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二章 神のいた町
三、鉄砲使いの少女 上
しおりを挟む人の獲物を掻っ攫うとはどういう了見だ、と正当にキレられても文句は言えない状態である。
朔は無関係を決め込む事にした。とりあえず端に寄り、傍観者を装う。
「な!? 新手の妖怪ですって!?」
「ここは退け、そこな女子。こやつは悪さをする妖狐ではないわ」
「そいつが土地神様を苦しめてんのよ!」
黄色い少女はビシッと鉄砲で銀狐を指す。
「何を言う。今はこやつが土地神ぞ」
「は、はぁ!? 何言ってるの、じゃあ後ろにぞろぞろ引き連れた闇堕ちは何だって言うのよ!」
すうっと化け猫と朔の目が眇められた。
「闇堕ち、ねぇ?」
「ハンッ、お主が何者だろうとどうでも良いわ! お主が引くならばわっちも見逃してやろう。如何か」
「何よ! だからそいつが偽妖狐だっつってんでしょ! そっちこそ邪魔するなら化け猫ごと殺すわよ!」
少女が数発を発砲した。
宵はぶわりと弾に向かって炎をぶつければ、弾が消えた。
「ハ! ドンピシャじゃ! ありゃ赤い小娘らと同じ黒炎! あいつァ闇成りじゃ!」
「普通の鉛玉もお前の火で消滅すんじゃねーの?」
「わっちが当たりと言ったら当たりなんじゃ!」
宵は少女と男達に向かって威嚇の炎を出すと、ダンッと踏み込み飛び上がった。ぐるりと旋回し自分達と闇引きとを炎で分断して下り立つと、怪我した猫達を自分の背中に鼻面で放り上げる。
「お前ら死ぬ気で捕まっとれ。逃げるぞ! 援護ォ!!」
「おま、勝手に! くそったれ猫がぁ!」
「追うのよ!!」
宵は炎の囲いを飛び出し、傍観を決め込んでいた朔を飛び越える。
朔は悪態を吐きながらも黒刀の抜き放ち、宵と銀狐に向けられた弾を刀で逸らし、横をすり抜けようとした荒萬二人を鞘で薙ぐ。
荒萬二人と斬り合う朔に向かって、黄色い少女は躊躇無く更に発砲する。
「味方に当たるぞ? 怖ぇなァ」
「偽妖狐に加担するならアンタも敵よ! 退く気がないなら死ね!」
二人と斬り合いながら、飛道具も気にしなくてはならないのは流石に分が悪かった。全ての猫が脱出したら、少女を守っていた残り一人の荒萬も朔に向かっていくだろう。
機を見て引くつもりだった朔だがそんな余裕もなくなる。
「チィッ、これ以上やるなら腱の1本や2本覚悟しろよ?」
荒萬達は何も言わずに刀を繰り出す。
朔は剣呑に目を眇めた。
「そうかい、だったら鞍替え先でも考えとけ!」
朔に切りかかってきた男の顎を鞘でかち上げ、向かってきたもう一人の男の刀を避けざまに、相手の肘に黒刀を滑らせた。流れる勢いでかち上げた男の膝裏をかき斬る。
刀を取り落とし、膝裏を押さえ地に伏した男二人に目もくれず、黄色の少女を一瞥もせずに朔は走り出す。
弾を食らわぬよう、細い湯の川を飛び越え反対岸側に移れば、弾ける音と共に朔のすぐ横にある柳の葉が散った。それでも朔は振り返らずに駆け出す。
「ふっざけんな!! せっかくぅ! せっかくここまで大事に育ててきたのにぃぃいっ!!」
少女のものとは思えぬ怒声が聞こえる。ビチッビチッと何かが弾ける音が引っ切り無しにする。うまく川岸に生える柳が弾除けになってくれているようだ。
ふっと目の前が陰った。
(上!!!)
朔は咄嗟に横に転がる。
ズドンズダンッっと黒い大影が降ってきて、地面に拳と膝を叩き込んだ。
「闇堕ちかよっ!」
その黒々とした肌に、切れ切れに残った服は先ほどの荒萬のもの。少女の言葉から推察されるのは、この者達は水智の妻と同じ、人から闇成りにしようとしていたらしい。
宵の話だと妖力や体液注入には、かなり繊細な調整をしなければ成功しないらしいというのに、こんなところで荒萬業などしているからだと、最終的に闇堕ちに天秤を傾けた張本人は心の中で八つ当たりをした。
しかし闇堕ちならば、もう気を使ってやる必要もない。躊躇なく腱を斬った癖に、初めから配慮も糞もない気がするが、朔なりにはこれでも大層気を使ったつもりなのであった。
転がりつつ周囲を素早く確認する。二匹斬り捨てる間はない。鉄砲の少女と最後の荒萬――おそらくあれも、闇成りに変態途中に違いない――が速すぎる。
宵は妖狐らを安全な場所に置いたら戻ってくるだろうが、いつになるかわからない。
幸い野次馬はいない。破魔隊はいないし、町や差配屋からの応援も今のところ気配がない。闇引きに不慣れな町ゆえに、よほどの混乱を来しているのかもしれない。
「しゃーねー、やるかッ」
朔は愉しそうに地を蹴り、闇堕ちへと向かっていった。
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