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とある大学生の話 1
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桜が舞う一本道を、たくさんの人が同じ方向に進んでいく。その先には、洋風の大きな建物が建っている。
あれが僕の進学した大学だ。高校時代、将来のことを考えるのが嫌になった僕は、とりあえず進学することにした。
ちなみにこの大学を選んだ理由はただ一つ。家から近いからだ。
校門が近づくにつれ、人々は賑やかさを増していく。これからの大学生活に期待を膨らませる人、そんな新大学生をあの手この手で勧誘する様々なサークル。
「進学にしたのは失敗だったかな……」
大学生なんて気楽でいいや、なんて思っていたけど実際は講義やらバイトやらで忙しいし、なぜかサークルに入るのが強制だし、入学初日で心が折れかけてきた。
入学式が終わったらさっさと帰ろう。
イヤホンで周囲の声を遮断し、自分の世界に閉じ籠もる。
元々社交的ではない僕にとって、この状態が1番気楽だった。
「――!」
人の隙間を縫うようにして進む。時々サークルのチラシを目の前に出されるが、手で払いのけていく。
「――!」
突然、誰かに肩を捕まれた。
咄嗟のことにどうしたらいいか分からず、肩を掴んでいる手を乱暴に振りほどいてしまう。
「痛っ!」
イヤホン越しに、後ろから声がした。
「あ、ごめ――」
後ろを振り返りながら口にする謝罪。
「――んなさ……」
そのたった数文字を、僕は言い切れなかった。
頭に桜の花びらをつけた目の前の人は、風に揺られるサラサラとした長い黒髪で、ぱっちりとした目にはうっすらと涙が浮かんでいる。さらに、小さめの鼻と薄いピンク色の唇が、完璧と言っていいほどのバランスで並んでいる。
簡単に言うと、目の前で美少女が手首を押さえて僕を涙目で見つめていた。
「あの……本当にごめんなさい」
「う、うん。こっちこそいきなりごめんね」
彼女は涙を服の袖で拭くと、「よっこいしょ」と意外と親父みたいな声を上げながら立ち上がった。
「あ、チラシ!」
ふと辺りを見渡すと、風で飛ばされていく数枚のチラシが目に写った。倒れた拍子に手を離してしまったのだろう。
「お願い、手伝って!」
そもそも原因は僕なので、もちろん拾いに行く。
学校の敷地外まで飛んでいったチラシも拾い、彼女の元へ戻る頃には、新入生らしき姿はほとんどなかった。
今頃は体育館で入学式の最中だろう。
「これで全部だよ。ありがとう!」
彼女が満面の笑みで頭を下げる。
「もう手首は痛くないんですか?」
僕はずっと気がかりだったことを聞く。涙目になるほどの痛みがあったのなら、念のため医者に見てもらったほうが良いと思っていたからだ。
「ああ、それならもう全然……やっぱり痛い! めちゃくちゃ痛い!」
ちょっと待って。今の間は何? しかも痛がっている手がさっきと違うけど?
明らかに大げさに痛がる彼女に、怪しむ視線を送る。
「あぁ痛い! これはきっと折れてるよ! 医者に行ってくるから、念のため名前と連絡先を教えて!」
「……」
僕の反応が薄いことに気がついたのか、今度はその場で寝そべり、ゴロゴロと転がり始めた。
「あー教えて欲しいなー!」
「……そろそろやめません? 連絡先ぐらいなら教えるので」
「反応薄すぎない!?」
まずは周りを見て欲しい。新入生がいなくなり、サークルの勧誘が一段落ついた在校生の方々がガン見してきているんだ。僕までこんな変人だと思われたくない。彼女の奇行を止める手っ取り早い方法を選んだだけだ。
ツッコミながら飛び起きた彼女も、やっと状況に気がついたようだ。ほんのり赤くなった顔をチラシで隠している。
彼女と少しの間だけど接して一つだけ分かった。
これが俗に言う残念系美少女だ
「と、とりあえず場所を移動しようか」
「どこにですか?」
彼女は持っているチラシを指差した。そこには図書管理室と書いてあり、よくよく見ると他にも「サークルメンバー募集!」など勧誘の言葉が並んでいた。
「あ、遅れたけど自己紹介。私の名前は早木鈴音。よろしくね! 新入生君」
「その呼び方はやめてください。僕は如月瞬、よろしくお願いします。早木先輩」
こうして、軽く自己紹介を済ませた僕達は足早に図書管理室とやらに向かう。
さて、質問。
チラシの真ん中に大きく書かれた「アナウンサー研究サークル」って何だ?
