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第3章 俺のスローライフ編
第81話 チセのレンズ3
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俺とチセで作ろうとしている双眼鏡に使うレンズは、凸レンズと凹レンズを組み合わせたアクロマートレンズだ。
「今から作るレンズは、凹レンズで中央がへこんだレンズだ」
「師匠。それを使うとどうなるんですか」
「色消しレンズと言ってな、球面レンズの悪い特性を修正してくれるんだ」
色消しと言っても、見える景色が白黒になる訳じゃない。球面の凸レンズ1枚だとプリズムのように白い光が分離して周辺に色がついてぼやけてしまう。
色収差と言うものだが、それを今から作る凹レンズを使って補正しようとしている。アクロマートレンズなら赤と青色の2色の補正ができる。
2色とは言うが、光の波長の両端にある色を補正すれば、ほとんどの色が補正でき滲みのない綺麗な像を得ることができる。
「それにな、さっきやったナイフエッジテスト。焦点に光が集まらなかったのも修正できるんだぞ」
球面レンズではどうやっても1点に光が集まらない。球面収差と言うが、これも補正してボケの無いクリアな像を結ぶようにする。
「じゃあ、さっきと逆で上に吊り下げている方にレンズ材料を固定すればいいんですね」
「そうなんだが、レンズ材料は凸レンズと同じガラスじゃダメなんだ。今回は水晶を使おう」
ガラスとは屈折率が違う物が必要になる。手持ちの水晶なら大丈夫だろう。水晶の屈折率を測定して、手計算でレンズの曲面は算出している。後は作ってみて調整するほかない。
「その水晶は王国で黄金冒険者の人からもらった報奨品ですよね。そんな貴重な物を使ってもいいんですか」
「そのためにもらった物だからな。量もあるから失敗しても大丈夫だ。チセ、一緒に作ってみよう」
チセの道具を使って凹レンズを作っていく。凸レンズを作ったから、少しは慣れてきているがやはり難しい。予定の曲面になるように調節した後、2枚のレンズを合わせて外を眺めてみる。
「チセ、どうだ」
「確かに色による滲みが少なくてすっきり見える感じですね」
「だがまだ完全に色消しはできていないな。あと焦点位置もしっかりと調整したい」
ある程度レンズができたところで、鍛冶師のレトゥナさんに頼んでいた、凸レンズと凹レンズの2枚をはめ込むレンズ枠をもらいに行く。
「レトゥナさん、前に頼んでいた物できてるかい」
「はい、大丈夫ですよ。じゃあそのガラスを取り付けましょう」
前面に凸レンズを固定して、後ろの凹レンズだけ取り外したりレンズ位置を微妙に調整ができるようにしてもらっている。
取り付けと調整用にネジを作ってもらっているが、大量生産のネジは無いので1本1本手作りによるネジだ。小さなネジなのでそれに合わせたドライバーも作ってもらっている。
「レトゥナさん、ありがとうございます。こんな精密な物を作ってもらって」
「苦労しましたが上手く固定できてますね。注文された残り2組は、出来上がるまでもう少し時間がかかります」
レトゥナさんには双眼鏡のもう片方と、チセ用の改良型単眼鏡の外枠やレンズ枠も頼んでいる。
「レトゥナさん、世話をかけるな」
「ユヅキさんからの注文は難しい事が多いですが、勉強になります。一流の鍛冶師になるための修業ですので、ユヅキさんは気にしなくてもいいですよ」
レトゥナさんにはチセの持っている単眼鏡を見本として見てもらっている。これは一度壊れた物をアルヘナの鍛冶師エギルに作り直してもらったものだ。一流鍛冶職人の作った物を見て、自分も同じものを作りたいと意気込んでいたからな。
