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第2章 街暮らし 冒険者編
第68話 アイシャの弓1
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翌日、アイシャの弓に魔道部品が付けられないか相談するため、シルスさんの魔道具店に向かう。
「こんにちは。シルスさん、ユヅキだ」
「いらっしゃい、ユヅキさん」
「少し疲れているようだが、大丈夫か?」
「実は一昨日、あの後魔力切れを起こしちゃったの。やっぱりあれは魔法撃ち過ぎよね」
ローブの性能試験のためとはいえ、桁外れの魔法を何度も撃ってくれたからな。魔力切れになるのも無理ないか。
「ごめんなさい、シルスさん。でもお陰でローブを着ていくことができて、怪我せずにすんだわ」
「それは良かったわ。私も昨日ゆっくり休んだから今日は元気いっぱいよ。今日も火魔法を撃つのかしら、今度は最初から全力でいくわよ~」
「いや、いや。今日はアイシャのこの弓に、魔道弓で使った風の魔道部品を取り付けたいと思って相談に来たんだ」
「あら、そうなんですか……」
なんだか物足りないような顔をしている。シルスさん、何か変なものに目覚めてしまったのか?
「私は武器の事がよく分からないので、弓をどうやって使うのか教えてもらえますか」
アイシャは弓を引く動作をする。シルスさんが矢の位置はいつもここかとか、弓の持つ位置は変わるのかと質問している。
「ユヅキさん、少し難しいかもしれませんね。魔道弓は矢の位置が固定されていて本体の魔道部品との隙間は変わりませんが、弓はその時々で変化しますので」
なる程、人が持つ弓は状況に応じて持ち方など変えるからな。弓を横にすることもあるし、引く力も加減するから微妙な位置関係が変わってしまうのか。
「でも、可能性はあります。左手のここですね。ここなら矢に当たる位置はあまり変化しないと思います」
左手? 弓本体ではなく握りを持つ方の手だな。
「分かった、ありがとう。後は俺達で何とかしてみるよ。すまないが風の魔道部品を1つ売ってくれ」
「それならお渡ししますよ。ユヅキさんのお陰で、部品の売り上げがすごく伸びたので」
笑顔で後ろの棚に飾ってある、風の魔道部品を手渡してくれた。
「部品本体と矢は微妙な位置関係になりますが、諦めずに頑張ってください。ユヅキさんならできると思いますよ」
「そうだな、諦めずにやってみるよ。ありがとう」
左手か……弓自体に取り付けると思っていたが、さすが専門家の目は違うな。相談して良かった、少し希望が見えてきたぞ。
アイシャは弦を引く右手にグローブをしているが、左手は素手だったな。
「左用の手袋ってあるのか?」
「あるわよ。私は感覚が狂うからしてないけど。それなら今から武器屋に見に行ってみましょうか」
「そうだな。この近くにあったよな」
武器屋で左手用の手袋を色々見せてもらったが、指先から矢を置く部分だけの物は無かった。だが参考にはなったな。
「アイシャは、あんな手袋を自分で作れるか?」
「鹿革で作るんだけど、指の分だけなら私が作った方がいいと思うわ。色々と試さないといけないんでしょう」
「ああ、その方がいいな。まだできると決まったわけでもないしな」
「あら、ユヅキさんがちゃんと作ってくれるんでしょう」
俺だけ魔道弓でずるいと言われてしまったからな。ちゃんとアイシャ用の魔道弓も作ってやらんといけないな。
家に帰って早速アイシャが余っていた鹿革で左手用の手袋を作る。人差し指と親指だけの物だが、動かないようにしっかりと手首で固定できる物を作ってもらった。
シルスさんにもらった風の魔道部品は細長い木の箱に入っていて、小さな板状の本体とそこから延びる銀の糸でできている。繊細で壊れやすい物だ。
手袋の指先に小さな穴を開けて中に銀の糸を通して、指が直接触れるようにする。
