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更なるプロデュース
06 アイドルは知っている
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経験値である光の残滓を振り払い、納刀した不破ミドリはのっぺらぼうに言葉をかける。
「フネちゃん、だよね?」
不和ミドリの後ろで、ただ一騎打ちの戦いを見届けていた円藤桜音は、その言葉に驚きの声を出す。
そして、当の『夜武者』はそれに答えようと、口であるはずの所に指を突っ込む。
人差し指を親指で穴を横に広げ、作った口で話す。
『ええ。そうよ』
「気持ち悪い!!」
不和ミドリよりも先に円藤桜音が口に出した。
彼女の言う通り、不気味に裂けたような口をする『夜武者』は人に恐怖を植え付けさせるような様相であった。
ゲーム上、『夜武者』には地獄から復活して主人公たちと戦う場面があり、今の姿が『地獄から蘇りし夜武者』という進化した形態であった。当然、その様相も第一形態よりも凄みのあるものとなる。
だから、円藤桜音の言葉は黒部フネの狙い通りの反応だったのだが、このときだけは要らなかった。
『桜音。黙りなさい』
「だって! フネちゃんの声でのっぺらぼうが喋ってるんだよ。いや、もう口が出来たからのっぺらぼうじゃないのかもしれないんだけど! むしろ、のっぺらぼうの方が良かったよ!」
顔を青くさせながら叫ぶ円藤桜音に、不破ミドリはお化け系が嫌いなのかな、と意外な一面を発見した気持ちを抱く。
「ねえ。フネちゃん」
『強かったわ』
不和ミドリの言葉よりも先に黒部フネが語る。
『私が創ったゲームで、私のほうがプレイ時間も長かった。それなのに、負けた。貴方の育成プログラムなのだから、結果的には良いのかもしれないけど、これは計算外なのよ』
人間的な――それこそ円藤桜音のような強い執着心を黒部フネは見たかった。
人から嫌悪されても仕方がないエゴのような、意地のようなものを不和ミドリの中から見つけ出したかった。
だが、それを見つけることは出来なかった。不和ミドリが何かを得たのは、感覚的に理解したのだが、それは黒部フネが予想していたのものでもなく、知見しているものでもなく、未知なものだった。
だから、敗北したのだと黒部フネは思っていた。
半ば理由を知りながらも、それでも黒部フネは本人に問うた。
――そして、それは正解だった。
『……ねえ、聞いていい? どうして貴女は強くなったの?』
「それは違うよ」
膝を付き、光となって消えていく『夜武者』に不和ミドリは近づいて答える。
「私が強くなったんじゃないよ。フネちゃんが弱かったんだよ」
『……私が?』
不和ミドリは声だけで、理解出来ないと言っていることが判り、苦笑した。
「そうだよ。一人でゲームを創ってばかりのフネちゃんが、アイドルの私より勝負の駆け引きが出来るわけないじゃん。」
はにかみながら告げる真実に、黒部フネは沈黙した。
『そうなの?』
「人の気持ちなんて判らないと思っているかもしれないけど、私は判るよ。アイドルやってたもん。人の喜ぶ顔で、気持ちが共有できているんだなって感じてた」
勝負の駆け引きのことを言っていた。相手がどう動くか、先読みの技術や戦術なども上げられるが、この場合は心の読み合いのことを不和ミドリは語っていた。
「一体私が何千人の喜ぶ顔と接してきたと思ってるの? アイドル、舐めちゃダメだからね、フネちゃん」
◇ ◇ ◇
『アイドル、舐めちゃダメだからね、フネちゃん』
インカム越しで入ってきた言葉に、黒部フネは脱力した。今頃、ゲーム内の『夜武者』も経験値の光となって完全消滅している頃だろう。
そうなれば二人の勇者を向かえるパレードが始まり、歓待が終わって二人がゲームから現実へと帰還する。
それまでは、一人だ。
「…………ふう~」
少し考える時間が欲しかった黒部フネにとって、それは有難かった。
(不和ミドリの成長を促すつもりが、まさかこっちが欠点を教えられるとは、ね)
コミュニケーション能力不足だと言えば簡単だが、きっと不和ミドリが言いたいのはそういうことではない。共感の大切さ、人との気持ちの繋がりのことを教えてくれたんだと、黒部フネは思った。
その答えは、子供らしく――子供にしか判らない答えに思えたのだが、案外そうではないのかもしれない。アイドルを通してそれを理解していた不和ミドリが言うのだから、信じる価値があった。
美川恵美子という前世を持ちである黒部フネは、自分の至らなさに羞恥を抱く。思えば、美川恵美子のときも実力がある分、人の気持ちに余り配慮してこたかったかもしれない。
そう思うと、余計に顔が熱くなる。
「……ヤバい、後で桜音にも謝らないと。結果的に騙しちゃったし」
取り合えず、甘いものでご機嫌を取ろうと思った黒部フネは台所へと向かった。その様子を、座敷でテレビを見ていたお祖母ちゃんが目ざとく見つけ、楽し気に後を追う。
座敷の中でつけっぱなしのテレビからニュースが流れる。
