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更なるプロデュース
another1 葉桜洋平
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日本総理大臣、葉桜洋平仏頂面で会議を見ていた。見物といってもいい、それほど彼にとってこの会議が無為であることを証明している。
「――太井剣という男がどれほど映画界に貢献してきたかよく判ったよ」
「いいえ、総理は判っていません!」
「判ってるよ。私だって彼の映画を見たよ。凄かったさ、涙が出たよ。けど、一映画監督が死んだところで、この日本の財政にまで影響するかね?」
そこが会議の主題であり、葉桜洋平が理解できないであった。
「このデータを見てください」
一人の男が総理に説明を始めた。太井剣が公開して映画による経済効果をまとめたものであり、それは日本経済に大きな潤いを与え続け――20年間それを享受してきたことを赤裸々に口にする。
「君、恥ずかしくないのかね? 政府――いや、日本と言う国が一人の男におんぶに抱っこされたように言って」
「恥ずかしいという問題ではありません。これは事実なんです」
「君は少しオブラートという言葉を覚えなさい」
総理は苦虫を噛んだような表情をする。それも彼の気持ちを考えれば当然だった。
太井剣が与える経済効果について説明する男――長嶋浩二は、まるで太井剣という男が日本の経済を回しているような口振りだったからだ。
気のせいだとしても、総理という立場として気持ちのいい話ではない。
「それに。そこまで言うのなら、彼に総理大臣をやらせるべきだろう」
「馬鹿なことを言わないでください。映画監督に政治など出来るはずがない。だが、確かに太井剣にはそう錯覚させるほどの影響力がありました」
投げやりな言葉に、財務大臣が口を開く。
「太井剣の経済効果は日本だけではありません。アジア諸国はもちろん、かのアメリカも彼を称えている。その中には著名な俳優だった多く存在しており、彼がアメリカ人ならば、彼の名前を模したテーマパークが創られたと言う政治学者までいるんですよ。
太井剣は映画で経済を回した男――いや、映画で世界を動かしてきた男。そう捉えることだって出来るんです」
……成程。財務大臣は大変、太井剣という映画監督にお熱のようだ、と葉桜洋平は可哀そうな気持ちで思った。
「では、どうして日本でテーマパークを創らなかったんだ?」
少し頭を冷やしてもらうつもりで、無茶なことを言う財務大臣を嗜めるような意味を込めての言葉だったが、それを返したのは長嶋浩二だった。
「時代の問題です。太井剣がまだ現役だったとき、日本のメディア・カルチャーは今よりも根付いていなかった。今でこそアニメやゲーム・漫画が日本の文化と呼べるほど成長していますが、昔はそこまでの力はなかった」
「白黒のテレビでも大喜びする時代だったからな」
総理は懐かしそうに呟く。
「一番の要因は経済圏の規模でしょう。大国アメリカならば実現できたのでしょうが、日本ですと難しい」
「外国からも支持されているんだ。海外のお客さんを呼び込めばいい」
「その前の段階の話ですよ。儲かるからといって、銀行が信用もなしにお金を貸しますか? 無理でしょう。私が言っていることも結果論になってしまうのですが、テーパーマークが建築されていれば日本経済も今より好調していたでしょう」
財務大臣の嘆きに、長嶋浩二も同意する。
「死んだ者は仕方がない。蘇らないのだから。それで、日本はこれまで太井剣の恩恵を受けていたのだが、それがプツリと途絶えてしまったわけだ。日本経済に影響が出るのも時間の問題――そう言いたいのかい?」
「はい。その通りです!」
その通りです!――じゃないだろう。
顔は少し渋みが増す程度だったが、総理はこの現状になるまで放置していた事態に憤慨していた。
(予測できたことだろう、人間はいつか死ぬのだぞ!)
