【改訂版】目指せ遥かなるスローライフ!~放り出された異世界でモフモフと生き抜く異世界暮らし~

水瀬 とろん

文字の大きさ
254 / 352
第3章 俺のスローライフ編

第81話 チセのレンズ3

しおりを挟む
 俺とチセで作ろうとしている双眼鏡に使うレンズは、凸レンズと凹レンズを組み合わせたアクロマートレンズだ。

「今から作るレンズは、凹レンズで中央がへこんだレンズだ」
「師匠。それを使うとどうなるんですか」
「色消しレンズと言ってな、球面レンズの悪い特性を修正してくれるんだ」

 色消しと言っても、見える景色が白黒になる訳じゃない。球面の凸レンズ1枚だとプリズムのように白い光が分離して周辺に色がついてぼやけてしまう。

 色収差と言うものだが、それを今から作る凹レンズを使って補正しようとしている。アクロマートレンズなら赤と青色の2色の補正ができる。
 2色とは言うが、光の波長の両端にある色を補正すれば、ほとんどの色が補正でき滲みのない綺麗な像を得ることができる。

「それにな、さっきやったナイフエッジテスト。焦点に光が集まらなかったのも修正できるんだぞ」

 球面レンズではどうやっても1点に光が集まらない。球面収差と言うが、これも補正してボケの無いクリアな像を結ぶようにする。

「じゃあ、さっきと逆で上に吊り下げている方にレンズ材料を固定すればいいんですね」
「そうなんだが、レンズ材料は凸レンズと同じガラスじゃダメなんだ。今回は水晶を使おう」

 ガラスとは屈折率が違う物が必要になる。手持ちの水晶なら大丈夫だろう。水晶の屈折率を測定して、手計算でレンズの曲面は算出している。後は作ってみて調整するほかない。

「その水晶は王国で黄金冒険者の人からもらった報奨品ですよね。そんな貴重な物を使ってもいいんですか」
「そのためにもらった物だからな。量もあるから失敗しても大丈夫だ。チセ、一緒に作ってみよう」

 チセの道具を使って凹レンズを作っていく。凸レンズを作ったから、少しは慣れてきているがやはり難しい。予定の曲面になるように調節した後、2枚のレンズを合わせて外を眺めてみる。

「チセ、どうだ」
「確かに色による滲みが少なくてすっきり見える感じですね」
「だがまだ完全に色消しはできていないな。あと焦点位置もしっかりと調整したい」

 ある程度レンズができたところで、鍛冶師のレトゥナさんに頼んでいた、凸レンズと凹レンズの2枚をはめ込むレンズ枠をもらいに行く。

「レトゥナさん、前に頼んでいた物できてるかい」
「はい、大丈夫ですよ。じゃあそのガラスを取り付けましょう」

 前面に凸レンズを固定して、後ろの凹レンズだけ取り外したりレンズ位置を微妙に調整ができるようにしてもらっている。
 取り付けと調整用にネジを作ってもらっているが、大量生産のネジは無いので1本1本手作りによるネジだ。小さなネジなのでそれに合わせたドライバーも作ってもらっている。

「レトゥナさん、ありがとうございます。こんな精密な物を作ってもらって」
「苦労しましたが上手く固定できてますね。注文された残り2組は、出来上がるまでもう少し時間がかかります」

 レトゥナさんには双眼鏡のもう片方と、チセ用の改良型単眼鏡の外枠やレンズ枠も頼んでいる。

「レトゥナさん、世話をかけるな」
「ユヅキさんからの注文は難しい事が多いですが、勉強になります。一流の鍛冶師になるための修業ですので、ユヅキさんは気にしなくてもいいですよ」

 レトゥナさんにはチセの持っている単眼鏡を見本として見てもらっている。これは一度壊れた物をアルヘナの鍛冶師エギルに作り直してもらったものだ。一流鍛冶職人の作った物を見て、自分も同じものを作りたいと意気込んでいたからな。

「レトゥナさんも頑張ってくれ。俺達もすごいレンズを作れるように頑張るよ」


 翌日もレンズ作りをする。レンズ枠に組み込んでテストをして微妙な調整をしていく。計測機器が無いこの世界では、自分の目だけが頼りだ。
 レンズの歪みや色の補正具合など、できるだけ緻密なテストを行ないレンズ形状を調整していく。

 できたレンズのナイフエッジテストもやってみた。1段階ナイフを動かすだけで全ての光を遮断できる、焦点に光が集まるレンズになっている。

「こうやって1枚だけのレンズと比べてみると、このレンズ性能のすごい事がよく分かりますね」
「そうだろう。これで景色を見るとすごく綺麗に見えるんだぞ」

 これなら、明るくて視野の広い双眼鏡ができる。これで魔獣の監視も楽になるだろう。

「これが人族の技術なんですね。あたしのお義父さんにレンズの作り方を教えてくれたのも、旅をしていた人族の方だったと聞いています」
「そうだな。その人族も俺のように、遠見の魔道具が欲しかったのかもしれんな」
「師匠。あたしの遠見の魔道具も、新しいのを作ってくれると言ってましたよね」
「勿論、作るつもりさ。今作ったレンズを使って、先にチセのを作ってみるか」

 そう言うとチセは、物見やぐらで使う双眼鏡を先に作った方が、いいんじゃないかと言う。だが双眼鏡だと単純に2倍の手間と時間がかかる。正確に左右の倍率も合わせないといかんしな。
 この新しいレンズの性能を知ったチセは、早く自分の単眼鏡が欲しいだろうな。それなら……。

「チセの遠見の魔道具を先に作って、今使っている物を村の人に使ってもらえばいいんじゃないか」
「ああ、そうですね、その方が早いですね。じゃあ先にあたしのを作ってください」

 素晴らしい単眼鏡が自分も手にできると、チセは弾けるような笑顔を見せてくれた。ああ、俺に任せておけ。この世界で一番の単眼鏡を作ってやるぞ。
 まだ接眼レンズとプリズムも作らないとダメだが、俺とチセでレンズが作れることが分かった。少し時間がかかってもいいさ。自分達の気に入った物を作っていこう。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

処理中です...