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第34話 恨み持つ者
しおりを挟むどれだけ悍ましい姿だと思っていたのに、目の前に現れたのはジーンズにTシャツ姿の短髪の男、俯いてて顔は見えないが、服のままシャワーでも浴びたかのようにずぶ濡れだ。顔は見えずとも目の前の人物が誰なのかわかる。
ガタガタと震え始める全身と、悪寒を覚えた時のようになり始める歯、あの時、最後に見たままの姿で目の前に…
「なっ、なんで、なんで…お前が!!!!死んだはずなのに!!!!」
そう怒鳴り散らせば、ゆっくりとその男が顔をあげるが、青白い正に死人のような顔色の男が白く濁った目でこちらを見つめると、緩やかに表情を変え、まるで微笑んでいるような顔をする。
しかし次の瞬間、目の前に小山の顔が迫る。どぶ臭い臭いと腐敗臭の混じったような、淀んだ池の匂いそのもの、目の前に迫った小山の目を見つめ、カラカラに枯れたのどから必死に声を絞り出す。
「ちっ、違うんだ、あっあれは、俺じゃなくて、あの時の俺は正気じゃなくて、焦ってたんだ!!お前が優秀だから、俺は惨めで!!!だから、お前が居なければと思った事もあった…だが…そんなつもりガハっ…」
突如として小山の両の手が自分の首を締め上げる。必死に振り払おうとすれば、皮膚どころか肉事ずるりと滑るように小山の腕の肉が下に落ち、尺骨と橈骨(とうこつ)がむき出しになる。先ほどまで笑顔だった小山の表情はすべての感情が抜け落ち、濁った眼で只管に首を締め上げてくる。
このままでは殺される!!!そう思い、小山の尺骨と橈骨を思い切り掴んで右へとなぎ倒すように振り払えば、いとも簡単に首から手は離れ、グシャッ!と言う音を立てて、小山が屋上に転がる。転がるようにその場から逃げ出そうとすれば、先ほどまで止んでいた扉が急にドンッ!ドンッ!!と先ほどよりも激しく体当たりをしているような音を立て始める。
逃げ場がない屋上で、小山からも扉からも距離を取ろうとすれば、急に腰辺りに何かが巻き付き、思わず地面に引きずり降ろされるように座り込む
「今度は何だ!!!!」
泣き叫びながら自分の腰を見れば、白い白衣を真っ赤に染め、憎しみをもった目でこちらを睨み上げる沼田の姿
「あぁぁっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
再び叫び声をあげながら、物言わぬ沼田から這いずるように逃げようとするが、腰へとキツク抱き着かれ、重たくて身動きが取れない。もうなりふりなど構ってられないと、沼田の髪を掴み上げて必死に引き離そうとするがびくともしない。ふと小山の方を見れば、崩れた肉をそのままに、ゆらりと立ち上がっている最中だった。まずいまずいまずい!!!
「どけっ!!沼田!!!!俺の邪魔をするな!!!!あれは俺のせいじゃない!お前が勝手に死んだんだ!逆恨みするな!!!どいつもこいつも!!俺の前に立つな!!俺の邪魔をするなぁぁぁぁ!!!!」
恐怖を超えて、怒声を振りまくも沼田の力は強まるばかり、するとキィーっとゆっくりと扉の開く音が夜の屋上にやけに大きく響いた。
あの何か重たい物を引きずるような音、あれはいつぞやのアレに違いないと頭の中をよぎる、小山が開けた扉から出てきたのは全身真っ黒の首のない人の形をしたモノ、カエルのように曲がった短い腕で上半身を支え這いずるそれは、つぶれた下半身のような身体を引きずり、ズルっと気味の悪い音を立てながら少しづつ腕を使ってこちらに近づいてくる。
だがそれは一体だけではなく、次から次へと扉から出てくる。そして、その後ろから出てきたのは所々赤く染まった白いシャツに紺色のスカート姿の女、首が捥げそうなほど捻じれるように曲がっている。そのセミロングの髪が夜風で揺れて、右手のシャツの袖口は真っ赤に染まっており、そこからボタボタト血が流れ続けている。捥げそうな首が、ゆっくりと持ち上がる。確実に死んでいるであろう首の角度だというのに、ボキボキと嫌な音を立てて持ち上がっていく、俯いた顔がこちらを見据え、震えあがる。
「あっ…あぁぁ…」
「どうして…どうして…どうして殺したの?
私を…小山君を…どうして?
日野君?」
「ちっ、…違う!!佐倉!!!あれは事故だ!!君まで殺すつもりはなかったんだ!!!」
「許さない」と、佐倉がゆらりと一歩進み出る。
「許さない」と、小谷がゆらりと一歩進み出る。
「許さない」と、沼田がこちらの首に手を伸ばす。
「許してくれ、小山、佐倉、沼田!!!!」
沼田が片手になった瞬間、思い切り沼田を振りほどき屋上の端まで逃げる。
すると、先ほどまで微動だにしていなかった黒い化け物共が一斉に動き出し、ものすごい速さで追ってくる。
そして、次の瞬間、背中にその化け物が飛びつくように圧し掛かると、あまりの重さにバランスを崩し前のめりになり手をつこうとするがそこには何もない。
屋上の端から重力に逆らえず体が真下へと落ちていく、反転した体、自分の首に巻きつく化け物の腕、遠ざかる屋上
一体私は何処で間違えた……。
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