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第一章
第7話 ノミ退治
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食事を終えて、部屋に戻る途中。
「実はな、うちの猫がノミだらけで困っているんだが……」
早瀬さんにナルの事を相談する。食事中にする話じゃないんで廊下を歩きながら聞いてみた。
「それなら、動物病院でもらえるいいお薬がありますよ」
早瀬さんが言うには、すごくよく効く薬らしく、室内飼いの猫なら一度投与すれば数ヶ月間はノミの心配は無くなるそうだ。
ほう、そんな薬があるのか。家の近くに動物病院がないかネット検索してみる。
今まで気がつかなかったが、歩いて行ける距離に動物病院があった。夜の七時過ぎまで開いているようだし仕事帰りにでも寄ってみるか。
さて、ナルの事はいいとして、午後からは早瀬さんにも仕事をしてもらう事になる。まずはこの会社のシステムに慣れてもらうところからだな。
新人用にセットアップしたパソコンの操作、各部署へのメールや連絡方法などを説明していく。
俺も班員と同じ仕事をしているが、班長としてこんな新人の世話や上司への報告などを受け持っている。班長と言っても上司じゃない。まあ、長年仕事をしてるから、こういう新人教育や雑務みたいこともせにゃならん。
「じゃあ、俺の仕事の一部を受け持ってもらう事にしよう。出来上がった資料を俺の共有フォルダに入れてくれ。後でチェックをするからな」
「はい、分かりました」
仕事の一部をやってもらうとは言うものの、俺がやった方が早いし後でチェックする手間も増える。まあ、最初の内はこの形で仕事をしてもらおう。
――カンコ~ン カンコ~ン
終業のチャイムが鳴ってすぐに帰宅の準備をしていると、橋本女史から声を掛けられた。
「あら、今日は早く帰られるんですね」
「家にカワイコちゃんが待っているからな」
「はい、はい。ちゃんと猫の世話してあげてくださいよ」
スーパーが閉まる時間までに帰ればいいからと、いつもはのんびりしているからな。おっと、早く帰らんと病院が閉まってしまう。
自宅の最寄り駅で降りて、家とは反対方向に歩いて行く。駅からは十分ぐらいで到着できるはずだが……日頃この辺りに来る事もあるが動物病院があることは知らなかった。ペットなど全く関心が無かったから見落としていたのだろう。
幹線道路から離れた路地にその病院はあった。小さな病院だが、看板には確かに動物病院と書いてある。
こんな小さな病院で大丈夫かと思って中に入ると、犬や猫を入れたキャリーバッグを抱えたお客さんが三人、既に長椅子に座っていた。病院の受付はもうすぐ終わる時間だが、ここは割と繁盛しているのか。
受付で猫のノミ退治の薬が欲しいと告げる。
「はい、それならこちらの用紙に飼っておられる猫ちゃんのお名前などを記入してください」
俺の名前や住所、ナルの名前を書いていく。
「んんっ。猫の歳と体重?」
しまった、俺としたことが! ナルの年齢を前の飼い主から聞いていなかった。たしか三、四年ぐらい前に、前の飼い主の家でナルを見た事がある。あの時にはもう大きな体だった。今よりも太っていたような気がするが何歳ぐらいなのはよく分からない。
まあいい、八歳ぐらいにしておこう。それと体重かよ。そんなの測った事もないぞ。
「すみません。これぐらいの大きさの猫なんですけど、体重ってどれぐらいなんですかね」
ナルの大きさを両手で示して受付の看護師さんに聞いてみる。そんな事も知らないのか、と思ったかもしれないが笑顔で答えてくれた。
「標準ぐらいの猫ちゃんですね。それなら五キロ程でしょう」
そうなのか。流石獣医さんのスタッフだ。受付用紙に聞いた体重をそのまま記入して受付に渡した。
