引退した最強処刑人はハグレ者達と仲良くやります~法で裁けぬ巨悪に鉄槌を!~

にゃーにゃ

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第61話『タネも仕掛けもある、奇跡』

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「ユーリさんは闘っています。この月の下で」

「でも、パパが、まけるはず……」




 アルテは、語った。
 ギルドマスターの最終任務の内容を。

 ユーリの死が任務に含まれていること。
 迷宮術士のユーリ以外には出来ない任務であること。




「……死を、前提とした作戦」

「最終任務は、死ぬこと、です」




 アルテも、かつてユーリに救われたことがある一人。
 

 だから、ユーリのような存在がと理解している。
 正しいかどうか、という話ではない。必要なのだ。



 が、救えなかった者が居る。
 取りこぼしてしまった者たちがいる。
 それを救うのが、執行権限を持つ者たち。
  

 いつか、そんな物を不要とする世界が来るかもしれない。
 そうであれば、どれだけ良いだろうか。



 でも、それはいまではないのだ。
 いまを生きる人間を救うことは、今の人間にしかできない。 


 そして、それが誰かの犠牲の上に成り立っていることも。
 頭では理解していた、だが……。




「パパにも、奇跡はおこる。だって、がんばってた」

「ユーリさんが、見せてくれた物は……」




 アルテは、そこで口をつぐむ。
 奇跡ではない。手品、タネも仕掛もある。
 それを、ルナに言うべきか。



「大丈夫。あたいも、……わかってる」

「ルナちゃんは、どこまで……」



 ルナは、全て理解している。
 ユーリのことも、自分のことも。


 自分の力が危険な物である。
 嫌というほど何度も、あの男に聞かされた。

 あの男は、精神が歪み、狂っていた。
 最も信じたくない相手。

 
 その男が語りかけた言葉。
 それは理屈にかなった、矛盾のない、ただの説明だった。



 事実、現実、証拠、根拠、理論……。
 そういった物を、次々と突きつけられた。
 それらの事実は、ただ辛く苦しいだけの物でしかなかった。


 そこに、何の意味もなかった。


 自分が文献の魔王を創るために造られたこと。
 人殺しのために造られた、兵器であること。
 


 それが狂言でない、事実だと、現実を見せつけられた。
 調教術を使い、強制的に行われる性能試験。

 あの男は、殺戮兵器としてのを褒め称えていた。
 その、称賛の言葉は、最も嫌いだった。

 ルナは、自分の性能も機能も知っている。
 何百、何千と聞かされたから。
 性能試験をさせられたから。



 だけど、ユーリは、その事実を否定した。
 とても、稚拙で、子供っぽい方法だった。
 
 
 ユーリの言葉には、証拠も、根拠も、理屈も何もない。
 ただ、ひたすら俺の言うことを信じろの一点張り。

 でも、想いは伝わった、だからそれだけで信じるに十分な理由。


 世界を支配できるだけの理論上の
 そんな相手に、満身創痍になりながら、自分を、打ち負かしてくれた。
 


 ユーリの体からは血は出ていた。骨が折れる音も聞こえていた。
 骨が砕け、血が出れば、誰だって痛い。当たり前の話だ。
 

 ユーリが痛みを感じていなかった訳ではない。
 ただ、意地を通しただけなのだ。


 ルナを安心させる。それだけのために。


 「女の子とジャレあってるだけだ」
 そんな風に格好をつける。それを貫き通す。 
 それが、格好いいと思った。



 最後の一撃。星を穿つ竜星トゥインクル・スター
 隕石の直撃に匹敵する衝撃だったはず。


 それに、逃げず、両手を重ね合わせ、押し切った。
 まるで、遊んでいるかのように、ユーリは笑っていた。 


 そして、力尽きて倒れたルナを抱きしめた。
 ほっとした。安心した。嬉しかった。


 「ルナは、ただの、女の子」。
 子供でもわかるような、そんな、ウソ。

 
 でも、そんなウソを守るために、文字通り命を張った。
 意地を貫き通した。あの男ではなく、俺を信じろと叫んだ。


 限界を超えて、ムリをして、ボロボロになっていた。
 それでも、不敵に笑いながら、ウソをつきとおした。 


 涙が出るほどに嬉しかった。
 だから、信じると決めた。




「奇跡は、ガッツがあれば、おこせる。パパがそう、おしえてくれた」


 気合、根性。矜持。


「想いがあれば、奇跡が起こせる」



 強い想い。相手を思う気持ち。



「奇跡は、手品みたいな物です。タネも仕掛けもあります」

「そだね。だから、あたいたちも起こせる」
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