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第二章:新しい日常
⚜️ 22:エルデリアの民衆たち
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私たちはバルコニーを下り、城の正門へと向かう。
「さっき見下ろしてた海側と違って、正門の先は果てしない大地だぞ。覚悟は出来てるか? リリア」
「あまり脅かしてやるなジルハート。果てしない大地の前に、大きな城下町もあるじゃないか」
まあ、どちらにしても果てしない大地は待っているのか……飲み物とかトイレとか大丈夫だろうか……
「心配しなくても大丈夫ですよ、リリアさん。多少体調を崩すくらいなら私がなんとか出来ますし、ジルハートさんは水だって生成できる。安心してください」
や、やはりエイルは、全てを見通せている気がしてならない……
「おい、どうした……? 何故、門が閉じられている?」
正門に辿り着いた私たちだったが、なぜかその門は固く閉じられていた。
「これは、アーシェル様。——そ、それは、開け放しておくと民衆がなだれ込んできそうな勢いでしたので……」
「ん? 民衆がなだれ込む? 意味が分からんな。とにかく馬車を含んだ我ら一行、只今よりエルデリア城を出立する。門を開けてくれ」
エルデリア城の衛兵たちはキビキビと配置に着き、重厚な正門は低音を響かせながら静かに開いていった。
「アーシェル様ご一行の行く先に、星々の導きと、女神のご加護があらんことを!!」
門が開いて飛び込んできたのは、そんな声援と大歓声だった。
子どもから老人まで、正門の前の橋を塞がんばかりに人で溢れている。門の先で待っていたのは、私たちの旅立ちを見送る民衆たちだった。
「おい、アーシェル……」
ジルハートの声がけに、アーシェルは「ああ」と答えたきり、下を向いてしまった。その肩は小さく震えている。
「こんな時に前を向けないなんて、僕は皇子失格だな……」
「——何を言ってるんだ、アーシェル。そんな人間だからこそ、こうやって温かく見送ってくれるんじゃないか。自信を持て」
ジルハートはアーシェルの肩に手を添えると、ゆっくりと共に歩みだした。
エイルは目を赤くしながらも正面を見据え前に進み、意外にもアルフィナは顔をクシャクシャにしながら涙を拭っていた。
「アルフィナお嬢様!! 我ら魔鉱交易商会、商会員一同!! お嬢様のご活躍、ご安全を、毎日毎夜お祈り申し上げます!!」
アルフィナの魔鉱交易商会で働くスタッフたちだろう。ひときわ大きな男性が、泣きながらエールを送っていた。それを聞いたアルフィナは、声を上げて泣き出した。
もちろんアルフィナだけではなく、ジルハートやエイル、そして私にもその声は飛んできた。
「リリア様! リリアお嬢様!! どうか! どうか、お元気で!!」
既に帰ったと思っていたリアノスたちもそこにいた。ノラが手を振り、大声で叫んでいる。
エルデリアに感じていた距離感が、一気に縮まった瞬間だった。私も気づけば、アルフィナのようにしゃくりあげて泣いていた。
空砲の音が空に響く。きっと、エルデリアの城兵が撃っているのだろう。彼らもまた、私たちの門出を祝福してくれているのだ。
そうだ——
「ねえ、エイル。花火って知ってる?」
「花火……ですか? いえ、存じ上げません。燃える花のことでしょうか?」
「ううん。じゃ、今から私が見せてあげる」
私が歩みを止めると、皆も揃って足を止めた。民衆は何事かと静まり、私に視線を向ける。
「みなさん、今日はありがとう! 昼間だから見づらいと思うけど、空を見てて!」
私は空を見上げ、天に向けゆっくりと両手を広げた。
「いくよっ!!」
私が叫んだ直後、轟音と共に上空を覆わんばかりの花火が広がった。
***
城下町を抜け、エルデリア郊外を進んでいる。
この辺りも民家は数多く立ち並んでおり、エルデリアが大きな国という事がよく分かる。
「さっきの花火ってのも、イメージだけで放ったのか?」
ずっとアーシェルと話し込んでいたジルハートが、側にやってきた。
「う、うん、そんな感じ」
「そっか……魔法の天才がこんな近くにいたとはな……いや、天才ってカテゴリーでもないか。きっと、それ以上だな……」
