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異世界"イルト" ~緑の領域~
11.大悪魔の力
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「"紫雷"のゴーバ? ──十三魔将?」
クウは大男──ゴーバの名乗りを、自分の口で繰り返した。同時に、ナリアが教えてくれた情報を思い出す。
黒の騎士団が擁するという、十三名の幹部。ナリア曰く恐ろしく強いとの事だったが、目の前の大男には、その話に遜色無い風格が感じられた。
「おい、クウ! バカ野郎! 避けろ!」
「えっ──」
それはソウの警告と、ほぼ同時だった。
ゴーバの持つ戦棍の先端から、電光の様な光が発せられ──クウに向かって勢い良く伸びる。クウは両手を交差させて身構えるのが精一杯だった。紫色の電光が、クウを直撃してしまう。
「うぐっ──!」
雷光はクウに命中すると、バチッという音を伴って破裂した。この衝撃で、クウの身体は後方に吹き飛ぶ。
「クウ!」
ソウが瞬時に輪を展開し、クウの真後ろに瞬間移動する。飛ばされたクウの身体を受け止めるも、衝撃を全ては緩和できず、そのまま石壁に激突してしまった。
「──ふん。まるで戦う術を心得ておらんな」
ゴーバが呆れた口調で言う。
「おい、クウ。無事かよ?」
「お陰様で、どうにかね。──ありがとう」
クウとソウは、ゴーバから目を離さないようにしながら立ち上がる。
「参ったぜ……。こんな"緑の領域"の僻地に、"十三魔将"がいやがったとはな。調べが足りなかったぜ、クソったれ」
「黒の騎士団の幹部、だよね。"イルト"に来て間もない僕にも、あいつがヤバそうな奴だって分かるよ」
「実際にヤバい奴さ。奴は"雷霆"って名の、雷を発生させる"輪"を持った魔術師だ。手に持った戦棍を魔術の触媒にして、狙った場所にピンポイントで雷を飛ばしやがる。──俺とお前なら直撃してもどうにか耐えられるだろうが、流石に食らい続ければマズいぜ」
「強烈な痺れと、身体が焼ける様な感覚が同時に走ったよ。だけど、一番危険なのは──あの武器そのものじゃない?」
「その通りさ。奴の馬鹿力は、そこらに転がってる騎士団の雑兵の頭を、一撃でカチ割る強さだ。直撃を避けたとは言え、俺の鎧もこのザマだぜ」
「やっぱり、あいつがやったんだね。──でも、どうして味方を?」
「──当然の報いだろう」
クウの質問に、ゴーバ自身が答える。
「我ら"黒の騎士団"は、イルトを絶対的に支配する事を目的に、侵略を続けている。絶対的な支配──それは他種族が我らに抵抗しようという考えすらも起こさぬ程の、圧倒的な力の差を見せつける事で実現するのだ」
ゴーバは自分の戦棍を愛おしそうに撫でる。
「だが騎士共は、その意味を理解していなかった様だ。そうでなければ何故、貴様らがここに現れる? 何故貴様らは、攫われた者共を諦めようとしていない? ──私は不出来な騎士共に、身をもって教えてやったのだ。見せつけるべき、圧倒的な力というものを」
ゴーバはそう言うと、再び戦棍の先端に意識を向ける。紫色の輪が浮かび上がり、高速で回り出す。
「イルトの伝説、"人間"。多少は期待していたのだがな。所詮、"大悪魔"の前ではこの程度か。──消えろ」
ゴーバの戦棍が、バチバチという音と共に放電を始める。
「──私の王子様に、手を出さないでくれる?」
何処からか、少女の落ち着いた声がした。
ゴーバは気配を感じて頭上を見る。剣を持ち、高く跳躍したフェナが、今まさにゴーバに刺突攻撃を見舞おうとしている光景が目に入った。ゴーバは瞬時に狙いを切り替え、空中のフェナに電撃を放つ。フェナは体を捻ると、電撃を紙一重で躱し、ゴーバの首を斬り裂いた。
「ぐおおっ!」
「──浅いわね」
ゴーバは切られた部分を手で押さえ、悶絶する。傷口からは血が溢れるが、致命傷には至らなかったらしい。フェナは華麗に着地すると、すかさず剣を持ち直し、体勢を低くしてゴーバに追撃を試みようと近付く。
見惚れるような剣技だった。
フェナは俊敏な動きの中、流れるような剣捌きで、ゴーバを一方的に斬り付けていく。ゴーバも戦棍を振り回して反撃しているが、フェナには当てられない。気が付くと、ゴーバの巨躯には多数の太刀傷が刻まれていた。
「見た目通り、タフね。一般兵なら、もう5回は殺してる筈だわ」
動きの鈍ってきたフェナは、ゴーバと距離を取り、一度呼吸を整えた。数秒休んだ程度ですぐにまた敏捷性は戻り、ゴーバに立ち向かっていく。
「フェナって……本当に凄かったんだ」
