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第3章 ドワーフ編
第89話 ドワーフのレンズ
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なに、ドワーフだと! あのゲームなどに出てくる鍛冶仕事をするドワーフか。
「カリン! ドワーフ族って近くに住んでいるのか」
「王都の北の方に町があるわよ。そういえば最近ドワーフ族の人見かけないわね。子供の頃はこの町でも見かけたんだけど」
「ドワーフって、ハンマー持って仕事する人か?」
これはいささか単純すぎるか。だが俺の認識でドワーフといえばこうだ。この世界ではどうなんだ。
「ハンマーを持ち歩いてるわけじゃないけど、職人さんが多いわね。どこにもない珍しい物を作っているって聞いたわ。だから兄さんもケレイヤさんにプレゼントしたんだと思うの」
ドワーフの作ったという物ならじっくり見てみたいが、新郎新婦の贈りあった記念の品を繁々と見る訳にはいかない。遠めに眺めてみるが、小さな丸く薄いガラスが金属の枠にはまっていて、鎖で耳に止めるアクセサリーのようだな。
この世界でガラスは貴重で、窓ガラス以外のガラスはあまり見ない。確かに珍しい物のようだな。
少し近づいてさりげなく見ると、透明なガラスに向こう側の景色が映る。しかしその景色は上下逆さまだ。
これはレンズか!? この世界にレンズを作る技術があるのか!
メガネほど大きくはなく、もっと小さい……双眼鏡の接眼レンズ程度の大きさか。
おっといかん、ついガン見してしまった。ここは結婚披露宴の場だ、新郎新婦に失礼があってはいかんな。俺は席に戻る。
この世界、貴族であっても眼鏡をかけた獣人は見たことがない。レンズの存在自体が無い物だと思っていた。いずれは望遠鏡で星でも見ながらのんびり過ごしたいと夢見ていたが、既にレンズを作る技術があるなら知っておきたい。
「カリン。あのイヤリング、向こうの景色が逆さまに映っているように見えたが」
「そうなのよ、私も見せてもらったときに不思議なガラスだなって思ってたの」
「他にあんな物を見た事があるか?」
「昔水晶の小さな球を見たことあるけど、あんなに透明で綺麗じゃなかったわね。だからあのイヤリングはドワーフ族が作ったっていうのも分かるわね」
カリンは商売で色々な物を見てきている。レンズの事をカリンが知らんとなると、レンズは普及していない特殊な物ということか。
それならあれで太陽を見ると、目が潰れてしまうなどの危険性も教えておいた方がいいか。
今日はお祝いだ、もう日も暮れているし、今から無粋なことを言わなくても明日でもいいな。
そういえばトマスさんが家に風呂を作りたいから相談に乗ってくれと言っていたな。それも一緒に、明日にでも店に出向こう。
その日はみんなと一緒に夜更けまで飲んで騒いで楽しく過ごした。
翌日。
「カリン、今日お前の店に行くんだが一緒に来てくれんか」
「いいけど、頭が少し痛くて……昼頃でいい?」
「お前、それ飲みすぎて二日酔いになってんだろ」
「これ二日酔いっていうの? 確かに酔ったみたいにフラフラするわね」
「少しベッドで寝てろ。行く時に起こしに来るから」
「アイシャは大丈夫か?」
「私は大丈夫よ。でも少し頭がボーッとしてる感じかしら」
アイシャは酒に強いようだな。まあ、念のため今日はゆっくりした方がいいな。
正午ごろ、カリンを起こしてトマスさんの店に行く。アイシャもお嫁さんを見たいと一緒に行くことになった。
「トマスさん、こんにちは」
