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第29話 旱天慈雨
しおりを挟むわちゃわちゃと動き回る署員を潜り抜けながら、三郷はやっと終わった会議から自分の席に戻ってくると、溜息をつきながら椅子にどかりと腰掛ける。するとすぐさま
「捜査の方は順調か?」
聞きなれた声に振り返ればそこに立っていたのは、白骨化遺体の捜査を担当している前田だった。
「そう見えるか?」
「見えないからそう聞いてみた」
「相変わらず嫌味な野郎だなー、ツンデレのくせにー」
茶化しながら自分のデスクに向き直れば、空いている隣の席に前田が座る。此方から前田に絡むことはよくあるが、前田から此方に絡んでくることはまずない。驚きに思わず前田の顔を見る。
「なんだよ?どしたの?
1号館の捜索開始から1週間経つけど、手首見つからないから俺に八つ当たりしに来たわけ?」
思わずそう茶化せば、前田はそれに反論するでもなく真面目な顔をする。
「お前はどう思ってる。沼田医師の件」
そう言いながら差し出された缶コーヒーに「気が利くねー」とニコニコしながら受け取る。
「まぁ、沼田医師が自ら腹部に刃物を刺した自殺と言うより、転倒した拍子に腹部に刺さった。と言うのが検視の結果だ。がっ、直前に言い争っていた声を聴いたものがいる。もめた拍子にそうなったと誰しもが思うが、つかみ合いになった形跡がない。公表すると言うからには、何かの証拠を沼田医師が握っていたなら何か出てきそうなものだが、自宅のPCや医局のPCにも特に何もなくてな、教授陣や医局員先生方にも再度聴取は行っているが、皆口が堅いのなんのって、知らぬ存ぜぬそればっかりだ。」
「団体職員には往々にしてあることだからな、迂闊なことを言えば職を失うだけじゃすまない。」
「ブーメランってやつだな、耳が痛いねーまったく…。そういう前田の方はどうなんだ、かれこれ8日だろ?他の部屋も掘ったのに何も出てこないのか?」
「まぁな……。
そもそもが大学内部の噂話程度、本当にその部屋から出るともわからない。よくもまぁ、許可が出たと思ったくらいだ。現場を見た限り、床に穴をあけた形跡もないからな…。発見された建屋からも右手首は見つかっていない。となれば犯人、である婚約者がその手首を持って大池で入水自殺を図ったのか?
そもそも、遺体も見つかっていないしな…。」
「当時の捜査記録を読んだが、捜査は強制的に打ち切りにされてたみたいだな」
おっさん二人で缶コーヒーを飲みながら、はぁーとため息をついていると、突然前田のスマホが鳴り始める。
「はい。前田、どした?」
電話対応をしている前田を横目にPCの電源をいれつつも、聞き耳を立てる。
「出たのかっ!!!?」
あまりの大声に、部屋にいた皆が動きを止める。かくいう自分も、驚いて缶コーヒーを落としかけた。
今出たって言ったか?つまり…
「三郷…右手首が見つかった…1号館の例の部屋の床下5mのところから……」
「5m!?」
思わず前田の言葉に叫んでしまったが、ほんとにそれ、女医の手首か…?よく断念せずにそこまで掘ったな…。なんか、開けちゃいけない箱開けちゃった気がしてならないんだが…。
「はぁ?おいまさかっ、あぁー、そうか…。もう?いくらなんでも早すぎるだろ?
何故警察よりも向こうが上手なんだ?あぁ、わかった俺も直ぐに向かう。」
そう言いながら電話を切った前田が深い溜息を吐く
「その様子だと手首は発見されたがトラブル発生か?」
片手で頬杖をしながら前田を見れば、眉間にしわのよった前田が深い溜息を吐く。
「コンクリ剝がした地中5mから出てきたうえに、発見されて間もなく理事長がすっ飛んできたらしい。鑑定まですんなり行きそうもないぞこれは…」
「それ本当に女医の手首か?」
「わからん…別の遺体の可能性もあるし、女医の手首を隠すために理事長か、大学の中枢の誰かが関わった可能性も出てきた。もしかしたら婚約者も被害者の可能性もあるぞ…」
「理事長が関わっているなら捜査の許可は下りなかっただろ…。前任の理事か、はたまた大学の中枢にかかわる人間か、自分の大学なら警察に圧力駆け放題の工事を勝手にされる心配もないからかってか?迂闊じゃないか自分の足元に隠すなんて…」
三郷のぼやきがざわつく署内へと消えていった。
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