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ある晴れた日
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ある晴れた朝のこと。
私は、うつむきがちに通学路をてくてくと歩いていた。肩には鞄、長めの前髪、耳にはイヤホン。
どこからどう見ても完璧に、これから学校に向かうちょっと暗そうな女子高生の格好である。
「……学校行きたくないな……」
そう呟いて、私はイヤホンから流れている音楽のボリュームを上げた。耳元で誰かが叫んだって聞こえないくらいの音量で、少し前に流行ったアニメのOPが流れ出す。
現実が嫌なときは、とりあえず好きな曲を大音量で聞くのに限る。落ち着いたテンポの曲だと家に帰りたくなってしまうので、テンション上がる感じの曲が良い。サビでバトルしてる感じのやつだとなお良い。
「月曜だもんな、そりゃあ行きたくないよ……サボろうかな……」
もう癖になってしまった独り言をぶつぶつ唱えながら、自分の足元を見つめて歩く私の真横を、同じクラスの女子生徒が小走りに通り過ぎた。
気になって僅かに視線を上げると、その女子生徒は、数メートル先にいる友達を目指して走っていたらしかった。おはよー!と元気な笑い声が聞こえて、私はまたうつむく。
数メートル先から楽しそうに談笑する声が聞こえた。頼むから早く私の視界からいなくなってくれ。
「……もう一度トラックに轢かれてみようか」
また独り言を呟いて、車道のほうに目をやる。残念ながらトラックどころか大型車すらいない。軽自動車では威力が足りなさそうだ。
過去に今いるのと同じ場所でトラックに轢かれたことかあるのだが、そのときは運良く、というか悪く、擦り傷だけで済んだ。が、二度目なら流石に死ねるだろう。
屋上から飛び降りるのも失敗したし、目が覚めたらいきなり目の前がファンタジー世界になっていることもなかった。もういっそ悪役令嬢でもいい!と乙女ゲーだってやり込んだのに、なんの成果も得られなかった。
ならば、テンプレであるトラックがきっと一番確実な方法のはずだ。私は別に自殺がしたいわけではないので、痛いのは勘弁だけれど。
そう、私は、自殺がしたいわけではなくて。
――私は何を隠そう、めちゃくちゃ異世界に転生したい人間なのである。
私の名前は臼井めあり。並び替えるとメアリー・スー。一体、私のどこが作者の理想が投影された最強キャラなのかはわからない。むしろ嫌味ではないか。
冴えない一般人だった主人公が異世界に転生してチート能力を手に入れ、仲間と共に大活躍する。
基本的には、それがいわゆる「異世界転生もの」の定番だ。
全ての異世界転生ものがこれに当てはまるわけではないけれど、まあ、基本は大体こんな感じ。私はそれに憧れ、自分も同じように転生したいと強く願っている、そういう人間なのだ。
私は勉強も運動もできない、冴えない一般人の代表格のような人間なので主人公適性は相当あると思うのだが、一向に異世界からお呼びがかからない。どうして呼んでくれないんだ女神様。うっかり殺してくれてもいいんだよ。
そんなことを言ったって、今日も異世界には行けないのだ。ああ学校やだなあ、2時間目辺りで行くかなあとか考えてため息をつきながら歩いていると、右足でなにやらぐにゃりと水っぽいものを踏んでしまった。
「うわっ」
慌てて足を退けると、アスファルトに、ひしゃげた緑の粘液みたいなものが落ちていた。それはどうやら相当ねとねとしているようで、高く上げた右足の裏からは、納豆を箸で持ち上げたときのように糸が細く伝っている。
「え、なにこれ……も、もしかして、ゲロ……!?」
誰かほうれん草でも食べすぎたのだろうか。それともエイリアンがここで怪我でもしたのか。どうあれ気持ち悪いことには変わりない。
私がぶんぶんと右足を振って靴の裏にまとわりついた粘液を落とそうと奮闘していると、そのねとねとした緑の塊が、勢いよく破裂した。
あ、やばい、これ顔に向かって飛び散ってくる。ゲロみたいなやつが顔にかかるなんて絶対嫌だけれど、運動神経のない私にはもちろん動体視力も瞬発力もない。目をぎゅっと閉じるので精一杯だ。
その時。
ひゅうんっ、と、野球のバットを勢いよく振ったときのような音がした。
さっきのゲロもどきからこんな音がするわけはない。怖々と目を開けると、目の前に一人の青年が立っていた。
私がその青年の姿を認識して大きく目を見開くのと同時に、背後のブロック塀に赤色をした大きな鎌が突き刺さる。
僅か数センチずれれば私に刺さっていたであろう刃物を見て逃げようと考えつくほど冷静ではなかったけれど、ひとまず何か言おうとした私が口を開きかけた瞬間、青年が大きな声で怒鳴った。
「――やっと見つけたぞ、この迷惑女ァ!!」
眉を吊り上げてそう怒鳴った青年は、ツンツンした黒髪を怒りで逆立て、私を睨みつけた。
右目が隠れるか隠れないかくらいに寄せてかき上げた前髪越しに、煮詰めたいちごジャムのように赤い目が見える。服装はなんというか、ヴィジュアル系ロックバンドみたいな感じだ。
ブロック塀に刺さったままの鎌から、ぼたりと緑の粘液が垂れた。ああ、これであのねとねとした粘液を防いでくれたのか。