怒りを声に少しばかり含みながら、総理は出来るだけ落ち着いた声で財務大臣に問う。
「それで? 何か策があるのかい?」
「ええ。我々も馬鹿ではありません」
財務大臣の言葉に総理は、良い意味で期待を裏切ってくれたのだと思った。
「彼――太井剣が病院に入院したときから、いずれこのような事態になるだろうと踏んでいたのです。ですから、用意をしていました。太井剣の功績と威光をそのまま受け継ぐ人――二代目を」
「二代目――彼に息子がいたのかい?」
総理が知る限り、太井剣は子どもを作っていない。彼の映画スタジオから実力のある映画監督が何人も生まれたことは知っているが、誰も弟子・師匠の関係だとは言っていない。
ならば、隠し子かと――少し飛躍した結論に至ったとき、財務大臣はストップをかける。
「いいえ。彼には子どもがいませんし、弟子も取られていません。ですが、彼のメソッドならば、しっかりとこの日本に残っています」
「……すまない。よく判らないんだが、説明を頼む」
総理の言葉に財務大臣は嬉々として話した。
「権利ですよ、権利! 太井剣という映画監督はいなくなりましたが、彼の映画の権利はまだ残っている。そして、その権利は彼の会社が保有しています。『太井剣』というネームバリューは生きているんですよ!」
「……映画のリメイクを創ろう、という話かい?」
「リメイクではありません――リニューアルとでもいいましょうか。もっと説明しますと、我々の手で『二代目・太井剣』を創ろうと言う話ですよ」
……頭の痛くなる総理の横で――パチパチパと長嶋浩二の乾いた拍手だけが小さな会議室に響いていた。
「――太井剣という男がどれほど映画界に貢献してきたかよく判ったよ」
「いいえ、総理は判っていません!」
「判ってるよ。私だって彼の映画を見たよ。凄かったさ、涙が出たよ。けど、一映画監督が死んだところで、この日本の財政にまで影響するかね?」
そこが会議の主題であり、葉桜洋平が理解できないであった。
「このデータを見てください」
一人の男が総理に説明を始めた。太井剣が公開して映画による経済効果をまとめたものであり、それは日本経済に大きな潤いを与え続け――20年間それを享受してきたことを赤裸々に口にする。
「君、恥ずかしくないのかね? 政府――いや、日本と言う国が一人の男におんぶに抱っこされたように言って」
「恥ずかしいという問題ではありません。これは事実なんです」
「君は少しオブラートという言葉を覚えなさい」
総理は苦虫を噛んだような表情をする。それも彼の気持ちを考えれば当然だった。
太井剣が与える経済効果について説明する男――長嶋浩二は、まるで太井剣という男が日本の経済を回しているような口振りだったからだ。
気のせいだとしても、総理という立場として気持ちのいい話ではない。
「それに。そこまで言うのなら、彼に総理大臣をやらせるべきだろう」
「馬鹿なことを言わないでください。映画監督に政治など出来るはずがない。だが、確かに太井剣にはそう錯覚させるほどの影響力がありました」
投げやりな言葉に、財務大臣が口を開く。
「太井剣の経済効果は日本だけではありません。アジア諸国はもちろん、かのアメリカも彼を称えている。その中には著名な俳優だった多く存在しており、彼がアメリカ人ならば、彼の名前を模したテーマパークが創られたと言う政治学者までいるんですよ。
太井剣は映画で経済を回した男――いや、映画で世界を動かしてきた男。そう捉えることだって出来るんです」
……成程。財務大臣は大変、太井剣という映画監督にお熱のようだ、と葉桜洋平は可哀そうな気持ちで思った。
「では、どうして日本でテーマパークを創らなかったんだ?」
少し頭を冷やしてもらうつもりで、無茶なことを言う財務大臣を嗜めるような意味を込めての言葉だったが、それを返したのは長嶋浩二だった。
「時代の問題です。太井剣がまだ現役だったとき、日本のメディア・カルチャーは今よりも根付いていなかった。今でこそアニメやゲーム・漫画が日本の文化と呼べるほど成長していますが、昔はそこまでの力はなかった」
「白黒のテレビでも大喜びする時代だったからな」
総理は懐かしそうに呟く。
「一番の要因は経済圏の規模でしょう。大国アメリカならば実現できたのでしょうが、日本ですと難しい」
「外国からも支持されているんだ。海外のお客さんを呼び込めばいい」
「その前の段階の話ですよ。儲かるからといって、銀行が信用もなしにお金を貸しますか? 無理でしょう。私が言っていることも結果論になってしまうのですが、テーパーマークが建築されていれば日本経済も今より好調していたでしょう」
財務大臣の嘆きに、長嶋浩二も同意する。
「死んだ者は仕方がない。蘇らないのだから。それで、日本はこれまで太井剣の恩恵を受けていたのだが、それがプツリと途絶えてしまったわけだ。日本経済に影響が出るのも時間の問題――そう言いたいのかい?」
「はい。その通りです!」
その通りです!――じゃないだろう。
顔は少し渋みが増す程度だったが、総理はこの現状になるまで放置していた事態に憤慨していた。
(予測できたことだろう、人間はいつか死ぬのだぞ!)
怒りを声に少しばかり含みながら、総理は出来るだけ落ち着いた声で財務大臣に問う。
「それで? 何か策があるのかい?」
「ええ。我々も馬鹿ではありません」
財務大臣の言葉に総理は、良い意味で期待を裏切ってくれたのだと思った。
「彼――太井剣が病院に入院したときから、いずれこのような事態になるだろうと踏んでいたのです。ですから、用意をしていました。太井剣の功績と威光をそのまま受け継ぐ人――二代目を」
「二代目――彼に息子がいたのかい?」
総理が知る限り、太井剣は子どもを作っていない。彼の映画スタジオから実力のある映画監督が何人も生まれたことは知っているが、誰も弟子・師匠の関係だとは言っていない。
ならば、隠し子かと――少し飛躍した結論に至ったとき、財務大臣はストップをかける。
「いいえ。彼には子どもがいませんし、弟子も取られていません。ですが、彼のメソッドならば、しっかりとこの日本に残っています」
「……すまない。よく判らないんだが、説明を頼む」
総理の言葉に財務大臣は嬉々として話した。
「権利ですよ、権利! 太井剣という映画監督はいなくなりましたが、彼の映画の権利はまだ残っている。そして、その権利は彼の会社が保有しています。『太井剣』というネームバリューは生きているんですよ!」
「……映画のリメイクを創ろう、という話かい?」
「リメイクではありません――リニューアルとでもいいましょうか。もっと説明しますと、我々の手で『二代目・太井剣』を創ろうと言う話ですよ」
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