部品本体は指の付け根に糸で縫い付ける。銀の糸も切れないように所々を縫い付けて、多少動かしても大丈夫なようにしておく。
弓に矢を番えてもらったが、位置は大体はあっているな。指先に魔力を流してもらって矢を見たが、風魔法が付与されているかよく分からん。
「指が中で動いて、銀の糸だっけ……それが指に当たっていない感じがするわ」
部品本体から風は出ているようだが、途切れ途切れで少し弱いか? 魔道弓の引き金みたいに指にしっかりと当たらないからな。だが今日はここまでだ。夕食の準備をしよう。
ひと晩対策を考えて、翌朝。指の先端を銅製にしようと、鍛冶屋のエギルの工房に行く。
「こんにちは。親方はいますか」
「おっ、嬢ちゃんじゃねえか。町で冒険者をやってると聞いたが、怪我した足は大丈夫か」
「はい、もうすっかり治りました。今、ユヅキさんと下宿してた家に住んでるんですよ。今日は私の指に合った部品を作ってほしくて来たんです」
鎧手袋の指先部分を銅製で作ってもらうつもりだ。指先から指の付け根までは網状にして、指を曲げられるようにしてもらう。
「ユヅキ、また面白い物を作ろうとしてるな。よし分かった、次の鐘が鳴るまでに作ってやっよ。料金も要らねえからでき上がったら見せに来いよ」
アイシャの指の寸法を測って俺達は時間まで街中をぶらつく。鐘4つが鳴ってからエギルの工房に行く。
「ほい、できているぞ。指にはめてみな」
「ぴったりです。さすが親方ですね」
「ユヅキのも作って、結婚指輪みていにするつもりか?」
「えっ、いや……それは」
「エギル何言ってんだよ! ほらアイシャ行くぞ」
どいつもこいつも、何言いだすのか。アイシャまでが作った物を握りしめて、少し赤い顔でこっちを見てるじゃねえか。
家に帰って早速、手袋の先に切り込みを入れて、作った銅製の指サックを内側に取り付ける。
中に魔道部品の銀の糸を入れてアイシャに手袋を装着してもらうと、魔道部品からちゃんと風が出るようになった。
ここまでは大丈夫だな。後は矢に付与できているかだが。
「アイシャ、弓を持って構えてくれるか」
矢の先端に風がまとわり付いているように見えるが、やはり実際に使って見ないと分からんか。
俺達は東門を出たところの街道沿い、木がまばらな平原で弓を撃ってみる。
「手袋をしていない状態で飛距離を見るぞ、一番距離の出る角度で撃ってくれ」
アイシャの放った矢は放物線を描き150mぐらい飛んで行った。
「次に手袋をして、撃ってみてくれ」
アイシャの放った矢は、すごい勢いで飛んで行き、倍の300m以上は飛んだぞ。アイシャも驚いて矢の飛んで行った方向をボ~と眺めている。
いや、成功なんだが、こんなに飛ぶものなのか?
「ア、アイシャ、もう一度な。今度は弓を横にして持ち方も変えて撃ってみようか」
同じくらい飛んでいった。
「ユヅキさん、矢が向こうの方まで飛んでったの。ずっと向こうの方だよ」
まだ呆けている。
しかしこれはすごい、中型の弓でこの威力とは。アイシャの魔道弓の誕生だ。
「こんにちは。シルスさん、ユヅキだ」
「いらっしゃい、ユヅキさん」
「少し疲れているようだが、大丈夫か?」
「実は一昨日、あの後魔力切れを起こしちゃったの。やっぱりあれは魔法撃ち過ぎよね」
ローブの性能試験のためとはいえ、桁外れの魔法を何度も撃ってくれたからな。魔力切れになるのも無理ないか。
「ごめんなさい、シルスさん。でもお陰でローブを着ていくことができて、怪我せずにすんだわ」
「それは良かったわ。私も昨日ゆっくり休んだから今日は元気いっぱいよ。今日も火魔法を撃つのかしら、今度は最初から全力でいくわよ~」
「いや、いや。今日はアイシャのこの弓に、魔道弓で使った風の魔道部品を取り付けたいと思って相談に来たんだ」
「あら、そうなんですか……」
なんだか物足りないような顔をしている。シルスさん、何か変なものに目覚めてしまったのか?