あまりの衝撃と混乱で一周回って冷静になった私は、彼の顔を見てこう思った。
うわ、めっちゃ美形。
私は、うつむきがちに通学路をてくてくと歩いていた。肩には鞄、長めの前髪、耳にはイヤホン。
どこからどう見ても完璧に、これから学校に向かうちょっと暗そうな女子高生の格好である。
「……学校行きたくないな……」
そう呟いて、私はイヤホンから流れている音楽のボリュームを上げた。耳元で誰かが叫んだって聞こえないくらいの音量で、少し前に流行ったアニメのOPが流れ出す。
現実が嫌なときは、とりあえず好きな曲を大音量で聞くのに限る。落ち着いたテンポの曲だと家に帰りたくなってしまうので、テンション上がる感じの曲が良い。サビでバトルしてる感じのやつだとなお良い。
「月曜だもんな、そりゃあ行きたくないよ……サボろうかな……」
もう癖になってしまった独り言をぶつぶつ唱えながら、自分の足元を見つめて歩く私の真横を、同じクラスの女子生徒が小走りに通り過ぎた。
気になって僅かに視線を上げると、その女子生徒は、数メートル先にいる友達を目指して走っていたらしかった。おはよー!と元気な笑い声が聞こえて、私はまたうつむく。
数メートル先から楽しそうに談笑する声が聞こえた。頼むから早く私の視界からいなくなってくれ。
「……もう一度トラックに轢かれてみようか」
また独り言を呟いて、車道のほうに目をやる。残念ながらトラックどころか大型車すらいない。軽自動車では威力が足りなさそうだ。
過去に今いるのと同じ場所でトラックに轢かれたことかあるのだが、そのときは運良く、というか悪く、擦り傷だけで済んだ。が、二度目なら流石に死ねるだろう。
屋上から飛び降りるのも失敗したし、目が覚めたらいきなり目の前がファンタジー世界になっていることもなかった。もういっそ悪役令嬢でもいい!と乙女ゲーだってやり込んだのに、なんの成果も得られなかった。
ならば、テンプレであるトラックがきっと一番確実な方法のはずだ。私は別に自殺がしたいわけではないので、痛いのは勘弁だけれど。
そう、私は、自殺がしたいわけではなくて。
――私は何を隠そう、めちゃくちゃ異世界に転生したい人間なのである。
私の名前は臼井めあり。並び替えるとメアリー・スー。一体、私のどこが作者の理想が投影された最強キャラなのかはわからない。むしろ嫌味ではないか。
冴えない一般人だった主人公が異世界に転生してチート能力を手に入れ、仲間と共に大活躍する。
基本的には、それがいわゆる「異世界転生もの」の定番だ。
全ての異世界転生ものがこれに当てはまるわけではないけれど、まあ、基本は大体こんな感じ。私はそれに憧れ、自分も同じように転生したいと強く願っている、そういう人間なのだ。
私は勉強も運動もできない、冴えない一般人の代表格のような人間なので主人公適性は相当あると思うのだが、一向に異世界からお呼びがかからない。どうして呼んでくれないんだ女神様。うっかり殺してくれてもいいんだよ。
そんなことを言ったって、今日も異世界には行けないのだ。ああ学校やだなあ、2時間目辺りで行くかなあとか考えてため息をつきながら歩いていると、右足でなにやらぐにゃりと水っぽいものを踏んでしまった。
「うわっ」
慌てて足を退けると、アスファルトに、ひしゃげた緑の粘液みたいなものが落ちていた。それはどうやら相当ねとねとしているようで、高く上げた右足の裏からは、納豆を箸で持ち上げたときのように糸が細く伝っている。
「え、なにこれ……も、もしかして、ゲロ……!?」
誰かほうれん草でも食べすぎたのだろうか。それともエイリアンがここで怪我でもしたのか。どうあれ気持ち悪いことには変わりない。
私がぶんぶんと右足を振って靴の裏にまとわりついた粘液を落とそうと奮闘していると、そのねとねとした緑の塊が、勢いよく破裂した。
あ、やばい、これ顔に向かって飛び散ってくる。ゲロみたいなやつが顔にかかるなんて絶対嫌だけれど、運動神経のない私にはもちろん動体視力も瞬発力もない。目をぎゅっと閉じるので精一杯だ。
その時。
ひゅうんっ、と、野球のバットを勢いよく振ったときのような音がした。
さっきのゲロもどきからこんな音がするわけはない。怖々と目を開けると、目の前に一人の青年が立っていた。
私がその青年の姿を認識して大きく目を見開くのと同時に、背後のブロック塀に赤色をした大きな鎌が突き刺さる。
僅か数センチずれれば私に刺さっていたであろう刃物を見て逃げようと考えつくほど冷静ではなかったけれど、ひとまず何か言おうとした私が口を開きかけた瞬間、青年が大きな声で怒鳴った。
「――やっと見つけたぞ、この迷惑女ァ!!」
眉を吊り上げてそう怒鳴った青年は、ツンツンした黒髪を怒りで逆立て、私を睨みつけた。
右目が隠れるか隠れないかくらいに寄せてかき上げた前髪越しに、煮詰めたいちごジャムのように赤い目が見える。服装はなんというか、ヴィジュアル系ロックバンドみたいな感じだ。
ブロック塀に刺さったままの鎌から、ぼたりと緑の粘液が垂れた。ああ、これであのねとねとした粘液を防いでくれたのか。
あまりの衝撃と混乱で一周回って冷静になった私は、彼の顔を見てこう思った。
うわ、めっちゃ美形。
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