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次の週、いつもの場所に彼女はいた。いつものように隣に座った。実に半年ぶりだったが、僕にとっては〝いつも通り〟の事だった。いつものように空を眺めて、彼女は〝いつも通り〟雑学を披露した。僕はそれがとても嬉しかったけど、ふぅんとだけ返した。すると彼女は少し笑って、もうすぐ夏だねと言った。すっかり日は長くなって、日没まではまだ遠い。彼女は立ち上がって、柵を軽々と飛び越えた。ふわりとスカートが揺れる。僕ももう、止めなかった。おいでよと伸ばす君の手を取り、僕も柵の向こうへ。初めて見た柵の向こうの景色は、何も特別な物ではなくて。ただ遠くに街があっただけだった。互いに何も言わず、それでも確かに手は繋いだままで。忙しなく動く街を俯瞰していた。ここはどこか、現実とは切り離された場所のように感じていた。
「私ね、病気なんだ。」
彼女が口を開いた。
「元々身体が弱くてさ、特に冬はダメで。」
「うん」
「来れなくてごめんね。」
「ううん」
「来てくれて、嬉しかった。」
「うん」
「私ね、あと1年、生きれるかわかんないんだって」
震えた声で彼女は言った。僕はまた、「ふぅん」とだけ答えて、彼女の手を強く握った。ただ、街を、空を、眺めていた。僕たちはそれ以上言葉を交わすことはしなかった。やがて日没の時刻になり、空が紅く染まり、辺りが暗くなっても僕たちは動かなかった。どれほど時が経っただろうか。
「そろそろ帰らないと」彼女が立ち上がった。僕は彼女の手を掴んで、夏祭りに行こう。と言った。彼女が一瞬、戸惑いの表情を見せたので、僕はもう一度同じ言葉を繰り返した。彼女が頷いてくれたので僕は手を離して、いつも通りまたね、と解散した。
忘れられない、高校一年生の夏が始まった。
帰り道、僕は文具店に寄って桃色のノートを買った。恥ずかしながらあの頃の僕は彼女をイメージしたんだと思う。最も、可愛らしい女の子=ピンクなんて安直な考えだが、結果、彼女は喜んでくれたので良しとした。次の週、ノートとペンを持参して、彼女に提案した。
「50個、したいことを考えよう」
彼女は唖然としていたが、構わず僕は続けた。
「正直に言う。僕は君のことが好きだ。だから君と沢山想い出が作りたいんだ。君さえ良ければ、毎週金曜日を僕にください。毎週1個、君のしたいことを叶えさせてほしい。」
彼女は暫く黙っていたが、少し考えた後、
「私も瑞希くんが好きだよ」と笑った。
僕は考えるより先に彼女を抱きしめていた。僕の腕の中で彼女は少し震えていた。
「でもね、50個は、無理かもしれない。だって私は、」
そんな彼女の言葉を遮って、
「大丈夫だよ。50個、絶対叶えよう。」と言った。彼女の頬を涙が伝った。僕は彼女の前で泣いてしまったあの日から、もう絶対に涙は見せないと決めていたから、少しだけ上を向いて、ただ彼女を抱きしめた。その後、いつも通り日没を待ちながら、2人でノートを埋め始めた。
1つ目の〝したいこと〟に彼女が
“瑞希くんと付き合いたい”と書いたから、
僕は正式に告白して居ないことに気付かされた。彼女を見るとわざとらしく頬を膨らませ、むくれていた。改めて気持ちを告白し、彼女は笑顔になる。その日、めでたく僕たちは恋人になった。7月2日の事だった。
「私ね、病気なんだ。」
彼女が口を開いた。
「元々身体が弱くてさ、特に冬はダメで。」
「うん」
「来れなくてごめんね。」
「ううん」
「来てくれて、嬉しかった。」
「うん」
「私ね、あと1年、生きれるかわかんないんだって」
震えた声で彼女は言った。僕はまた、「ふぅん」とだけ答えて、彼女の手を強く握った。ただ、街を、空を、眺めていた。僕たちはそれ以上言葉を交わすことはしなかった。やがて日没の時刻になり、空が紅く染まり、辺りが暗くなっても僕たちは動かなかった。どれほど時が経っただろうか。
「そろそろ帰らないと」彼女が立ち上がった。僕は彼女の手を掴んで、夏祭りに行こう。と言った。彼女が一瞬、戸惑いの表情を見せたので、僕はもう一度同じ言葉を繰り返した。彼女が頷いてくれたので僕は手を離して、いつも通りまたね、と解散した。
忘れられない、高校一年生の夏が始まった。
帰り道、僕は文具店に寄って桃色のノートを買った。恥ずかしながらあの頃の僕は彼女をイメージしたんだと思う。最も、可愛らしい女の子=ピンクなんて安直な考えだが、結果、彼女は喜んでくれたので良しとした。次の週、ノートとペンを持参して、彼女に提案した。
「50個、したいことを考えよう」
彼女は唖然としていたが、構わず僕は続けた。
「正直に言う。僕は君のことが好きだ。だから君と沢山想い出が作りたいんだ。君さえ良ければ、毎週金曜日を僕にください。毎週1個、君のしたいことを叶えさせてほしい。」
彼女は暫く黙っていたが、少し考えた後、
「私も瑞希くんが好きだよ」と笑った。
僕は考えるより先に彼女を抱きしめていた。僕の腕の中で彼女は少し震えていた。
「でもね、50個は、無理かもしれない。だって私は、」
そんな彼女の言葉を遮って、
「大丈夫だよ。50個、絶対叶えよう。」と言った。彼女の頬を涙が伝った。僕は彼女の前で泣いてしまったあの日から、もう絶対に涙は見せないと決めていたから、少しだけ上を向いて、ただ彼女を抱きしめた。その後、いつも通り日没を待ちながら、2人でノートを埋め始めた。
1つ目の〝したいこと〟に彼女が
“瑞希くんと付き合いたい”と書いたから、
僕は正式に告白して居ないことに気付かされた。彼女を見るとわざとらしく頬を膨らませ、むくれていた。改めて気持ちを告白し、彼女は笑顔になる。その日、めでたく僕たちは恋人になった。7月2日の事だった。
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