【改訂版】目指せ遥かなるスローライフ!~放り出された異世界でモフモフと生き抜く異世界暮らし~

水瀬 とろん

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第4章 とある世界編

第91話 船旅

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 船はゆっくりと港を出て、外海へと進んでいく。右手に舵を切りながら帆に風をいっぱいに受けてスピードを上げていった。
 俺達は甲板の柵に掴まりながら、流れていく景色を楽しむ。

「なかなか早く走るものだな」

 初めて船に乗るタティナは興味津々に、船の舳先の方まで行き風を受ける。カリンも柵から身を乗り出し、船が波を切る様子を眺めている。

「エアバイクよりは遅いようだけど、海を流れる風が気持ちいいわね」

 船の進む先には山脈が見えている。あの半島を迂回して南へ向かっているようだ。
 もしかするとあの山脈は村の裏山の先に見えていた山脈じゃないか。
 2000m級の山々で山裾近くまで雪で白くなっている。

「いつも見ている山脈の裏側を見れるなんて、船じゃないと見れない光景だな」

 山脈のこちら側に平地は無く、すぐ海へと落ち込んでいて半島は崖ばかりだ。シャウラ村の先には、全く人が住んでいないのが分かるな。
 しばらく景色を楽しんでいたが、俺の横でカリンとタティナが青ざめた顔をしている。船酔いで気分が悪くなったのか?

「おい、大丈夫か。戻しそうならここで吐いた方が楽になるぞ」

 重い荷物を積んだ大きな船で、それほど揺れてはいないのだがな。

「おやおや、どうしました」

 俺達の前に管理官のボノバがやって来た。

「船に初めて乗って、気分が悪くなったようだ」
「船酔いですかな。船医に診てもらったほうが良さそうだ。良く効く薬草もありますからな」

 医者を呼んでもらい、ふたりを診てもらう事にした。

「さすがユヅキ殿は大丈夫なようだ。少しお話があるので、私の部屋に来ていただきたい」

 俺は階段を降りて、さっきの豪華な扉のある部屋に招かれた。部屋の中には大きな机と椅子があり、海図やら資料やらが広げてある。
 その横にあるソファーに腰掛け、テーブルを挟んでボノバと向かい合う。

「ユヅキ殿は里帰りされると聞いています。知っての通り人族の国へ行くには大陸の南端から船に乗るしかないのだが、今は帝国の港に入れない状態になっていましてな」

 大陸の南端がどこにあるか知らないが、帝国が国境を閉鎖していると言う噂は本当のようだな。

「帝国を越えて人族の国へ送ってもらう事はできないか」
「我々だけなら、海を泳ぎどこへでも行くことはできますが、我ら海洋族は船を持っておりません」

 この船も共和国の商業ギルドが所有している船だと言う。その船が海洋族の領海に入るので税金を徴収したり、航路を指示したりするのが管理官の仕事だそうだ。
 管理官の指揮下にはその国の船長がいて、船を操るドワーフ族が30人ほど乗り込んでいるようだな。

「帝国の国境近くまで行ける航路はあるのか?」
「こちら側の航路では、レグルス港の次は帝国内にある港なので、今はレグルスまでしか行けません。大陸を横断した反対側の航路なら国境近くに港はあるのですが、陸路で大陸の反対側まで行ってもらう事になりますな」

 海図を見ながらボノバが説明してくれた。こちらの東側の海は王国、共和国、帝国と港を渡っていくが、反対側の西の海は共和国と帝国間の航路しかないそうだ。
 首都レグルスから西に向かって大陸を横断するなら、街道を南に進み帝国に入った方が近い。

 海図を見ると帝国は三角形の形をしていて、その南端から海峡を越えた先に人族の国があるようだ。その南端へは東と西の航路が延びてつながり、人族の国へは海峡を渡る航路が1本だけ記されている。
 この海図には港の名はあるが、陸地部分は空白でどんな町や道があるかも分からない。

「どのみち帝国内は陸路になる。レグルスまで送ってもらえるだけでもありがたい」
「そこで相談なのですが、帝国の内情を調べる調査に協力してもらえないだろうか」
「帝国の調査だと?」

 帝国国内がきな臭い事になっているとは聞いているが、わざわざ海洋族がその調査をするのか?

「我々は大陸に住む者達に干渉はしない。だが情報としては持っておきたい。近々レグルスから帝国に観光と言う名目で、海洋族の調査員が派遣される。その護衛をしてもらいたい」
「なぜ国境近くの町からでなく、首都のレグルスからなんだ」
「大陸内部は我々にとっては未知の場所だ。優秀な冒険者を雇うには首都のレグルスが一番だからな」

 なるほど、小さな町だと冒険者ギルドすらないところもある。観光を名目とするなら、ある程度共和国内を旅した方がバレないだろう。

「君たち人族も同じようなことをしているのだろう」

 俺の事を人族の調査員スパイだとでも思っているのか。それは誤解だ、そもそも人族の国の者ですらないんだからな。

「まさか冒険者になって、単独行動している人族がいるとは思わなかったが、君たち人族なら信用できる。ぜひ依頼を受けていただきたい」
「俺は単に人族の国へ行きたいだけなのだが」
「あなた方の邪魔にならないように随行するという事でもいい。一緒に調査してもらえると助かる」

 海洋族は人族と国交があると言っていたな。俺よりも人族の事についてよく知っているようだ、それなら同行してもいいかもしれない。

「仲間とも相談をしないといけないが、レグルスで依頼内容を聞いてから受けるかどうか判断したい」
「それで結構だ、よろしく頼む。海洋族の入国審査に少し時間がかかる。年末までには入れると思うが少しレグルスで待っていてもらいたい」
「分かった。その程度なら待とう」

 現地で3日程の滞在になるが、通常より早く着けるのだから構わないだろう。
 俺は帝国付近の海図を描き写させてもらい、ボノバの船室を後にした。自分の船室に帰るとカリンとタティナがベッドで横になって唸っていた。

「カリン、大丈夫か?」
「もうダメ。早く船から降ろして~」

 相当参っているようだな。手桶に水と魔法の氷を入れ、冷やしたタオルをカリンとタティナの頭に乗せる。
 夕食が運ばれてきたがふたりは食べることができないようだ。水と薬草だけを飲ませて休ませる。

 翌朝。

「カリン、タティナ。朝だぞ。起きれるか?」

 タティナは何とか起き上がれたが、カリンはまだベッドで唸っている。
 船に乗ったばかりの時は、あんなにはしゃいでいたんだがな。まあ、こればかりは慣れてもらうしかないな。
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