俺も他のお客さんと一緒に長椅子に座って待っていると、診察室の方では犬がキャンキャンと吠えていた。どんな治療をしているのか知らんが、おっかないところだな。診察室から「もう痛いのは終わったわよ」と言って子犬を入れたキャリーバッグ抱えて中年の女性が出てきた。
「篠崎さん。こちらへどうぞ」
受付の人に呼ばれて行くと、ノミ用の薬だと言って小さなスポイトのようなチューブの薬をくれた。猫の首の後ろ辺りにこの液体を垂らせばいいそうだ。薬を使った後はシャンプーを三日程しないようにと注意された。薬は二本あって一か月後に同じように使用すればノミは完全にいなくなると説明を受ける。
俺が猫に慣れていないのが分かったのだろう。親切に説明してくれた。これで料金は千円程。思ったより安かったな。健康保険のように三割負担とかじゃなく全額自己負担だ。これでノミがいなくなるなら安いものだ。
もう暗くなってきた道を自宅へと向って急ぐ。昼間の間、家を離れていただけだがナルの様子が気がかりだ。ひとり家の中でちゃんと過ごしてるだろうか。
マンションの部屋の鍵を開けると、ナルが俺を出迎えて「ミャ~、ミャ~」と鳴いている。いやこれは出迎えじゃなくて餌の催促だな。
「分かった、分かった。今缶詰を開けてやるからな」
俺の足にまとわりついて来るナル。なんだ元気にしていたんじゃないか。餌を与えて水を替えてやる。
部屋着に着替えてナルのトイレを掃除した頃、食事を終えたナルが近づいて来た。
「よし、ノミの薬を使ってみようか」
病院からもらって来たスポイト状の薬を手に取り、床で座っているナルの首筋辺りの毛をかき分けて皮膚に薬を垂らす。五ヵ所ほど垂らすともう薬は無くなっていた。
こんな少しでいいのか? それに首筋に付けただけで全身のノミが退治できるんだろうか。
でも早瀬さんはよく効く薬だと言っていた。まあ、もう一本あるし、まだノミが出るようなら、すぐにこれを使えばいいだろう。
俺が奥の部屋に行こうとしたらナルもついて来る。ガラス戸を閉めてもナルは自力で開けてしまうのだから同じ事だな。ふすまを開けてナルと一緒に奥の部屋に入る。
完全にこの家を攻略されてしまったな。まあ、それもいいだろう。俺はお気に入りのクッションに座りながらナルの背中を撫でる。
「実はな、うちの猫がノミだらけで困っているんだが……」
早瀬さんにナルの事を相談する。食事中にする話じゃないんで廊下を歩きながら聞いてみた。
「それなら、動物病院でもらえるいいお薬がありますよ」
早瀬さんが言うには、すごくよく効く薬らしく、室内飼いの猫なら一度投与すれば数ヶ月間はノミの心配は無くなるそうだ。
ほう、そんな薬があるのか。家の近くに動物病院がないかネット検索してみる。
今まで気がつかなかったが、歩いて行ける距離に動物病院があった。夜の七時過ぎまで開いているようだし仕事帰りにでも寄ってみるか。
さて、ナルの事はいいとして、午後からは早瀬さんにも仕事をしてもらう事になる。まずはこの会社のシステムに慣れてもらうところからだな。
新人用にセットアップしたパソコンの操作、各部署へのメールや連絡方法などを説明していく。
俺も班員と同じ仕事をしているが、班長としてこんな新人の世話や上司への報告などを受け持っている。班長と言っても上司じゃない。まあ、長年仕事をしてるから、こういう新人教育や雑務みたいこともせにゃならん。
「じゃあ、俺の仕事の一部を受け持ってもらう事にしよう。出来上がった資料を俺の共有フォルダに入れてくれ。後でチェックをするからな」
「はい、分かりました」
仕事の一部をやってもらうとは言うものの、俺がやった方が早いし後でチェックする手間も増える。まあ、最初の内はこの形で仕事をしてもらおう。
――カンコ~ン カンコ~ン
終業のチャイムが鳴ってすぐに帰宅の準備をしていると、橋本女史から声を掛けられた。
「あら、今日は早く帰られるんですね」
「家にカワイコちゃんが待っているからな」
「はい、はい。ちゃんと猫の世話してあげてくださいよ」