「レトゥナさんも頑張ってくれ。俺達もすごいレンズを作れるように頑張るよ」
翌日もレンズ作りをする。レンズ枠に組み込んでテストをして微妙な調整をしていく。計測機器が無いこの世界では、自分の目だけが頼りだ。
レンズの歪みや色の補正具合など、できるだけ緻密なテストを行ないレンズ形状を調整していく。
できたレンズのナイフエッジテストもやってみた。1段階ナイフを動かすだけで全ての光を遮断できる、焦点に光が集まるレンズになっている。
「こうやって1枚だけのレンズと比べてみると、このレンズ性能のすごい事がよく分かりますね」
「そうだろう。これで景色を見るとすごく綺麗に見えるんだぞ」
これなら、明るくて視野の広い双眼鏡ができる。これで魔獣の監視も楽になるだろう。
「これが人族の技術なんですね。あたしのお義父さんにレンズの作り方を教えてくれたのも、旅をしていた人族の方だったと聞いています」
「そうだな。その人族も俺のように、遠見の魔道具が欲しかったのかもしれんな」
「師匠。あたしの遠見の魔道具も、新しいのを作ってくれると言ってましたよね」
「勿論、作るつもりさ。今作ったレンズを使って、先にチセのを作ってみるか」
そう言うとチセは、物見やぐらで使う双眼鏡を先に作った方が、いいんじゃないかと言う。だが双眼鏡だと単純に2倍の手間と時間がかかる。正確に左右の倍率も合わせないといかんしな。
この新しいレンズの性能を知ったチセは、早く自分の単眼鏡が欲しいだろうな。それなら……。
「チセの遠見の魔道具を先に作って、今使っている物を村の人に使ってもらえばいいんじゃないか」
「ああ、そうですね、その方が早いですね。じゃあ先にあたしのを作ってください」
素晴らしい単眼鏡が自分も手にできると、チセは弾けるような笑顔を見せてくれた。ああ、俺に任せておけ。この世界で一番の単眼鏡を作ってやるぞ。
まだ接眼レンズとプリズムも作らないとダメだが、俺とチセでレンズが作れることが分かった。少し時間がかかってもいいさ。自分達の気に入った物を作っていこう。
「今から作るレンズは、凹レンズで中央がへこんだレンズだ」
「師匠。それを使うとどうなるんですか」
「色消しレンズと言ってな、球面レンズの悪い特性を修正してくれるんだ」
色消しと言っても、見える景色が白黒になる訳じゃない。球面の凸レンズ1枚だとプリズムのように白い光が分離して周辺に色がついてぼやけてしまう。
色収差と言うものだが、それを今から作る凹レンズを使って補正しようとしている。アクロマートレンズなら赤と青色の2色の補正ができる。
2色とは言うが、光の波長の両端にある色を補正すれば、ほとんどの色が補正でき滲みのない綺麗な像を得ることができる。
「それにな、さっきやったナイフエッジテスト。焦点に光が集まらなかったのも修正できるんだぞ」
球面レンズではどうやっても1点に光が集まらない。球面収差と言うが、これも補正してボケの無いクリアな像を結ぶようにする。
「じゃあ、さっきと逆で上に吊り下げている方にレンズ材料を固定すればいいんですね」
「そうなんだが、レンズ材料は凸レンズと同じガラスじゃダメなんだ。今回は水晶を使おう」
ガラスとは屈折率が違う物が必要になる。手持ちの水晶なら大丈夫だろう。水晶の屈折率を測定して、手計算でレンズの曲面は算出している。後は作ってみて調整するほかない。
「その水晶は王国で黄金冒険者の人からもらった報奨品ですよね。そんな貴重な物を使ってもいいんですか」
「そのためにもらった物だからな。量もあるから失敗しても大丈夫だ。チセ、一緒に作ってみよう」
チセの道具を使って凹レンズを作っていく。凸レンズを作ったから、少しは慣れてきているがやはり難しい。予定の曲面になるように調節した後、2枚のレンズを合わせて外を眺めてみる。
