中年中太り成金アロハシャツおじさんを地獄の底へ叩き落とす所から始まる異世界転移物語

トムボーイ

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第八章 国家エスカルド

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 ジョンは不安げなマリアと別れ自分の部屋に戻る、すると本来は真っ暗なハズの自分の部屋に蝋が灯り薄暗くなっていた。
訪問者がジョンの部屋で待って居たのだ。牢の中でちょこんと大人しく座って待って居た。
訪問者の名はキャロ
ジョンが入って来るのを確認すると顔を笑顔にし嬉しそうに尻尾を振る

「ジョンさん! こんばんわ!」
「何の用だ?」

ジョンに挨拶の概念は無い

「あ、あのね、私ね、ジョンさんに会いたくて……」
「会いたかった……?」

と此処でジョンはカランダーンに言われた事を思い出す。
キャロはジョンに気があると
ジョンは面倒くさそうに髪を掻きキャロに近付く

「俺は会いたく――」

無かったぞと言い掛けた時、とある影からメイヴィスが現れジョンの肩に飛び乗り両手でジョンの口を塞ぐ
口を塞がれたジョンは暴れる
驚くキャロ

「んー! んーー!! (何するんだ! 止めろ!!)」
「や、やぁ、キャロ食事の準備が出来た様だぞ、行って来たらどうだ?」

と暴れるジョンの肩に跨りながら、キャロに優しく語り掛けるメイヴィス

「う、うん……だけどメイヴィスお姉ちゃんは何をしているの?」
「あ、これか? これは遊びだ。ほれ、この通りジョンも喜んでいるだろう?」
「そうかな……? そう見えない様な……」
「あっはは、それは気のせいだ、ささ、早く行っておいで」
「うん、分かったよ、じゃあ、ジョンさん後でね」

と暴れるジョンを横切り部屋を出て行くキャロ
出て行ったのを確認すると手を離すメイヴィス
封を切られた風船の様に言葉が飛び出すジョン

「何のつもりだ!? メイヴィス!」
「ふん、少女の泣く姿は見たくない、お前が何を言うつもりだったか分かる、だから止めたんだ」
「ああいうのはスパッと言った方が後々遺恨を残さず済むんだ分からないのか? 子供の頃の失恋の事なんてすぐに忘れる、あれだって一時的なモノだろうさ、子供の頃の恋もすぐに忘れる、お前も元人間なら経験があるだろ?」
「なら自然消滅するまで待ってやれ、エルの様な事はするな」

ジョンはメイヴィスの底知れぬ情熱に溜息を吐き、諦め言う

「……はいはい、分かったよ、お前の言う通りにしてやるさ」
「素直で宜しい、お前も食事を取れ、今日は疲れたろう? 色々とな」
「ちょっと待て、お前もしかして俺にずっと張り付いていたのか? 一日中?」
「あぁ、朝以外はずっと見ていたぞ、命令だからな」

その言葉の意味するところはアリエナやマリアとの一件も見られていた事になるという事である

「ふふふ、まぁ今朝は色々言ったがお前は何だかんだで人の気持ちが分かる奴だ。ちと自分勝手だがな、我はお前の事嫌いじゃ無いぞ」

そう言い黒髪の少女は黒い影へ帰る
静寂に包まれる牢

「こ、抗議だ! 奴に抗議してやる!!」

と部屋を飛び出すジョンであった。


 ジョンが向かったのは山の中、カランダーンの住処である
山の結界はジョンが通れる様に既に調整済み
カランダーンの住処に凄まじい形相で飛び込むジョン

「カランダーン! 話がある!」
「おやおや、どうしたの? 怖い顔して」
「メイヴィスを俺から離せ! 俺の行動、言動を盗み見盗み聞きさせるな!」
「あぁその事? でもさぁ、そうは言われてもねぇ、ザッラーみたいな事もあるしさ、この世の中も物騒だよ? メイヴィスの一人や二人付けて無いと不安だよ」
「嫌ダメだ! 絶対にダメだ! 俺は死なないアイツが居なくてもな、俺の事を少しは信用しろ」
「う~ん……ダメ、兎に角ダメ」
「ゲェ!! てめぇ! この女!!」

