魔の巣食う校舎で私は笑う

弥生菊美

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第16話 秘密基地

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 引き戸を開け中に入っていくお松君達、勝手知ったると言うように壁の端にあるスイッチをカチリとつければ部屋が明るく照らし出される。

 よく見ればスイッチは黒のレバー式の古いタイプだし、電気も戦前の物!?と思うような白い傘のついた白熱電球だった。通りでぼんやりとした明るさなわけだ。鼠色の壁のせいで、さらに暗さと古さが際立つ、壁側に置かれている木製の棚には木製の標本箱と、木の板が積まれており、気になって近寄ればその板の凹みにスライドグラスが何十枚と並べられている。ガラスの端に桜井と書かれている。先生が置きに来ているのはこれか…。

 そして、目についてしまう赤と言うかオレンジ色の大きなスーツケース……。
あれに本物の骨格標本がっ…。

「まぁ、落ち着かないかもしれないけど、とりあえず座りなよ佐倉さん」

 お松君の声に振り返れば、既にソファーに深く腰掛けて、ボロボロのノートと手のひらサイズのノートに、ペンを取り出している。お梅君も一人がけのソファーに座ると、リュックの中からガサガサと音を立てると中から箱を取り出した。

「ちょうど良いや、これ、お袋から友達と食べろって持たされたんだ。うさぎやのどら焼きだって、美味しくて有名らしい。」

「気が利くじゃないか、お梅助手!」

「お前にはやらない。友達じゃないからな」

「ごめんなさい調子に乗りました。すみません。どら焼きをお恵みください。僕たち友達だろ」

「必死かっ!」

「あははは、二人とも本当に仲良いね」

 そう言うとお梅君だけが嫌そうに顔をゆがめ、お松君はそうだよーと嬉しそうに笑う。対照的だけれど、お梅君の弟を見るような面倒見の良さと、お松君の裏表のない無邪気な感じで、なんやかんや相性が良いんだろうな、と見ていて微笑ましく思ってしまう。

 お梅君が箱を開けるとふわりと甘い香りが広がり、美味しそうなどら焼きが10個も入っていた。お梅君から箱を差し出され、お礼を言いながらどら焼きを一個貰う。段ボールのテーブルを挟んだお松君と反対側のソファーに腰掛けた。

 この部屋は元は研究室だったのだろうか?物置と言うには少々広い。コの字型に置かれた革張りの大きなソファーが置いてあるが、部屋はまだまだ余裕がある。まぁ、テーブルが愛媛ミカンの段ボールが横に2個並んでいるだけなので、高級感は一ミリもないけれど…。

あっという間にどら焼きを一個平らげたお松君が、再度どら焼きの箱に手を伸ばしながら

「さっき、この地下一階の心霊現象は桜井先生じゃないかって話だけど、確かに一つや二つ桜井先生が原因なのはありそうだけど、先代の先輩から引き継いだノートには説明のつかない現象が多く書かれている。」

 そう言うと段ボールの上に広げたボロボロのノートをこちらへ差し出す。それをのぞき込めば、事細かに大学で起きた怪奇現象の内容が書かれていた。いろいろな人から聞き取りと実地調査を行ったらしい。

「佐倉さんの体験した話の詳細を教えてほしいんだ。」

 ペンを片手にウキウキとしているお松君をみて、私の体験談もこのノートに書きこまれるのか…。と思いつつ、勘違いじゃない?と思うような内容も書き込まれているボロノートを見ながら、今更嫌とも言えずあの日の夜の事を2人に語った。

「なるほどね。やっぱり解剖実習室に居た何かが恐怖心を抱いた佐倉さんに反応して後を追ってきたのかもね。生贄にしようとしてたのかな?」

「はっ!?」
「いっ、生贄って!?」

流石のお梅君も驚きの声をあげる。

「この大学って、面白いって言ったら不謹慎だけど20年に1回くらいのペースで自殺者や事故死が起きてるんだよ。しかも必ず、その年は2~3人亡くなるんだ。大学もしくは病院の敷地内でね。その中には自殺に見せかけた他殺も含んでる可能性もあるって、昔の先生方の間では噂があったくらいらしい。」

