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二章 神のいた町
一、芙紫弥よりの勅命 上
しおりを挟む「妖怪が引かんなぁ。ぼちぼち減ってきても良い頃だと思うが」
芙紫の都を出て、それなりの距離を歩いてきた。人里から離れるほど強い妖怪が縄張りにしている。街道を行くならば、町と町の中間が一番手ごわいということになる。
朔たちは街道を無視し、最短距離を進んでいた。ついでに金になる妖怪が狩れればという意味もあった。
それが、そろそろ弱くなってきてもいいはずなのに、一向に妖怪共はへたれず勢いを増すばかりだ。
また一匹、いきり立った妖怪を斬り捨てる。
朔たちが尋常ならざる力を持っていても、現在宵が人の姿であるためか、力量の差のわからぬ木っ端妖怪が突っかかってくる。
朔たちより後方でも一戦交えている音が聞こえてくるが、自分たちに関わらなければ大いにやってもらって結構。むしろ音にひかれてそちらへ行ってしまえと考えながら、朔たちは山道を進んだ。なかなか派手な音がしているから、それなりの妖怪同士がそれなりの戦いを繰り広げているのかもしれない。
構わず数刻もずんずん行くと、死んだ妖怪が百舌鳥の早贄のように枝木にぶら下がり始めた。
奥に登るほど食い散らかされていない。死体を掠めるような、木っ端妖怪が近付けない領域に入った証である。
標高が高いとは言え世間一般には春だ。なのに腐敗も進んでいないのは、ごくごく最近のものと窺い知れた。
「おーおー、金女のやつ、気が立っとるのぉ。あれだけの赫巫を送ってやったから仕方ないが、……これはまずいのぉ」
「何がだ? 金女の、何としてでも打ち込みたい執念が伝わってくるな」
まだ死んでいない妖怪すらも、無理やり糸で木に括り付けられていた。抜け出す気力も尽きているようであるし、死ぬのも時間の問題だが。
「もともと金女は知合いんとこに間借りしておったのじゃ」
「へぇ? 奇特な奴もいるもんだ」
普通妖怪は縄張りに他の妖怪を入れたがらない。格下ならば餌として眼中に無いし、格下でも狩場を荒らすような妖怪なら野放しにしない。金女を格下扱いしておける妖怪となるとかなりの大妖怪である。
「普段なら木っ端妖怪がいくら沸いても……まぁそれほど構わんのだろうが、今は時期が悪い」
「あ? あー、赫巫を受け取ったばかりだからか……」
ボロ布のように細切れに散らばる残骸を見つけて、朔は面倒臭そうに避けて歩く。先ほどからこんなのばかりだ。
金女の気が相当立っているのだろう。折角の赫巫を受け取ったのに、碌に打ち込めずに木っ端妖怪が引っ切り無しにやってきたら、そりゃあ血も昇るというものだ。
ちなみにお使いを頼んでいた芙紫の猫たちは、街道沿いで宵を待っており、立派にその役目を果たして金女に荷を届けていた。宵は全猫を撫で倒し、ぐでんぐでんにしてやった。別に宵が猫好きだからなだけではない。最近物騒であるし、少しでも多く宵の妖術を分け与える為である。そういう事情なので朔からの胡乱げな視線も気にならない。
「仕方ない。わっちが金女の様子を見てくる。お前はそこらの駆除でもしていろ」
「はぁ? なんで俺がそんな七面倒臭いことを」
「なんじゃお前、そんなに金女に会いたかったのか」
「片付けてるわ」
ふふんっと宵が顎を反らした時、下方からものすごい速さで木々をなぎ倒しながら向かってくる物があった。
朔と宵がすかさず避けると、それはバシャンッと大岩にぶつかって弾けた。ザーッと水粒が豪雨のように周囲を濡らす。
大岩に叩きつけられたのは、橙がかった巫女装束を着た少女だ。袴に見事な双丘を乗せ、叩きつけられた衝撃で大きく揺れる。
木々がなぎ倒され見通しの良くなった下から、大きな黒い影も飛び出してくる。それは熊の妖怪である鬼熊で、十五尺以上はありそうな大物だった。
「くぅっ! しつっこいです!」
巫女装束の少女は水浸しで、長い髪や着物が顔や肌に貼りつくのも構わず印を結ぶ。
朔と宵はさっさとその場を離れて見物の体制だ。薄情ではない。人の獲物を横取りする方が薄情だとすら思っている。そも自分の力量も見極められず、のこのこと野山に入る方が悪い。
「黒鷲!」
『応ッ』
少女から黒い拳大の物が、森から現れた鬼熊へと突っ込んでいく。鬼熊が跳びかかろうと踏み込んだ足元がベコンッと沈んだ。少女は途切れず手印を結び続ける。
「青鶯! 橙燕!」
『はいな!』
『ぃよっしゃあ!』
今度は青と黄色の塊が飛び、鬼熊の全身が水球に包まれたと同時に、バリバリと雷に打たれて水球が激しく波打つ。
「白鷹! 赤梟!」
少女は地に膝をつき肩で大きく息を吐きながら、鬼熊に向かって印を突き出した。
『はいよー!』
『いくぜいくぜいくぜいくぜぇッ!』
水球が弾け飛ぶ。白い塊が鬼熊の周囲を驚異的な速さで周回すると、鬼熊が切り刻まれ血飛沫が飛ぶ。白が離れるとすかさず赤が巡り、鬼熊を炎で包み込んだ。ゴウッと凄まじい熱風が、朔たちの方までも吹き付けてくる。
「今度こそ、やった? も、も……、限界ですぅ……」
少女は膝立ち状態から、頭からべちょっとどろどろの地面に沈んだ。
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