「わざわざすまないね、ユヅキ君」
「お風呂場の相談の前に、ケルミさん達に話があるんだが」
「ああ、ケルミなら上の部屋の片づけをしているよ」
2階の倉庫だった部屋を改築して、ふたりの住む部屋にしたそうだ。荷物整理なども終わり、ゆっくりしているところにお邪魔する。
「ケルミさん、こんにちは」
「ユヅキさん、昨日はありがとうございました」
「忙しいところ悪いな。今耳に付けているイヤリングなんだが、扱いを間違えると少し危険なんだよ」
「えっ、そうなんですか。ケレイヤのも同じ物なんですが、それもでしょうか」
「耳に付けている間は大丈夫だ。ケルミさんのを外して見せてくれるか」
やはりレンズだな。直径は2cmほどで、見る限り球面の初歩的なレンズだ。綺麗に研磨されていて偶然ではなくちゃんとレンズとして作られた物だ。普段ならさほど危険な物でもないな。
ケルミさん達やトマスさんと一緒に裏庭に出て、ちょうど真上にある太陽にレンズの焦点を手に合わせる。火傷するほどでもないが、やはり熱いと感じる。
「ケルミさん、今俺がやったように手を広げてくれるか」
「熱い! なんですかこれは、火の魔法ですか?」
トマスさんも、カリンも同じように確かめてもらう。
「このガラスはレンズと言って、太陽にかざすと熱を持つ。さっき言っていた火の魔法と思ってもらっても構わん。危険なのは、これを通して太陽を見ることだ。熱で目が焼けて失明する」
「そんな危険な物だったんですね」
直接太陽を見ない限り危険ではないが、外して置いておくと火事の危険もある。外す時は、日の光の当たらない引き出しの中などに保管してもらうように言っておく。
「ドワーフ族の作った物と聞いた。技術的にも優れた珍しく貴重な物だ。注意さえすれば普段使ってもらって構わない」
「あんた、よくそんなの知っていたわね」
「俺の国に似た物があったんでな」
この世界ではない、俺の住んでいた国。そこで俺はレンズを作るメーカーで働いていた。詳しいのも当然だ。
「これは隣町で購入したと聞いたが」
「ええ、アクセサリー店で買ったんですが、ドワーフ族の製品は品薄で、これも最後の一組だったんです」
「トマスさんは、ドワーフの町がどこにあるか詳しく知っているか?」
「隣町のスハイルから馬車で5日程、北の山の方に行った所にあるが、盗賊が出るという噂もあるから行く人もあまりいないそうだ」
それで物も人も動いていないのか。ドワーフの町に行ってみたいが、今すぐは無理だな。
「カリン! ドワーフ族って近くに住んでいるのか」
「王都の北の方に町があるわよ。そういえば最近ドワーフ族の人見かけないわね。子供の頃はこの町でも見かけたんだけど」
「ドワーフって、ハンマー持って仕事する人か?」
これはいささか単純すぎるか。だが俺の認識でドワーフといえばこうだ。この世界ではどうなんだ。
「ハンマーを持ち歩いてるわけじゃないけど、職人さんが多いわね。どこにもない珍しい物を作っているって聞いたわ。だから兄さんもケレイヤさんにプレゼントしたんだと思うの」
ドワーフの作ったという物ならじっくり見てみたいが、新郎新婦の贈りあった記念の品を繁々と見る訳にはいかない。遠めに眺めてみるが、小さな丸く薄いガラスが金属の枠にはまっていて、鎖で耳に止めるアクセサリーのようだな。
この世界でガラスは貴重で、窓ガラス以外のガラスはあまり見ない。確かに珍しい物のようだな。
少し近づいてさりげなく見ると、透明なガラスに向こう側の景色が映る。しかしその景色は上下逆さまだ。
これはレンズか!? この世界にレンズを作る技術があるのか!