ジルハートは嬉しいような悔しいような、微妙な表情でそう言った。
「ところで、ジルハートはマナトゥム……と言っても、本物のマナトゥムと戦ったことはあるの?」
「シッ! 『本物の』とか言うと、アーシェルが拗ねるぞ。いや、無いよ流石に。本当にいるのかどうかも、ハッキリしていないし」
本物のマナトゥム——
エルデリアは、一度滅びた世界だと言われている。
前世界のエルデリア人は、マナトゥムの技術を極限にまで高め、全ての雑務をマナトゥムに任せていたという。そして、マナトゥムが人知を超えた時……前世界のエルデリア人は、マナトゥムによって滅ぼされたとある。
今、私たちの世界でも言われている、AIが人間の知能を超えるシンギュラリティが起きてしまったということなのだろう。
「不思議に思ってたんだけど、みんな怒ったり危機感を持ったりしないの? アーシェルがマナトゥムを作ってるってことに。時代を繰り返すかもしれないって」
「もちろん、そう言ってる奴もいるよ。だけど、仕組みを考えたら今のところは大丈夫なはずだ。アーシェルの作るマナトゥムは、マナを与えないと動かないが、前世界のマナトゥムはそれが必要ないからな。自分だけの力で、半永久的にマナを取り込んでしまう。——恐ろしい程の文明を持っていたんだろうな、前世界のエルデリア人は」
ジルハートは険しい表情でそう言った。
「それで、継承の巡礼ついでにマナトゥムを探すってこと?」
「今回に限っては、そうみたいだな。そもそも継承の巡礼ってのは、エルデリア新皇子のお披露目会みたいなものなんだ。遠方の村民なんて、こんなことでもなけりゃ、皇子、すなわち後の皇帝の顔も知らずに死んでいくことになるだろうし」
「そのお披露目会のために、あんな過酷な試験を受けなきゃいけなかったんだ。なんか、可笑しくなっちゃう」
私はそう言って、クスクスと笑った。
「まあ、そう言うなリリア。友達みたいに話してるから忘れそうになるが、アーシェルはこの国の未来を担う、若き皇子なんだ。平和なエルデリアといえど、道中何があるか分からない。命をかけて守ることが出来る、強いやつじゃないと務まらないのさ」
そう言ったジルハートの視線は、先をゆくアーシェルの背中に注がれていた。
「さっき見下ろしてた海側と違って、正門の先は果てしない大地だぞ。覚悟は出来てるか? リリア」
「あまり脅かしてやるなジルハート。果てしない大地の前に、大きな城下町もあるじゃないか」
まあ、どちらにしても果てしない大地は待っているのか……飲み物とかトイレとか大丈夫だろうか……
「心配しなくても大丈夫ですよ、リリアさん。多少体調を崩すくらいなら私がなんとか出来ますし、ジルハートさんは水だって生成できる。安心してください」
や、やはりエイルは、全てを見通せている気がしてならない……
「おい、どうした……? 何故、門が閉じられている?」
正門に辿り着いた私たちだったが、なぜかその門は固く閉じられていた。
「これは、アーシェル様。——そ、それは、開け放しておくと民衆がなだれ込んできそうな勢いでしたので……」
「ん? 民衆がなだれ込む? 意味が分からんな。とにかく馬車を含んだ我ら一行、只今よりエルデリア城を出立する。門を開けてくれ」
エルデリア城の衛兵たちはキビキビと配置に着き、重厚な正門は低音を響かせながら静かに開いていった。
「アーシェル様ご一行の行く先に、星々の導きと、女神のご加護があらんことを!!」
門が開いて飛び込んできたのは、そんな声援と大歓声だった。
子どもから老人まで、正門の前の橋を塞がんばかりに人で溢れている。門の先で待っていたのは、私たちの旅立ちを見送る民衆たちだった。
「おい、アーシェル……」
ジルハートの声がけに、アーシェルは「ああ」と答えたきり、下を向いてしまった。その肩は小さく震えている。
「こんな時に前を向けないなんて、僕は皇子失格だな……」
「——何を言ってるんだ、アーシェル。そんな人間だからこそ、こうやって温かく見送ってくれるんじゃないか。自信を持て」
ジルハートはアーシェルの肩に手を添えると、ゆっくりと共に歩みだした。
エイルは目を赤くしながらも正面を見据え前に進み、意外にもアルフィナは顔をクシャクシャにしながら涙を拭っていた。
