冥闇異聞 ~淫蕩猫と盆暗は楽な方へ流れたい~

景之

文字の大きさ
26 / 29
二章 神のいた町

三、鉄砲使いの少女 上

しおりを挟む

 人の獲物を掻っ攫うとはどういう了見だ、と正当にキレられても文句は言えない状態である。
 朔は無関係を決め込む事にした。とりあえず端に寄り、傍観者を装う。

「な!? 新手の妖怪ですって!?」

「ここは退け、そこな女子おなご。こやつは悪さをする妖狐ではないわ」

「そいつが土地神様を苦しめてんのよ!」

 黄色い少女はビシッと鉄砲で銀狐を指す。

「何を言う。今はこやつが土地神ぞ」

「は、はぁ!? 何言ってるの、じゃあ後ろにぞろぞろ引き連れた闇堕ちは何だって言うのよ!」

 すうっと化け猫と朔の目が眇められた。

「闇、ねぇ?」

「ハンッ、お主が何者だろうとどうでもいわ! お主が引くならばわっちも見逃してやろう。如何か」

「何よ! だからそいつが偽妖狐だっつってんでしょ! そっちこそ邪魔するなら化け猫ごと殺すわよ!」

 少女が数発を発砲した。
 宵はぶわりと弾に向かって炎をぶつければ、弾が消えた。

「ハ! ドンピシャじゃ! ありゃ赤い小娘らと同じ黒炎! あいつァ闇成りじゃ!」

「普通の鉛玉もお前の火で消滅すんじゃねーの?」

「わっちが当たりと言ったら当たりなんじゃ!」

 宵は少女と男達に向かって威嚇の炎を出すと、ダンッと踏み込み飛び上がった。ぐるりと旋回し自分達と闇引きとを炎で分断して下り立つと、怪我した猫達を自分の背中に鼻面で放り上げる。

「お前ら死ぬ気で捕まっとれ。逃げるぞ! 援護ォ!!」

「おま、勝手に! くそったれ猫がぁ!」

「追うのよ!!」

 宵は炎の囲いを飛び出し、傍観を決め込んでいた朔を飛び越える。
 朔は悪態を吐きながらも黒刀の抜き放ち、宵と銀狐に向けられた弾を刀で逸らし、横をすり抜けようとした荒萬あらよろず二人を鞘で薙ぐ。

 荒萬二人と斬り合う朔に向かって、黄色い少女は躊躇無く更に発砲する。

「味方に当たるぞ? 怖ぇなァ」

「偽妖狐に加担するならアンタも敵よ! 退く気がないなら死ね!」

 二人と斬り合いながら、飛道具も気にしなくてはならないのは流石に分が悪かった。全ての猫が脱出したら、少女を守っていた残り一人の荒萬も朔に向かっていくだろう。
 機を見て引くつもりだった朔だがそんな余裕もなくなる。

「チィッ、これ以上やるなら腱の1本や2本覚悟しろよ?」

 荒萬達は何も言わずに刀を繰り出す。
 朔は剣呑に目を眇めた。

「そうかい、だったら鞍替え先でも考えとけ!」

 朔に切りかかってきた男の顎を鞘でかち上げ、向かってきたもう一人の男の刀を避けざまに、相手の肘に黒刀を滑らせた。流れる勢いでかち上げた男の膝裏をかき斬る。
 刀を取り落とし、膝裏を押さえ地に伏した男二人に目もくれず、黄色の少女を一瞥もせずに朔は走り出す。
 弾を食らわぬよう、細い湯の川を飛び越え反対岸側に移れば、弾ける音と共に朔のすぐ横にある柳の葉が散った。それでも朔は振り返らずに駆け出す。

「ふっざけんな!! せっかくぅ! せっかくここまで大事に育ててきたのにぃぃいっ!!」

 少女のものとは思えぬ怒声が聞こえる。ビチッビチッと何かが弾ける音が引っ切り無しにする。うまく川岸に生える柳が弾除けになってくれているようだ。
 ふっと目の前が陰った。

(上!!!)

 朔は咄嗟に横に転がる。
 ズドンズダンッっと黒い大影が降ってきて、地面に拳と膝を叩き込んだ。

「闇堕ちかよっ!」

 その黒々とした肌に、切れ切れに残った服は先ほどの荒萬のもの。少女の言葉から推察されるのは、この者達は水智の妻と同じ、人から闇成りにしようとしていたらしい。
 宵の話だと妖力や体液注入には、かなり繊細な調整をしなければ成功しないらしいというのに、こんなところで荒萬業などしているからだと、最終的に闇堕ちに天秤を傾けた張本人は心の中で八つ当たりをした。
 しかし闇堕ちならば、もう気を使ってやる必要もない。躊躇なく腱を斬った癖に、初めから配慮も糞もない気がするが、朔なりにはこれでも大層気を使ったつもりなのであった。

 転がりつつ周囲を素早く確認する。二匹斬り捨てる間はない。鉄砲の少女と最後の荒萬――おそらくあれも、闇成りに変態途中に違いない――が速すぎる。
 宵は妖狐らを安全な場所に置いたら戻ってくるだろうが、いつになるかわからない。
 幸い野次馬はいない。破魔隊はいないし、町や差配屋からの応援も今のところ気配がない。闇引きに不慣れな町ゆえに、よほどの混乱を来しているのかもしれない。

「しゃーねー、やるかッ」

 朔は愉しそうに地を蹴り、闇堕ちへと向かっていった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...