メガネほど大きくはなく、もっと小さい……双眼鏡の接眼レンズ程度の大きさか。
おっといかん、ついガン見してしまった。ここは結婚披露宴の場だ、新郎新婦に失礼があってはいかんな。俺は席に戻る。
この世界、貴族であっても眼鏡をかけた獣人は見たことがない。レンズの存在自体が無い物だと思っていた。いずれは望遠鏡で星でも見ながらのんびり過ごしたいと夢見ていたが、既にレンズを作る技術があるなら知っておきたい。
「カリン。あのイヤリング、向こうの景色が逆さまに映っているように見えたが」
「そうなのよ、私も見せてもらったときに不思議なガラスだなって思ってたの」
「他にあんな物を見た事があるか?」
「昔水晶の小さな球を見たことあるけど、あんなに透明で綺麗じゃなかったわね。だからあのイヤリングはドワーフ族が作ったっていうのも分かるわね」
カリンは商売で色々な物を見てきている。レンズの事をカリンが知らんとなると、レンズは普及していない特殊な物ということか。
それならあれで太陽を見ると、目が潰れてしまうなどの危険性も教えておいた方がいいか。
今日はお祝いだ、もう日も暮れているし、今から無粋なことを言わなくても明日でもいいな。
そういえばトマスさんが家に風呂を作りたいから相談に乗ってくれと言っていたな。それも一緒に、明日にでも店に出向こう。
その日はみんなと一緒に夜更けまで飲んで騒いで楽しく過ごした。
翌日。
「カリン、今日お前の店に行くんだが一緒に来てくれんか」
「いいけど、頭が少し痛くて……昼頃でいい?」
「お前、それ飲みすぎて二日酔いになってんだろ」
「これ二日酔いっていうの? 確かに酔ったみたいにフラフラするわね」
「少しベッドで寝てろ。行く時に起こしに来るから」
「アイシャは大丈夫か?」
「私は大丈夫よ。でも少し頭がボーッとしてる感じかしら」
アイシャは酒に強いようだな。まあ、念のため今日はゆっくりした方がいいな。
正午ごろ、カリンを起こしてトマスさんの店に行く。アイシャもお嫁さんを見たいと一緒に行くことになった。
「トマスさん、こんにちは」
「わざわざすまないね、ユヅキ君」
「お風呂場の相談の前に、ケルミさん達に話があるんだが」
「ああ、ケルミなら上の部屋の片づけをしているよ」
2階の倉庫だった部屋を改築して、ふたりの住む部屋にしたそうだ。荷物整理なども終わり、ゆっくりしているところにお邪魔する。
「ケルミさん、こんにちは」
「ユヅキさん、昨日はありがとうございました」
「忙しいところ悪いな。今耳に付けているイヤリングなんだが、扱いを間違えると少し危険なんだよ」
「えっ、そうなんですか。ケレイヤのも同じ物なんですが、それもでしょうか」
「耳に付けている間は大丈夫だ。ケルミさんのを外して見せてくれるか」
やはりレンズだな。直径は2cmほどで、見る限り球面の初歩的なレンズだ。綺麗に研磨されていて偶然ではなくちゃんとレンズとして作られた物だ。普段ならさほど危険な物でもないな。
ケルミさん達やトマスさんと一緒に裏庭に出て、ちょうど真上にある太陽にレンズの焦点を手に合わせる。火傷するほどでもないが、やはり熱いと感じる。
「ケルミさん、今俺がやったように手を広げてくれるか」
「熱い! なんですかこれは、火の魔法ですか?」
トマスさんも、カリンも同じように確かめてもらう。
「このガラスはレンズと言って、太陽にかざすと熱を持つ。さっき言っていた火の魔法と思ってもらっても構わん。危険なのは、これを通して太陽を見ることだ。熱で目が焼けて失明する」
「そんな危険な物だったんですね」
直接太陽を見ない限り危険ではないが、外して置いておくと火事の危険もある。外す時は、日の光の当たらない引き出しの中などに保管してもらうように言っておく。
「ドワーフ族の作った物と聞いた。技術的にも優れた珍しく貴重な物だ。注意さえすれば普段使ってもらって構わない」
「あんた、よくそんなの知っていたわね」
「俺の国に似た物があったんでな」
この世界ではない、俺の住んでいた国。そこで俺はレンズを作るメーカーで働いていた。詳しいのも当然だ。
「これは隣町で購入したと聞いたが」
「ええ、アクセサリー店で買ったんですが、ドワーフ族の製品は品薄で、これも最後の一組だったんです」
「トマスさんは、ドワーフの町がどこにあるか詳しく知っているか?」
「隣町のスハイルから馬車で5日程、北の山の方に行った所にあるが、盗賊が出るという噂もあるから行く人もあまりいないそうだ」
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