「チセ、どうだ」
「確かに色による滲みが少なくてすっきり見える感じですね」
「だがまだ完全に色消しはできていないな。あと焦点位置もしっかりと調整したい」
ある程度レンズができたところで、鍛冶師のレトゥナさんに頼んでいた、凸レンズと凹レンズの2枚をはめ込むレンズ枠をもらいに行く。
「レトゥナさん、前に頼んでいた物できてるかい」
「はい、大丈夫ですよ。じゃあそのガラスを取り付けましょう」
前面に凸レンズを固定して、後ろの凹レンズだけ取り外したりレンズ位置を微妙に調整ができるようにしてもらっている。
取り付けと調整用にネジを作ってもらっているが、大量生産のネジは無いので1本1本手作りによるネジだ。小さなネジなのでそれに合わせたドライバーも作ってもらっている。
「レトゥナさん、ありがとうございます。こんな精密な物を作ってもらって」
「苦労しましたが上手く固定できてますね。注文された残り2組は、出来上がるまでもう少し時間がかかります」
レトゥナさんには双眼鏡のもう片方と、チセ用の改良型単眼鏡の外枠やレンズ枠も頼んでいる。
「レトゥナさん、世話をかけるな」
「ユヅキさんからの注文は難しい事が多いですが、勉強になります。一流の鍛冶師になるための修業ですので、ユヅキさんは気にしなくてもいいですよ」
レトゥナさんにはチセの持っている単眼鏡を見本として見てもらっている。これは一度壊れた物をアルヘナの鍛冶師エギルに作り直してもらったものだ。一流鍛冶職人の作った物を見て、自分も同じものを作りたいと意気込んでいたからな。
「レトゥナさんも頑張ってくれ。俺達もすごいレンズを作れるように頑張るよ」
翌日もレンズ作りをする。レンズ枠に組み込んでテストをして微妙な調整をしていく。計測機器が無いこの世界では、自分の目だけが頼りだ。
レンズの歪みや色の補正具合など、できるだけ緻密なテストを行ないレンズ形状を調整していく。
できたレンズのナイフエッジテストもやってみた。1段階ナイフを動かすだけで全ての光を遮断できる、焦点に光が集まるレンズになっている。
「こうやって1枚だけのレンズと比べてみると、このレンズ性能のすごい事がよく分かりますね」
「そうだろう。これで景色を見るとすごく綺麗に見えるんだぞ」
これなら、明るくて視野の広い双眼鏡ができる。これで魔獣の監視も楽になるだろう。
「これが人族の技術なんですね。あたしのお義父さんにレンズの作り方を教えてくれたのも、旅をしていた人族の方だったと聞いています」
「そうだな。その人族も俺のように、遠見の魔道具が欲しかったのかもしれんな」
「師匠。あたしの遠見の魔道具も、新しいのを作ってくれると言ってましたよね」
「勿論、作るつもりさ。今作ったレンズを使って、先にチセのを作ってみるか」
そう言うとチセは、物見やぐらで使う双眼鏡を先に作った方が、いいんじゃないかと言う。だが双眼鏡だと単純に2倍の手間と時間がかかる。正確に左右の倍率も合わせないといかんしな。
この新しいレンズの性能を知ったチセは、早く自分の単眼鏡が欲しいだろうな。それなら……。
「チセの遠見の魔道具を先に作って、今使っている物を村の人に使ってもらえばいいんじゃないか」
「ああ、そうですね、その方が早いですね。じゃあ先にあたしのを作ってください」
素晴らしい単眼鏡が自分も手にできると、チセは弾けるような笑顔を見せてくれた。ああ、俺に任せておけ。この世界で一番の単眼鏡を作ってやるぞ。
まだ接眼レンズとプリズムも作らないとダメだが、俺とチセでレンズが作れることが分かった。少し時間がかかってもいいさ。自分達の気に入った物を作っていこう。
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