『――ニュースです。日本の映画監督、太井剣が療院していた病院で死亡が確認されました。
齢、89年の人生でした』
「フネちゃん、だよね?」
不和ミドリの後ろで、ただ一騎打ちの戦いを見届けていた円藤桜音は、その言葉に驚きの声を出す。
そして、当の『夜武者』はそれに答えようと、口であるはずの所に指を突っ込む。
人差し指を親指で穴を横に広げ、作った口で話す。
『ええ。そうよ』
「気持ち悪い!!」
不和ミドリよりも先に円藤桜音が口に出した。
彼女の言う通り、不気味に裂けたような口をする『夜武者』は人に恐怖を植え付けさせるような様相であった。
ゲーム上、『夜武者』には地獄から復活して主人公たちと戦う場面があり、今の姿が『地獄から蘇りし夜武者』という進化した形態であった。当然、その様相も第一形態よりも凄みのあるものとなる。
だから、円藤桜音の言葉は黒部フネの狙い通りの反応だったのだが、このときだけは要らなかった。
『桜音。黙りなさい』
「だって! フネちゃんの声でのっぺらぼうが喋ってるんだよ。いや、もう口が出来たからのっぺらぼうじゃないのかもしれないんだけど! むしろ、のっぺらぼうの方が良かったよ!」
顔を青くさせながら叫ぶ円藤桜音に、不破ミドリはお化け系が嫌いなのかな、と意外な一面を発見した気持ちを抱く。
「ねえ。フネちゃん」
『強かったわ』
不和ミドリの言葉よりも先に黒部フネが語る。
『私が創ったゲームで、私のほうがプレイ時間も長かった。それなのに、負けた。貴方の育成プログラムなのだから、結果的には良いのかもしれないけど、これは計算外なのよ』
人間的な――それこそ円藤桜音のような強い執着心を黒部フネは見たかった。
人から嫌悪されても仕方がないエゴのような、意地のようなものを不和ミドリの中から見つけ出したかった。
だが、それを見つけることは出来なかった。不和ミドリが何かを得たのは、感覚的に理解したのだが、それは黒部フネが予想していたのものでもなく、知見しているものでもなく、未知なものだった。
だから、敗北したのだと黒部フネは思っていた。
半ば理由を知りながらも、それでも黒部フネは本人に問うた。
――そして、それは正解だった。
『……ねえ、聞いていい? どうして貴女は強くなったの?』
「それは違うよ」
膝を付き、光となって消えていく『夜武者』に不和ミドリは近づいて答える。
「私が強くなったんじゃないよ。フネちゃんが弱かったんだよ」
『……私が?』
不和ミドリは声だけで、理解出来ないと言っていることが判り、苦笑した。
「そうだよ。一人でゲームを創ってばかりのフネちゃんが、アイドルの私より勝負の駆け引きが出来るわけないじゃん。」
はにかみながら告げる真実に、黒部フネは沈黙した。
『そうなの?』
「人の気持ちなんて判らないと思っているかもしれないけど、私は判るよ。アイドルやってたもん。人の喜ぶ顔で、気持ちが共有できているんだなって感じてた」
勝負の駆け引きのことを言っていた。相手がどう動くか、先読みの技術や戦術なども上げられるが、この場合は心の読み合いのことを不和ミドリは語っていた。
「一体私が何千人の喜ぶ顔と接してきたと思ってるの? アイドル、舐めちゃダメだからね、フネちゃん」
◇ ◇ ◇
『アイドル、舐めちゃダメだからね、フネちゃん』
インカム越しで入ってきた言葉に、黒部フネは脱力した。今頃、ゲーム内の『夜武者』も経験値の光となって完全消滅している頃だろう。
そうなれば二人の勇者を向かえるパレードが始まり、歓待が終わって二人がゲームから現実へと帰還する。
それまでは、一人だ。
「…………ふう~」
少し考える時間が欲しかった黒部フネにとって、それは有難かった。
(不和ミドリの成長を促すつもりが、まさかこっちが欠点を教えられるとは、ね)
コミュニケーション能力不足だと言えば簡単だが、きっと不和ミドリが言いたいのはそういうことではない。共感の大切さ、人との気持ちの繋がりのことを教えてくれたんだと、黒部フネは思った。
その答えは、子供らしく――子供にしか判らない答えに思えたのだが、案外そうではないのかもしれない。アイドルを通してそれを理解していた不和ミドリが言うのだから、信じる価値があった。
美川恵美子という前世を持ちである黒部フネは、自分の至らなさに羞恥を抱く。思えば、美川恵美子のときも実力がある分、人の気持ちに余り配慮してこたかったかもしれない。
そう思うと、余計に顔が熱くなる。
「……ヤバい、後で桜音にも謝らないと。結果的に騙しちゃったし」
取り合えず、甘いものでご機嫌を取ろうと思った黒部フネは台所へと向かった。その様子を、座敷でテレビを見ていたお祖母ちゃんが目ざとく見つけ、楽し気に後を追う。
座敷の中でつけっぱなしのテレビからニュースが流れる。
『――ニュースです。日本の映画監督、太井剣が療院していた病院で死亡が確認されました。
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