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第14話 それは呪いのように
しおりを挟む「オカルトは良いぞー!例えば丑三つ時!
日本でも海外でもあの世の門が開くとか、あの世とこの世が近づくとか、幽霊が活発になるって言われているんだ。よく午前3時と間違われるけど、日本では午前2時から2時半って言われている。
興味深いだろ?」
ハッとして目が覚める。酒を飲んでいるうちに寝てしまったらしい。グラスを持ったまま、ソファでのけぞるように寝ていたようだ。初瀬は痛む首をさすりながら、前屈みの姿勢に戻してローテーブルに置いてある日本酒をグラスにドバドバと注ぐ、今更何であんな夢を見た…。アイツはもう居ない。とっくの昔に死んだんだ。
「クソッ!!!」
ダンッと思い切りテーブルを拳で叩く、ジンジンと痛む己の手など気にならないほど、腑が煮え繰り返るほどの怒りが全身を蝕む。家具店で一目惚れして購入した数百万の木目調のローテブル、深いブラウンに飴でコーティングされたかのように、艶やかなテーブルの手触りを味合うように撫でるのが好きだった。しかし、今はこのテーブルすらも窓ガラスを破って投げ捨ててしまいたい。この怒りの矛先を如何したら良い。
間接照明で薄明るく照らされ、落ち着いた雰囲気を出す部屋には、黒い革張りのソファーに壁一面の棚には貰い物や学会や講演会で訪れた場所で全国津々浦々から買い集めた日本酒や焼酎、ウィスキーなどが所狭しと並んでいる。家を建てる際に妻からは嫌な顔をされたが、頑なに譲らなかったこの部屋、憧れだった自分だけの酒場…あの日から毎日のように入り浸っている。理事達からは、職場と自宅の往復のみで外出をしないように言い渡されている。自宅にもマスコミが来るのではと、妻と子供達は妻の実家に帰らせたが、何かを疑うような目をした妻の目が脳裏に甦り、苛立ちを増長せる。
「何故だ…何故私がこんな目に合わなければならない!
私の何が悪い!?この年まで医師として、どんな理不尽にも耐えて、理事どもに下げたくもない頭を下げてきた!!あと一歩というところで!!」
耐えきれず、持っていたグラスを床へと叩きつければ、ガシャンとガラスが砕け散り床へと飛び散る。
何故だ何故だ何故だ!!
グシャリと髪を握り込み俯く、静まり返った部屋に響くのは自分自身の息づかいのみ、静寂に包まれた部屋でまたも微睡始める。怒りも眠気に押され下火になり、寝室に行こうか…そう思っていると突然、パキパキッとガラスを踏み潰すような音が響き、一瞬で覚醒して飛び上がるように立ち上がる。
自分のバクバクと言う心拍音が耳に響く、高速で拍動する自分の心臓を抑える様に服を握りしめる。
「誰だっ!!」
この家には誰もいない。まして、この部屋の扉も窓も開く音すらしなかった。だが、耳には確かに残るガラスを踏み潰して歩く様な音、部屋の中を見回すももちろん誰もいない。何の気配も感じない。
その筈なのに
何かがいる。
そう思うと同時に、右足首からゾワリとした感覚が徐々に這い上がってくる。
「なんだ…何なんだ!!!」
その場から逃げようと後ろに下がろうとするも深酒をし過ぎて、力の入らない足にヨロけてしまい酒棚に背中が勢いよくぶつかり、棚から数本の酒が床へ、ガシャン!ゴンッ!と言う音を立てて、落下した。割れた酒瓶の日本酒の匂いが部屋に充満していく、過呼吸になりそうなほど荒い息で、必死に見えない何者かを探そうと目だけを動かす。
けれど、一向にガラスを踏み締める音も何者かがいる気配も、聞こえないし感じない。
酔って勘違いしただけじゃないだろうか…そうだ…寝ぼけたに違いない。何も起きず静まり返る部屋にそう思い始めた時、背後の棚から遅れて何かが落ちてきた。
コンッ!と床に落ちて転がる何かに驚いてビクリと肩を震わせる。落ちた物を見れば棚の淵に置いておいたデジタル時計、落ちた衝撃で壊れたのかチカチカと画面が点滅している。たかが時計、放っておけば良いのにどうしても気になり目を凝らして見れば「AM 02:30」 を表示していた。まるで強調でもするかのように画面のライトが点滅し続けている。
丑三つ時…
頭をよぎる言葉に「勘違いではない」そう言われているかのようで、その場で己の身を守るように頭を抱え蹲り、ガタガタと震えながら啜り泣いた。
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