【改訂版】目指せ遥かなるスローライフ!~放り出された異世界でモフモフと生き抜く異世界暮らし~

水瀬 とろん

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第6章 帝国編 ~最終章~

第162話 帝国 南方遠征部隊

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 ここは帝国軍、南部方面遠征部隊の現地総司令部。

「港の戦いに敗れ、ここまで撤退させられるとはな」
「だがこの地は守るには有利な場所だ。ここで体勢の立て直しをした方が得策だろう。ここまで一気に後退した将軍の判断は正しい。で、ブリシアン将軍は何と」
「まだ、指示はない。本国と連絡を取っているようだ」

 士官が騒めく中、ひとりの上級士官が部屋に入ってきた。

「これより軍議を行なう。皆、着席するように」

 その後ろには、ひときわ大柄なリザードマンの男が続く。
 この男は南部方面担当のブリシアン・アルベル将軍。皇帝の命により人族に対する遠征部隊の総司令官としてこの地に赴いている。


「敵の状況は?」
「現在、敵本隊はサルガスの港付近より出兵しており、我らを追ってきております」
「将軍。偵察隊の報告では、各地で占領しておりました町において、散発的な戦闘があるとの報告があります」

 先発した占領部隊の連中だな。今それに構っている時間は無い。

「小競り合いに関しては各地に任せる。部隊の再編成はどうなっておるか」
「今回、人族の国へ派兵した上陸部隊は、ひとりも帰還していません。壊滅したものと思われます」
「サルガス港の奇襲で損害が大きかったのは正教会の部隊で、1つにまとめ再編。正規軍は一部補充し再編は済んでおります」

 俺の部下達は優秀だ。先に上陸した部隊と連絡が取れず、奇襲も受けたが部隊を立て直してくれている。

「今、部隊の増援要請を本国にしておる。4週間後には2旅団が加わる予定だ」
「将軍、それは正規軍でしょうか」

 あの正教会の部隊は扱い辛い、これ以上増えてもらっても役に立たんからな。

「今回は第1皇子と第1皇女からの増援である、心配するな。我が軍の補給部隊はどうなっておるか」
「指示された通り、周辺の町から物資を輸送しております。まもなく本隊から分離し、後方地帯へと移動予定です」

 この町にあった補給部隊を安全な北側に移動させる。ここを最前線とし、後方に退路を作っておく。
 これにより本国との連絡や物資輸送が緊密となる。戦略上、重要な事だ。

「敵が近づきつつある今、敵兵力の分析と対策を練らねばならん。対策案はできておるか」
「当初計画を一から見直しております。今回は想定外の事ばかりで……」
「それはそうだろう。でなければ我らがこの地まで撤退することはなかった。本国の情報部も当てにならんな」

 当初、人族の武器は鉄車だけと聞いていたのだがな。実際は魔法攻撃があり、投石機も持ち出してきておる。鉄車を前面に押し出しての攻撃は強力だ。鉄車には我らが得意とする弓も槍も歯が立たんからな。

「人族は魔法が使えなかったはず。傭兵の魔術師か?」
「一部獣人の傭兵もいるようですが、人族の正規の魔術師部隊が存在すると考えています。訓練され統制の取れた魔法攻撃でした」

 鉄車からも火魔法が出ていたと報告を受けた。鉄車も新たに改造されたようだな。

「どうも火魔法ではなく、王国で噂の魔弾ではないかと分析しています。ですが王国が人族側に付いたとの情報は無く、魔弾の輸出も確認されていません」

 王国の魔弾は最新兵器だ。遠く離れた北の大国が簡単に輸出するとも思えん。すると、人族がそれに類するものを作って実戦投入していると……。

「やはり人族の作る魔道具は、人知の及ばぬ物があるようだな」

 情報部の奴らは人族を甘く見過ぎではないのか。かつて大陸を滅ぼしかけた伝説の力があるとは思わぬが、時折帝国にも訪れる人族の叡智は本物であろう。

「それと白いドラゴンが確認されております」
「人族の地にドラゴンはいないとの報告もデタラメのようだな」
「はい、それと海洋族も人族についた模様です。海岸近く、特に補給の輸送路で海からの攻撃を受ける恐れがあります」
「分かった。対抗策を早急に考えよ」
「はっ!」

 これ以上、人族を帝国に近づけさせるつもりはないが、海を支配する海洋族となると厄介ではあるな。
 その1週間後。人族の軍がこの近辺までやって来て陣を張る。

「人族は帝国内の地理を知っておるのか?」
「そうかもしれません。ここまで最短のルートで行軍してきています。周辺部族も同行していますので、その者達からの情報であると思われます」
「やはり侮れんな。部隊を出して威力偵察を行なえ」
「はっ!」

 まずは敵部隊の実力を知らねばならん。小部隊で実際に交戦し敵部隊の動きを確かめ、すぐ自陣に戻らせる。ドラゴンは確認されなかったようだが、鉄車の攻撃力は健在のようだな。
 その後、1週間は膠着状態が続いた。

「将軍! 補給基地が奇襲を受けたとの連絡が入りました」

 北にある補給基地がか!? あそこは安全地帯のはずだ! どうやって背後を突いたというのだ。

「敵の戦力は」
「鉄車60、ドラゴンも加わっていると。敵別動隊が砂漠を越えて攻撃してきたものと思われます。1日半前の出来事です」

 ドラゴンを見ないと思ったら、砂漠を越えていたのか。それにあの鉄車も砂漠を走破する能力があるだと……。こちらの想像を超えた能力を持つ敵部隊、だが。

「将軍、至急救援に向かいましょう」
「いや、人族の本隊に対して全面攻勢を仕掛ける」
「しかしまだ増援部隊も到着しておりません。損害を受ける可能性も」

 砂漠を越えたと言う鉄車。あれは多分、敵本隊から分離したものだろう。敵にも増援部隊が来たと言う知らせは無いからな。
 確かに賭けではある。サルガス港から出陣した部隊が、砂漠を渡った可能性もある。目の前の敵部隊と我らの戦力は均衡しておる。隊が分離していれば……分の悪い賭けではないはずだ。

「しかし偵察部隊からは、敵の数は変わらないと……」
「何らかの策を講じておるのだろう。それに今ならドラゴンも戦場におらん。全軍に出撃命令を出せ」
「はっ!」

 俺の自慢の部下達により、軍はすぐにでも出撃できる状態になる。後は俺の指示を待つだけだ。

「奴ら人族は、迂闊にも隊を分けて攻撃してきた。この機を逃すことはできん。ここで打って出れば我らの勝利は確実である。全兵士達よ、奮闘せよ」

 全軍がミアプラの町を出撃し、人族の本隊が集結している砂漠付近の平原へと行軍する。人族は予想していたように既に陣形を組んでおり、我らとの全面対決となった。

「よし、そのまま鶴翼陣形のまま前進せよ」

 隊を集中させず左右の部隊を大きく前に広げて、包囲殲滅を狙う。人族は積極的に仕掛けてこないようだ。やはり戦力が落ちているようだな。

「ドラゴン飛来!」

 あのドラゴンは南の方から来たようだな。北の補給基地を攻撃していたはずだが、神出鬼没な存在だ。だがそう何度も戦闘に参加はできんだろう。

「ドラゴン左翼を攻撃後、飛び去りました」

 人族に味方するドラゴンは1体だけ。やはりドラゴンと言えど、連戦することはできないようだな。

「今の内だ。全軍前進せよ」

 この戦いで人族を全滅すべく、俺は隊を進める。
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