「アルフィナお嬢様!! 我ら魔鉱交易商会、商会員一同!! お嬢様のご活躍、ご安全を、毎日毎夜お祈り申し上げます!!」
アルフィナの魔鉱交易商会で働くスタッフたちだろう。ひときわ大きな男性が、泣きながらエールを送っていた。それを聞いたアルフィナは、声を上げて泣き出した。
もちろんアルフィナだけではなく、ジルハートやエイル、そして私にもその声は飛んできた。
「リリア様! リリアお嬢様!! どうか! どうか、お元気で!!」
既に帰ったと思っていたリアノスたちもそこにいた。ノラが手を振り、大声で叫んでいる。
エルデリアに感じていた距離感が、一気に縮まった瞬間だった。私も気づけば、アルフィナのようにしゃくりあげて泣いていた。
空砲の音が空に響く。きっと、エルデリアの城兵が撃っているのだろう。彼らもまた、私たちの門出を祝福してくれているのだ。
そうだ——
「ねえ、エイル。花火って知ってる?」
「花火……ですか? いえ、存じ上げません。燃える花のことでしょうか?」
「ううん。じゃ、今から私が見せてあげる」
私が歩みを止めると、皆も揃って足を止めた。民衆は何事かと静まり、私に視線を向ける。
「みなさん、今日はありがとう! 昼間だから見づらいと思うけど、空を見てて!」
私は空を見上げ、天に向けゆっくりと両手を広げた。
「いくよっ!!」
私が叫んだ直後、轟音と共に上空を覆わんばかりの花火が広がった。
***
城下町を抜け、エルデリア郊外を進んでいる。
この辺りも民家は数多く立ち並んでおり、エルデリアが大きな国という事がよく分かる。
「さっきの花火ってのも、イメージだけで放ったのか?」
ずっとアーシェルと話し込んでいたジルハートが、側にやってきた。
「う、うん、そんな感じ」
「そっか……魔法の天才がこんな近くにいたとはな……いや、天才ってカテゴリーでもないか。きっと、それ以上だな……」
ジルハートは嬉しいような悔しいような、微妙な表情でそう言った。
「ところで、ジルハートはマナトゥム……と言っても、本物のマナトゥムと戦ったことはあるの?」
「シッ! 『本物の』とか言うと、アーシェルが拗ねるぞ。いや、無いよ流石に。本当にいるのかどうかも、ハッキリしていないし」
本物のマナトゥム——
エルデリアは、一度滅びた世界だと言われている。
前世界のエルデリア人は、マナトゥムの技術を極限にまで高め、全ての雑務をマナトゥムに任せていたという。そして、マナトゥムが人知を超えた時……前世界のエルデリア人は、マナトゥムによって滅ぼされたとある。
今、私たちの世界でも言われている、AIが人間の知能を超えるシンギュラリティが起きてしまったということなのだろう。
「不思議に思ってたんだけど、みんな怒ったり危機感を持ったりしないの? アーシェルがマナトゥムを作ってるってことに。時代を繰り返すかもしれないって」
「もちろん、そう言ってる奴もいるよ。だけど、仕組みを考えたら今のところは大丈夫なはずだ。アーシェルの作るマナトゥムは、マナを与えないと動かないが、前世界のマナトゥムはそれが必要ないからな。自分だけの力で、半永久的にマナを取り込んでしまう。——恐ろしい程の文明を持っていたんだろうな、前世界のエルデリア人は」
ジルハートは険しい表情でそう言った。
「それで、継承の巡礼ついでにマナトゥムを探すってこと?」
「今回に限っては、そうみたいだな。そもそも継承の巡礼ってのは、エルデリア新皇子のお披露目会みたいなものなんだ。遠方の村民なんて、こんなことでもなけりゃ、皇子、すなわち後の皇帝の顔も知らずに死んでいくことになるだろうし」
「そのお披露目会のために、あんな過酷な試験を受けなきゃいけなかったんだ。なんか、可笑しくなっちゃう」
私はそう言って、クスクスと笑った。
「まあ、そう言うなリリア。友達みたいに話してるから忘れそうになるが、アーシェルはこの国の未来を担う、若き皇子なんだ。平和なエルデリアといえど、道中何があるか分からない。命をかけて守ることが出来る、強いやつじゃないと務まらないのさ」
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