「あん? フェナだと……。あの女、まさか悪魔狩りで有名な"蝮鱗のフェナ"か? 何で"ホス・ゴートス"にいるんだ?」
クウの独り言に、ソウが質問を入れる。
「ソウ。彼女はナリア達が捕まってたエリアの、最奥部に拘禁されてたんだ。ソウは彼女の事、知ってるの?」
「”蝮鱗のフェナ"は、多くの地域で悪魔族を葬ってきた、イルトじゃ有名な傭兵だ。俺も少し噂を聞いた程度だったから、あんなかわいい見た目だとは知らなかったぜ」
「フェナ、大物だったんだ……。ちなみに、"蝮鱗"ってどういう意味?」
「知らねえな。けど、噂によるとあの女、自分の身体から精製した──猛毒を使うらしいぜ」
「猛毒……?」
クウは、フェナが囚われていた時の異様さを思い出す。あの厳重な拘束には、何か意味があった筈だが、その事と関係があるのだろうか。
「きゃっ!」
クウが、フェナの小さな悲鳴を聞いて振り向く。フェナが体勢を崩し、尻餅をついている。
ゴーバが一瞬の隙を突き、フェナの服を手で鷲掴みにしていた。拘束衣に似たフェナの衣服は、先程クウが外した皮ベルトがひらひらとはためいている。ゴーバは、その部分を掴んだのである。
「小娘が! ──消え失せろ!」
ゴーバが戦棍を掲げて力を溜め、フェナの頭へと一気に振り下ろそうとしている。雷撃は宿っていないが、命中すれば一溜りも無い。
危機一髪の窮地に、フェナは思わず両目を瞑る。それをやや離れた位置で見ていたクウは──腰の剣を抜いた。
「"颶纏"」
クウは自分の真後ろに向かって爆風を発生させ、その衝撃で前方に吹き飛んだ。空中に身を投げ出されたクウは、落下地点のゴーバに向かって剣を構え、彼の戦棍がフェナに振り下ろされるよりも早く、斬撃を放つ。
「ぐああああ!」
ゴーバの悲鳴が響き渡る。クウの一撃は見事に命中し、ゴーバの額の角を切り落とした。
戦棍を地面に落とし、両手で額を抑えながら悶えるゴーバ。フェナはすかさずゴーバの戦棍を拾い上げて後退する。クウもそれに倣い、距離を取った。
「──二度も、助けられちゃったわね」
「いや、完全にまぐれだよ。次は期待しないで」
クウとフェナは言葉を交わしながらも、ゴーバからは視線を外さなかった。二人の更に後方にいるソウも、臨戦態勢を取っている。
この時、3人は揃って嫌な予感を感じていた。
「下等種の寄せ集め風情が──図に乗るなよ」
突如、ゴーバの声色が変化した。地の底から響く様な、禍々しい声だった。
「──"兇軀"」
クウは大男──ゴーバの名乗りを、自分の口で繰り返した。同時に、ナリアが教えてくれた情報を思い出す。
黒の騎士団が擁するという、十三名の幹部。ナリア曰く恐ろしく強いとの事だったが、目の前の大男には、その話に遜色無い風格が感じられた。
「おい、クウ! バカ野郎! 避けろ!」
「えっ──」
それはソウの警告と、ほぼ同時だった。
ゴーバの持つ戦棍の先端から、電光の様な光が発せられ──クウに向かって勢い良く伸びる。クウは両手を交差させて身構えるのが精一杯だった。紫色の電光が、クウを直撃してしまう。
「うぐっ──!」
雷光はクウに命中すると、バチッという音を伴って破裂した。この衝撃で、クウの身体は後方に吹き飛ぶ。
「クウ!」
ソウが瞬時に輪を展開し、クウの真後ろに瞬間移動する。飛ばされたクウの身体を受け止めるも、衝撃を全ては緩和できず、そのまま石壁に激突してしまった。
「──ふん。まるで戦う術を心得ておらんな」
ゴーバが呆れた口調で言う。
「おい、クウ。無事かよ?」
「お陰様で、どうにかね。──ありがとう」
クウとソウは、ゴーバから目を離さないようにしながら立ち上がる。
「参ったぜ……。こんな"緑の領域"の僻地に、"十三魔将"がいやがったとはな。調べが足りなかったぜ、クソったれ」
「黒の騎士団の幹部、だよね。"イルト"に来て間もない僕にも、あいつがヤバそうな奴だって分かるよ」
「実際にヤバい奴さ。奴は"雷霆"って名の、雷を発生させる"輪"を持った魔術師だ。手に持った戦棍を魔術の触媒にして、狙った場所にピンポイントで雷を飛ばしやがる。──俺とお前なら直撃してもどうにか耐えられるだろうが、流石に食らい続ければマズいぜ」
「強烈な痺れと、身体が焼ける様な感覚が同時に走ったよ。だけど、一番危険なのは──あの武器そのものじゃない?」
「その通りさ。奴の馬鹿力は、そこらに転がってる騎士団の雑兵の頭を、一撃でカチ割る強さだ。直撃を避けたとは言え、俺の鎧もこのザマだぜ」
「やっぱり、あいつがやったんだね。──でも、どうして味方を?」
「──当然の報いだろう」
