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第30話 不透明
しおりを挟むやっと培養細胞のメンテナンスが終わり、バキバキに凝り固まった体をストレッチしながら「桜井さんの本日の業務終了ぉー」自分のデスクに戻ると、向かいのデスクの三橋さんが急に顔をあげていぶかしげな顔をする。
どうしたの?と声をかける間もなく、廊下の方からドタドタト重たい足音をたてながら誰かが走ってくる音が響く
「え!?何事!?」
思わず声をあげて閉まっている扉を振り返れば、ほどなくして勢いよくドアが開かれると飛び込んできたのは、研究補助員の山田さんだった。
ぜぇーはぁーと肩で息をしながら、室内を見ると
「見っ…見つかったって…ささささっき」
「「何が?」」
三橋さんと同じ質問をしつつも、山田さんの頭から滝のように流れ出ている汗にギョッとして、慌てて座るように促す。
「ちょっ、大丈夫?とりあえず座りなよ」
「水持ってこようか?大丈夫?」
三橋さんも心配そうに声をかければ「ううぅっ…」とヨロヨロと自分の席へと倒れこむように座る山田さん。自分のデスクにあったマグカップのコーヒーを一気に飲み干すと、はぁぁぁぁーと深い溜息を吐く。
マジで、一体、何事なのか??思わず三橋さんと顔を見合わせつつ、落ち着いた山田さんに向き直る。
「さっき、下に理事長が来てて何事だろうと思って付いて行ったの、そしたら地下で警察の人と手首が発見されたって話をしてて、しかも理事長がそれをまだどこにも公表するなって言って「それ人に言ったらまずいやつじゃん!」」
とすかさず三橋さんの突っ込みが入る。
「おやおや、私達巻き込み事故にあってる?」
茶化すように言ったものの、おいおいマジかと、バレたらうちの研究室が消されるのでは?と私も思うが…。いやはや……まさか本当に見つかるとは……。警察も頑張ったなと拍手を送りたくなる。こういうのを粘り勝ちと言うのだろう。だが、この大学がハイそうですか、捜査に協力します。なんて素直に応じるわけがない。現に理事長の言葉が全てを表している。
冷静な三橋さんが、山田さんを睨む
「他に誰かにこの話したの?」
「いや、してない…ごめん、つい興奮して…」
ようやく落ち着いてきた山田さんも冷静になってきて、己の発言の危険度に気づいたのか徐々に声が小さくなっていく
「さっきの話は発表があるまで聞かなかった事にすべきだよ。
今のは聞かなかったことにする。研究室にも余計な迷惑かけたくないでしょ?」
「うん…。そうだね…。浅はかでした。」
落ち込む山田さんの肩に手を置いて「元気出して」と言えば、返事代わりにズビッと鼻をすすった山田さんが「コーヒー淹れてくる」と席を立って、静かに部屋を出ていった。
三橋さんのキーボードをたたく音が静かに響いく…。気まずい…が、今話しかける勇気はない。そう思って、私も静かに実験ノートを取り出し今回の実験の流れを書き込んでいく、が、頭の中は発見されたと言う手首のこと…。
右手首本当に見つかったんだ……。この先、どうなって行くのだろうか…。分かるわけもない事を考えて、深い溜息を吐いたのだった。
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