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第24話 学食
しおりを挟む「佐倉さん、ここ良い?」
学食で一番安いカレーを頬張ろうとした瞬間、突然右側から声がかかる。スプーンを皿に戻して見上げれば、初瀬さんがお盆を持って立っていた。
「えっ!?初瀬さん?あっ、うん勿論!」
食堂の端、窓側にカウンター席のように横に長―い一人用のテーブル席、1階なので外を眺めながら食べられるのだが景観は一切こだわられておらず窓の向こうは通路を挟んだ別の建物の壁である。
「ありがとう。」
お盆をテーブルに置いて、可愛らしい水色のシフォンのワンピースを丁寧に膝裏に入れて椅子に腰かける。
「珍しいね初瀬さんが学食なんて、いつも学外で食べてるのに」
驚いたように告げれば、アハハ…っと元気のないから笑いをする初瀬さん
「ほら、補講のテスト組は講義室に12時半集合でしょ?その…いつもご飯食べてる子達が皆そっちだったから…直前まで勉強したいらしくて、佐倉さんも、いつも一緒にご飯食べてる吾妻橋さんも補講でしょ?」
「あぁ…あぁー」
その言葉で納得する。先日の試験の解剖学はクラスの半分以上が赤点を取るというかなり難易度の高いテストだったのだ。補講で合格点を取らないと漏れなく留年するので、皆必至だ。
「初瀬さんみたいなお嬢様が学食に居るってなんだか新鮮」
そう言って笑えば、初瀬さんがやめてよーと口をとがらせる。
「私だって学食くらい来るよ、そして生姜焼き定食を食べます。」
そう言うと笑いながら箸を持つ、お嬢様が生姜焼き定食、確か出身校は東京都内のお嬢様学校の御三家の一つ桜蔭学園、普通に生姜焼き定食を食べているだけなのに気品すら感じる気がする。
「佐倉さん…、恥ずかしいからそんなに見ないで」
「あぁ、ごっ、ごめんね」
そう言って正面に向き直りカレーを食べ進める。やってしまった。なんか気持ち悪い人みたいな事を初瀬さんにしてしまった。自己嫌悪に陥りながらカレーを食べていると、スッと横からプリンが差し出される。なんで?っと、思って初瀬さんを見れば
「ちょっとした賄賂」っと、照れたように可愛らしく言うので、思わずカレーを吹き出す。
「ゴホッ!ゴホッ!」
思わずむせれば、初瀬さんが大丈夫!?と、すばやくポケットティッシュを差し出してくれる。こんなよくできた女子が賄賂とはどういうことなのか!?むせつつお礼を言いながらティッシュで口を拭う。
「初瀬さんから賄賂なんて言葉が飛び出すから驚いちゃって、ゴホッ」
まだむせるので水で流し込む
「ごめんね急に、本当に大した事じゃなくて…その、最近…佐倉さんて日野君達と仲が良いじゃない?」
「日野君……?」
って、誰だっけ………!?
「あっ!お梅君?」
そういえばそんな苗字だったはず!あだ名で呼んでるせいですっかり忘れていた。
「フフッ、そうお梅君、そういえばそんなあだ名で呼ばれてたこともあったね。」
クスクス笑う初瀬さんは、同じ女の私から見ても可愛いと思う。いいなー、こんな可愛らしく私もなれたらよかったのに…。
「それで、そのお梅君がどうしたの?」
「……その、時々3人で何処か出かけていくでしょ?あっ!いや、そのね!3人に常に同行させてって言うわけじゃなくて、その…ご飯食べに行く機会とかあったら私も声かけてもらえたら嬉しいなって言う…すごく、図々しいお願いなんだけど…。」
自分で自分の発言に自信が無くなってきたのか、尻すぼみに小さくなっていく声の初瀬さん。鈍感な私でも察してしまう。つまり…
「もしかして、お梅君に恋しちゃってる的な…?」
と、聞けば初瀬さんは俯き顔を真っ赤にして
「恋しちゃってる的な感じです…恥ずかしッ」
そう言って両手で顔を覆い隠す。可愛いんですけど!?なにこの生物、本当に私と同じヒト科ヒト属の大和民族ですか?えっ…可愛い…。可愛い!!!