クウの質問に、ゴーバ自身が答える。
「我ら"黒の騎士団"は、イルトを絶対的に支配する事を目的に、侵略を続けている。絶対的な支配──それは他種族が我らに抵抗しようという考えすらも起こさぬ程の、圧倒的な力の差を見せつける事で実現するのだ」
ゴーバは自分の戦棍を愛おしそうに撫でる。
「だが騎士共は、その意味を理解していなかった様だ。そうでなければ何故、貴様らがここに現れる? 何故貴様らは、攫われた者共を諦めようとしていない? ──私は不出来な騎士共に、身をもって教えてやったのだ。見せつけるべき、圧倒的な力というものを」
ゴーバはそう言うと、再び戦棍の先端に意識を向ける。紫色の輪が浮かび上がり、高速で回り出す。
「イルトの伝説、"人間"。多少は期待していたのだがな。所詮、"大悪魔"の前ではこの程度か。──消えろ」
ゴーバの戦棍が、バチバチという音と共に放電を始める。
「──私の王子様に、手を出さないでくれる?」
何処からか、少女の落ち着いた声がした。
ゴーバは気配を感じて頭上を見る。剣を持ち、高く跳躍したフェナが、今まさにゴーバに刺突攻撃を見舞おうとしている光景が目に入った。ゴーバは瞬時に狙いを切り替え、空中のフェナに電撃を放つ。フェナは体を捻ると、電撃を紙一重で躱し、ゴーバの首を斬り裂いた。
「ぐおおっ!」
「──浅いわね」
ゴーバは切られた部分を手で押さえ、悶絶する。傷口からは血が溢れるが、致命傷には至らなかったらしい。フェナは華麗に着地すると、すかさず剣を持ち直し、体勢を低くしてゴーバに追撃を試みようと近付く。
見惚れるような剣技だった。
フェナは俊敏な動きの中、流れるような剣捌きで、ゴーバを一方的に斬り付けていく。ゴーバも戦棍を振り回して反撃しているが、フェナには当てられない。気が付くと、ゴーバの巨躯には多数の太刀傷が刻まれていた。
「見た目通り、タフね。一般兵なら、もう5回は殺してる筈だわ」
動きの鈍ってきたフェナは、ゴーバと距離を取り、一度呼吸を整えた。数秒休んだ程度ですぐにまた敏捷性は戻り、ゴーバに立ち向かっていく。
「フェナって……本当に凄かったんだ」
「あん? フェナだと……。あの女、まさか悪魔狩りで有名な"蝮鱗のフェナ"か? 何で"ホス・ゴートス"にいるんだ?」
クウの独り言に、ソウが質問を入れる。
「ソウ。彼女はナリア達が捕まってたエリアの、最奥部に拘禁されてたんだ。ソウは彼女の事、知ってるの?」
「”蝮鱗のフェナ"は、多くの地域で悪魔族を葬ってきた、イルトじゃ有名な傭兵だ。俺も少し噂を聞いた程度だったから、あんなかわいい見た目だとは知らなかったぜ」
「フェナ、大物だったんだ……。ちなみに、"蝮鱗"ってどういう意味?」
「知らねえな。けど、噂によるとあの女、自分の身体から精製した──猛毒を使うらしいぜ」
「猛毒……?」
クウは、フェナが囚われていた時の異様さを思い出す。あの厳重な拘束には、何か意味があった筈だが、その事と関係があるのだろうか。
「きゃっ!」
クウが、フェナの小さな悲鳴を聞いて振り向く。フェナが体勢を崩し、尻餅をついている。
ゴーバが一瞬の隙を突き、フェナの服を手で鷲掴みにしていた。拘束衣に似たフェナの衣服は、先程クウが外した皮ベルトがひらひらとはためいている。ゴーバは、その部分を掴んだのである。
「小娘が! ──消え失せろ!」
ゴーバが戦棍を掲げて力を溜め、フェナの頭へと一気に振り下ろそうとしている。雷撃は宿っていないが、命中すれば一溜りも無い。
危機一髪の窮地に、フェナは思わず両目を瞑る。それをやや離れた位置で見ていたクウは──腰の剣を抜いた。
「"颶纏"」
クウは自分の真後ろに向かって爆風を発生させ、その衝撃で前方に吹き飛んだ。空中に身を投げ出されたクウは、落下地点のゴーバに向かって剣を構え、彼の戦棍がフェナに振り下ろされるよりも早く、斬撃を放つ。
「ぐああああ!」
ゴーバの悲鳴が響き渡る。クウの一撃は見事に命中し、ゴーバの額の角を切り落とした。
戦棍を地面に落とし、両手で額を抑えながら悶えるゴーバ。フェナはすかさずゴーバの戦棍を拾い上げて後退する。クウもそれに倣い、距離を取った。
「──二度も、助けられちゃったわね」
「いや、完全にまぐれだよ。次は期待しないで」
クウとフェナは言葉を交わしながらも、ゴーバからは視線を外さなかった。二人の更に後方にいるソウも、臨戦態勢を取っている。
この時、3人は揃って嫌な予感を感じていた。
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