「私は武器の事がよく分からないので、弓をどうやって使うのか教えてもらえますか」
アイシャは弓を引く動作をする。シルスさんが矢の位置はいつもここかとか、弓の持つ位置は変わるのかと質問している。
「ユヅキさん、少し難しいかもしれませんね。魔道弓は矢の位置が固定されていて本体の魔道部品との隙間は変わりませんが、弓はその時々で変化しますので」
なる程、人が持つ弓は状況に応じて持ち方など変えるからな。弓を横にすることもあるし、引く力も加減するから微妙な位置関係が変わってしまうのか。
「でも、可能性はあります。左手のここですね。ここなら矢に当たる位置はあまり変化しないと思います」
左手? 弓本体ではなく握りを持つ方の手だな。
「分かった、ありがとう。後は俺達で何とかしてみるよ。すまないが風の魔道部品を1つ売ってくれ」
「それならお渡ししますよ。ユヅキさんのお陰で、部品の売り上げがすごく伸びたので」
笑顔で後ろの棚に飾ってある、風の魔道部品を手渡してくれた。
「部品本体と矢は微妙な位置関係になりますが、諦めずに頑張ってください。ユヅキさんならできると思いますよ」
「そうだな、諦めずにやってみるよ。ありがとう」
左手か……弓自体に取り付けると思っていたが、さすが専門家の目は違うな。相談して良かった、少し希望が見えてきたぞ。
アイシャは弦を引く右手にグローブをしているが、左手は素手だったな。
「左用の手袋ってあるのか?」
「あるわよ。私は感覚が狂うからしてないけど。それなら今から武器屋に見に行ってみましょうか」
「そうだな。この近くにあったよな」
武器屋で左手用の手袋を色々見せてもらったが、指先から矢を置く部分だけの物は無かった。だが参考にはなったな。
「アイシャは、あんな手袋を自分で作れるか?」
「鹿革で作るんだけど、指の分だけなら私が作った方がいいと思うわ。色々と試さないといけないんでしょう」
「ああ、その方がいいな。まだできると決まったわけでもないしな」
「あら、ユヅキさんがちゃんと作ってくれるんでしょう」
俺だけ魔道弓でずるいと言われてしまったからな。ちゃんとアイシャ用の魔道弓も作ってやらんといけないな。
家に帰って早速アイシャが余っていた鹿革で左手用の手袋を作る。人差し指と親指だけの物だが、動かないようにしっかりと手首で固定できる物を作ってもらった。
シルスさんにもらった風の魔道部品は細長い木の箱に入っていて、小さな板状の本体とそこから延びる銀の糸でできている。繊細で壊れやすい物だ。
手袋の指先に小さな穴を開けて中に銀の糸を通して、指が直接触れるようにする。
部品本体は指の付け根に糸で縫い付ける。銀の糸も切れないように所々を縫い付けて、多少動かしても大丈夫なようにしておく。
弓に矢を番えてもらったが、位置は大体はあっているな。指先に魔力を流してもらって矢を見たが、風魔法が付与されているかよく分からん。
「指が中で動いて、銀の糸だっけ……それが指に当たっていない感じがするわ」
部品本体から風は出ているようだが、途切れ途切れで少し弱いか? 魔道弓の引き金みたいに指にしっかりと当たらないからな。だが今日はここまでだ。夕食の準備をしよう。
ひと晩対策を考えて、翌朝。指の先端を銅製にしようと、鍛冶屋のエギルの工房に行く。
「こんにちは。親方はいますか」
「おっ、嬢ちゃんじゃねえか。町で冒険者をやってると聞いたが、怪我した足は大丈夫か」
「はい、もうすっかり治りました。今、ユヅキさんと下宿してた家に住んでるんですよ。今日は私の指に合った部品を作ってほしくて来たんです」
鎧手袋の指先部分を銅製で作ってもらうつもりだ。指先から指の付け根までは網状にして、指を曲げられるようにしてもらう。
「ユヅキ、また面白い物を作ろうとしてるな。よし分かった、次の鐘が鳴るまでに作ってやっよ。料金も要らねえからでき上がったら見せに来いよ」
アイシャの指の寸法を測って俺達は時間まで街中をぶらつく。鐘4つが鳴ってからエギルの工房に行く。
「ほい、できているぞ。指にはめてみな」
「ぴったりです。さすが親方ですね」
「ユヅキのも作って、結婚指輪みていにするつもりか?」
「えっ、いや……それは」
「エギル何言ってんだよ! ほらアイシャ行くぞ」
どいつもこいつも、何言いだすのか。アイシャまでが作った物を握りしめて、少し赤い顔でこっちを見てるじゃねえか。
家に帰って早速、手袋の先に切り込みを入れて、作った銅製の指サックを内側に取り付ける。
中に魔道部品の銀の糸を入れてアイシャに手袋を装着してもらうと、魔道部品からちゃんと風が出るようになった。
ここまでは大丈夫だな。後は矢に付与できているかだが。
「アイシャ、弓を持って構えてくれるか」
矢の先端に風がまとわり付いているように見えるが、やはり実際に使って見ないと分からんか。
俺達は東門を出たところの街道沿い、木がまばらな平原で弓を撃ってみる。
「手袋をしていない状態で飛距離を見るぞ、一番距離の出る角度で撃ってくれ」
アイシャの放った矢は放物線を描き150mぐらい飛んで行った。
「次に手袋をして、撃ってみてくれ」
アイシャの放った矢は、すごい勢いで飛んで行き、倍の300m以上は飛んだぞ。アイシャも驚いて矢の飛んで行った方向をボ~と眺めている。
いや、成功なんだが、こんなに飛ぶものなのか?
「ア、アイシャ、もう一度な。今度は弓を横にして持ち方も変えて撃ってみようか」
同じくらい飛んでいった。
「ユヅキさん、矢が向こうの方まで飛んでったの。ずっと向こうの方だよ」
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