とジョンはカランダーンの両肩を掴みユラユラと激しく揺らす。

「わー酔う~止めて~~……あ、そうだ! 君に教えて置く事があったよ」
「あ? 何だ?」
「君の力についてだよ、魔法を滅茶苦茶にしちゃうその力」
「そういえば、そんな事言ってたな」

ジョンは魔力を自分の身体に宿していない
なので魔法がジョンの身体に触れるとその魔法は不具合を起こしてしまう
例えば治癒魔法をジョンに使った時、不具合を起こし普通は起こるはずのない痛みが発生する
次に転移魔法を使った時、ジョンの服の両袖のみが転移せずそのままの場所で落ちる

「その力、何時までも名前も付けないといると不便だから私が考えて置いたよ、『エラー』今からはそう呼ぶよ」
「単純だな」
「五月蠅いな、こういうのは単純で良いんだよ、変に捻った名前にする方が恥ずかしいよ、でさ、君のそのエラーについて詳しい話をするね」

そう言ってカランダーンはエラーについての説明をする

エラーは魔力を身体に宿さない限り本人の意思関係無く必ず起こる
どんなエラーが起こるかは誰も予測不可能、良い方にも悪い方にも転ぶ可能性がある、但し同一人物の同一の魔法なら必ず同じエラーが起こる
例えばカランダーンの転移魔法ならエラーは服の袖が転移しない事、これは何度使っても同じエラーが起こる、しかしこれがカランダーンの転移魔法では無く他の人物の転移魔法だった場合、違うエラーが起こる(ザッラーの場合は所持する武器が転移しないエラーが起こった)、逆にカランダーンが転移魔法では無く別の魔法を使った場合も違うエラーが起こる(カランダーンの治癒魔法なら痛みを発生するエラーが起こる)
最悪エラーの所為で死ぬ可能性もある
エラーはどんな種族の魔法にも起こる、神も例外では無い
ジョンの所持する四つの神の魔具、『神器』もジョンが触れた影響でエラーを起こしている
ラライクの糸 完全操作→変色
元はこの糸に触れた神以外の物を完全に操る力を持っていたが今ではそんな力も消え普段は透明だがジョンが触れた瞬間赤く変色するだけの切れない丈夫な糸になってしまった。

渦巻く光  次元幽閉→発光
この剣からは光線が発射されその光線に当たったモノを別次元へと飛ばす事が出来る力、所持者はその別次元のモノを自由に出入りさせる事が出来る力だったが今では折れない丈夫な剣、刀身は光輝く、のみ

貫く幸福 完全治癒→花咲かし
この槍に貫かれたモノはあらゆる病や外傷を治す事が出来るハズだったが今では突いた所から一輪の花が咲く折れない槍

「どれもこれも劣化してるじゃねぇか……」
「確かにね、でもその三つともかなり良い材質で出来てるから、普通の武器として考えれば優秀だよ」
「この三つ共盗品だからな、面倒だしとっとと返したいんだが……」
「今の状況で返されても困るだけでしょ、持っとけ持っとけ」
「そう言われてもな……」
「で、此処からが重要でね、次にそのウェークの透明な短剣だけど」
「あぁ、これか? 確かこれも借りっぱなしだったな」

ウェークの短剣 形状変化→神殺し
美しい透明の短剣、元はこの短剣の姿をありとあらゆる形に変えられる力を持っていた。(例え短剣→大剣等)
現在、この短剣を持っていれば神の攻撃を完全に無効化出来る、この剣で斬れば神も殺せる

「この短剣だけ魔法が大化けした。とてつもない本当とてつもないモノにね」

神殺し、これはかつて未だに誰も達成した事の無い大罪、神すらも他の神を殺した事が無い、もし殺すとなればこの星は砕け散る程の力が必要
だがこの短剣の場合、神の急所を刺せば人間を刺し殺すと同じに殺せる、星も傷付かない

「もしこの短剣の存在を神々が知れば大問題になる、君も恐らく強制的に元の世界へ戻されるだろう」
「この事を知っているお前はどうするんだ? 確かパーラとか言ったか? 奴もこの事を知っている筈だ」
「私達はこの事を黙認するつもりだよ、君に頼みたい事があってね」
「? どう言う事だ?」
「君にとある神を殺して貰いたい……という依頼だよ」
「行き成りだな……」