あれが僕の進学した大学だ。高校時代、将来のことを考えるのが嫌になった僕は、とりあえず進学することにした。
ちなみにこの大学を選んだ理由はただ一つ。家から近いからだ。
校門が近づくにつれ、人々は賑やかさを増していく。これからの大学生活に期待を膨らませる人、そんな新大学生をあの手この手で勧誘する様々なサークル。
「進学にしたのは失敗だったかな……」
大学生なんて気楽でいいや、なんて思っていたけど実際は講義やらバイトやらで忙しいし、なぜかサークルに入るのが強制だし、入学初日で心が折れかけてきた。
入学式が終わったらさっさと帰ろう。
イヤホンで周囲の声を遮断し、自分の世界に閉じ籠もる。
元々社交的ではない僕にとって、この状態が1番気楽だった。
「――!」
人の隙間を縫うようにして進む。時々サークルのチラシを目の前に出されるが、手で払いのけていく。
「――!」
突然、誰かに肩を捕まれた。
咄嗟のことにどうしたらいいか分からず、肩を掴んでいる手を乱暴に振りほどいてしまう。
「痛っ!」
イヤホン越しに、後ろから声がした。
「あ、ごめ――」
後ろを振り返りながら口にする謝罪。
「――んなさ……」
そのたった数文字を、僕は言い切れなかった。
頭に桜の花びらをつけた目の前の人は、風に揺られるサラサラとした長い黒髪で、ぱっちりとした目にはうっすらと涙が浮かんでいる。さらに、小さめの鼻と薄いピンク色の唇が、完璧と言っていいほどのバランスで並んでいる。
簡単に言うと、目の前で美少女が手首を押さえて僕を涙目で見つめていた。
「あの……本当にごめんなさい」
「う、うん。こっちこそいきなりごめんね」
彼女は涙を服の袖で拭くと、「よっこいしょ」と意外と親父みたいな声を上げながら立ち上がった。
「あ、チラシ!」
ふと辺りを見渡すと、風で飛ばされていく数枚のチラシが目に写った。倒れた拍子に手を離してしまったのだろう。
「お願い、手伝って!」
そもそも原因は僕なので、もちろん拾いに行く。
学校の敷地外まで飛んでいったチラシも拾い、彼女の元へ戻る頃には、新入生らしき姿はほとんどなかった。
今頃は体育館で入学式の最中だろう。
「これで全部だよ。ありがとう!」
彼女が満面の笑みで頭を下げる。
「もう手首は痛くないんですか?」
僕はずっと気がかりだったことを聞く。涙目になるほどの痛みがあったのなら、念のため医者に見てもらったほうが良いと思っていたからだ。
「ああ、それならもう全然……やっぱり痛い! めちゃくちゃ痛い!」
ちょっと待って。今の間は何? しかも痛がっている手がさっきと違うけど?
明らかに大げさに痛がる彼女に、怪しむ視線を送る。
「あぁ痛い! これはきっと折れてるよ! 医者に行ってくるから、念のため名前と連絡先を教えて!」
「……」
僕の反応が薄いことに気がついたのか、今度はその場で寝そべり、ゴロゴロと転がり始めた。
「あー教えて欲しいなー!」
「……そろそろやめません? 連絡先ぐらいなら教えるので」
「反応薄すぎない!?」
まずは周りを見て欲しい。新入生がいなくなり、サークルの勧誘が一段落ついた在校生の方々がガン見してきているんだ。僕までこんな変人だと思われたくない。彼女の奇行を止める手っ取り早い方法を選んだだけだ。
ツッコミながら飛び起きた彼女も、やっと状況に気がついたようだ。ほんのり赤くなった顔をチラシで隠している。
彼女と少しの間だけど接して一つだけ分かった。
これが俗に言う残念系美少女だ
「と、とりあえず場所を移動しようか」
「どこにですか?」
彼女は持っているチラシを指差した。そこには図書管理室と書いてあり、よくよく見ると他にも「サークルメンバー募集!」など勧誘の言葉が並んでいた。
「あ、遅れたけど自己紹介。私の名前は早木鈴音。よろしくね! 新入生君」
「その呼び方はやめてください。僕は如月瞬、よろしくお願いします。早木先輩」
こうして、軽く自己紹介を済ませた僕達は足早に図書管理室とやらに向かう。
さて、質問。
チラシの真ん中に大きく書かれた「アナウンサー研究サークル」って何だ?
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