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一章 蔵座敷に棲むもの
傾国の荒い事後処理に因るぼんくらの箔 下
しおりを挟む「いやあ~、ほんにただの閨の師じゃったのぉ」
東へと向かう街道で宵がカッカと笑う。
昨晩、絹代の父母が寝入ったところをこっそり宵が見たのだ。彼らからは怪しげな血の臭いも、妖力も感じられなかったため、絹代の父母が闇堕ちになる心配はなかった。
「ただのって事は無いだろうが」
「水智の姉妹だとか言うくっさい奴らが来なかったら、ただのじゃろうが」
宵が鼻にしわを寄せて言う。
「水智の血の臭いは、周りの女が水智に入れあげていただけのこと」
水智は惚れ易く、また惚れられ易いらしい。それで毎度、女の妖力馴染ませに失敗し、闇堕ちを生みだすだけの結果になっているのは甚だ迷惑な話だが、当人同士が納得して身体改造に勤しんでいるのであるし、そんなものは宵にとって知ったこっちゃない。
「朔め、あやつらに熱烈な求愛をされとったのぉ。いよっ、色男っ」
「阿呆。
仕留められなかったのが悔やまれるな。次は人目の無い所で相対したい」
「そうじゃのう。ほんに火事や人目を気にするのは億劫じゃ」
二人はすっと剣呑な眼差しになる。一瞬後には普段の雰囲気に戻って朔が口を開く。
「で? これは何処に向かってるんだ?」
「ああ、それはじゃの、説明してやる、しばし待て」
宵は進んでいた街道を野山へと向かう横道へと変えていた。道なりに東へ向かうと思っていたが違うらしい。やがて猫達が現れ先導するように前を歩いた。いよいよ野山に差しかかった時、猫達が藪をかき分け獣道を行く。
「おい、何だ?」
「おお、居った居った! 灰チビ共!」
少し開けた土手下に猫達が屯していた。朔はその中心にある物に気付き、ぎょっと目を剥く。
そこに積まれていたのは、どさくさに紛れて消えたと聞いた破魔隊の赫巫。槍十四本に刀が二振りの締めて十六。
闇堕ちした隊士と堕ちかけた隊士は総勢十七名。朔が借りた赫巫刀は丁重にお返ししているので、つまりはどさくさの全てがここにある。
「お前なぁ……」
全く、呆れてものも言えないとはこの事だとばかりに眉間を揉む。あの場で猫がちょろちょろしているのは気付いていたが、赫巫を集めているとは思わなかった。しかもご丁寧に毛色の暗い猫にばかり働かせていたとみえる。
珍しく殊勝な事を言ってるなと思えばこれだ。着物は絹代がくれたので、それで満足して金は譲歩したんだとばかり思っていたが、あれは罪悪感だったらしい。
「落ちていたら拾うじゃろ?」
目をまん丸にして小首を傾げ、さもきょとんといった風で宵が言う。宵を知らない人ならコロリと騙されるだろうが、朔は鬱陶しそうに目を細めた。
「ざーとらしいんだよ」
「チッ。
仕方ないじゃろ? どう考えたってあやつらは朔を狙いにくるんじゃ。簪だけじゃどうにもならん」
「何、さり気なく俺のせいにしてんだ」
「朔の子種を熱望してたろうが」
「お前も執着されてただろうが。つーかンな事はいいんだよ。俺は行かねーからな!」
「先日の闇引きと今回の闇成りで、朔の黒刀も見てもらった方が良かろうよ。
いつ振りじゃ? 最後は二年も前だったか? 背も伸びて扱うには短かろう」
朔はぐっと詰まり、目だけギラギラと宵を睨む。宵は上目遣いにうるうると朔を見つめ続けた。
ぶっちゃけ朔は、宵が赫巫を盗ってきた事に対しては呆れ以外の感情は無かった。ただ、鍛冶屋に行きたくない、それだけだった。
この先、闇成りなるものが構ってきそうな気配は、朔だってビンビンに感じている。宵の赫巫が簪じゃあ心許ないのもわかる。
手強い二戦をこなした黒刀を鍛冶屋にみせ、自分の手入れでは補えない部分を職人に見てもらいたい気持ちだって勿論ある。
だが、あの鍛冶屋だけは駄目だ。行きたくない。
「赫巫なんぞ取り扱っている闇鍛冶屋は、わっちは他に知らんのでのぉ。なんだかんだ腕は確かなのじゃし」
「…………ハァ~。半分は返しておけよ」
「えーーー。折角運ばせたのにー」
「この量持ち込んだら一年は納品してもらえんぞ」
「クッ。刀は返さんからな!
お前たち! 半分は破魔隊に返してやれ。残りは金女ンとこへ先行じゃ」
宵はサビ猫に小さな小さな筒を括りつけた。手紙に油紙を巻き、蝋で封した物だ。
宵を囲むように並んだ猫達一匹一匹を、端からぐりぐりと撫でてやると、猫達はシュバッと一斉に散っていった。出会った当初よりも明らかに動きが洗練されてきている。
「これでちったぁ会う時間が少なくて済むの」
「絹代んとこでちまちま内職してたのはこれだったのか」
「金女の話は長いからのぉ」
「で、どんな得物を依頼したんだ」
「そりゃお任せよ。金女ならわっちに最良の物を作ってくれる筈じゃ!」
「大義名分与えてどーすんだよ。あいつ試行錯誤繰り返して三年は渡してくれんぞ」
「……あ!」
猫達の姿はとうに無く、宵から使命を受けて張り切ってもいたので、声も届かないほど遠くに行ってしまっていた。
やはりきちんと依頼をしに鍛冶屋へ行かないといけない様である。朔と宵は深々と溜息を吐いて、空っ風吹くなか街道へ歩きだした。
ちなみに破魔隊に返した半分の八本は、奇しくも生還した隊士と同数で、生田は「これで首は繋がった」と、それは泣いて喜んだらしい。
一章 蔵座敷に棲むもの ――了――
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