ジョンに差し出された突然の依頼
そして彼は殺し屋

「まぁいい詳しい内容を聞かせろ」
「殺して欲しい対象はさっき話した人間を不老不死にしようとする会の会長だよ」
「名は?」
「敵のボスの正体はまだ分かっていないよ、私達もそれを探るつもりだけど君にも捜して欲しい」
「お前等の持っている敵についての情報は?」
「今教えられるような事は無いな、だってそんな奴等が潜めているとは知らなかったんだからね」
「おいおい、ちゃんとしてくれよ、神様なんだろ?」
「確かに私達は平和ボケしていたね、反省反省」

反省と言葉に出しているだけで反省はしていない

「じゃあ次だ。見返りは何だ?」
「君を元の世界に戻す事」
「それはジャックを連れて来た時の報酬だろ? 神殺しの報酬では無い筈だ」
「神を殺して元の世界に帰れるだけじゃ流石に可哀想か……分かったよ、君の言う事を何でも一つ叶えて上げるよ、何でもね」
「何でも? 何だか信用できないな」
「信用して欲しいな、私これでも神様だよ?」

ジョンはカランダーンの今までの行いを振り返り更に信用が出来なくなる

「分かった。その事はあまり期待しないでおく事にする」
「酷い事言うなぁ、拗ねちゃうぞ」
「気色悪い声を出すな、吐き気がする、そんな事よりアンタに聞きたい事がある」
「ん~? なんだい?」
「ジャックの事だ。俺なら奴が持っている魔法『拒絶』を無効化出来ると言っていたよな? だがお前はこうも言った。俺の『エラー』は何が起こるか予測不可能だとつまりジャックの拒絶に触れた瞬間、どんな事が起きるかも分からないという事なんじゃないか? どうなんだ?」

ジョンの問にカランダーンは困った顔をする

「痛い所を突くね、始めに言っちゃうけど君ならジャックの拒絶を無効化出来るというのは元々憶測でね、確定事項では無かったんだ。正直言うけど君がジャックに攻撃する事が出来るか? 君のエラーがジャックの拒絶にどのような作用をするか、私にも分からない」
「……マジで?」
「だって仕方ないじゃないか、魔力を宿さないという事がこれほど大きな事だとは思ってもみなかったんだからさ」
「人を他所から攫って置いて仕方ないで済ます気か? 引っ叩くぞ」
「いや~ん、怖~い」
「本当にぶん殴ってやろうかね……」

頭を抱えるジョン
そんなジョンを見てケラケラ笑うカランダーン
頭が痛くなって来たので下山し館に戻るジョン
裏口から館に入った途端にキャロがジョンに抱きついて来たのだ。

「おかえりなさい! ジョンさん!」

満面の笑みでジョンの帰宅を祝うキャロ
しかしジョンにとってそんな事はどうでも良くとある疑問が頭を占領していた。

「お前なんで俺が裏口から来ると分かった?」
「メイヴィスおねえちゃんが教えてくれたんだよ」

ジョンに尻尾を振り抱きつきながら質問に答えるキャロ

(あの女……)

満面の笑みのキャロとは打って変わり怒りを募らすジョン
しかしそんな事キャロが知る余地も無い

「ジョンさん、ジョンさん、一緒にお喋りしよう? ね?」

無邪気にジョンを誘うキャロ

「遠慮して置く、俺はお話しが嫌いでね、大っ嫌いだ」
「そ、そうなんだ……ごめんね」

と尻尾をシュンとさせジョンから離れるキャロ

「お前には仲間が居るだろ? そいつ等と楽しい楽しいお喋りをしな、俺とは関わらない事だな」

とだけ言い残しジョンは自室へと帰ると招かれざる客二人がジョンの牢の中で大喧嘩を繰り広げていた。

「お嬢様はもう学校には行かない! あんな所行って何になると言うんだ!」
「ナサルお前がお嬢様を学校に行かせたくないのは分かるだがずっと甘やかせてるだけでは成長は無いぞ」
「鞭に打たれて成長するモノなんか何もありません!」
「お嬢様には学園に友人も居る」
「二人共、お嬢様を見捨てたじゃないか! 何が友人だ!」
「悪い言い方をするな! 彼女達だって苦しかったんだ見捨てた訳じゃ無い」
「どうだがな」