「初瀬さんの可愛さならお梅君もイチコロだよ!わかった!絶対ご飯行くときは誘うね!
あっ、3人で出かけてるのは…あれはただ単にオカルト研の付き合いだから、何もやましいことはないからね。」
「可愛いなんて言ってくれるのは、親と佐倉さんだけだよ…。ありがとう!お願いします。
でも意外、佐倉さんオカルトとか好きなの?オカルトって幽霊とかUFOとかそういうのでしょ?」
火照った顔を初瀬さんが仰ぎながらこちらを向く
「ちっ、違うよ!私は好きなわけじゃないからね!色々あって、その…なんというか…、オカルト研の調査に鉢合わせて、それからずるずると付き合いでって感じかな…。」
「佐倉さんって、本当に優しいよね。
逆にちょっと心配になっちゃう…。この大学って本当に幽霊関係の話はよく聞くし、怖い話するとその場に幽霊も引き寄せられるって言うし…。気を付けてね。」
「こっ、怖いよ…私ひとりじゃ怖いから初瀬さんも一緒に」
「むっ、無理無理!心霊系のテレビちらっと見ただけでも、お風呂入るのすら怖くなるのに、絶対私には無理だよー」
「何が無理なの?」
「ギャッ!?」「キャッ!?」
突然背後から声がかかって、驚いて声をあげるも、こんな状況すら可愛い悲鳴の初瀬さんに拍手を送りたくなる。
「おっ、驚かさないでよお松君…」
振り返れば、いつもの伸び切ったTシャツにジーンズ姿のお松君が私と同じくカレーライスをお盆に乗せて立っていた。
「ごめんごめん、そんなつもりはなかったんだけど、それにしても珍しい組み合わせだね」
そう言うと、お松君が私の横に座る。右に初瀬さん、左にお松君と間に挟まれてしまった。
「そういうお松君も、お梅君と一緒じゃないのは珍しいね」
「ハハッ!佐倉さんはお梅助手の普段の成績知を知らないらしい。」
つまり、補講組という事か…。
「察しました。」
「さすが佐倉さん、察しが良くて何より」
そう言うとカレーライスを頬張り始めるお松君、初瀬さんはそっと正面に向き直り食事を開始している。
「あー、お松君、今度ご飯に行く時は初瀬さんも誘ってもいいかな?」
そう言うと、今度は初瀬さんがゴホッツ!とむせている。大丈夫?と慌てて背中を摩る。
「ん?良いけど、急にどうし…はっ!?えっ、もしかして初瀬さん…」
驚きで目を見開き、お松君が初瀬さんを見つめる。えっ!?お梅君好きなことが一瞬でバ
「オカルトに興味あるの!?」
レテなかったー、いやそうだよね。お松君だもんそうなるよね。お梅君と言う突っ込み不在だから、もしや今日は私が対応しなければならないの!?私が口を開くよりも先に、初瀬さんがティッシュで口をふきながらブンブンと首を振る。
「えぇー、違うのかー、そしたら何でご飯に?」
残念そうに首をかしげるお松君に、今度こそ私が口を開く
「お忘れかもしれませんが、私は女ですので、女一人男二人でご飯に参加するよりも女子がもう一人いたほうが私も気兼ねないので」
「別に佐倉さんが女性と言うのは忘れてないけど、そういうものなの?」
「そういうものです」
「ふーん?僕は全然かまわないよ。お梅助手も気にしないと思うし、初瀬さんが嫌じゃなければいつでもどうぞ」
そう言うと、カレーに向き直り食事を開始するお松君、本当にオカルト話以外はドライだな…と、改めて思う。
「ありがとう。おっ、お松君…今度お邪魔させてもらうね」
「どうぞー」
と間延びした声でお松君が返事をした。
なんだかお梅君が居ないとぎこちない雰囲気になるなと思いながら、3人で並んで無言で昼食を食べ進めたのだった。
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