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第10話 曰く付きの地下1階
しおりを挟む「あの、先生、ここはいったい?」
この場の空気を換えようと、先ほどから疑問に思っていた事を先生に問えば「あぁー」と思い出したように段ボールの上に乗せてあったコップを一つ手に取ると、薬と一緒に手渡してくれた。
「そっちのマグカップはホットココアだよ。君達も飲みな、でっ、君は薬飲む前にこれを食べな、温泉饅頭」
そう言って、ポケットから温泉まんじゅうを1個とりだすと手渡してくれた。それを上半身を起こして受け取り、改めて辺りを見回せば天井まで積まれた段ボールに、古びた木の棚がずらりと並んでいる。天井は恐ろしいことに所々にひびが入っており、大小さまざまなパイプが天井を走っている。
どう見てもここは物置だ。
このソファーも新品と言うより、だいぶ使い込んであるし、使わなくなったのをこの部屋に押し込んでいるのだろう。
「ここは1号館の地下1階の物置だけど、私の秘密基地みたいなもんだよ。
研究室に置ききらない標本や本をこっそり置かせてもらってるんだ。」
二ヤリと笑うその顔は、ちょっと悪役みたいな顔だった。絶対言えないけど!!
「この大学の地下は大抵何処も湿気でやられて教室や研究室として使えないから、物置になってるんだよ。完全に設計ミスだよね。その上、幽霊話のおかげで人が寄り付かないから見つかりたくない物を置くにはちょうど良いんだ。例えば、そこに置いてある赤いスーツケースの中には使わなくなった骨格標本が入っている。」
「え?それって別に隠すほどのものではないんじゃないですか?普通に捨てればいいのに」
お梅君が何で?と言う顔をしながら先生に問えば、またもニヤリと悪い笑みを浮かべた先生が
「それは本物の人骨だからだよ。捨てたら死体遺棄だからね。」
「なっ!?スーツケースに入ってる死体なんて、殺人事件!
ほぼ死体遺棄みたいなもんじゃないですか!!」
と、お梅君が焦ったように突っ込みを入れる。
「あははは!この大学に勤めてた初代の先生が、医学の貢献のためにって自分の遺体を解剖実習用の献体と、その後に骨格標本にしてくれってその身を医師になる卵たちのために差し出したんだよ、それがその骨格標本」
「えぇ…、でも今はその尊い犠牲がこんな物置にスーツケースに入れられて、倫理的にそれって大問題では…」
と、思わず声に出てしまう。
「あまりに古すぎて、遺族からも本当に親族かもわからないし、今更…。って受け取りを渋られたらしい。話が進まず結局問題を先送りにしてここに置かれてるんだよ。複数の基礎研究室に骨格標本があるけど、使わなくなったが遺族に返すのを断られたり身元証明の書類が紛失してて、返せずに埃かぶって研究室に佇んでるのもあるし、そのうちまとめて供養して共同墓地に入れよう。って、話が出たけどそれっきり。」
「えぇ…、そんな…。」
と、呆気に取られているとその先生はあっけらかんとした感じで
「昔の医師や研究者の尊い犠牲があってこその、現在の医学がある。
君たちも感謝したまえよ」
どの口が言うんだと、私以外も思った事だろう。
お松君と、お梅君も、いやいや…と言わんばかりの目をしていた。
「さて……警備員の巡回は2時間に1回、学生が校舎に入れる時間になるのは朝の6時からだ。それまでこの部屋で大人しくしてなさい。くれぐれも!勝手に!!肝試ししないこと!!捕まったとしても、もう知らん顔するからね。マグカップはそのまま置いといていいから、それじゃっ、私は研究室に戻るよ。」
そう言って手をヒラヒラ振りながら出ていこうとする先生を慌てて呼び止める。
「あのっ!助けてくださってありがとうございました。
後日ちゃんとお礼に伺いますので、先生のお名前と所属を教えてもらえませんでしょうか?
あっ、あと好きな食べ物とかあれば、念のため嫌いな食べ物も…」
立ち止まった先生が、ゆっくりとこちらを振り返る。
「若いのにしっかりしてるねー君は、お礼なんていらないよ。
私は大学の秩序を乱さないようにしたまでだからね。……甘いものは好きだけど金平糖は大っ嫌い。」
最後の言葉に、苦笑いしつつ、自分達が思っている以上に22時以降に学生が校舎に残る事は停学とか、そういった処分があり得るくらい重い罪なのかもしれない。考えてみれば納得だ。ここは研究棟、最先端の研究内容を盗みに来たり、試験問題を盗み見に来る可能性だってある。これからは、気を付けようと思っていると、お松君が突然挙手をする。
「先生!それは遠慮しているようでリクエストしてますよね?あっ、いえ、何でもないですスミマセン!
あっでも、僕も先生の名前を教えて欲しいです!
オカルト研の調査協力をグハッ!!?」
「お前は反省しろ!」
と、お梅君がお松君の脇腹を強めに突っついて黙らせていた。
反省してない。私はうっかりだったけど、この二人に関しては意図的なのに
「まったくだ。反省しなさいよお松少年!
私を訪ねて来たとて何一つ答えないし、手助けはしない。
私は教師じゃないからね。」
「あの、でも、お名前を…」
と、私が食い下がれば、先生はヤレヤレと言った顔をして
「桜井与野、まぁ、こちらに来たときは顔見知りの好で相談くらいは乗ってあげよう。」
そう言うと、今度こそ引き戸を開けるとガラガラ!バタン!っという音を立てて、出て行ってしまった。
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