ナサルが子供の悪口を言うのは非常に珍しく滅多に聞ける事では無い

「俺の部屋で大声で喧嘩しないでくれないか?」

爆発寸前の爆弾
そんな中に飛び込むジョン
キッと睨みつけられる、しかしジョンは臆さない

「猿みたいにギャーギャー騒ぐのは構わないが此処ではやるな、森へ帰ってからやれ、お分かり?」
「ジョン! お前に用がある!!」

声を張り上げるナサル、ズカズカとジョンに近付いて来る
顔は怒りに満ちている

「お嬢様は学校には行かせない! 絶対にだ!!」
「……? 何を言ってんだ? マリアお嬢様の両親ならともかくお前にはそんな権限無いだろ、母性愛を拗らせ過ぎて遂に可笑しくなったのか?」

ナサルは明らかに正常では無かった。何時もならこんな挑発一言二言言い返せば気が済むのだが今は違うナサルは腰の剣に手を置いていたのだ。
ジョンもジェイクもその事には気が付いていた。
最悪の時に備えジェイクも剣に手を置く

「俺を斬り殺すつもりか? じゃあ俺を殺そうとする前に一応お前の置かれている状況を話して置くぞ、お前は牢の中に入っているから魔法は使えない、お前の攻撃手段はその剣しか無い事になるな? だが近距離戦はお前より俺の方が強い、そして後ろに立っているジェイクもお前が俺を襲えばお前を攻撃するだろう……分かったか? 自分の立ち位置が」
「そんな事知った事か」
「おいおい……」

ナサルの理性は既に飛んでおり、ジョンの脅しも通用しない
身構えるジョンとジェイク
ナサルは剣を抜く
影からメイヴィスも現れる

「おい! 何をしてるんだ!」
「殺され掛けてんだよ、見たら分かるだろ?」

メイヴィスは影を腕の様に伸ばしナサルの剣を取り上げる

「!? 何をする!!」

メイヴィスを睨みつけるナサル

「この愚か者が!! 頭を冷やせ!」
「流石、頼りになるねぇ、メイヴィス姉さん」

クククッと笑いながらメイヴィスを煽てるジョン

「五月蠅いわ! ジョン! 黙って居ろ」
「おっと怒られちまったな、で? どうするんだ? ナサルこれ以上抵抗するなら、気絶させる事になるが……構わないか?」
「クッ……」

ようやく諦めるナサル、ほっと胸をなでおろすジェイクにメイヴィス

「ヒステリック女お前が何を言おうともマリアお嬢様の決定は覆らない、それともお前はマリアお嬢様の決定を無理矢理捻じ曲げようとしてるのか?」
「違う、私はただ……」
「”ただ”何だよ?」
「……」

今まで混乱し目が見えなくなった所為で今から自分がやろうとしていた事も見えていなかったと理解するナサル

「すまなかった……どうにかしていた」
「まぁ、気にするなよ、お前がどうにかしているのは今に始まった事じゃない」
「……好きに言え」
「さぁ、お前達、こんな所で油売ってないで明日の支度をしたまえよ」

とジョンは言いジェイクとナサルとメイヴィスを追い出そうとする

「ちょっと待てよ、俺もお前に用事があるんだ」
「先に言えよ」
「そんな状況じゃ無かっただろ? ほれ」

とジョンに紙切れを渡すジェイク

「シルフィア応援団に所属しているメンバーのリストだ。一応渡して置こうと思ってな」

(俺を連れて行く事に決定した訳か、大ビンゴだな)

「それはマリアお嬢様に渡しておけ、俺はあくまでマリアお嬢様の補助、作戦はマリアお嬢様が考える事になっているからな」
「……全く、分かった。お嬢様に渡して置く」

ジェイクは渋々部屋から出て行く

「我も一緒に行くからな」
「なんせ俺の監視役だからな、嬉しいねこんな美女と共に旅が出来るなんて」
「お前の監視の為だけじゃないぞ、マリアの話は前から知っていたんだ。何時かマリアを虐げた子等にはお灸をすえなければと思って居たんだ」
「スーパーお節介吸血鬼だな」
「ふふ、お節介なのは悪い事では無いぞ」

と腕を組み何故か偉そうにしているメイヴィスのおでこにデコピンを喰らわせた後、食事を取り、ジョンは眠った。



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