【改訂版】目指せ遥かなるスローライフ!~放り出された異世界でモフモフと生き抜く異世界暮らし~

水瀬 とろん

文字の大きさ
180 / 352
第1章 共和国の旅

第7話 ドウーベの商業ギルド

しおりを挟む
 俺は旅館の主人と、権利を買ったという商業ギルドに行くことにした。

「俺の事はユヅキと呼んでくれ。御主人、誰から風呂の権利を買ったんだ」
「商業ギルドのサブマスターだ。ユヅキ、すまないな一緒に来てもらって。オレはフラニムという。呼び捨てでかまわん」

 権利に関する真偽を確かめるため、フラニムは旅館の経営者として、商業ギルドへ行く。これは商業ギルド自体の信用に関わる事だ。高価な権利金の返還も求める事になる。
 俺も一緒に行くと言うと、それは助かると同じ荷馬車に乗せてくれる。

「ギルド全体で、騙しているとは考えにくい。サブマスター個人がしたことか?」
「そうかもしれん。サブマスターから直接声をかけられた」
「ならば、本人ではなくマスターに話をした方がいいな」

 商業ギルドは4階建ての立派な建物だ。商業が盛んなだけはあるな。

「フラニムだ。ギルドマスターのコジャックを呼んでくれんか。少し大事な話がある」
「しばらくお待ちください。聞いてまいります」

 受付の女性職員が2階に上がり、しばらくして体格のいい豹の獣人が俺達の前にやって来た。

「よう、フラニムじゃないか。人族の客人なんぞ連れて今日はどうしたんだ」

 目の鋭い男だが、こいつがマスターか。部屋に案内されて、向かい合わせに座る。

「実は、サブマスターのトシヴァから、この権利を買ったんだがどうも偽物のようなんだ」
「どうして、そんなことが言える」
「この登録者が、ここにいるユヅキ本人で、権利は売っていないと言っている」
「私の部下のトシヴァでなく、そこの人族の言うことを信用しろと言っているのか」

 確かに商人は信用第一だからな。見ず知らずの余所者の言葉は信用できんか。

「トシヴァが売ったという権利書を見ろ。名前に『ユヅキ ミカセ』と書いてあるが、俺の名は、『夢月 御家瀬』。図面の署名欄の下段に描かれているこの文字だ。この国の文字でないから名前とは思わなかったか、権利書の偽造ができなかったんだろう」
「お前の名を、ここに書いてくれるか」

 渡された紙とペンに自分の名前を書く。マスターは図面や権利書と見比べている。

「なるほどな、この登録者はあんただと認めよう。だが既に売った権利を、売っていないと言って2重取りしようとしているかもしれん」

 疑り深い奴だな。まあ、商人なら当たり前かもしれん。

「ギルドマスター、俺はお前の事も疑っている。俺の描いた図面が共和国のこの場所にあるはずが無いからな」
「それをどうやって証明する」

 証明はすぐできる。職人ギルドと交わした権利譲渡の契約書があるからな。だがそれすらも偽造だと言いかねない。

「サブマスターにどこの誰から権利を買ったか確かめて、デンデン貝にその声を入れて証拠として残せ。俺は権利を登録している所を別のデンデン貝に入れて証拠として残す」
「それで、どうしろと」
「おそらくサブマスターは、俺が言う所と違う場所で権利を買ったと言うだろう。双方をお前達で直接調べろ。そうすればすぐに分かるはずだ」
「少し待っていろ」

 ギルドマスターは事務所に戻って、デンデン貝を持ってきた。

「これに、お前の声を入れておけ」

 そう言ってギルドマスターは、部屋を出て行った。しばらくして、デンデン貝を手にして戻って来る。

「お互いにデンデン貝を交換して聞いてみようか」

 マスターが持ってきたデンデン貝には王都の商業ギルドで買ったという言葉が入っていた。職人ギルドが持つ権利を商業ギルドから買えるはずがない。
 3カ月以上前となると、まだ俺自身が権利を持っていた時期だ。ここにある図面は貴族が風呂を作るための、工事用の図面かも知れんな。

「後はそっちで調べろ。多分サブマスターは自分も騙されたと言うだろうが、売ったと言う担当の男を調べろ。口裏を合わせている可能性が高い」

 ギルドマスターは何も言わず、俺を睨みつける。

「共和国ではこのような事がまかり通っているのか。このことが知れ渡れば、この国の商業ギルド自体の信用がなくなるぞ」

 遠く離れた土地の事だから、バレることは無いと考えたんだろう。

「王国の商人とは違い、我らは自由に商売を行なっている。が、今回の事がお前の言う通りならば見過ごす事のできん不正だ。その点は王国も共和国も同じ。こちらでしっかりと確認させてもらう」

 厳正に調査する事を約束してくれた。だがその前に自分の部下の管理や教育ぐらいちゃんとしてもらいたいものだ。
 俺はフラニムとギルドを後にして旅館に戻る。

「ユヅキ、これで権利が偽物だと分かるか」
「少し時間はかかるかもしれんが、調べれば分かる事だ。それでダメなら、あんたが直接アルヘナの町の職人ギルドに確かめてくれればいい」
「ああ、そうしよう。だが今ある風呂が偽物だとすると、全部壊さないとダメだな」
「あれは、あれで置いていてもいいさ。ただし名前は足湯だ。それとは別にお風呂を造ればいいさ」
「分かった、そうしよう。ユヅキすまないが、本物のオフロを造るのを手伝ってくれんか」
「ああ、ちゃんとした風呂を造ると言うなら手伝ってやるよ」

 フラニムの宿は王国貴族の風呂があると評判になっている。それが偽物だと噂が立てば経営に響く損害となる。今のうちに本物の風呂を造りたいと言っている。
 そうだよな、旅館には大浴場が必須だからな。風呂が無いというなら、俺自身の手で造ってやるぜ。


 その後、事実調査するまでもなく、サブマスターの男が自分の不正を認めた。どうもここでは商業主義が行き過ぎているようだ。儲かるなら何をしても良いという風潮になっているみたいだな。
 旅館の主人とも話して、独占ではなくこの町のどの宿屋でも、風呂を造れるようにしようという事になった。

「どうだ、ユヅキ。この場所にオフロを造るのは」
「男湯と女湯、それぞれに10人程度が入れる湯船と広い洗い場。大浴場を造るには充分な広さじゃないか」

 増築のためのスペースに建てていた倉庫の1階部分を、そのまま大浴場として使うそうだ。
 この共和国で大浴場を造れるなんて、夢みたいな話じゃないか。銭湯にあるような壁画も描けるかもしれんぞ。これは面白くなってきた。

「早速、職人を呼んで検討してもらおう。造り方は俺がよく知っている。そんなに長くはかからんさ」

 風呂釜の図面もサブマスターの家に残っていて、今は俺の手元にある。これで職人との打ち合わせもスムーズにいく。

「フラニム。風呂釜や風呂の権利は、今はアルヘナの職人ギルドが持っている。俺も口添えするがキッチリと契約を結んでほしい」
「それはオレと商業ギルドでやっておくよ。ユヅキには立派な本物のオフロを造ってほしい」

 大浴場を造るのに2、3週間かかるだろうが、その間俺達の宿泊代は無料にしてくれるそうだ。
 カリンもここの風呂に入るまでは、町を出ないと言っているし、ちょうどいい。急ぐ旅でもない。その間はこの町に滞在しよう。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

処理中です...