなかった忌まわしい家屋だ。
最賀へ気を遣わぬように、無理して笑うから余計胸の内が熱くなった。苦しみで、だ。自分の問題に女を巻き込んで、情けない気持ちなのに。
ずっと、此処にいたら良いのに。
いつまでも、隣で笑ってくれるだけで……。
なんて、烏滸がましいだろうか。女を守りたいと思うのに、容赦無く他人の悪意で傷付けられる。だから同じ職場で目の届く範囲に置いたが、まだ足りない。合鍵を渡しても引っ込み思案なのか、誘われるのを待っているくらいだ。
結局、仕事終わりに家に帰ろうと敢えて口にする。刷り込みにすら頼って、女を縛り付けたいのだ。
四六時中目を光らせていれば、どんな危険性からも守れるのだろうか?
次の日。女は熱発しており、処方された解熱鎮痛剤を飲ませる。心配で仕方が無い。明るく振る舞う様子に、最賀が悲観的な一面を見せては台無しだ。
なるべく、女の心労を取り除きたい。
頭部外傷後、注意すべきなのは遅れて頭蓋内出血や慢性硬膜下血腫が出現することがある。主訴は頭痛や手足の麻痺、ふらつき等の症状だ。受傷後数週間から数ヶ月の間に出現することが報告されており、注意深く経過観察を行うべきだ。
──俺のせいで……。
傷を縫合する程、やや深かったらしい。病状説明は身内でも無い為直接は担当医から聞けなかったが。女の弟からは、抜糸で来週受診予定だから責任持って通院に付き添えと握られた拳を前に吐き捨てられた。
この五年間。元凶となる手代森の嫌がらせは自分だけで無いと知った。病院に出入りが自由な手代森は、理事長の娘と言う権力を振り翳し看護師や事務へ執拗に嫌がらせをしていたらしい。
民事訴訟の相談を顧問弁護士へ依頼すると、噂を聞き付けた元職員に加え現職員も集まって来たのだ。ロッカーを荒らされる、インターネット上で私生活の写真が拡散される等手法は様々で。
特に酷かったのは金に物を言わせた情報網だ。手当たり次第職員へ探偵を仕込んでは、交際相手や友好関係を調査。職場恋愛をしているスタッフには、特別な制裁を加え、晒し上げていたと言う。
この現代社会において、個人情報をばら撒き悪評を作り上げるのは容易い。人を痛ぶって玩ぶ姿は我儘令嬢よりも悪質だ。悪の根源だ、とある看護師は心療内科で通院しており、社会復帰は未だに為されていない。精神的苦痛を与え、闇に葬り去るのを手代森は得意だったらしい。
他人に危害を加える悪質な行動は、最賀が女と交際してからだ。エスカレートして、鬱憤を晴らす相手は自分より格下の弱者を使ったと。最低な女である。
最賀は診療所に女を連れて来たのは、正直一番のターゲットである女を保護する為だ。飯田先生の提案もあり、抑止力効果も兼ね揃え万全だった。
その手筈は、見事に打ち砕かれた。
目の前で血を流す女は、真っ白な顔をしていた。
この手は人を傷付けるものでは、断じて無い。
けれども、生まれて初めて人を殴りたいと思った。握った拳は掌に爪が食い込み血が滲んでも、手を上げることは無かった。こんな時でも医者としての自分が邪魔をする。紛れも無く治療を施し人々を救う為にある手が、この時ばかりは憎たらしかった。
──示談なんて、冗談じゃあない。
己の無力さに反吐が出る。
警察に保護は頼めないか相談したが、実行犯である手代森の勾留は確定である。最賀の元自宅マンションへ不法侵入及び器物損壊は二度目だからだ。一度目は保釈金と馬鹿高い弁護士へ依頼して出れたのだろう。再犯の場合は簡単には出て来れない。そんな背景もあり、警察側より危険を除去したから不必要だと断られた。
また、傷害罪として現行犯で逮捕、勾留後は起訴か不起訴を検察側がどうするか今後方針を固めるらしい。傷害事件の刑事裁判で実刑判決が下されれば、手代森は暫くは塀の中だ。理事長の力も及ばず、普段の行いは出来ないだろう。
──取り敢えずホームセキュリティを導入しよう。
そして、女が療養する部屋にペット用の監視カメラを設置したいくらいだ。あれならば体調の変化も素早く察知出来る。病的な程に執着しているのは、姉が見たら過保護だとドン引きするだろうが。
買い取った平屋の近隣はホームセキュリティを導入する家は無い。何故ならば、見知った人間しか住んでいないからだ。
けれども、女の家を荒らされた件もあって物事はシビアに見る必要がある。金で解決出来るのならば、不安要素は取り除くべきだ。
「……酷い顔だ」
隣で寝息が静かになると不安が襲って、朝日を迎えた顔は。汚い無精髭に窶れた壮年オヤジである。
手代森には相応の代償を払ってもらう。その為に十八人の被害者と共に戦うのだから。キャリアコースから外れた自分には、後世に被害者を出さないことしか出来ないのだ。
しかし、今回の一件が片付いても女は同棲を渋るかもしれない。
大丈夫、が口癖の人に大丈夫じゃないと言わせるのはどうしたら良い?!
「──心配なんでしょう、山藤さんのこと」
常勤の医療事務員が欠勤。となると、普段の忙しさが嘘の様に地獄に化す。
カルテはやって来ない、会計処理終わらない、待合室はぎゅうぎゅう。声を張り上げて呼ばないと、がやがやと人の波に埋もれる。
待ち時間が長い。
電話しても繋がらない。
検査データが無い。
クレームの嵐に目が回りそうだ。看護師の小野寺がフォローに入っても、一人抜けた穴は中々深かった。
電話は永遠と鳴り続け、カオス状態だ。
──知らないところで、いつも助けられてばかりだ。
──クレーム処理が上手過ぎるのも、感慨深いんだが。
そう、彼女は正真正銘のクレーマー対処が絶妙なのである。空白の五年間、履歴書に記載された国際メディカルセンターで鍛え上げられた腕っ節。常にいる人間だったからこそ、欠勤は痛手だ。
その痛恨の穴を作り上げたのは最賀であるが。
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