スーパーが閉まる時間までに帰ればいいからと、いつもはのんびりしているからな。おっと、早く帰らんと病院が閉まってしまう。
自宅の最寄り駅で降りて、家とは反対方向に歩いて行く。駅からは十分ぐらいで到着できるはずだが……日頃この辺りに来る事もあるが動物病院があることは知らなかった。ペットなど全く関心が無かったから見落としていたのだろう。
幹線道路から離れた路地にその病院はあった。小さな病院だが、看板には確かに動物病院と書いてある。
こんな小さな病院で大丈夫かと思って中に入ると、犬や猫を入れたキャリーバッグを抱えたお客さんが三人、既に長椅子に座っていた。病院の受付はもうすぐ終わる時間だが、ここは割と繁盛しているのか。
受付で猫のノミ退治の薬が欲しいと告げる。
「はい、それならこちらの用紙に飼っておられる猫ちゃんのお名前などを記入してください」
俺の名前や住所、ナルの名前を書いていく。
「んんっ。猫の歳と体重?」
しまった、俺としたことが! ナルの年齢を前の飼い主から聞いていなかった。たしか三、四年ぐらい前に、前の飼い主の家でナルを見た事がある。あの時にはもう大きな体だった。今よりも太っていたような気がするが何歳ぐらいなのはよく分からない。
まあいい、八歳ぐらいにしておこう。それと体重かよ。そんなの測った事もないぞ。
「すみません。これぐらいの大きさの猫なんですけど、体重ってどれぐらいなんですかね」
ナルの大きさを両手で示して受付の看護師さんに聞いてみる。そんな事も知らないのか、と思ったかもしれないが笑顔で答えてくれた。
「標準ぐらいの猫ちゃんですね。それなら五キロ程でしょう」
そうなのか。流石獣医さんのスタッフだ。受付用紙に聞いた体重をそのまま記入して受付に渡した。
俺も他のお客さんと一緒に長椅子に座って待っていると、診察室の方では犬がキャンキャンと吠えていた。どんな治療をしているのか知らんが、おっかないところだな。診察室から「もう痛いのは終わったわよ」と言って子犬を入れたキャリーバッグ抱えて中年の女性が出てきた。
「篠崎さん。こちらへどうぞ」
受付の人に呼ばれて行くと、ノミ用の薬だと言って小さなスポイトのようなチューブの薬をくれた。猫の首の後ろ辺りにこの液体を垂らせばいいそうだ。薬を使った後はシャンプーを三日程しないようにと注意された。薬は二本あって一か月後に同じように使用すればノミは完全にいなくなると説明を受ける。
俺が猫に慣れていないのが分かったのだろう。親切に説明してくれた。これで料金は千円程。思ったより安かったな。健康保険のように三割負担とかじゃなく全額自己負担だ。これでノミがいなくなるなら安いものだ。
もう暗くなってきた道を自宅へと向って急ぐ。昼間の間、家を離れていただけだがナルの様子が気がかりだ。ひとり家の中でちゃんと過ごしてるだろうか。
マンションの部屋の鍵を開けると、ナルが俺を出迎えて「ミャ~、ミャ~」と鳴いている。いやこれは出迎えじゃなくて餌の催促だな。
「分かった、分かった。今缶詰を開けてやるからな」
俺の足にまとわりついて来るナル。なんだ元気にしていたんじゃないか。餌を与えて水を替えてやる。
部屋着に着替えてナルのトイレを掃除した頃、食事を終えたナルが近づいて来た。
「よし、ノミの薬を使ってみようか」
病院からもらって来たスポイト状の薬を手に取り、床で座っているナルの首筋辺りの毛をかき分けて皮膚に薬を垂らす。五ヵ所ほど垂らすともう薬は無くなっていた。
こんな少しでいいのか? それに首筋に付けただけで全身のノミが退治できるんだろうか。
でも早瀬さんはよく効く薬だと言っていた。まあ、もう一本あるし、まだノミが出るようなら、すぐにこれを使えばいいだろう。
俺が奥の部屋に行こうとしたらナルもついて来る。ガラス戸を閉めてもナルは自力で開けてしまうのだから同じ事だな。ふすまを開けてナルと一緒に奥の部屋に入る。
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