そして2人は恋をする

たぬきよーぐると

文字の大きさ
1 / 4

とある大学生の話 1

しおりを挟む
 桜が舞う一本道を、たくさんの人が同じ方向に進んでいく。その先には、洋風の大きな建物が建っている。

 あれが僕の進学した大学だ。高校時代、将来のことを考えるのが嫌になった僕は、とりあえず進学することにした。

 ちなみにこの大学を選んだ理由はただ一つ。家から近いからだ。

 校門が近づくにつれ、人々は賑やかさを増していく。これからの大学生活に期待を膨らませる人、そんな新大学生をあの手この手で勧誘する様々なサークル。

「進学にしたのは失敗だったかな……」

 大学生なんて気楽でいいや、なんて思っていたけど実際は講義やらバイトやらで忙しいし、なぜかサークルに入るのが強制だし、入学初日で心が折れかけてきた。

 入学式が終わったらさっさと帰ろう。

 イヤホンで周囲の声を遮断し、自分の世界に閉じ籠もる。

 元々社交的ではない僕にとって、この状態が1番気楽だった。

「――!」

 人の隙間を縫うようにして進む。時々サークルのチラシを目の前に出されるが、手で払いのけていく。

「――!」

 突然、誰かに肩を捕まれた。

 咄嗟のことにどうしたらいいか分からず、肩を掴んでいる手を乱暴に振りほどいてしまう。

「痛っ!」

 イヤホン越しに、後ろから声がした。


「あ、ごめ――」


 後ろを振り返りながら口にする謝罪。


「――んなさ……」




 そのたった数文字を、僕は言い切れなかった。



 頭に桜の花びらをつけた目の前の人は、風に揺られるサラサラとした長い黒髪で、ぱっちりとした目にはうっすらと涙が浮かんでいる。さらに、小さめの鼻と薄いピンク色の唇が、完璧と言っていいほどのバランスで並んでいる。

 簡単に言うと、目の前で美少女が手首を押さえて僕を涙目で見つめていた。

「あの……本当にごめんなさい」

「う、うん。こっちこそいきなりごめんね」

 彼女は涙を服の袖で拭くと、「よっこいしょ」と意外と親父みたいな声を上げながら立ち上がった。

「あ、チラシ!」

 ふと辺りを見渡すと、風で飛ばされていく数枚のチラシが目に写った。倒れた拍子に手を離してしまったのだろう。

「お願い、手伝って!」

 そもそも原因は僕なので、もちろん拾いに行く。

 学校の敷地外まで飛んでいったチラシも拾い、彼女の元へ戻る頃には、新入生らしき姿はほとんどなかった。

 今頃は体育館で入学式の最中だろう。

「これで全部だよ。ありがとう!」

 彼女が満面の笑みで頭を下げる。

「もう手首は痛くないんですか?」

 僕はずっと気がかりだったことを聞く。涙目になるほどの痛みがあったのなら、念のため医者に見てもらったほうが良いと思っていたからだ。

「ああ、それならもう全然……やっぱり痛い! めちゃくちゃ痛い!」

 ちょっと待って。今の間は何? しかも痛がっている手がさっきと違うけど?

 明らかに大げさに痛がる彼女に、怪しむ視線を送る。

「あぁ痛い! これはきっと折れてるよ! 医者に行ってくるから、念のため名前と連絡先を教えて!」
 
「……」

 僕の反応が薄いことに気がついたのか、今度はその場で寝そべり、ゴロゴロと転がり始めた。

「あー教えて欲しいなー!」

「……そろそろやめません? 連絡先ぐらいなら教えるので」

「反応薄すぎない!?」

 まずは周りを見て欲しい。新入生がいなくなり、サークルの勧誘が一段落ついた在校生の方々がガン見してきているんだ。僕までこんな変人だと思われたくない。彼女の奇行を止める手っ取り早い方法を選んだだけだ。

 ツッコミながら飛び起きた彼女も、やっと状況に気がついたようだ。ほんのり赤くなった顔をチラシで隠している。

 彼女と少しの間だけど接して一つだけ分かった。

 これが俗に言う残念系美少女だ

「と、とりあえず場所を移動しようか」

「どこにですか?」

 彼女は持っているチラシを指差した。そこには図書管理室と書いてあり、よくよく見ると他にも「サークルメンバー募集!」など勧誘の言葉が並んでいた。

「あ、遅れたけど自己紹介。私の名前は早木はやき鈴音すずね。よろしくね! 新入生君」

「その呼び方はやめてください。僕は如月きさらぎしゅん、よろしくお願いします。早木先輩」

 こうして、軽く自己紹介を済ませた僕達は足早に図書管理室とやらに向かう。




 さて、質問。


 チラシの真ん中に大きく書かれた「アナウンサー研究サークル」って何だ?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】どうか私を思い出さないで

miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。 一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。 ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。 コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。 「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」 それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。 「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」

この離婚は契約違反です【一話完結】

鏑木 うりこ
恋愛
突然離婚を言い渡されたディーネは静かに消えるのでした。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

カメリア――彷徨う夫の恋心

来住野つかさ
恋愛
ロジャーとイリーナは和やかとはいえない雰囲気の中で話をしていた。結婚して子供もいる二人だが、学生時代にロジャーが恋をした『彼女』をいつまでも忘れていないことが、夫婦に亀裂を生んでいるのだ。その『彼女』はカメリア(椿)がよく似合う娘で、多くの男性の初恋の人だったが、なせが卒業式の後から行方不明になっているのだ。ロジャーにとっては不毛な会話が続くと思われたその時、イリーナが言った。「『彼女』が初恋だった人がまた一人いなくなった」と――。 ※この作品は他サイト様にも掲載しています。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

婚約破棄は十年前になされたでしょう?

こうやさい
恋愛
 王太子殿下は最愛の婚約者に向かい、求婚をした。  婚約者の返事は……。  「殿下ざまぁを書きたかったのにだんだんとかわいそうになってくる現象に名前をつけたい」「同情」「(ぽん)」的な話です(謎)。  ツンデレって冷静に考えるとうっとうしいだけって話かつまり。  本編以外はセルフパロディです。本編のイメージ及び設定を著しく損なう可能性があります。ご了承ください。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

処理中です...