「それのどの辺が生贄になるんだよ?正直、学生、職員、病院側も併せたら数千人がいるような大学だぞ、自殺とか事故死なんてない話じゃないだろ?」

「でもちょっと、多い気はするかも…。」

「偶然と言うには多い気はするし、必然と言うにも確証に欠ける。良い線突いてるよねー。」

「偶然だろ。」

 お松君の楽しげな声に反して、お梅君がばかばかしいと言いながらどら焼きを3口で平らげ、もう一個のどら焼きに手を伸ばしながらハタと思い出したように顔をあげる。

「まてよ…、2ヶ月、いや先月だったか?うちの大学病院で自殺者出たよな?…何故か未だに警察が出入りしてるけど…もしかしてまだ誰か死ぬのか?」

「先月だよ、実習中止になったからよく覚えてる。
え“っ!?まさか!!私が2人目になるところだったの!?」

「まっ、まぁー、落ち着け佐倉、でもさ、何を根拠に生贄なんだよ?
心霊現象愛好家教団の取ってつけた自称じゃないのか?」

すごい名前…だが、お梅君の疑問ももっともである。

「確かな根拠はないけど、最初の一人が始まりで、学内で心霊現象が活発になり始めて、2人目、3人目で落ち着くんだ。」

「無理があるだろ…。」

「お松君、そういう本の読みすぎじゃ…」

「佐倉さんまで酷い!!!」

「はっ!?
まさかお前!!!自殺者が出たから1号館の調査しようとか言いだしたのかよ!!俺を巻き込むな!!」

どら焼きを投げつけそうな勢いでお梅君がお松君に怒鳴る。

「なんだよお梅助手、生贄の話を信じてないなら別にそんなこと些末なことだろ」

「さっきから!誰が助手だっ!!」

 立ち上がってギャーギャー騒ぐ二人をまぁーまぁー、落ち着いてと宥めるがまるで聞いてくれない。どうしたものかと困っていると突然、部屋の引き戸が爆風でも受けたのか!?と思うような

バンッ!!!!

 という大きな音を響かせ、ガラスが振動で響いている。あまりの衝撃音と驚きで3人して固まり、首だけ扉の方にゆっくりとむける。

 シン……と静まり返った倉庫に、バクバクと自分の心臓の音が響いているようだ。
何事もなかったかのように微動だにしない扉、誰かが叩いたのか!?いやでも、扉全体を叩いたような音だった。それに、人の動く気配が扉の外側からは感じられない。そんな緊張感のある状況を破るように動き出したのはお松君だった。

 足音を忍ばせるように扉へと近寄っていく、慌ててお梅君が止めようと手を伸ばすが、その手は空を切る。私と同様に、お梅君も扉に近寄るのは気が引けるのか、その場から動こうとはしない。

 お松君が息をのみ、扉に手をかけるとガラッ!!と、勢いよく引き戸を開ける。
しかし、廊下は部屋から漏れた明りが薄暗く照らすばかりで向かいの部屋の扉が見えるだけだ。お松君がそっと体を前に倒し、両手を扉についたまま乗り出すように廊下の両サイドを確認する。しかし、特に変わりはなかったようで、引き戸をガラガラと音を立てて閉めるとこちらへトボトボ歩いてくる。

「何も居なかった」

ポツリと呟いた言葉は何処かつまらないとも言っているようなニュアンスだった。

「いたら怖いよ…」

 ほっとしてソファーへと腰掛ける。
お梅君も「はぁ…」っとため息をついてソファーへと座る。

「騒ぎすぎて、霊が怒ったのかな?」

 私がそう言えば、お松君が「あはは、そうかもね」と、3人で笑いながらソファーに腰掛けた瞬間、ガラッ!!!と、勢いよく扉が開き、3人とも驚きのあまりソファーの上に乗りあげるように後ずさる。

「煩いぞガキども」

やる気なさげな声と、疲れた顔をした桜井先生が標本箱を持って立っていた。

「せっ、先生!!驚かさないでくださいよ!!」

 上ずった声と、思った以上に大きな声で桜井先生に非難を浴びせてしまって、しまった。と、後悔する間もなく桜井先生が、なんで?と言う顔をする。

「んぁ?勝手に驚いたのはそっちでしょ、あっ、身体の調子どう?怪我は大丈夫だったの?」

「うえっ!?あっ、はい…。おかげさまで、その説はありがとうございました。」

「それは良かった。今度からは気をつけなさいよ」

「あっ、はい。」

そう告げながら部屋の中に入ってくると、お松君とお梅君に視線を向ける。

「最近、誰か出入りしてる形跡があると思ってたけど、やはりお前らかっ…。」

桜井先生は睨む様に目を細めつつ、お松君を横目に棚に向かうと持っていた標本箱を棚に置いた。

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