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第33話 解き放たれたモノ
しおりを挟むPCの電源を入れると溜まりに溜まったメールを返していく、どれくらいそうしていたのか突然自分のPHSが鳴り、びくりと肩を揺らすも表示を見れば佐々木と出ていた。イラつきながらも電話に出れば、来月の学会の参加の有無の連絡だった。当初は参加予定だったが、自分の体調面とよその大学の教授陣に自分の今の姿など見せられるわけもなくすべてキャンセルし、お前達だけで行って来いと告げると電話を切った。
すっかり暗くなった外を席から眺め、こんな風に怯える生活はいつまで続くのかと独り言ちる、沼田も事故死と決着が付きそうな流れだ…。自分には何の非もない。そうだ。昔のあれも、贖罪は十分に果たしている。そう思いながらも震える手、するとまたもPHSが鳴り始める。
今度は何だ!と、通話ボタンを押して耳に当てれば、変な音が聞こえるだけで何も声がしない。電波が悪いようだ。誰からだ?と耳から話して画面を見るが、そこには何も表示されていない。
はぁ?どういうことだ?再びPHSを耳に当てる。
「もしもし、悪いが電波が悪いようだ。
何も聞こえないからもう切るぞ」
そう告げている最中に、ボコボコっという音が電話の向こうから響く、そしてその音を聞いた瞬間に思い当たる。水の中で空気を吐いた時のような音であることに…。
「っ!?」
恐ろしくなりPHSを机へと放り投げる。
過呼吸のようになる自分を落ち着けようと、立ち上がり後ろへ下がって息を整えようとする。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
すると、切れていなかったPHSからの音量が徐々に上がっていく
「ボコボコッ…シンジテ…ゴボボッ…ノニッ…ゴボッツ…ウラギリモノ」
最後だけはっきりと聞こえた男の声に、悲鳴を上げて逃げ出そうとするが、椅子のキャスターに足を取られバランスを崩し倒れこむ途中で、頭を机に打ち付け、ブラックアウトした。
ゴトッ!!!
と、言う音に突然目が覚める。気づけばなぜか床で寝ている。何故?そう思いながら体を起こそうとすれば、激しく痛む頭に膝、痛みに顔をゆがめながら起き上がれば自分の教授室…。
そこではっきりと覚醒した頭が直前の出来事を思い出す。慌てて立ち上がれば、思わず眩暈に襲われ机へと手をつくとビチャリとした感覚、なんだ?と思ってみれば赤い液体、血…ふと思い出して濡れていない方の手で自分の頭を触ればやはり血がついている。が既に乾いてパリパリとした手触り、またも、上がる心拍数に呼吸が早くなる。
恐る恐る目を自分のデスクへとむければ、人の手首が机の真ん中に落ちている。
千切れたような手の断面の手首から、見合わぬ量の血が流れ出ており、床へと滴り落ちている。その手を見て思い出す。
まさか、まさか…自分の胸を押さえながら見つめたその手の薬指に光るのはシルバーのリング、そして見まごうことない女の白い手……なんで、なんでここに、今更……あれだけ探したのに、何故…、そう思っているとその手首がピクリと動いた。
「あっ……あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
今度こそ走りだし、教授室の扉を乱暴に開け放ち階段を降りようと向かえば、下から聞こえる不気味な、ズルッ…という何か重たい物を引きずるような不気味な音、絶対に人ではないと一瞬で理解する。鳴りそうになる歯を食いしばり、エレベーターへと目が行くがこのような状況下でエレベーターなど、どう考えても悪手だ。非常階段を使えば外から降りられる!そう思い立ち、蛍光灯に照らされた廊下の先にある非常階段に繋がる扉を見た瞬間、扉上部の蛍光灯が「バンッ!!!」とヒューズが飛んだかのような音を立てて消える。思わず一歩後ろに下がれば、それを合図と言わんばかりに、廊下の蛍光灯が次々消えて猛スピードで闇がこちらに迫ってくる。追い立てられる様に慌てて身を翻し、袋小路と分かっていても屋上へ繋がる中階段を駆け上がる。屋上の扉など、このご時世何処も鍵がかかっているので外には出られない。だが、下に降りる勇気もない。
滝のように流れ出る汗をぬぐいながら屋上へと駆け上がる。屋上への金属製のドアノブに手をかけて押せばいとも簡単に開いた。だが、外に出られたとしても逃げ場はない。「クソッ!!!!」怒鳴りながら扉をあけ放ち、外へと出ると夜風が一気に吹き抜ける。
「グッ!!」その風から顔を守るようにして前へと進み扉を乱暴に閉めると、扉から距離を取る。
8階建ての建物の屋上だが、電灯は屋上の出入り口付近だけで、あたりは暗くフェンスなど無くそれがまた嫌な恐怖心を引き立たせる。飛び降りれば死ぬだろう…。だが逃げ場がない…。恐ろしくて淵まで行くことができず。なんとか扉を押さえてこちらへの侵入を拒むしかない。
泣きそうになりながら辺りを見回すが、ドアストッパーになりそうなものも武器になりそうなものもない。呼吸を整えようとするが息は上がったままだ。ズルッ…ズルッ…と着実に何かが近づいてくる。ドアを押さえるが手汗がひどくて金属の扉に手を触れると滑ってしまう。
来るな来るな来るな!!!!!そう内で叫びつつ扉を押さえていると、屋上の真ん中あたりでバチャリッ!と水分を多量に含んだ何かが落ちる音がした。何が落ちたかなど、先ほどのPHSを思い出せば容易に想像がつく、振り返る間もなく扉がドンっ!!!と何かに体当たりされ大きな音と振動を立てる。
もう嫌だ!!!!そう思いながら必死に扉を自分の背で抑えるため正面を向けば、嫌でも視界に入る屋上に落ちたもの、暗い闇から明りのある方へと、何かがビチャリビチャリと近寄ってくる。そして、ついに明りの下にその姿が晒される。
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